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ドラゴンフライ(上・下)

カテゴリー:宇宙

著者  ブライアン・バロウ、   筑摩書房 出版 
 
 ドラゴンフライとはトンボのこと。ロシアの宇宙ステーション、ミール。軌道上の巨大なトンボ、それがミールである。ミールとは平和ないし世界を意味するロシア語。
 ソ連がミールを打ち上げたのは1986年のこと。ロシアの宇宙飛行士が滞在した。そして、1992年からミールにアメリカの宇宙飛行士が滞在するようになった。アメリカ人とロシア人が狭い宇宙船で共同生活できたのは、不思議といえば不思議ですね。
 ロシアのミールにアメリカの宇宙飛行士が乗るようになったのは、アメリカの大統領選挙を前にしてクリントン優勢に焦ったブッシュ陣営がマスコミ向けの話題づくりを企図したことからだったようです。動機は不純だったわけですが、結果としては、いいことだったのではないでしょうか・・・・。
1997年に、老朽化した宇宙ステーション・ミールで深刻な事故が発生し、クルー(乗組員)は生命の危機にさらされた。この本は、その実情をつぶさに描き出しています。ぞっとする危機がありましたが、なんとか大事に至らず切り抜けました。この点ではロシア人の粘りとタフさには頭が下がります。
 1996年に重量130トンを超える巨大な宇宙構造物が誕生した。もともとミールの耐用年数は5年。1992年までには、ミール2号が打ち上げられる予定だった。しかし、ソ連の崩壊で、ミール2号の打ち上げは不可能となった。そこで、耐用年数の過ぎたミールを使い続けた。その結果、火災・ドッキングの失敗、酸素発生装置の故障、冷却材の漏出、プログレス輸送船の衝突、停電、メイン・コンピューターの故障などの深刻な事態が1997年にたて続けに起こった。その多くは、ミールの各装置の老朽化や部品の信頼性の低下に起因していた。
これらの難局を切り抜けたことはロシアの宇宙技術の確かさと、ロシア人宇宙飛行士の生存能力の高さを証明している。
以上、この本の末尾にある解説を紹介しました。
衝突事故に対するアメリカとロシアの反応には、両国の有人宇宙飛行計画の違いが顕著にあらわれている。
 ロシア人は真っ暗になったステーションのなかで、落ち着いて仕事に取りかかる。それまでにも異常な状況に陥ったことは何度もあった。そういう状況に置かれたとき、ロシアの宇宙飛行士はアメリカの飛行士よりずっとタフだ。シャトルで機械が故障すると、アメリカのミッションは中止され、修理は地上でなされる。ロシアの宇宙ステーションでは、このような贅沢は許されない。ミールで何か問題が発生したら、ロシア人宇宙飛行士は宇宙空間でその修理をさせられる。だからこそ、ロシア人は経験に頼る修理を20年にわたって積み重ねてこられたのであり、一方、アメリカはそれを書物で読んだことがあるだけということになった。NASAは物事をとことん研究し、ことごとくマニュアルに組み込む傾向があったのに対して、ロシア人は実地でものを修理する技術を発達させた。
今ではシャトルの飛行はしない横断バスに乗るときほどの緊張感しかない、日常のありふれた出来事にすぎない。安全第一に考えるNASAの官僚主義に息苦しいほどがんじがらめに縛られている。
 ケネディ宇宙センターに行くと、宇宙飛行士の仕事は、星を見て、小便をするだけという皮肉たっぷりの言葉が聞かれる。宇宙飛行がこんなにも魅力のないものになったのは、シャトルがシャトル本来の機能を果たしていないから。
ロシアとアメリカでは、ドッキング・システムに違いがあった。これには両国の政治体制の違いが反映していた。NASAでは船長の専門技術と意思決定能力を誇りとしていたので、ドッキングはすべて宇宙飛行士に任せ、手動で行っていた。ロシアでは、一党独裁体制にふさわしく、ドッキング・システムも中央集権的な方法をとり、宇宙船の制御を宇宙飛行士の手から奪いとって、地上管制官の手に握らせた。
ロシアの宇宙飛行士は、ミール内でタバコを吸い、ウォッカを飲んだ。ウォッカは「心理サポート」物資の名目で補給戦プログレスに積み込まれ、ミールに送られた。うひゃあ、ロシア人って宇宙でもウォッカを飲んでいたんですか・・・・。そのため、ロシア人男性の平均寿命は60歳だそうですよ。
ミールに載った宇宙飛行士の半分は宇宙酔いにやられた。激しい頭痛と周期的に襲ってくる吐き気に耐えなければならなかった。無重力状態では、意識を失った者は空中にじっと浮かんでいるだけなので、誰かが一緒にいなければ、その人間が人事不省に陥っていることに気づく者はいない。
ロシア人宇宙飛行士がシャトルを危険だと考えたのは脱出装置がないから。脱出装置のおかげで、長年のあいだに何人ものロシア人宇宙飛行士が命拾いしていた。
 シャトルに自爆装置があるのもロシア人にとっては仰天だった。シャトルがコースをはずれて人口密集地に墜落する怖れがあるという不測の事態が生じたとき、NASAの地上管制官がシャトルを爆破するためのものだ。しかし、ロシアの宇宙船には、そのようなものが組み込まれていたことはない。
宇宙船の実情と宇宙飛行士の大変な実情を知って、改めて驚かされました。すごいものですね。私には、とてもこんな勇気はありません・・・・。
(2000年5月刊。2300円+2400円+税)

