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2026年9月 の投稿

法律学とキャリア(上)

カテゴリー:司法

(霧山昴) 

著者 加藤新太郎・中村直人 、 出版 商事法務

有名な元裁判官(現弁護士)と、これまた企業法務の第一人者である弁護士が、キャリア形成で大切なものは何かを対談している本です。

この本の中で紹介されていて、私が経験したことのない話は、弁論準備手続の進め方です。なんと毎回2時間かけて、10回も裁判官がホワイトボードに要点を書きつけながら、論点を整理していったというのです。驚きました。まるで、大学のゼミか研究会のようです。それを踏まえて弁論期日を1回で終わらせて判決したのでした。証人調べは不要だったようです。

企業法務の代理人弁護士は、企業の持つ営業秘密を同業他者に知られないようにする必要があり、企業の了解なしに、安易に書いたもの以上には自由に話せないという制約があるとのこと。初めて知りましたが、なるほど……、です。

企業法務の弁護士は、「自分の責任を問われたくない」という思考から思いついた論点や主張を全部並べて、後になって、「先生は、あのときあれを言わなかった」と言われないよう、認められるはずもない主張まで並べてしまいがちになる。うむむ、そうなんですか…。

裁判官にとって一番大事なことは、書面を読んで、何を言おうとしているかが明確に分かること。一生懸命に取り組んでいるとか意気込みがあるなんていうアピールは不要。

裁判官にとって身内の一番の評価ポイントは、事件処理において赤字を出さずに黒字を続けていくこと。赤字をださないことこそ、大きな価値がある。

赤字とは、新受件数より既済件数が少ないこと。黒字とは逆に既済件数のほうが新受件数より多いこと。

裁判官等に求められる基本的資質として、正義感・使命感、責任感の3つがある。これには異存ありませんが、現実には、大企業や国・地方公共団体などの強いものに対して、使命感をもって正義感を貫いているとはとても信じられない裁判官が少なくないと思います。

裁判官が判断に迷う事件は、10件に1件、あるいは20件に1件ほど。そうなんですか…。裁判官って、もっと迷っているのかと思っていましたが……。だって、この本にも紹介されていますが、双方の代理人弁護士がそろって何が正しいのか、真実はどこにあるのか分からないというケースは、もっと多いと思うからです。

法律事務所によっては、イソ弁を「道具」のように扱い、とことん使い込み、労働力として消耗させる、そして、顧客が奪われないよう、コミュニケーションをとらせないようにするところがある。嫌ですね、そんな事務所に入るなんて最悪です。そんなところだと分かったら、一刻も早く抜け出さなければいけません。

何でも「ダメです」「リスクがあります」と並べたてて、自分の責任回避ばかり考える弁護士がいる。

つらく悲しく仕事をする、正直な意見を言わない、仕事が遅い弁護士が現実にいる。

依頼者全員から愛される必要はない。10人のうち2〜3人が強いファンになってくれたら十分。中くらいの相性の人が5人、残り2〜3人は、「合わない」と去ってもらう。それでいい。まったくもって同感です。これが一番ストレスがたまらない弁護士のあり方です。

大手の法律事務所は、たいてい何件か弁護過誤訴訟をかかえていて、ピリピリしている、そうなると、守りに入る傾向が強い。

私も弁護過誤訴訟をされたことがあります。敗訴したのを全部私のせいにされたのです。理不尽な訴訟でした。もちろん勝訴(請求棄却)されましたが、ずっと嫌な気分でした。懲戒請求やら苦情申立にいたっては52年間の弁護士生活に両手以上ほどあります。これはもう避けられません。幸いにも、これまで戒告を含めて懲戒されたことはありません。

裁判官に求められるミニマム像は、極端にシャープでなくても良いけれど、おおよその事件を大きく間違えずに処理できる力と、普通レベルのコミュニケーション能力を備えていること。

ためて良いのは知識とお金、ためてまずいのは、仕事とストレス。

仕事は前倒し主義で、前倒しするスタイルでやる。これによって仕事に追われなくなる。翌日から起案を始める。どんな仕事でも前倒ししてどんどん進めていき、常に自分の時間に余白をつくっておく。そうなると、突然大きな事件が来ても対応でき、逃がさない。これまた私と同じ流儀です。

この書評も、1週間分のストックをつくっておくようにしています。これが20年以上も続いている根本的理由です。仕事に追われたことはありません。いつだって心に余裕をもちたいものです。ついでに金銭的にも……。

読書は充実した人間をつくり、会話は機転のきく人間をつくり、書くことは正確な人間をつくる。これはフランシス・ベーコンが「学問の進歩」(岩波文庫)においているコトバだそうです。いいことを言っていますね……。

中村弁護士は、大都会(東京)の弁護士にありがちな、田舎の弁護士には「なれあい」があると思っていたようですが、加藤元判事は、釧路地裁にいた経験から、少ない弁護士たちが実にフェアに戦うことを知っています。フェアでない行動をとると、必ず自分にどこかではね返ってくる。なので互いに誠実であることを重んじる。まったく、そのとおりなんです。狭い地域社会を生き抜くにはそれしかありません。大変勉強になる本でした。

(2026年8月刊。2860円)

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