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カテゴリー: 人間

アニータの夫

カテゴリー:人間

(霧山昴)

著者 坂本 泰紀 、 出版 柏書房

 2001年、青森県住宅供給公社の経理担当職員が14億円もの巨額を横領していたこと、少なくとも8億円をチリ人の女性(アニータ)に送金していた事件が発覚し、大変なスキャンダルとなった。

横領していた男性は懲役14年となったが、満期出所し、今は生活保護を受け、世間に隠れて生活している。他方、チリに住むアニータは子ども9人をかかえ、有名人として健在。この本は、その横領犯の男性と出所後に何回も取材、面談した成果をまとめています。

私の第一の疑問は、なんでそんな金額の横領が可能だったのか、ということ。それは、この本を読んで判明しました。要するに、住宅供給公社というのは利益を上げているのに、決算上は利益を100万円以下にするようになっていた。なので、公社には隠し金が100億円も積み上がっていた。これをいろんな名目の「引当金」としてプールしていた。

 この財源の振り替えを職員が1人で担当していたので、横領するのは簡単なこと。アニータと知りあう前から横領していた。そのお金は、夜の街での遊興に費消していた。

この職員は東京の大学を出ていたが、いわゆるプロパーなので、60歳定年で課長になれたらいいほう。理事長も事務も部長も、みな天下り。実務はしないし、知識もないのに高給取り。そして、何年かしたら転出していく。そのバカらしさと相まって横領を重ねていった。弁解になりませんが、その気持ちを理解することは出来ますね。

 事件が発覚したあと、県知事は公社の解散を命じて、解散したが、その時点でも公社には数十億円以上の資産があったのでした。驚くべきことです。

隠し財産だから、誰にも分からないという自信があった。発覚したのは、2001年10月に仙台国税局が調査に入ったとき、男性が逃亡したことから。

 第二の疑問は、アニータは受けとった8億円(11億円かも……)を何に使ったのか、本当に残っていないのか……ということ。アニータは、チリで豪邸を建て、病院を買収し、一族郎党に気前良く大金をばらまいていて、どうやら本当にお金は残っていないようです。アニータはチリで芸能活動をしていて、インスタグラムのフォロワー数は80万。

アニータは、実子8人、養子1人のシングルマザー。子ども8人のうち6人は、父親が全部違う。日本人男性とのあいだの子はいない。ところが、なぜか日本人男性の妻のまま、今日に至っている。

 アニータが建てた豪邸は青森県住宅供給公社が差押して、競売代金7300万円を回収した。ほかにレストランや病院にも投資して運営していたというが、そこからは回収できていない。

 アニータは、チリで、賛否両論を巻き起こしつつも、力強く、今を生きている。アニータは、取材するなら2~3000ドルを要求する。結局、著者はアニータ本人の取材に失敗。

 第三の疑問は、アニータは巨額横領の共犯では……、というもの。しかし、アニータは、億万長者と結婚したと信じていたと、真っ向から否定する。

男性は取材に答えて言う。アニータを寂しい人間、悲しい人間、貧しい人間だと間違って理解した。実際は、寂しくもなかったし、悲しくもなかった。弱い者を救いたいと思っていた。でも、アニータは本当は強い人間だった。

自分が得たものは、汚れた、汚れきった醜(みにく)い歴史。後悔しか残らない。汚れた歴史と後悔だけが残った。

 アニータは、チリに行くたびに姿形(すがたかたち)が変わっていった。姿形の変化より、驚くのが心の変化だった。

 ともかく、読むと腹の立つばかりの本でした。人間って、こんなにもバカになれるものなんですね……。

汗水たらし稼いだお金じゃないから、深みがない。心のないお金なので、まったくお金が違う。こればかりは、まったく同感でした。

 弁護士50年やって、タワーマンションを買えるほど、お金を貯めることは出来ませんでした(貯めようと思ったことは一度もありませんが……)。それでも、自分の信念を大きく曲げずに生きて弁護士を続けてこられたことに感謝するばかりです。

(2026年1月刊。1870円)

