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BC級戦犯裁判

カテゴリー:日本史(戦後)

著者:林 博史、出版社:岩波新書
 東京裁判の被告が28人、BC級戦犯裁判では7ヶ国によって5700人が裁かれた。死刑になったのは東京裁判で7人に対し、BC級裁判では934人にのぼっている。
 うむむ、この差はなんということでしょう。これは、『私は貝になりたい』というケースがたくさんあったことを意味しているようです。
 アメリカ政府は、1944年夏まで、戦争犯罪の問題に積極的には取り組んでいなかった。その状況が一変したのは、財務長官がナチス・ドイツの指導者たちをつかまえたら即決処刑すること、「人道に対する罪」の責任者は軍事法廷で裁くことを提案したことからだった。ルーズベルトもチャーチルも、この考えに同調していた。しかし、ヘンリー・スチムソン陸軍長官は危機感を抱いた。そのような政策では、かえってドイツを徹底抗戦に追いやってしまうので、やはり裁判によって処罰すべきだと批判した。
 そこで、即決処刑方式は連合国全体に共通するもっとも基本的な正義の原則に反するとして否定され、主要戦犯は裁判にかけることになった。
 ドイツ指導者を裁判にかけることにチャーチル首相のイギリス政府は抵抗したが、ヒトラーが1945年4月末に自殺し、法廷でヒトラーの演説を聞かなくてよくなったので、国際裁判案をイギリスも受け入れた。
 A級とは平和に対する罪、B級とは通例の戦争犯罪、つまり戦争法規または慣例違反、C級とは人道に対する罪のこと。
 スガモプリズンで執行された最初の死刑判決は、1946年1月7日の福岡俘虜収容所第17分所(大牟田)の由利敬所長(中尉)だった。死刑は4月26日に執行された。
 捕虜への犯罪が43%、民間人への犯罪が55%を占めている。
 死刑になったのは、准士官と下士官が圧倒的に多い。将校では下級将校に集中しており、とくに大尉が多い。高級将校のなかでは、中将と大佐が比較的多い。軍人のなかでは、憲兵が高い比率を占めている。憲兵は死刑の30%、全件数の27%、人数の37%である。朝鮮人の俘虜収容所監視員のように、軍属で死刑になった者も少なくない。
 アジア太平洋戦争で日本軍の捕虜となった連合軍将兵は35万人。そのうち29万人が開戦後、半年内につかまっている。そのうち15万人がイギリス人、アメリカ、オランダ、オーストラリア、ニュージーランド、カナダの本国軍将兵だった。
 日本は捕虜の「無為徒食」を許さないという方針をとり、各地で捕虜を強制労働に従事させた。きわめて乏しい食糧や医薬品、劣悪な生活環境、監視員による日常的な暴行、厳しい強制労働のなかで多くの捕虜が倒れた。6ヶ国の捕虜15万人のうち4万人、28%が死亡した。これは、ナチス・ドイツの捕虜となった英米将兵の死亡率が7%、シベリアに抑留された日本兵の死亡率が10%だったのに比べると、きわめて高い死亡率である。
 『私は貝になりたい』という映画で2等兵が戦犯裁判で死刑に処せられているが、2等兵が死刑に処せられた事実はない。曹長ならあった。曹長と2等兵では、軍の中での立場はまったく違う。
 『私は貝になりたい』の原作者は上官の命令であったということだけでは免責されない、侵略戦争に協力した世界のすべての人の一員としてのあなたの責任が問われているという趣旨のことを指摘しています。
 イラク戦争に相変わらず狂奔するアメリカの下働きをする新テロ特措法を成立させた自民・公明の政府と、それを側面から支えている民主党の責任は重大です。
 戦争は、ある日突然に始まるものではない。この言葉を今こそかみしめるときではないでしょうか。
(2005年6月刊。740円+税)