池袋チャイナタウン

カテゴリー:社会

著者  山下 清海 、  洋泉社  出版 
 
 今の中国を知りたければ、東京は池袋駅北口に出かけてみてほしい。福岡市生まれの著者は、このように呼びかけています。
 池袋駅北口に広がる町は、1980年代以降に日本へやってきた「新華僑」たちによって形成された新しい町である。池袋チャイナタウンは、観光地化する前の化粧気なしの素顔のチャイナタウンである。
 日本の三大中華街は、横浜中華街、神戸南京街、長崎新地中華街。いずれも観光地であり、日本人が中華を味わうために訪れる場所になっている。
 横浜中華街には、中華料理店が200軒。500メートル4方の広さに600軒ほどの店があって、日本最大のチャイナタウンである。
 私も司法修習生として横浜に1年ほどいましたので、中華街には、よく出かけました。
ところが、池袋駅北口はチャイナタウンらしく見えない。それは、新華僑経営の店の多くが雑居ビルのなかにはいっているから。そして観光客を相手にしているわけではないので、横浜のようなきらびやかな店構えは必要ない。そこで出される料理も、日本人向けにアレンジされていない香辛料は油をたっぷり使ったもの。ここには中国の東北料理店が多い。
 現在の在日中国人は69万人弱。全外国人の3割をこえる。その4分の1が東京に集中している。日本人国籍を取得した元華僑が12万人に近いので、在日中国人は80万人にもなる。
 中国人が日本に渡ってくるときには、親戚縁者を中心とした資金援助を受けている。これには、常に何らかの「見返り」の期待が込められている。単なるカンパというより、投資みたいなものとなっている。もし、義理を欠くと、あとで親戚中から総スカンをくらいかねない。
新華僑は、一定の峻別をくぐった人たちであり、実は中国の農村に色濃く残る強固な地縁血社会を体現している。かつては、日本への航海には、蛇頭などの犯罪組織が介在し、200万円もの大金を要した。今は、そんな危険な橋を要した。今は、そんな危険な橋を渡って出国する人はほとんどいない。そうなんですか・・・・。時代は変わりましたね。
 埼玉県川口市にある川口芝園団地には、2400世帯のうちの3分の1が新華僑世帯となっている。その多くが大学卒以上の学歴で、IT技術者を中心とするエリート層が多い。
 不良中国人グループは、自分たちを実際以上に大きく見せて威嚇しようとした。そこで、警察、マスコミ、犯人グループという三者の思惑が一致し、チンピラ中国人が「中国マフィア」になってしまった。
 うむむ、なるほど、そういう見方もあるのですか・・・・。それにしても、東京都の石原知事なんて、いまだに「第三国人」なんて差別用語を平気でつかい、マスコミもそれを糾弾しないのですから、本当に日本って変な国ですよね。
 日本における中国人の地位と状況の一端を知ることができました。
(2010年11月刊。1400円+税)
 東京は神楽坂の路地にある小さなフランス料理店(ビストロ)で食事して来ました。初めにキールロワイヤルで乾杯します。シャンパンの泡立ちも爽やかで甘い香りが食欲をそそります。初めての店ですから、アラカルトではなく、コース料理を頼みました。フランスだとコース料理は食べ切れないほどのボリュームがありますが、ここは日本ですから、そんな心配はいりません。実際、最初のデザートまでちょうどいいボリュームでした。メインの肉は牛肉の煮込みです。舌にとろける美味しさです。ワインはブルゴーニュの赤です。一級のメルキューレそしてニュイサンジョルジュを選びます。味わいの良い、コクのある赤で食事がすすみました。食べ終って店の外に出たとき、マスターフランス語で少しだけ会話をして、フランスに住んだことがあるのかと尋ねられました。もちろん、お世辞とはいえ、ちょっぴりうれしく思いました。「シェ・ブルゴーニュ」というお店です。