「間(ま)」の極意

カテゴリー:人間

(霧山昴)

著者 太鼓持 あらい 、 出版 角川ワンテーマ新書

 太鼓持という職業の人は落語の世界でしか知りませんが、それを仕事としていた人の語りは、さすがに、なるほどそうなのかと思わせる内容でした。

どうして「間」が空くことが怖いのか。自信がないから。余裕がないから。「間」をうまくつかむには、メリハリが大事。

 太鼓持ちは、予想に反するような対応をすることで期待に応える。なので、芸もわざとはずしてやったりもする。

ドキドキ感をなくしてしまう、慣れてしまうのは怖いこと。ドキドキして怖いのは当たり前のこと。むしろ、それは謙虚でいることの証拠。

 お座敷で人を楽しませるというのは、人の気持ちを明るくし、なごませる。だから、基本的に自分も裏のない、純粋な、いい人間であろうとする。同時に、人のいやな側面をあまり見なくてすむ。

他人(ひと)の話を聞くときに何が大切かというと、その人が何を言おうとしているのか、そこに思いを馳(は)せて、きちんと聞いてやること。ひとの話のなかには、その人の希望とかお願いの気持ちが何らかの形で込められているもの。

 十一屋さんというのは、土。つまり、泥くさい、野暮な客。若松さまとは、世間知らずのおめでたい人。めかいちさんとは、助平のこと。箒(ほうき)とは、浮気者。七夕さんとは、一年に一度しか来ないのに、よく来ていると吹聴している客。

 座敷でやたらと女将や仲居さんにいばりちらす人がいる。よほど、人間としてのスケールが小さい人。弁護士である私に対して威張りちらす人がたまにいます。びっくりしますが、こちらは独立自営業者ですので、早々にお引取り願います。上に立つ人の多くは意外に腰が低いものです。

 太鼓持ちとして、下手に出ること、謙虚になって接することは、自分を卑下することではない。むしろプライドがあるからこそ、できるもの。とっさのつくり話も、他愛のないウソも、相手に対して誠意ある態度で、まじめに真剣にやる。これが太鼓持ち。

太鼓持ちという職業は絶滅寸前。戦前の東京には3万数千人いたのに、今や東京に4人、関西には著者一人のみ。この「今」というのは、25年前のことです。もう絶滅してしまったのかもしれません。

 著者は私と同じ団塊世代です。面白い本(新書)でした。

(2001年11月刊。571円+税)

佐藤ママの、やっておくべき9歳までの受験準備

カテゴリー:人間

(霧山昴)

著者 佐藤 亮子 、 出版 小学館

 中学受験をするにしても、しなくても、9歳までが大切だという子育てを詳しく解説している本です。

9歳というと、小学3年生です。それまでの学習の蓄積が中学受験に向けた勉強の基礎になる。小学3年生までの教科内容は保護者が教えることができる。

 しかし、中学受験に必要な学習内容は難しいので、保護者は教えられないし、中途半端に介入すると子どもが混乱してしまう。塾など、プロにまかせたほうがいい。

 きっとそうなんでしょうね。私も昔、ツルカメ算などで苦しんでいたような記憶があります。

 耳学問を大切にする。絵本を読み、童謡を歌って聴かせ、美しい言葉を耳からインプットして語い力をつけ、豊かな感性を育てる。そして思い切り遊ぶ。

 遊びは子どもの想像力を育て、成長する糧(かて)になる。

 また、子どもの話をよく聴く。インプットと同じく、しゃべるというアウトプットも大切なこと。人間はインプットとアウトプットを繰り返して、知識や技能を身につけていく。

 佐藤ママの勧める勉強法の特徴は、合理的な方法で、ムダを省き、楽しくできる工夫をするということです。実に徹底しています。

 「くもん」の幼児教室に1歳半から長男を通わせていますが、それは佐藤ママの気分転換も目的の一つだったとのこと。なるほどですね…。

 子どもはウソをつくもの。佐藤ママは、まずはだまされたふりをする。そしてあとで、「ウソって、必ずバレるのよね」と、さりげなく言う。「ウソを一度つくと、次にまたウソをつかないといけなくなるのよね…」と付け加える。すると、子どもにとって、ウソがバレるのが一番怖いことなので、自然とウソをつかなくなる。これまた、なーるほど、です。

