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国際法学者がよむ尖閣問題

カテゴリー:社会

                              (霧山昴)
著者  松井 芳郎 、 出版  日本評論社
 尖閣諸島について、国際法学者が冷静に議論している本です。日本政府の間違いもきちんと指摘したうえで、中国側の主張に合理性のないことも明らかにされています。
 いずれにしても、「領土紛争」があることを認め、平和的に外交的措置で解決すべき問題です。武力による「紛争解決」だけは絶対に避けなければいけません。安倍首相の誤った姿勢は日本の平和を脅かし続けています。
 尖閣諸島は、中国では釣魚台群島などと呼ばれている。4つの無人島からなるが、そのいくつかには第二次大戦前、日本人が居住していた。
 尖閣諸島をめぐる紛争は1970年代初頭に発生したのであり、その前に中国政府が抗議の意思表明をしたことはない。
 尖閣諸島、釣魚台群島について、日本政府は中国とのあいだに「紛争」はないという見解をとっている。しかし、このような日本政府の主張を支持する国は皆無である。
 そりゃあ、そうでしょう。日本政府、とりわけ安倍首相の考えは出発点から間違っています。
 尖閣諸島についての日本の領土権は1895年にまでさかのぼるが、この日本の領土権をめぐる両国間の紛争が具体化したのは1970年前後の時点だった。すなわち、1895年ではなく、1971年が日中間の紛争が具体化した時点であり、したがって後者が本件紛争にとっての決定的期日である。領域紛争において、この決定的期日がいつであるかというのは、とりわけ重要である。
 1896年(明治29年)、沖縄県知事は尖閣諸島を八重山郡に編入し、国有地台帳に登載した。そして、うち4島を古賀辰四郎に30年のあいだ無料貸与した。そして、1932年に、その後継者である古賀善次に払い下げられた。
 アメリカ軍は、1955年から尖閣諸島のいくつかを射爆撃訓練のために使用しはじめたが、このとき、日本と合意書をかわしている。すなわち、これらの島について日本に主権があることを前提とした合意である。
 釣魚台群島は、石垣島と台湾の間にあるのではなく、石垣島と沖縄本島との間にある。
 井上清の主張は、中国の毛沢東に追従していた当時のものであり、客観的な根拠はない。日本側の主張は、1985年より前は尖閣諸島は無地主だったというものであり、それらが琉球に属していたと主張したことはない。
 中国は決定的期日である1971年まで、いかなる請求も提出していなかった。日本による実効的支配の行為は先占の要件を満たすのに十分なものだった。
 尖閣諸島に関する紛争において、日本は中国に対して権原の凝固の理論を主張できる。
 1895年の日本による領域編入以来、1971年の決定的期日に至るまで、日本は尖閣諸島に対して実効的支配を継続しており、それに対して中国側からは日本による領有に対していかなる抗議も対抗請求もなかった。したがって、日本による尖閣諸島についての「領域主権の継続的かつ平和的な表示」は否定できない。
 なるほど、なるほどと思いながら読みすすめました。あとはこのような領土的紛争を武力によらず、外交交渉や国際司法裁判所などを利用するなりして、平和的にじっくり腰を落ち着けて取り組むべきものです。拙速はいけません。
 安倍首相の間違った政策は危険きわまりなく、直ちにやめさせる必要があります。
(2014年12月刊。2200円+税)

