法律相談センター検索 弁護士検索

司法修習QUEST

カテゴリー:司法

著者  赤ネコ法律事務所 、 出版  新書館
司法修習生の生活実態がマンガで紹介されています。
 現役弁護士の手になるマンガですので、そこに描かれている情景にほとんど間違いはありません。リアルなマンガに、つい笑ってしまいます。でも、内容はかなりシリアスです。
 ふだん私が読むマンガと言えば、新聞の4コマ、マンガです。秀逸なのは、なんと言ってもオダ・シゲ氏でしょうね。かつては、サトウ・サンペイがすごいと思っていました。まんまる団地は、どこでもある日常的な情景がよくぞマンガでとたえられていると思って、毎朝の楽しみです。くすっと笑えるところがいいですね。最近読んだマンガ本では、『ちいさいひと』、そして『ヘルプマン』がすごく勉強になりました。
 私は、新人弁護士には、いつも『家栽の人』と『ナニワ金融道』を必須文献として推奨しています。弁護士も実はなかなか硬い本を読みませんから、せめてマンガ本くらい読んでほしいという願いがあります。今どきの若手弁護士は少なくない部分が新聞すら読んでいないし、購読していません。インターネットで十分というのですが、それでは情報が片寄る(偏る)のですが・・・。自分の趣味・志向にあわせた情報にだけ目が向きがちです。
 司法修習生のとき、それまでの本の世界から初めて現実に直面します。そのとき、経験ある先輩の手ほどきが必要になります。私は、この時期に大いに世話役活動をしなさいねと言っています。わがまま勝手の人間集団の世話役として苦労していると、それが弁護士になったときに生きてきます。人間は、誰だって複雑な存在です。とても一筋縄では処理できません。
 それを自ら体験して実感しておくと、あとで必ず生きてきます。机上の空論がいかに得意でも、それでは食べていけません。
この本には就職難のことが面白おかしく紹介されています。もちろん、それは現実です。でも、もう少し、大都会志向から目を転じてほしいと常々私は思っています。
 同時に、受け入れ側の弁護士にも安定志向が強すぎます。若い人たちと苦難をともにするという覚悟が今こそ求められていると思います。
 よく出来たマンガでした。
(2013年1月刊。740円+税)

日本統治下の台湾

カテゴリー:日本史(戦後)

著者  坂野 徳隆 、 出版  平凡社新書
この本を読んで、そうだった、台湾は戦前、日本が植民地として支配していた人だった、と思い出しました。
 ちっぽけな島国・日本が朝鮮半島のみならず、ロシアや中国に向けて侵略戦争を次々に仕掛けていったことは、私の頭のなかでしっかり認識していたつもりでした。ところが、そのとき、台湾のことがスッポリ抜け落ちていたのでした。
 この本には、戦前の台湾にいて新聞風刺漫画を描いていた国島水馬(すいば)の手になる漫画をもとに、現代日本人に侵略戦争について語り明かしてくれます。
 それにしても、小さい島国である日本が台湾を植民地にしてうまくいくなんて、本気に思っていたのでしょうか、大いにギモンです。
 そして、1930年(昭和5年)10月27日に有名な霧社事件が起きました。台湾の中央部に位置する山里の公学校で行われていた運動会のグラウンドに原住民が蕃刀や銃を持って乱入し、駐在所の警官をはじめとする日本人134人(霧社在住者の半分以上)、そして日本人と間違えられた台湾人2人が犠牲となった事件です。
 この霧社事件のあと、台湾の山地や原住民周辺における警察力は大幅に増強され、原住民の叛乱はなくなった。
 この事件のあと、親を日本人に殺された霧社の原住民の若者たちは、血判状を書いてでも日本軍兵士として太平洋戦争に参加を欲するなど、日本の皇民化政策によって洗脳されてしまった。
 戦前の日本軍占領下の台湾の様子がマンガで紹介されている貴重な本だと思います。
 そして、戦後、今度は中国本土から蒋介石の国民党軍が中共軍に敗退して渡ってきて、戒厳令を敷いたのでした。これは、なんと40年近くも続き、世界最長記録でした。
 1987年までに没獄・処刑された反政府活動家は20万人以上という苦難の時代が続きます。この点は、もちろんマンガで紹介されていません。
(2012年12月刊。780円+税)