現代ロシアの深層

カテゴリー:ヨーロッパ

著者: 小田 健、  出版: 日本経済新聞出版社
 
 ロシアが今どうなっているのかを知りたくて読みました。560頁もある、大部で、ずっしり重量感のある本です。ロシアの男性の多くが60歳までに亡くなって年金をもらえないという現実を知りました。そうなんです、ウォッカの飲み過ぎです。エリツィン元大統領も明らかにアル中でしたよね。ロシアの男性には、それだけ社会的ストレスがひどいようです。それでも、ソ連時代には戻りたくないのです。そして、一時はアメリカと資本主義(自由主義)に急接近していましたが、今ではロシア独自の道を自信もって歩いているようです。そして、この本を読んでロシアの軍隊は張り子の虎のような気がしました。初年兵のいじめが横行し、武器は老朽化しているようです。もっとも、今の日本では「ロシアの脅威」なるものは、右翼すらあまり言いたてなくなりましたね。
 プーチン大統領は、憲法の規定どおり2期8年で退任した。健康で支持率の高い最高指導者が憲法を守って任期をまっとうしたのは、ロシア史1000年のなかで初めてのこと。プーチン大統領の最後の記者会見(2008年2月)には内外の記者1364人が出席し、
4時間40分にわたって100問以上の質問にこたえた。うひゃあ、これはすごいですね。アメリカの大統領でも、これほど長くて大衆的なの記者会見はしていないんじゃないでしょうか。
 エリツィン大統領は、地方分権化に配慮して連邦の維持を図った。しかし、地方が連邦を軽視し、勝手気ままに統治したというのが実態だった。地方の首長がときに犯罪組織とつながって、文字どおりボス化し、封建君主のように振るまった。連邦法と地方の法律が相互に矛盾し、法体系が崩れた。
 オリガルヒとは、1992年以来のロシア資本守護の混乱の中で、法の未整備を巧みに利用して巨額の蓄財に成功し、エリツィン政権に癒着して、政治にも口をはさんだ一握りの成り上がりの事業家。オリガルヒが最高に力を持っていたのは、1995年から1998年にかけてのこと。プーチン大統領は、オリガルヒを弾圧し、政治への介入を封じた。次にプーチン大統領はエリツィン前大統領の「家族」の影響力を抑えた。プーチン大統領は、オリガルヒのあからさまな政治介入に歯止めをかけたが、オリガルヒを全滅させるようなことはしなかった。そこで、オリガルヒは富を増やし続けた。ロシアには1998年に10億ドル以上の資産家が4人しかいなかったが、2008年には110人にまで増えた。
今度は、シロビキがプーチン大統領の下で台頭した。シロビキとは、ソ連時代のKGBや今のFSBなどの特殊情報機関、内務省などの法執行機関、そして軍でキャリアを積んだ人たちを指す。なかでも特殊情報機関出身者の存在感が大きい。ロシアの支配層を調査すると、経歴にKGBあるいはFSBにいたことを明記していた人間が26%もいた。メドベージェフ大統領のもとでもシロビキが影響力のある地位に配置されていることに大きな変わりはない。
