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「働くこと」を問い直す

カテゴリー:社会

                                  (霧山昴)
著者  山崎 憲 、 出版  岩波新書
 フォード・システムは、アメリカにおいて自動車の大量生産として確立した。
 一人の労働者が一つの工程でになう作業にかかる時間をタクトタイムと呼ぶ。現代で、もっとも生産性が高いとされる自動車工場のタクトタイムは50秒ほど。その作業を、人間が一日中、数百回くり返す。私には、とても耐えられません。
 アメリカで一般的なフォード生産方式では、職務が一人ひとりに固定され、重なりあうことはない。そこに労働組合も便乗していた。経営側にとって効率がよいだけでなく、労働組合にとっては、労働条件を引きあげる基準としても、都合が良かった。
 不良品は最終工程で取り除き、ベルトコンベアーの速度を上げて生産性を高めるという方法をとっていた。すべての工程に品質をチェックする機能をつけ加えようとするならば、一人ひとりの働き方を根本的に変えなければならない。それには、大きな痛みをともなう。
 日本的労使関係システムは、生産性運動、高度経済成長、春闘の三つを必要条件としたが故に、そのどれかが欠けたときには崩れてしまう弱さを内包していた。
 日本のホンダがアメリカに工場を作ったとき、すべての従業員を平等に扱う、役員と従業員の賃金格差を大きくしない、作業の業績が悪くなっても簡単に解雇はしない、労働組合はつくらせない、などなどだった。
 そのため、職務の範囲を広くして、従業員同士や部門同士の仕事を重なりあうようにする。チームワークを高めるため、教育訓練をする。そして、定期的に配置転換する。
 日本の自動車メーカーの成功の要因は、価格が安いというだけではなかった。燃費の良さ、価格の安さ、品質の良さが、日本の自動車メーカーの本当の競争力の源泉だった。価格の安さや品質の良さは、偶然の産物ではない。
 品質を高めることに全社を挙げて努力し、不良品の出る割合を下げることで、日本企業はコスト削減につなげてきた。
日本企業の強さは、働く一人ひとりが惜しみなく自分の能力を企業経営のために提供することにある。そのことを前提として、一人ひとりの仕事を他人とつなぎ合わせる。個の能力を高めるとともに、組織としても効率的に、かつ有機的に機能させるためだ。
 弁護士も多くは高給取りにはいりますが、その大半は夜遅くまで働いています。首都圏の弁護士について言うと、帰りは決まって終電車という人も少なくないのです。
 それはともかく、何のために、そんなにアクセク毎日、働いているのかを考え直させる本でもありました。
(2014年11月刊。780円+税)
 東京・銀座の映画館でイギリス映画「パレードへようこそ」をみました。
たまに、いい映画をみると、本当に生きていて良かったなと思います。人間同士の心の触れあいによる温かさを感じると、よーし、明日もがんばろうと思えるからです。
 舞台はサッチャー政権下のイギリスです(1984年)。炭鉱労働者がサッチャー政権の炭鉱閉鎖に反対してストライキを続けるのですが、4ヶ月目に入って展望を見出せません。そのとき、ロンドンのゲイの若者たちが、炭鉱労働者と連帯しようと考え、そして行動に立ち上がったのです。募金を届けようとすると、炭鉱の街の方でゲイへの抵抗が強く、なかなか受けとってもらえません。ついに、ひょんなことから連帯行動が始まります。
 実話にもとづく展開なので、痛快な場面があり、また挫折もさせられます。
 でも、最後には、大同団結を勝ちとることができるのです。
 権力に屈せずたたかう炭鉱労働者と、同じように権力に抗して自分たちの生きる権利を主張して行動するゲイとレズの人々が、一致点で街頭パレードをするラストシーンは、思わず涙があふれ出してくるほど、感動的でした。

森にすむ人々

カテゴリー:生物

                               (霧山昴)
著者  前川 貴行 、 出版  小学館
 森にすむ人々というので、ジャングルのなかに今も生活している集落を紹介するのかと思うと、まったく違います。サルやチンパンジー、ゴリラや、ボノボなどを紹介した大判の写真集です。
 「彼らと我々は、同じヒトの仲間である」
 このように表紙に書かれています。本当に私もそうだと思うのですが、現実には、「彼ら」は絶滅しかかっています。人間(ヒト)が彼らの安住できる環境を大々的に奪いつつあるからです。諸悪の根源は、まさしく人間なのです。
 ジャングルのなかの彼らの生態が、こんなによく撮れるものかと、思わず驚嘆してしまうほど、よく撮れています。
 オランウータンは、雨が降ると、濡れるのをいやがり、葉の茂った枝をかき集めて、頭に載せます。
 ゴリラの子どもたちが仲良く遊んでいる様子も可愛いですね。
オスの大人のゴリラは、シルバーバックと言われるように、でっかい体格をしていて、背中が白くなっています。ところが、平和主義者で、草食なのです。ヒレアザミが鉱物なので、大きな口を開けてかじります。
チンパンジーは、イチジクの実が大好物です。そして、アカンボウを背中に乗せて、母チンパンジーは森の中を自由に移動します。
 森の中の大型類人猿の迫力あるアップ写真を眺めると、彼らにも個性があり、「人格」というか威厳があることがよく分かります。
 たかがサルなんて言うことは絶対にできないド迫力の写真集です。せめて図書館で手にとって眺めてください。
(2015年3月刊。2700円+税)