ドキュメント仙波敏郎

カテゴリー:警察

著者:東 玲治、出版社:創風社出版
 ある日、突然、この本が送られてきました。なぜだろうと不思議に思っていると、本のうしろを見て分かりました。実は、主人公の裁判に私も代理人の一人になっていたことからでした。申し訳ないことに、すっかり忘れていました。
 オビに書かれている文章をそのまま紹介します。
 全国で唯一の現職警察官による警察の組織的裏金づくりの告発。それによる不当な配置転換を違法として争った国賠訴訟一審判決は劇的な勝利となった。本書は、警察という強大な組織と対峙した一巡査部長の1000日の記録である。
 なるほど、なるほど、そうなんですね。日本で一、二を争う強大な権力組織である警察と闘い続け、今なお現職の警察官であり続ける主人公の姿勢には、ともかく頭が下がります。主人公は、どうやら私と同世代でもあるようです。
 警察の裏金づくりの大きな手法が捜査報償費だ。それを明かすと、捜査協力者の身に危険が及ぶという理由から、書類の公開はされなかった。しかし、主人公は、捜査協力者なるものは、自分の知る限り、すべて架空の人物にすぎないと断言します。
 捜査報償費は、所属に配分された瞬間に裏金に化け、そのつじつま合わせのためニセ領収書づくりが始まる。だから、書類の開示ができないだけのこと。考えてもみてほしい。誰が、身に危険の及ぶ情報を3千円や5千円などのハシタ金で売り渡すものか。捜査報酬費は、全部、裏金にされる。それで署長の受けとるお金は、年間に1000万円になる。
 主人公は、新任巡査部長として着任した警察署でニセ領収書の作成を求められ、それを拒んだところ、署長から「組織の敵」というレッテルを貼られた。
 ニセ領収書の作成を3回ことわったところ、着任して9ヶ月後には駐在署勤務を命じられ、身重の妻を連れて赴任した。そのあと、14所属の20部署を転々と、ころがされるように転勤させられた。交番と駐在が主だ。ニセ領収書を書かなかったので、「マル特」つまり組織不適者の烙印を押された。警部補試験を受けても合格しない。いくら試験の成績が良くても、ニセ領収書づくりに加担しない限り、合格しない。上司から、はっきり言われた。なーるほど、組織不適者というんですか・・・。
 主人公は、駐在の仕事を一生の仕事と心に決め、地域にとけこむことに務めると同時に、もてあますほどのエネルギーを夫婦共通の趣味であったダイビングに注ぎこんだ。
 なるほど、なるほど。これも、一つの生き方ですよね。
 内部告発をした主人公は、そのあと通信司令室に配置された。ここは、問題となった捜査報償費のような裏金づくりの原資となるお金がなかった。
 主人公は、また、Nシステムによっても監視されている。そうなんですよね。Nシステムって、犯罪検挙だけでなく、警察が敵視する人物の監視につかわれているのです。私の住む町でも、これまでは路上に10個ほどもカメラがついていたのが、今はわずか3個しかありません。でも、性能は飛躍的に向上して、恐らく、車体ナンバーとドライバーの顔写真がセットで記録されるシステムになったのだと思います。
 公安委員会と県議会の無能ぶりが糾弾されています。まったく同感です。いずれも税金による高額報酬が無駄になっている典型です。
 愛媛県公安委員長が、ニセ領収書を私文書偽造にはあたらないと県議会で答弁したり、県議が知事と八百長質問したり、ひどいものです。自民党も公明党も、そして民主党も、県知事におもねる質問しかできない。共産党県議ともう一つの会派だけが、知事と警察を追求した。しかし、それは多勢に無勢でしかなかった。ああ、いやになってしまいます。でも、少数派の言っていることが後になってみると絶対的に正しいことが証明されたことって、少なくないですよね。
 私と同世代の仙波さんに対して、心からなるエールを送ります。
 山田洋次監督の最新作「母べえ」をみてきました。とてもいい映画でした。日弁連会長選挙の結果をみて重い気分だったのですが、しっかり心温まる思いを堪能して、なんだか見たされた気持ちがして、足取りも軽く帰ってきました。いえ、映画の内容はご存知かと思いますが、すごく重いテーマです。戦前、聖戦遂行に異を唱えた知識人が治安維持法で検挙され、残された家族の苦労話が淡々と描かれています。吉永小百合の凛々しい美しさは息を呑むばかりです。その若々しさに心躍る思いでした。子役の2人の女の子たちも実に自然で、家族愛にみちた家庭生活がくり広げられるので、見ていると、じわーんと心身がぬくもってくるのです。映画館のなかにはあまり若者を見かけず、中年のおじさん、おばさんが多いのが残念でした。大勢の人に見てもらって、興行的にも成功することを祈っています。ぜひ、あなたも映画館へ足を運んでみてください。
 日弁連会長選挙についてですが、これまで日弁連がすすめてきた司法改革を全否定する候補に私の周囲で多くの弁護士が投票したことを知り、大変ショックを受けました。私のしてきたことがまったく理解されていなかったのかと思うと、悲しくもなりました。小泉の郵政改革にみられるような怒濤の攻撃のなかで日弁連は弁護士自治を守り抜いてきたと私は考えています。これにめげることなく、私は司法改革をすすめていきたいと考えています。
(2007年12月刊。1800円+税)

ゾウ!