東電OL事件

カテゴリー:司法

著者  読売新聞社会部 、 出版  中央公論新社
1997年3月、東京電力の総合職社員(女性、39歳)が渋谷の円山町で殺害された。犯人としてネパールから日本へ出稼ぎに来ていたゴビンダが逮捕され一審の東京地裁は無罪としたものの、2審は逆転有罪そして最高裁も有罪判決を維持して確定した。2003年11月のこと。
ゴビンダ受刑者は再審請求したが、その手がかりとなったのがDNA鑑定。
 1997年は、DNA鑑定の過渡期だった。鑑定の精度は上がってきていたが、今のようにコンピューターでDNA型の判定はできず、肉眼で判定していた。
 DNA鑑定技術は、1989年には、別人と一致する確率は200人に1人だった。
 1996年には、PM型検査によって2万3000人に1人と精度が上昇した。
 2003年に、STR型検査法によって1100万人に1人と、飛躍的に精度が向上した。
 2006年には、STR検査法がさらに、それまでの9ヶ所から15ヶ所のDNA配列を調べるSTR型検査法に変更されて、4兆7000億人に1人となった。これではほとんど100%の精度である。このように刑事事件におけるDNA鑑定の歴史は、まだ30年足らずしかないが、この30年で飛躍的に精度が高まった。
 被害者は、手帳に売春相手の使命、会った時間、受けとった金額などを克明に記録していた。いかにも日本人ですね。なんでも記録するのですよね。
 ネパール人は、正規ルートで海外に出稼ぎに出ている人だけで230万人。把握できる人だけでも全人口の10人に1人近くが海外で働いていることになる。9割以上が、カタール、UAE、クウェートなど、オイルマネーに沸く中東地域やマレーシアにいる。収入は日本円にして1~2万円。それでもネパールにいるときよりははるかに大きい。若者による出稼ぎは、ネパール経済を支える主力産業だ。
 再審の扉をこじあけて無罪となったゴビンダは、今、ネパールの自宅で家族と生活をともにしています。それにしても15年間も獄中にいたわけです。
最新のDNA鑑定の威力とあわせて、それまでの精度の低さに改めて驚嘆させられました。
(2012年11月刊。1400円+税)

死の淵を見た男

カテゴリー:社会

著者   角田 隆将、 出版  PHP
あの3.11のとき、福島第一原発の所長として死を覚悟した吉田昌郎氏のインタビューが本になりました。そのすさまじさに圧倒されます。吉田所長たちが死を覚悟したとき、日本は3分割される危機が間近に迫っていたのです。それを今の私たちは早くも忘却の彼方に押しやっている気がしてなりません。
日本は、あのとき、3つに分かれるぎりぎりの状態だった。汚染によって住めなくなった地域と、それ以外の北海道そして西日本の三つである。
 このとき、東京は汚染によって住めなくなった地域に入っています。ということは、日本は中枢がなくなるというわけですから、北海道と四国・九州の2つしかないということですよね。中部・関西だって汚染地域に入っているんじゃないでしょうか・・・。いえ、これって単なる架空の絵空事ではありませんよ。もっと原発事故の恐ろしさを私たちは改めて再認識すべきです。
 そして、もう一つ。北朝鮮「脅威」論を右翼・保守があおりたてています。しかし、彼らは決して、原発がテロのターゲットになったらどうなるかということは言いませんよね。
 日本だけは「テロの対象」になりえない。あるいは、日本では原発がミサイル攻撃を受けるはずがないという、幼児的とも言える楽観的志向にみちみちている。しかし、それは原子力行政にある指導者(為政者)として、あるいは実際の原子力事業にあたるトップとして「失格」である。
 ホント、そうですよね。「電力不足」どころの話しではありませんよ。
 吉田前所長は、3.11のあとがんを患い、また脳内出血をして病気入院中(のようです)。やはり3.11からの尋常ならざるストレスが身体をボロボロにしてしまったのでしょうね。
 日本列島の3分割を救った人として(東電幹部として原発推進した責任はあるにしても・・・)、顕彰の対象になる人物だと私は考えています。
 3.11のあと免震重要棟には600人もの人が残っていた。技術系以外の人を対比させたあとも60人ほどが残った。東電本社が「全員退避」の方針をうち出した(東電は否定)のを知って、菅首相(当時)は烈火のごとく怒った。
菅首相は日本がダメになるという危機感を抱いていたのでしょうね。ヘリコプターで福島第一原発に乗り込んで、怒鳴りまくったようです。焦りは分かりますが、一生けん命に身を挺して働けている人たちに怒鳴ってもしょうがありませんよね。菅首相(当時)の人間としての幅の狭さを如実にあらわしているエピソードです。
 決して忘れてはいけない原発の怖さを後から追体験した気分でした。
(2012年12月刊。1700円+税)