インドでバスに乗って考えた

カテゴリー:アジア

                               (霧山昴)
著者  ボブ・ミグラン 、 出版  カドカワ
 私が行っていない外国はたくさんありますが、そのなかでもインドは大国です。
 インドで思いがけなく、愉しくて興味深い経験をした。そのため、秩序正しくコントロールしなければならないという考え方が打ち砕かれた、それは幸いだった。
 混沌を征服することは決して出来ない。できるのは受け入れることだけなのだ。混沌を受け入れると、次にはそれを愉しむことができるようになる。
 コントロールを諦めることは、今までにない新鮮な可能性に通じる、素晴らしく自由な経験となる。人生における決断は、どれだけ多くの情報をもっているかではなく、前に進んでいくうちに状況に適応し、ぶっつけ本番でやっていけると信じる力しだいなのだ。
 完全なものを持っていれば、どこにもたどり着けず、ただ心配や悩みやストレスを生み出すだけである。なぜなら、それは存在しないものを待っているからだ。この世には、完全な仕事も、完全なパートナーも、完全なキャリアも、完全な瞬間も存在しない。あるのは、人間と、仕事と、瞬間だけ。
 物事は、こうあるべきだという考え方から解放され、あるがままの状況を受け入れる。
 物事は、あるがままにまかせ、他人が何をするなど気にせず、自分のしていることに集中すること。自分を成長させることに力をふり向けることだ。
 ライバルのことで頭を悩ませても何の意味もない。他人(ひと)を理解しようとするよりも、自分と自分の考えに集中することのほうが大切。他人が何と言うか、どう考えるか、どう行動するかを考えていたら、自分を見失ってしまう。
 多くの人は、人生の問いに対する答えが自分たちの外側のどこにあると思って、人生の疑問にこたえてもらうことを期待する。しかし、実際のところ、神は、その人たちが自分自身で答えを得られるよう、そのための静寂や時間を与えようとしている。なぜなら、あなたのあらゆる疑問に対する問いに対する答えは、常にあなた自身のなかにあるのだから・・・。
 インドには行ったことがありませんが、まさしく混沌そのものの国というイメージですよね。
 発想の転換が必要なんだと思わせてくれる本でした。
(2015年2月刊。1500円+税)