掛け算の九九は歌をメインにして覚え、表で補う。今は九九の歌というのがあるのですね。ある段はマーチ風、ある段はバラード風。段ごとに曲調が変わって九九が唱えられる。これを佐藤ママは車の中で聴かせたそうです。

 私は、すぐ上の兄が泣きながら九九を暗唱させられるのをそばで見ていて、こりゃあ大変だ、泣かないですむよう早く覚えておこうと思ったことを今でも覚えています。兄弟が多いことの利点です。

佐藤ママには子どもが4人いて、「お兄ちゃん」とは呼ばず、全員を名前に「ちゃん」づけで呼んだとのこと。これはいいことです。「お兄ちゃんだからガマンしなさい」とか、「ここはお兄ちゃんに譲ってあげなさい」と親から言われるのは、子ども心に納得できないものです。みんな一人の人間として平等に扱うことを徹底した。偉いです。

たとえば、誕生日のプレゼントは、その子だけでなく、全員にそれぞれに合ったものをプレゼントする。さすが、です。兄弟ゲンカしたときも、「お兄ちゃんだからいい」とか言わず、ともかくまずは両方の言い分をよく聞く。そして、解決策を示して納得させる。

 佐藤ママの家には子ども部屋がない。リビングに机を並べる。4つの机が並ぶ。親の目の届かない部屋に子どもを置かない。いやあ、とてもよく考えられています。

 とっくに子育ては終わり、孫の勉強にも一切口出ししない私ですが、とても参考になりました。というのも、弁護士として、子どもの親権者・監護者争いの渦中に身を置くことがあるものですから…。

 佐藤ママの夫である真理(まさみち)弁護士より贈呈してもらいました。いつもありがとうございます。

(2026年2月刊。1760円)

「考える腸」が脳を動かす

カテゴリー:人間

(霧山昴)

著者 菊池 志乃 、 出版 集英社新書

 脳と腸は神経系、内分泌(ホルモン)系、免疫系を通じてつながっていて、そこに腸内細菌がかかわって、体にさまざまに影響している。

過敏性腸症候群は日本人の10人に1人がかかっている私も、かつてそうでした。便秘と下痢を繰り返すのです。東京にいたときは列車のなかで便意があり、駅のトイレによく駆け込んでいました。そうかと思うと、何日も通じがなく、腹が張って苦しい思いをしました。戦国時代の石田三成にも、この症状があったそうです。

 今では、この症状は立派な病気だと認識されています。著者は、「個人のこころの問題」による病気ではなく、「体の病気」として考える必要があると強調しています。ストレスに弱いのではなく、ストレスに対して脳と腸の反応が過敏でその結果として体の症状が現れると考えるのです。

そこで、脳(こころ)と腸のバッドコミュニケーションを断ち切る療法がすすめられています。たとえば、おなかへの過度な注意をそらすトレーニングを実践するのです。楽しいことを集中してやっているときにはおなかの調子がどうなのかなんて気にしません。それを実践するのです。自分にあった「注意のそらしかた」を見つけるのです。

脳と腸は自律神経でつながっている。

 脳腸回線では、休息時やリラックス時に働いて、消化、排便、排尿を促す副交感神経の働きが重要。腸は、脳の指令にただ従うだけの存在ではない。

 ストレスホルモンは、脳とせき髄を通して胃腸の不調を引き起こす。ストレスホルモンは免疫細胞の働きをおさえる。つまり、ストレスが続くと、免疫の機能が低下する。

腸には、免疫細胞の過半数(70%とも)が集まっている。腸内細菌において、善と悪は、どちらかに固定的に分類できるものではない。むしろ全体のバランスが重要。

幸せ物質であるセロトニンの90%以上は腸でつくられる。腸は本当に大事だと実感します。朝、すっきりした通じがあると、さぁ今日もがんばろうとなりますよね。

(2025年10月刊。1100円)

