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「イエルサレムのマイヒマン」

カテゴリー:ヨーロッパ

著者  ハンナ・アーレント 、 出版  みすず書房
 映画『ハンナ・アーレント』をみました。冒頭のマイヒマンが拉致され、トラックに連れ込まれるシーンは史実に即しています。
 アイヒマン逮捕には、有名なヴィーゼンタールは関わっていないようです。『ナチス戦争犯罪人を追え』(ガイ・ウォルターズ。白水社)はアインヒマンがイスラエルのモサド(秘密諜報機関)に拉致されるまでの苦労話を明らかにしています。
 アインヒマンは1960年5月11日、アルゼンチンで捕まり、1961年4月からイスラエルで裁判が始まり、1961年12月15日に終わった。そして1962年5月31日に絞首刑が執行され、6月1日には死体が焼かれて、その灰は地中海にまかれた。
 先の本では、ハンナ・アーレントとは違った評価がなされています。アインヒマンは優秀なオルガナイザーであり、決して凡庸ではなかった。アインヒマンは自慢屋だった。アインヒマンのナチズムは苛烈なものだった。
 モサドの人間も、アルゼンチンから連れ去るのを大変心配していたようで、やはり鉄の男たちも人間だったんだと思います。
 また、アインヒマンがイスラエルに連行されてからイスラエル警察による尋問調書が本になっています(『アインヒマンの調書』、岩波書店、2009年3月)。その本によると、アインヒマンは凡人と関わらない人物だった。
 アインヒマンは他人が苦しむのを見て快楽を覚えるサディストではなかった。
 アインヒマンは、ほとんど事務所のなかで自らの仕事に専念し、結果として数百万人の人間を死に追いやった。一官僚として、アインヒマンは死に追いやられる人間の苦痛に対し、何の感情も想像力も有してはいなかった。
 ハンナ・アーレントによる、この本は、初めアメリカの雑誌『ザ・ニューヨーカー』に5回連載され、大反響を呼びました。それは映画をみた人はお分かりのとおり、強い否定的な反応だったのです。
 まだ出版されないうちから、この本は論争の焦点となり、組織的な抗議運動の対象となった。
 著者のハンナ・アーレント自身もユダヤ人であることを表明しています。そして、ユダヤ人組織から強く批判され、抗議が集中したのでした。なぜか・・・。
 ナチスのユダヤ人絶滅作戦にユダヤ人指導者が協力したことを明らかにし、それを問題にしたからです。
 もし、ユダヤ民族が組織されず、指導者を持っていなかったとしたら、その犠牲者が600万人にのぼるようなことは、まずなかっただろう。ユダヤ人評議会の指示に服さなかったなら、およそ半数のユダヤ人が助かっただろう。
 ただし、アンナ・ハーレントは、ユダヤ人指導者のナチスへの協力の事実をあげることで、アインヒマンを許したり、その罪責を緩和させているわけではありません。
検事のあらゆる努力にかかわらず、アインヒマンが「怪物」でないことは誰の目にも明らかだった。検事も判事も、アインヒマンは執行権力をもつ地位に昇進してから、まったく性格を変えたとする点では一致していた。アインヒマンが大量虐殺の政策を実行し、積極的に支持したという事実は変わらない。政治とは子どもの遊び場ではない。政治においては、服従と指示は同じものなのだ。
 アインヒマンは、自分の昇進にはおそろしく熱心だったということのほかに何の動機もなかった。アインヒマンは、自分のしていることがどういうことなのか、全然わかっていなかった。まさに、想像力が欠如していた。
 自分の頭で考えることの大切さを強く印象づける映画でした。
(2013年12月刊。3800円+税)