カテゴリー:生物

 これは凄い写真集だ。オビに書かれた文句ですが、文字どおり信じていい写真集です。野生のゾウの素晴らしい写真が満載です。こんなに近くで野生ゾウを写真にとれるなんて、すごいことです。
 まず、1枚目のアフリカの乾いた大地を砂嵐をまき起こしながら進むゾウの大群の迫力に圧倒されます。そして、2枚目は、大自然とはうって変わって、人工的にペインティングされ、ごてごてと派手な衣裳を着せられたインドのお祭りに参加しているゾウに呆気にとられます。
 ゾウは人間と同じ家族構成をもっている。ゾウはお互いの信頼を大切にし、地域への愛着心をもつ。個体それぞれが特有の個性をもち、互いに低いグルグルという声で話しあうことさえする。幼い子ゾウの叫び声を聞くと、あまえる人間の赤ん坊を思い起こす。ゾウは偉大さを感じさせる動物である。
 ゾウの魂は人間そっくりだ。水飲み場で水をかけあって遊ぶ子ゾウをお母さんゾウは愛情あふれる目で見守る。いたずらな赤ん坊ゾウがあまり深いところに行くと、お母さんゾウがさっさと引き戻す。お母さんゾウが、もうおしまい、行くわよ、といえば誰もがただちに、さからうことなく、いつもいっしょに、やってきた時と同じようにキビキビと引き揚げていく。
 ゾウも人間と同じように、親を失った孤児の悲惨な環境で育つと、しばしばひどい情緒障害に陥る。
 年上のオスゾウは、自分がすることを見せて、大人のゾウの考え方を年下の若いオスに伝え、導く。若いオスが強暴になる(マストといいます)前に、群れを支配する年上のオスがいると、問題行動は起きない。
 ゾウの体は実にさまざまな色を発散する。日没時にはゾウの体に反射した光でゾウはピンク色。夜は青色で、朝にはオレンジ色になる。土ぼこりをかぶったゾウは茶色である。ゾウは色彩に富んだ動物である。
 なるほど、ゾウの色といえば、せいぜい茶色か泥まみれの灰色しか思いつきません。でも、この写真集には、たしかにさまざまな色のゾウが登場してきます。
 アフリカの水飲み場で、あまり大きくない子ゾウは自由に水飲み場に近づくことが許される。しかし、青年期から上の世代のゾウは、強くなければ池の縁に近づけない。ほかのゾウから押し戻され、順番はなかなかまわってこない。
 この100年間にゾウは1000万頭から50万頭にまで減ってしまった。ゾウのすむ国は46ヶ国だったのが、今や5ヶ国のみ。
 かつてアフリカの人々は、白人のハンターがゾウを狩るために船に乗って探検隊をつくって驚くほど多くのゾウを殺しまくる理由がさっぱり理解できなかった。かつて象牙はピアノの鍵盤をつくる最高級の材料とされていた。象牙は触感がよく、指の汗をほどよく吸収する。人間の音楽のために多くのゾウが殺された。
 かつてイギリスのビクトリア朝時代には、ビリヤードの球が象牙からつくられていた。一つの競技テーブルでつかう1セットの球をつくるのに2頭のオスゾウの牙が必要だった。
 ゾウは人間と同じようにいやな経験を忘れない。ゾウは個性的で、人間と同じように怒りやすい個体もいれば、おとなしいものもいる。いやな経験を恨みに思って復讐するものも、根がおだやかで平和的なものもいる。ゾウの個性は、祖先から受け継いだ遺伝的な素養と経験との不思議な組みあわせによっている。
 ゾウは体に空調装置を備えている。大きな耳はその一部で、パタパタとうちわのようにふって暑さを防いでいる。朝から昼へと気温が上昇するにつれ、耳のうちわをふるテンポが早くなる。大きな耳がたてたそよ風は、耳の血管を流れる血液をひやすばかりでなく、体をわたって体から熱を奪う。
 ゾウの長い鼻は、あらゆる動物の様々な器官の中で最高傑作といっていい。それは、手、唇、鼻を見事に統合したもので、多様な機能を兼ね備えている。ゾウは鼻で木を倒す。木をもち上げ、水を吸って吹き上げ、トランペットのように響く大きな鳴き声を発し、小さな一粒の植物のタネをつまみあげる。鼻は、きわめて敏感な長くのびるアンテナであって、空に向かってつきあげて風の運ぶ危険な臭いをかぎあてる。
 そして、強力な武器でもある。
 鼻で目に入ったゴミをとり、仲間のなでて安心させる。鼻をからめあう親愛の情のあらわしかたは、素晴らしい表現方法だ。
 足の裏と足の骨との間には、厚い繊維組織のクッションが働いて、接地の衝撃をやわらげる。
 海の中を泳ぐゾウの写真があります。タイでゾウが木材運びのため海に入って泳ぐのです。泳いでいるゾウって実にユーモラスな写真です。
 少々値がはる写真集ですが、ゾウの保存にささやかな貢献をしたいと思って買って手にとってみてください。
(2007年9月刊。6800円+税)