細胞を間近で見たらすごかった

カテゴリー:人間

(霧山昴)

著者 小倉 加奈子 、 出版 ちくま新書

 奇跡のようなからだの仕組み、というのがサブタイトルですが、本当に人間の身体内は毎日、奇跡が起きていると私は考えています。だって、人間の体内で異物や細菌をやっつける薬を組成したりしているのですからね……。

 この本(新書)が読みやすいのは、分かりやすいマンガカットがついていることによります。口から肛門までの消化管の長さは、実に9メートルもある。

年齢(とし)をとると、だんだん味覚オンチになるのは、味蕾(みらい)が減るから。乳児のときには1万個あるのが、大人になると、5000~7500個と半減し、さらに加齢によって減っていく。

辛味であるカプサイシンは、痛覚受容器で感じるため、味覚には含まれない。

肝臓は、とても大きな臓器で、血液がたくさん流れ込む。その大きさを利用して、身体全体を流れる血液の量を調節する作用がある。胎児のときには、肝臓は造血器官として機能し、赤血球を中心につくる作用がある。

 小腸は3メートルの長さがあるが、ひっぱると、倍の長さになる。そして、表面積は60坪にもなる。

大便の3分の1は、細菌や、その死骸から成っている。

腸内フローラは、1000種類100兆個もいる。腸の状態は、健康にものすごく大事。

 腎臓(じんぞう)にやってくる血液が濾過(ろか)される量は、1分間に120ミリリットル。この濾過された血液の99%以上のイオン入りの水分は、再度、吸収されて身体に戻っていく。1分間に120ミリリットルは、1日にすると172リットルになるが、そのうち尿として身体の外に排泄されるのは1リットルのみ。

 皮膚は、人体で最大の臓器。総重量は体重の16%を占める。体重70キロの成人男性(私もそうです)では、皮膚は11キロもある。

毛細血管には穴のあいているのがある。これを有窓(ゆうそう)型毛細血管という。この穴を通って、血液とその臓器の細胞たちとの間で、イオンや水、タンパク質や細胞まで、さまざまな物質が交換できるようになっている。

 身体の60%は水分。細胞たちも、組織間液という液体に侵されている。乾燥した細胞はひとつもない。

 リンパ管は、毛細血管のように非常に壁が薄く、たくさんのリンパ液が流れていない状態では、ぺたんこにつぶれるほど、へなへなしている。リンパ管は、動静脈の道と併走するように全身をめぐっているが、最終的には、首の近くで左右の「静脈角」といわれる部位で血管と合流し、リンパ液は血液と一緒に流れていく。

血液の中の好中球は、いったん細菌を貪食(どんしょく)すると、自らも死んでしまう。好中球はとても短命で、細菌を貪食しなかったときも、2~3日で死んでしまう。

 自然免疫は、相手がどんな奴なのかの見極めは後回しして、とりあえず食べて殺してしまう。マクロファージは、血液中では単球と呼ばれる。

ウィルスは、細菌よりもうんと小さく、また自分自身では増殖することが出来ない。必ず宿主の細胞に入り込み、その細胞からちゃっかりいろんなものを盗んで自分のコピーをつくる。

 妊娠5か月の胎児(女の子)の卵巣には700万個もの原始卵胞があり、出産時には200万個の卵胞になっている。一人の女性が生涯に排卵する回数は400回。200万個ある卵胞のなかで、排卵まで行き着いた卵子は0.02%(5000個に1個のみ)。100万分の1の確率で子どもは生まれる。

 人間の体内で、鉄はムダなくリサイクルされている。体内の鉄の総量は3~4グラム。その3分の2が赤血球のヘモグロビン鉄として使われていて、残りは肝臓でフェリチンとして貯蔵されていたり、筋肉中のミオグロビンに含まれている。女性は月1回の月経(生理)で20ミリグラムの鉄を失うので、鉄欠乏性貧血になりやすい。

まさしく人体の不思議そのものを知ることのできる新書です。

(2025年11月刊。920円+税)

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