ロシアのマスコミは、たとえば1996年の大統領選挙で再選を目指すエリツィン大統領の支持率が3から4%と極端に低く、ジュガノフ共産党首に大きく水をあけられていたとき、エリツィン政権と一体となって傘下の報道機関を総動員してエリツィン大統領を盛り立て、逆にジュガノフ党首へのネガティブ・キャンペーンを展開した。このようにロシアの報道機関は報道の一線をこえて選挙運動に直接関与した。しかも、その裏には、ビジネス上の自己の利益を確保しようという意図があった。
2002年夏までに政府が主要な全国でテレビ網を手中に収め、オリガルヒによるテレビ支配は終わった。政府は、世論形成に大きな影響力をもつ全国テレビ放送局を事実上独占し、政府に都合のよい報道を垂れ流している。ええーっ、でも、これって日本でもあまり変わらないんじゃないでしょうか。それもきっと月1億円を自由勝手に使っていいという、例の内閣官房機密費の「有効な」使われ方の「成果」なんでしょうね。
ロシアでは、1992年から2009年4月までに50人もの記者が報道の仕事が理由で亡くなっている。うむむ、これはひどい、すごい現実ですよ。
 ロシアの軍隊では、毎年、暴行によって数十人が死亡し、数千人が肉体的・心理的な後遺症を負い、数百人が自殺を試み、数千人が脱走している。さらに、将校の関与する汚職事件が増えていて、5人以上が懲役刑の判決を受けた。
1990年代には、軍でも給与の未払い、遅配が起きた。軍人世帯の34%が最低生活保障水準を下回っていた。たとえば空軍では、新型機を1990年から一機も調達できていない、海軍の艦船の半分以上が要修理の状態にある。2004年に、バルト海におけるロシア軍の能力は、スウェーデンやフィンランドの2分の1ほどでしかない。ロシア軍は必要兵器の
15%しか保有しておらず、ロシア軍は紙の上だけで仕事をしている。これは、ロシア軍の参謀総長が2009年6月に演説した内容である。うひゃあ、そ、そうなんですか・・・・。
 ゴルバチョフ時代に原油価格が高ければ、ソ連は崩壊しなかったかもしれないし、エリツィン時代に原油高があれば、あの経済混乱はなかったかもしれない。プーチン大統領は幸運だった。原油高が強いプーチン大統領をつくった。
ロシアは世界的にみてきわめて汚職度が高い。ロシア経済の弱点のひとつは、インフラが脆弱なこと。
ロシアの平均的男性は、60歳という年金支給開始年齢まで生きられない。女性のほうは73歳ほど。ロシアの男たちが飲むのは、社会的ストレス、貧困、不安感などの要因が考えられる。しかも、ロシアでは麻薬常習者が急増し、300万人から400万人に達している。そして、その結果、エイズ患者も急増している。
 ロシア社会の大変深刻な状況がよく伝わってくる本でした。
(2010年4月刊。6000円+税)
 自宅に戻ると大型の茶封筒が届いていました。
 あっ、合格したんだ。そう直感しました。不合格のときはハガキで通知されます。封を開けると、真っ先に合格証書が目につきました。フランス語検定(準1級)の合格をフランス語と日本語で証明したものです。合格基準点22点のところ、34点を得点していました。やれやれです。年に2回のフランス語検定試験を受け始めて10数年になります。たどたどしくではありますが、フランス人と臆することなく話せるようにはなりました。引き続き勉強するつもりです。今年もフランスへ旅行したいと思っています。

