(霧山昴)
著者 大島 育雄 、 出版 山と溪谷社
すごい日本人がいたものです。グリーンランドでエスキモーになりきって生活しているというのです。現地の女性と結婚して、子どもも5人いて一家で生活しています。
日大山岳部出身、そして年齢は私と同じ団塊世代です。
植村直己さんから、先輩として、トイレのないエスキモーの家の内外での排便方法を含めて、万事について手ほどきしてもらいました。著者は日大生産工学部に籍をおいて山岳部で活動。日大山岳部は早くからグリーンランドの極地に着目して調査・遠征隊を送っていた。
エスキモーの人々は、大昔から大きな集団をつくることがなかった。猟においては単独か少人数での行動が当たり前だった。
犬ぞりを持っていることは、誰にも頼らずとも独りで猟をして生活できるということ。一人ひとりが独立したハンターだ。
アザラシをとるには、アザラシが寝ているうちにどんどん近づき、起きたと思ったら伏せる。そのとき自分もアザラシになりきって身をよじり手を振る。すると、アザラシはなんだ、仲間かと警戒をといてまた寝込む。それを繰り返しながら近づき、最後は猛然とダッシュして銛(もり)を打ち込む。観察力と演技力が要求される。
気温が低い、この地では石の下にデポしておくだけでよい。太陽に直接さらされないかぎり、肉が腐ることはない。
カナダでは、エスキモーは差別的用語とされ、イヌイットと呼ぶ。人間という意味。エスキモーとは生肉を食う連中のこと。ところが、グリーンランドではエスキモーという言葉にそれほど抵抗がない。ただし、自分たちを日常的にはイヌイットと呼んでいる。
雪原で方向を見失ったときには、年とったメス犬がいちばん頼りになる。何度も仔をもってきたので、帰巣本能が強い。メス犬を放して、その後についていけばいい。
犬ぞりに乗っていて体が冷えたときや猟のあいまのティータイムには凍肉を食べたり、ビスケットやクラッカーにマーガリンをたっぷり塗ったのをつまむ。腹をすかせていては、体は絶対にあたたまらない。
ノドが乾いたとき、雪を食べるのは良くない。食べすぎて、身体を芯から冷やしてしまう。とにかくこまめに着替えて、汗をかかないようにするのが大切だ。汗ばんで暑いからといって、厳寒の中で薄着でいるのは良くない。体温を急速に奪われてしまう。
空腹だったり、作業が忙しくて余裕のないときに凍傷にかかりやすい。
冬場はとくに意識的に休息する必要がある。2日、猟をしたら、1日休む。自分の身体にあわせて、自分をコントロールする。
猟のライセンスには緑、赤、青と3種類ある。猟だけで生計を立てている人は緑。補助的に仕事をもっている人は赤。旅行者は青。白クマを撃てるのは緑だけだ。
エスキモーの犬ぞりで、ボス犬と先頭に立つリーダー犬とは違う。ボス犬は、チームの中でいちばん力のあるオス犬だ。体が大きい犬とは限らない。リーダー犬はふつう経緯あるメス犬。リーダー犬は足が速くないといけないので、つとまるのは6歳くらいまで。
エスキモー猟師と犬とは一蓮托生。たまに犬に同情してムチをひかえたりすると、たちまち命を落としかねない。
犬ぞりを引くのは8年もすれば、がんばったほう。長くて12年。生後6ヶ月をこえると成犬とみなされ、放し飼いは許されない。
アザラシは年間を通して欠かせない。毎日食べても飽きがこない、重要な主食。白イルカでもイッカクでも、鯨(くじら)の皮は「マットック」といって、みんなの大好物だ。日本人の口にもあう。
主食は、年中とれて、食べ続けてもアキのこないアザラシの塩なぎ。脂身を添えて食べるとおいしい。脂身はビタミン豊富だし、便通をよくする働きもある。
エスキモーの食事の時間はとくに決まっていない。昔から、食べたい者が、食べたいときに、食べたいだけ食べるのが習慣だ。2026年現在も、著者はボートと6頭立ての犬ぞりで猟に出ているとのこと。すごい日本人がいたものです。
(2026年3月刊。1320円)