インドの衝撃

カテゴリー:アジア

著者:NHKスペシャル取材班、出版社:文藝春秋
 インドで理工系の大学・学部で学ぶ学生が2006年に44万人だったのが、2007年には50万人になった。毎年4〜5万人ずつ増えている。その最高峰は、インド工科大学(IIT)。5000人の定員に対して、受験者は30万人。競争率は60倍。IITには、全体で2万6000人の学生がいる。
 IITの試験は1日。午前中に数学・物理・化学について3時間。午後からまた3時間。合計6時間で、問題は132問。理解力と分析力、そして論理的思考能力が評価される。日本の試験も、このように暗記重視をやめたほうがいいと思うのですが、残念ながら、そんな声はあまり聞けません。
 合格順位にしたがって、IITの、どの学部に進むかを決める権利が与えられる。受験できるのは2回まで。
 入学したら、全員が大学内の寮で生活する。寮の部屋は3畳ほど。テレビも冷蔵庫もない。IITの試験科目は1科目につき3時間。10問あって、すべて記述式で解答する。IITでは暗記は重視されない。
 IITの卒業生は、20年前は80%が海外へ行っていたが、今ではわずか10%のみ。卒業生も、海外からインドへ続々と戻ってきている。
 インド式計算法が日本でも評判になっている。インドは、生徒が算数を大好きになるように工夫した授業をしている。1年生のときから暗算を始め、習慣として身につけさせる。そのため、生徒の机の上には教科書もノートも鉛筆も一切ない。
 インドでは、年収9万ルピー(26万円)以下を貧困層、100万ルピー(290万円)以上を富裕層とみている。そのあいだが中間層となる。この中間層が2001年に2億2000万人(人口の20%)から、2005年に3億7000万人(34%)に急増した。
 行ってみたいインド、でも行ける自信と勇気のないインドのことを少し知ることができました。
(2007年10月刊。1714円+税)

知られざる日本の恐竜文化

カテゴリー:恐竜

著者:金子隆一、出版社:祥伝社新書
 映画『ジュラシック・パーク』は、すごい迫力でした。なるほど、太古の昔、地球上を我が物顔でのし歩いていた恐竜というのは、こんな生活をしていたのだろうなと思わせるに十分な映像でした。恐竜の皮膚に色がついていたり、恐竜が鳴き声をたてたり、いろんなことが分かってきています。
 1976年に出版された『大恐竜時代』(二見書房)によって、それまで愚鈍、凶暴、巨大というキーワードでしか語られることのなかった恐竜が、それらの先入観が完全に覆された。恐竜大絶滅の原因がメキシコ・ユカタン半島への隕石(天体)衝突によるものだという通説に対して、著者は疑問を投げかけています。
 それだけで恐竜が絶滅したとはとても考えられない。もし、それが原因であったとしても、それは中生代の生態系に最後のとどめを刺した程度のことだ。
 恐竜とは、2億3000万前にうまれ、6500万年前に絶滅してしまった爬虫類の一グループである。ワニと恐竜は、系統的にはごく近い。
 恐竜の学術的な定義・要件は3つある。第1に直立歩行。恐竜は、2足か4足かにかかわらず、体の下にまっすぐ肢を伸ばして立ち、肢を前後方向に動かして歩く。第2が貫通した寛骨臼。第3が直線上の足首の関節。
 恐竜は陸上動物に限られる。クビナガ竜や魚竜は恐竜ではない。前足が翼に変化して空を飛ぶ爬虫類、翼竜も、直立歩行はしないので恐竜ではない。
 ええーっ、そうなんですか・・・。
 博物館や大学で常勤の職を得ている恐竜研究者は、実は全世界に30人ほど。今でも 100人もいるとは考えられない。
 そ、そうなんですか・・・。ちっとも知りませんでした。恐竜学で食っていくことは不可能と言わざるをえないそうです。だから、世間で評判になる恐竜展も、ビジネスにはならないし、難しいというのです。うむむ、そういうことなんですね・・・。
 九州でも、天草に恐竜の化石が出ていましたよね、たしか・・・。
(2007年8月刊。800円+税)

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