その後の不自由

カテゴリー:社会

著者  上岡 陽江・大嶋 栄子、  医学書院 出版 
 
 大変勉強になり、また目を大きく開かせる本でした。
いい嫁をやりたい人ほど自分の子どもたちには我慢させて、夫の家族や親戚に尽くす。そのように真面目に嫁をやりすぎたら、突然、子どもが摂食障害になってしまったというケースは多い。
 家族のなかで、自分の子は二の次になってくる。その子たちは、自分のことはずっと我慢し、たえず他人(ひと)のことを優先させるという形で育つ。ところが、高校、大学を出たあたりで段々、身動きがとれなくなってしまう。
薬物やアルコール依存症の女性は、原家族のなかに問題があった例が多い。父のアルコール依存症や暴力、両親の不和などのため、家庭内に緊張感がある。
 家族のなかで、問題が大きかった人ほど、大人になってからも、しょっちゅう自分からトラブルのなかに入っていく。危ない男の人のところに行ってしまう。この人、いつも大変な目にあっているから、私が支えなきゃ、と思う。できたら、そのトラブルを自分がかかわる形で解決させたいと思うのだ。そのような人にとっては、日常が危険で、非日常が安全なのだ。攻撃と密着を愛情と勘違いして教えられてしまった人たちでもある。だから、ヤクザや暴走族のほうを安全と感じてしまう。
ニコイチの関係とは、相手と自分がぴったり重なりあって、二個で一つという関係のこと。このニコイチとDVは表裏一体の関係にある。相手と自分とのあいだに境界線がないときに暴力が出てくる。言葉じゃなくて、すぐに行動化するのは、言葉がつながっていない人たちだから。
相手が試すような行動をしているときに、「死ぬな!」と言ってやめさせようとするのは、ヒモの両端をお互いに引っ張りあっているようなものだ。ところが、身体の手当てをする行為によって、このパワーゲームから別のところへ行ける。自分の病気を受け入れると、回復とは回復しつづけることなんだということが分かってくる。回復するときに乗り越えるべきものがある。それは、変化することを受け入れられるかどうかということ。変化しつづけることが一番安定することなのだ。
 ところが依存症の人は、変化したくない。不安だから、今日のままでいたいと願う。回復には長い時間がかかる。回復とは、どこかに到達することではなく、むしろ変化しながら、より安定した暮らしを維持すること。だから、一つの機関、一人の援助者がずっとその過程を伴走できるとは限らない。むしろ、そんなことはきわめてまれなこと。自分の出来る支援を精一杯して、次の援助者にバトンを渡せばいいのだ。
眠いとか、おしっこしたいとかいう生理的要求というのも、実は、その表現の仕方を教えられて初めて表出できることなのである。
 専門職のなかには、グチを聞くことをひじょうにネガティブにとらえる人が多い。しかし、相談するというのは誰にとっても難しいことなのである。本人には、何が問題なのか分からなくなっている。グチを聞くのも、専門家の大きな役割なのではないか。心の痛みが静かな悲しみに変わるためには、数え切れないくらい同じ話を誰かに聞いてもらわないといけないのだ。
リストカットする(手首を切る)ような人には日常がない。普通の生活というのは、抽象的なものでしかない。だから、実際の普通ってこういうものだというように具体化することが大切。たとえば、料理や掃除が大事なのだ。
 回復途上の男性が働いて給料をもらうと、なぜか車やオーディオなど、不釣合いなくらい高価なものに多額のお金をつぎ込んでしまう。それは誰かと楽しむための道具というより、自分ひとりで満足するためのもの。そこには、他人とつながっている感じが希薄である。これは「ただ遊ぶ」という体験の乏しさの裏返しではないか。
 暴力に関していうと、被害者は加害者意識にみちて、加害者は被害者意識にみちていることがある。被害者は、「自分が相手に暴力をふるわせるようなことをしたのではないか」という罪悪感をもつ。そして、加害者は、「むしろ自分こそが被害者だ」という思いを抱いている。そして、意識だけでなく、実際に被害者が加害者であること、加害者が被害者であることもある。
 重い暴力、激しい暴力にさらされた人ほど、被害体験だけでなく加害体験をもっていることがある。まわりから、「客観的」にみれば加害者とみなされている人たちは、自分たちこそ被害者だと思っていることが多い。
 切迫した恐怖と焦燥感に転じる人を人間関係のテロリストという。人が集まって、なごやかに談笑する場面でマイナスの感情に支配され、その場をぶち壊すような発言をする。その現象を自爆テロと呼ぶ。その場をぶち壊すことには成功したが、自分自身も、その場に受けいれられるチャンスを失ってしまった。彼らは、いつも関係を壊そうとするエネルギーに満ちている。また、長く続けてきた関係を突然、切ろうとする。心からそれを望んではいないことが言葉ではなく伝わるか、次々と周りとトラブルと起こすし攻撃性を向けるので、次第にまわりから人がいなくなるし、援助者もそんな彼らから距離を置こうとする。すると、ますます人間関係のテロリストたちはいきり立つ。そして、自分たちに関心を向けてくれる人たちや手助けをしようとする人たちがようやく現れたのに、そこへ一気に「試し行為」のテロ攻撃を集中的に行う。
そんなとき、共感はするが、巻き込まれないという援助では、何もできない。一定の距離を置いたのでは、問題の核心に触れることができない。でも、これってなかなか難しいことですね。一人でしょいこまないようにするしかないのでしょうね。
セックス「依存症」の女性にとっては、セックスが快感というよりも、相手から一瞬でも必要とされる存在である自分を確認する行為なのである。その背景には、度重なる被害体験のなかでできあがってきた自己肯定感の低さがある。
小児ぜんそく、摂食障害、アルコール依存症という自分の体験にもとづくアドバイスなので、とても説得力があります。250頁、2100円の本ですが、価値ある一冊です。
(2010年9月刊。2000円+税)