原発の底で働いて

カテゴリー:社会

著者  高杉 晋吾 、 出版  綜風出版
 いま、福島第一原発でたくさんの労働者が事故収集作業に従事しています。高濃度の放射能によって汚染されている場所での作業ですので、どんなに不安なことでしょう。でも、そうやって黙々と働いてくれる人のおかげで、日本という国は成り立っています。
 安倍首相の親族が、その一人でもそんな作業現場で働いているというなら操業再開を声高に叫ぶ資格があるのでしょう。でも、そんな人がいたなんて聞いたこともありません。自分はのうのうと快適な暮らしをしながら、原発は安全だなんてうそぶく首相をかかえる日本は不幸だというしかありません。
 この本は、かつて浜岡原発で働いていた青年労働者が放射能にやられて若くして白血病で亡くなった事件を改めて追跡しています。放射能汚染区域での作業の恐ろしさを実感させてくれる本です。
 それにしても、浜岡原発というのは、とんでもないところに立地したものです。地盤は脆弱なうえに、活断層が近くを走っている。冷却のための海水取水口は沖合にあるが、そのパイプは地震に耐えられそうもない。そうすると、冷却できなくなるから、福島第一原発と同じ事態になるのは必至・・・。
 どこの原子炉にもある高い煙突。これは煙突ではなく、気体性放射性物質の排気筒。
 放射能の一部はフィルターで吸着されるけれど気体性放射能は、そのまま大気中に放出されてしまう。
 浜岡原発の敷地は、南海地震が発生して津波が来たら、周囲が津波に囲まれ、放射能の泥沼と化してしまう。
 民主党政権の菅直人首相は、浜岡原発を「いったん停止」した。しかし、防波壁が完成し、その安全性が確認されたときには再稼働されるという条件がついていた。
 ところが、3.11のとき、釜石湾にあった防波堤は一瞬にして崩壊してしまった。浜岡原発では予想される津波の高さ19メートルに対して、防波壁の高さは18メートルの高さしかない。
 浜岡原発では、地震が来たらもたないと予測されていたが、データが変造され、地震にも耐えるかのように発表された。
浜岡原発のなかで働いていた青年労働者は白血病になった。
 白血病になると、神経部分が正常に機能しなくなる。そのため、脳神経障害から、さまざまな異常行動が見られるようになる。眼振、顔面の表情異常、行動異常、けいれんなど、さまざま。
 原発労働に入る労働者を斡旋する業者には暴力団関係者が多い。
 あまりにも前近代的な労働環境のようです。本当に心配です。
(2014年1月刊。2000円+税)

宇宙が始まる前には何があったのか?

カテゴリー:宇宙

著者  ローレンス・クラウス 、 出版  文芸春秋
 何もないところから何かが生じることはない。しかし、この常識は宇宙では通用しない。重力と量子力学のダイナミクスを考慮すると、常識はくつがえってしまう。それこそが科学の素晴らしいところ。私たちが目にするものすべてを、空っぽの空間から作り出すことが可能なのだ。
 この本で語られていることは、何年、何十年、何百年というものではなく、2兆年とか、まさしく気が遠くなりすぎるほどの次元の話です。もちろん、地球はおろか太陽だって50億年という寿命がとっくに尽きてしまっている先の話です。
 まあ、たまには、そんな雄大な宇宙の話に耳を傾け、目を見開いてもいいのではありませんか・・・。
私たちの身体を構成している原子のほとんどすべては、かつて爆発した星の内部に存在していたもの。私たちは、みな、文字どおり、星の子どもたちなのだ。私たちの身体は星屑(ほしくず)で出来ている。
光速より早く動くものはない。これが私たちの常識。しかし・・・。
 量子力学によれば、高い精度で粒子の運動速度を測定することができないほど短い時間ならば、その粒子は光よりも早い速度で動いてもかまわないということが示唆される。そして、もしも光より速い速度で動いているとしたら、アインシュタインによれば、その粒子は時間を逆行しているように振る舞うはずなのだ。
 なんということでしょうか。光速より早いと言うことは、時間を逆行することになるだなんて・・・。
アインシュタインが一般相対性理論を提唱したのは、わずか100年前のこと。そのころ、宇宙は永遠不変というのが世の中の常識だった。
 現代は、宇宙は膨張していることを知り、暗黒物質が宇宙にあることを知っている。空っぽのように見える空間エネルギーが含まれていて、それが宇宙の膨張を支配している。
 観測可能な宇宙は、これからどんどん光速より大きな速度で膨脹していく。つまり、未来になればなるほど、見えるものは減っていく。いま見えている銀河は、未来のある時点で、私たちからの後退速度が光速をこえ、それ以降は見えなくなる。その銀河は、地平線の彼方に消えてしまうのだ。
 これから、2兆年たつと、一部の銀河を除いて、すべての天体が文字どおり姿を消してしまう。つまり、今日、私たちの観測可能な宇宙にちりばめられている4000億の銀河は、すべて姿を消している。
 私たちの太陽は銀河系の辺境にある平凡な星の一つにすぎない。そして、銀河系は観測可能な宇宙にちりばめられている4000億個もの銀河の一つにすぎない。
 宇宙では、きわめて高い信頼度で、無から何かが生じることはありうる。
 空っぽの空間にもエネルギーが存在することが発見された。つまり、実は、空っぽの空間というのも複雑なものだった。適切な条件の下では、何もないところから何かが生じることは可能であるばかりか、必然だということ。
 高温・高密度のビッグバンの時期には、もともと物質と反物質とが同じだけ存在していたのだが、ある量子的なプロセスにより、物質の法が反物質よりもわずかに多くなるという小さな非対称性が生じた。そのおかげで、何もないところから、何かが生じた。それが、今日の宇宙にみられる星や銀河になっていた。
この本を読んで理解できたなんて思っていませんが、宇宙の始まる前には何があったのか、宇宙に終わりがあるのかという問いかけに対する答えの一つだと思い、最後まで興味深く読みとおしました。
(2014年2月刊。1600円+税)