フランソワ一世

カテゴリー:ヨーロッパ

                                 (霧山昴)
著者  ルネ・ゲルダン 、 出版  国書刊行会
 フランス語を毎日、毎朝、NHKラジオ講座を聴いて勉強しています。大学で第二外国語としてフランス語を選択しました。フランス料理を食べたい、フランス美人と親しくなりたいの二つが動機です。18歳のときでした。フランス料理の方は、メニューを読め、注文できるようになりましたが、フランス美人とは残念ながら、まったく縁がないまま今日に至っています。本当に残念です。それでも、めげずくじけず、40年以上フランス語を勉強しています。毎週土曜日の午前中はフランス人と会話し(相変わらず、うまく話せません)、自分で運転する車のなかではフランス語講座のCDかシャンソンを聴いています。頭の老化防止に語学は最適です。そして、年に2回はフランス語検定試験を受け、できないものの悲哀をたっぷり味わいます。仏検準一級には何回か合格しましたが、挑戦中の一級にはまるで歯が立ちません。それでもフランス語を勉強していると、世界が広がる楽しさがあります。つとめてフランス映画をみるようにしていますが、セリフが聞きとれて分かるときは、うれしいものです。
 そんなわけで、フランス・ルネサンスの王として有名なフランソワ一世の評伝を読みました。500頁もの大作ですので、骨が折れました。レオナルド・ダ・ヴィンチを招来したフランス王です。ドイツ皇帝カール五世と何度となくたたかった国王でもあります。
 フランソワ一世は、絶対王制の基礎を築き、宗教戦争の種をまいた。ルネサンス文化への道を開き、女性の地位を復権させた。16世紀前半である。
 1547年1月末、フランソワ一世は52歳の若さで亡くなった。梅毒ではなく、淋病による死と思われる。
 フランスは当時2000万人の人口を擁していた。18世紀のフランス大革命時には2500万人の人口だった。ヨーロッパでは群を抜いて人口の多い国だった。
 フランソワ一世の前国王はルイ12世。即位するには、同輩衆の同意が必要だった、封建制の王国なのである。
 フランスでは、ただ一人の人物(国王)の統治にしたがっている。スペインやドイツでは、封建的であって、直接税は当事者の合意がなければ徴収されなかった。そして、常に当事者は不平を鳴らした。
 フランスの貴族階級は、外国人からみて驚嘆するほど真の尊敬の念をもって国王を取り巻き、華やかに王の供をし、立派に王に仕えることだけに心を砕く。ところが、ドイツの諸侯にとって、カール皇帝は外国人であった。スペインの貴族階級も自分たちの特権に執着していた。尊大で、疑い深く、激しくやすく、古い偏見の持ち主だったので、王から延臣服を受けとるのを潔しとしなかった。おまけに地方主義者だったので、国王や皇帝の世界的な企てを渋々としか支援しなかった。うひゃあ、これは、かなり違いますね・・・。
フランソワ一世はドイツ皇帝カール五世とは何回も戦争します。負けて捕虜になったこともあります。
 戦争に明け暮れた国王ですが、部下の掌握は、今ひとつでしょうか・・・。
フランソワ一世は、活力旺盛で幸福な君主であり、いつでも笑うことのできる君主である。生きる喜びで、すべてを明るくする王なのだ。
 フランソワ一世は、いつでも陽気であり、だからといって威厳を少しも損なわなかった。
 食事のとき、ナイフはあったけれど、フォークはまだ普及していない。スプーンもほとんどつかわれていない。要するに、指で食べていた。
 16世紀のフランスについて実情を知ることができました。
(2014年12月刊。6000円+税)

政党助成金に群がる政治家たち

カテゴリー:社会

                             (霧山昴)
著者  小松 公生 、 出版  新日本出版社
 政党って、同じ目的をもった有志の集まりのはずなのですから、自前でお金を集めて維持するのが当然でしょう。それを支持してもいない国民の税金で維持するなんて、そもそも考えが間違っています。堕落のはじまりです。
 しかも、企業献金を禁止するので税金で補助するという話だったのが、今や企業献金は堂々と復活しています。だったら、政党助成金は即刻廃止すべきです。
 そのうえ、この政党助成金の使い方はまるでデタラメです。こんなことを許している政権党が、子どもに対して学校での道徳教育に熱心だというのですから、アベコベとしか言いようがありません。だから「アベ」コベと言うのですね・・・。
国会議員が一人しかいない「政党」に2年も3年も、1億円以上もの税金が投入されている。理不尽としか言いようがない。
 助成金をもらって消えたサギ政党、「年末新党」というのは、政党助成金を受けとるためだけに結成され、最大の「使命」であり、「任務」であり、「目的」である助成金の受け取りさえ終われば、雲のごとく霧のごとく消えてしまった「党」のこと。
 政党助成金をもらうために、とにかく5人以上の国会議員が寄り集まる。5人の政党を立ち上げるだけで、議員一人あたり数千万円の政党助成金を労せずして手にすることができる。国会議員の年間の給与(議員歳費)は2000万円。その2~3倍ものお金がもらえるのだ。
 1994年以来、42もの政党が誕生し、そのうち33党が解党あるいは消滅した。これらの政党の平均寿命は、なんと2年。
 政党助成金が党収入の半分以上を占めるのは、民主主義や政党活動の原点に照らして正しくない。自民党も、当初は、そのように明言していた。
 政党助成金の最大の支出項目は、宣伝事業費。これはメディアのピンチを救っている。メディアの収入全体に占める広告費の割合は、新聞で半減、テレビは32%が30%へと減っている。それを埋めているのが政党助成金による宣伝広告費。メディアにとって、政党助成金を原資とする広告費が干天の慈雨になっている。
 政党助成金の使い方はデタラメだ。議員たちの飲み食いに使われ、また選挙の供託金としても使われている。
 麻生太郎は、六本木の会員制サロンバーで、1回100万円、1年間で800万円も政治活動費として使っていた。うひゃあ、これって許せませんよね・・・。
 これまでに消滅した政党に配分された助成金のトータルは745億円。自民党の収入の3分の2が、この政党助成金。
典型的な税金のムダづかいが、この政党助成金です。1995年から、2014年までの累計6311億円もの税金が、意味もなく、不合理に費消されてしまいました。すぐに廃止しましょう。私は怒っています。こんな不合理は許せません。今日の生活に困っている国民がいるというのに、こんなムダづかいが横行しているなんて、日本の政治は狂っているとしか言いようがありません。
(2015年4月刊。1400円+税)

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