たかがハチ、されどミツバチ

カテゴリー:生物

著者 桑畑純一 、出版 鉱脈社 
 団塊の世代の著者が定年過ぎてから日本ミツバチを飼い始めたのです。さてさて、うまくいくことやら…。ところがどっこい、うまくいったようです。たくさんのミツバチたちが楽しく生き生きと働いている様子が写真で伝わってきます。
 ハチの寿命は60日。人間と比べると一日を一年として働いている。60日が定年であり、還暦であり、また寿命でもある。ハチは一日たりとも無駄にはできない。
 休む間もなく一日中働いても、ハチは生き生きと楽しそうである。天気の良い日には活発に何回でも外に出かけるが、雨の日や寒い日には機嫌が悪い。ミツバチは集団で生活し、社会を構成する賢い昆虫である。
 ハチの分封。女王バチが半分の仲間を引き連れて、巣から出ていく。この一大事業も、実は女王バチが引き連れていくのではなく、働きバチが新しい女王バチにすみかを譲って出ていくことを旧女王バチに催促している。
 人間にとっての経済効率は西洋ミツバチの方が優れている。 しかし、日本ミツバチは性質がおとなしく、寒さに強く、病気にも強い。ただ、住み心地が悪いと逃亡する。できるだけ箱にさわらず、刺激を与えないのが第一。
 ハチ毒はガンの予防効果があるという。養蜂業者のガン発生率は他業種に比べてとても少ない。うひゃあ、そうなんですか。ハチに刺されても痛いだけではなくて、いいことがあるんですね。
 日本ミツバチの蜜は、西洋ミツバチとは比べものにならないくらいのに濃くて美味である。 日本ミツバチは西洋ミツバチが特定の花から蜜を集めるのに対して、百花蜜と言われるように木の花を主として何の花からでも集めてくる。昼間は蜜を集め、夜は集めたばかりの水分の多い蜜を、羽を振るわして糖度を上げる作業に従事している。
 日本ミツバチの行動範囲は2キロから3キロほど。一匹の日本ミツバチが一生に集める量は、小さじ一杯程度でしかない。
 ミツバチ社会は徹底した年功序列で、リストラもない終身雇用社会である。働きバチは生まれてから20日のあいだは幼虫、さなぎとして巣穴で暮らし、先輩働きバチの運んでくる蜜や花粉をもらって、その保護のもとに成長していく。
20日を過ぎると、巣穴から出てきて、一人前のハチの格好をしているが、すぐには巣箱から出ることはしない。まずは巣穴を掃除し、巣穴にいる赤ちゃん世話をする。そのあと蜜を倉庫に貯める倉庫係、そのあと門番の役目をする。門番は敵を見分けて、戦わなければならない。そして、ついに蜜や花粉を集める外勤となり、働きバチとして一生を終える。働きバチは一匹だけ飼ってもすぐに元気がなくなりせいぜい2、3日しか生きていけない。ハチって、あくまでも集団の中でしか生きていけない生き物なんですね。
わが家の庭にも、たくさんのミツバチがやって来ますが、日本ミツバチなのか、残念ながら見分けがつきません。でも、ミツバチが花をめぐってせっせと働いている姿は見飽きることがありません。
(2010年3月刊。952円+税)

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