建設業者

カテゴリー:社会

著者  建設知識編集部 、 出版  エクスナレッジ
建設現場の実際について、大変勉強になる本でした。知らなかったことがたくさんあり、大いに目を開かされました。
 鉄骨鳶(トビ)は、一日の仕事を終えて現場から帰るときは、自分の足跡を一つ残らずホウキで掃いて消してから帰る。そこまでやらないと、本当にいい仕事をしたとは言えない。そこまで思いやれるようになって初めて、その人間は現場から信頼される職人になる。
たとえば、20年やっている職人と5年しかやっていない職人が一緒に仕事をするときは、必ず20年目の職人が5年目の職人のレベルに合わせてやる。そうすると、下の職人も自然に下の職人に思いやりを持つようになる。常日頃から、こういうコミュニケーションが大切。
現場の職人が互いに思いやりを持って仕事ができなくなったら、とたんに転落や打撲やら、事故が絶えなくなる。 思いやりをもったコミュニケーションこそが最高の安全対策になる。
 クレーンオペレーターは相手の言うとおりにしていたら事故につながるかもしれないと思えば、たとえケンカになってでも、その頼みは断る。そういう意味での決断力を常に意識しておかないといけない仕事だ。
職人の腕の良し悪しは、すべて段取りに出る。段取りの悪さは致命的だ。子どもに見せられる仕事はいいものだ。
2階以上の深さのある地下なら、たいていどこか下から地下水が染み出してくるもの。コンクリートを打ち継いだ目地やコールドジョイント(接着不良)の部分からジワーっと・・・。
 そこで、防水工の仕事は、まず水が染みている部分のコンクリートをはつって(削り取って)、その出所を突きとめる。次に水に反応して膨張する発泡ウレタンをその出所に注入する。あとは、その上に止水セメントを盛って塗布防水剤を塗れば完了である。
 優秀な職人というのは必ず2つの共通点をもっている。一つは段取りがいいこと。親方から言われたとおりにやる人はダメ。臨機応変、その場に応じた発想ができる人でないと現場はまかせられない。もう一つは、下地をきっちり作れること。うまい人は、仕事に対する欲がある。もっとよくしたい、もっと仕事について知りたいという探求心がある。
 現場には、自然にできあがった職人のランクみたいなものがある。大工がいて、左官がいて、それから鉄筋工、型枠工がいて、設備はずっと下。下の方から数えた方が早い。
 屋根まわりの板金なら、基本的には水が流れたいように流れさせてやることが大切。屋根でも庇でも、水が自然に流れない設計は、いつか必ず漏水を起こす。
 ウレタンを壁に均一に吹きつけるには、その日の気温、現場の階数(高さ)、延ばしたホースの長さ、吹きつけるスピードなど、ありとあらゆる要素をふまえて発泡期の状態を調整しないとできないこと。ウレタンって、非常にデリケートな材料なのである。
 階上解体。建物の上の階から解体機で解体しながら一階ずつ地上まで降りてくる工法のこと。鉄筋がしっかり入っていない建物は、解体機を床の上に安心して載せられない。いわゆる手抜き工事が発覚すると、この仕事は難しくなりそうだと覚悟する。頑丈つくってあれば、私たちも安心して壊すことができる。
 やはり、職人芸には学ぶところがたくさんありますね。
(2013年1月刊。1400円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.