足下の小宇宙

カテゴリー:生物

著者  埴 沙萠 、 出版  NHK出版
 NHKテレビで放映されて、大きな反響を呼んだそうです。私は残念ながらそのテレビ番組はみていません。
 でも、なるほど、ほんとうに見事な写真ばかりで、ついつい見とれてしまいます。
 著者は大分県出身ですが、今は群馬県みなかみ町の山里に住んでいます。82歳の植物生態写真家です。
 名前は、「はに しゃぼう」と読みます。シャボテンの研究からスタートしたことを反映した名前です。
ツチグリというキノコは、雨で濡れて、胞子袋も濡れて、膨らんで、雨つぶがあたると胞子が噴出する。
 著者は、なんと、その胞子が噴出する一瞬を写真に撮るのです。
カテンソウも同じ。花粉袋がオシベの柱からはずれると、「ピン!」と弾けて、その勢いで花粉が放り出される。
 花粉が飛び出る瞬間の撮影のときには、閃光時間が2万分の1秒という特別なストロボを使わなければいけない。
春先に我が家にも出てくるツクシの胞子を顕微鏡をつかって撮影する。
その胞子が散る様子を写した写真には躍動感があります。
二つに分かれた日本の手が、バネのように伸びたり、縮んだりする。息を吹きかけると、ダンスするように踊り出す。
シャボテンは、私も庭の一角で栽培しています。そのシャボテンが乾燥した地面にもぐり込んでいる写真があります。驚きのワザです。
ホームページもあるそうですので、私のお気に入りに登録して、ときどきのぞいています。
(2013年11月刊。1600円+税)

アウト・オブ・コントロール

カテゴリー:社会

著者  小出 裕章・高野 孟 、 出版  花伝社
 原子力発電所は安全だと言いながら、政府も東電も、原発を東京につくるとは決して言わない。なぜか?
 ここで燃やしているのがウランだから。そして、生み出される核分裂生成物の量が半端な量ではない。一つの原子力発電所は1年動くごとに広島原発の1000発分をこえるような死の灰を原子炉のなかにため込んでいく。
 原子力発電所は大変効率の悪い蒸気機関で、100万キロワットの電気を使おうと思うと、そのほかに200万キロワット分のエネルギーは使えないまま捨てるしかない。
 原子量発電所の別名は、「海温め装置」。1秒間に79トンの海水温を7度も上げる。
福島第一原発事故は、今も終息していない。溶け落ちた炉心が、今どこに、どんな状態であるかは分かっていない。
 4号機の使用済み燃料プールは、半分がまだ中吊りのまま、そこにある。使用済み燃料プールの中に1331体の使用済み燃料がある。これを一体ずつ、キャスクという巨大な容器の中に入れていく。
 1331体を1回もしくじらないで、本当に容器に移せるのか、大変な不安がある。その作業を終えるまでに何年もかかる。途中で再び大地震にあったら、どうなるのか・・・。
 1号機から3号機までで、広島原爆がばらまいた放射能の168発分を大気中にばらまいたと政府は言っている。本当は400~500発分だろう。
100ミリシーベルト以下の被爆なら、無害だという学者は、まず刑務所に入れるべきだ。
 大切なことは、これからの子どもを被爆させないこと。人間は年をとっていくと、被爆についてどんどん鈍感になっていく。ところが0歳の赤ん坊は、4倍も5倍も危険だ。さかんに細胞分裂しているときなので、敏感だ。
 日本の原発はもう安全なんだとか適当な嘘を言って海外へ輸出しようとしている安倍政権のインチキぶりを、私は絶対に許すことが出来ません。
(2014年1月刊。1000円+税)
 今朝おきて雨戸を開けると、向かいの山が真っ白になっていました。夜のあいだに降った雪が積もったのです。この冬はじめての雪景色でした。
 寒いなかをいつものように元気に走りまわっています。

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