憲法を守り活かす力はどこに

カテゴリー:司法

                               (霧山昴)
著者  宮下 和裕 、 出版  自治体研究社
 ながく自治体問題を研究してきた著者による、実践的な憲法論です。
 明治憲法よりも日本国憲法のほうが長生きしているという指摘には、ハッとさせられます。
 明治憲法(大日本帝国憲法)は、1890年(明治23年)11月29日から1947年(昭和22年)5月2日まで56年6ヶ月のあいだ、生きていた。ところが、日本国憲法は1947年5月3日から施行されて、もう68年も続いている。12年も長生きしていることになる。なぜ、現行憲法がこんなに長生きしているのか。それが問題です。
安倍首相のような改憲派は、古臭くなって、時代遅れになっていると罵倒しますが、本当でしょうか。
いったい、どこが古臭くなったというのか、安倍首相や桜井よし子は、具体的な批判はできません。なんとなく、古臭いというイメージをふりまいているだけです。
 日本国憲法が長生きしているのは、第一に、内容において人類の到達点を反映し、先取りしていたこと。第二に、日本国民の願いに合致していること。第三に、戦争で多大の被害をこうむったアジアの民衆の願いに合致していることが、理由としてあげられる。
 アメリカの法律学者も、日本の憲法が長生きしているのは、「65年も前に画期的な人権の先取りをした、とてもユニークな憲法」だからとしている。
 本当に、そうですよね。「押し付け憲法」というよりも、その内容が、当時も今も、時代の最先端を行く、画期的な先進的内容であることに日本人は誇りと自信をもっていいのです。
 著者は大牟田出身で、今は鳥栖市に住んでいます。大牟田には、99歳になる父親がヘルパーサポートのなかで一人住まいだというのです。これまた、すごいですよね。
 そして、小選挙区制の弊害をきびしく弾劾しています。
 投票率は、かつての70%台から53%へと急降下したなかで、自民党は小選挙区で8割近い議席を占めているものの、実は、その得票率は5割にもみたない。
 比例代表のほうでは、3割の得票率なのに、4割の議席を占めている。トップ一人だけ当選する小選挙区制は、単に大政党というより、第一党が極端に有利で、第一党を勝たせるための選挙と言ってよい。
 安倍政権は、「小選挙区制によってもたらされた虚構」の上に存在しているにすぎない。そのもろさを自覚しているからこそ、強行採決をくり返すのです。そんな安倍政権を許すわけにはいきません。著者の、今後のますますの健筆を心より期待します。
(2015年6月刊。1500円+税)

ハトはなぜ首を振って歩くのか

カテゴリー:生物

                               (霧山昴)
著者  藤田 祐樹 、 出版  岩波科学ライブラリー
 鳥の飛行ではなく、歩行を研究している学者がいるのです。驚きました。
 たしかに、ハトが地上を歩いているとき、異様なほど左右に首を振って歩いていますよね。でも、それがなぜなのかって、私ら一般人は考えに及びません。ところが、学者は、ほかの鳥類と比較しながら、その謎を解明していくのです。そこには、涙ぐましいウソのような努力と工夫があるのです。この本を読んで、そこあたりを理解しました。
ハトは歩行するが、スズメはホッピングする。スズメは歩行を基本的にしない。やればできるけれど、普通はやらない。
 ハトは歩きながら頭を静止している。ハトが歩くと、体はおおむね一定の速度で前進する。体が前進しているのに、頭を静止させるためには首を曲げて縮めなければならない。首をある程度まで縮めると、今度は首を一気に伸ばして頭を前進させる。この動作の繰り返しが、歩行時の首振りの実態なのである。
 景色が動くと、ハトは首を振る。ハトに対して景色が動くと、ハトは景色に対して頭を静止させようとして、首を動かす。これは、景色を目で追っているということ。
 ハトの視野は人間よりずっと広くて316度もある。真後ろ以外は、だいたい見える。その代わり、左右の視野の異なる部分が小さく、たった22度しかない。
鳥類の眼球は、頭の大きさに比べて非常に大きい。視覚情報をより正確に得るためには、眼球が大きいほうがよい。眼球が大きいとそれだけ網膜も大きくなり、視細胞を増やすことができる。眼球が動かないなら、首を動かせばいい。
 ハトの首振りは、視覚的な理由がある。鳥の目は横を向いているので、ハトが歩くと、景色は視軸に直交する向きに流れる。その景色を目で追う必要がある一方、鳥の眼球は大きく、形もやや扁平で、きょろきょろ動かしにくいから、頭を景色に対して静止させる。それが首振りである。
 首を振りながら歩く鳥たちは、みな歩きながら食物を探してついばむタイプの鳥たちだ。眼球運動が十分にできず、視軸が横を向いている鳥たちは、視覚のブレを軽減するために、よく動く首で頭の位置を調整している。それが首振りの一番大切だ。そして、首振りは、歩行の安定性を高めるタイミングで行われ、首を振る鳥たちは、歩幅が大きく回転数の少ない歩行をしている。歩きながら食べ物を探し、ついばむタイプの採食行動が首振り歩きと関係している。近距離の視覚情報をきちんと得る必要があるので、そのためには視覚のブレを少なくする必要がある。
 学者ってスゴイですね。仮説を立てて、それを観察データから実証していくのです。
(2015年6月刊。1200円+税)

葬送の仕事師たち

カテゴリー:社会

                               (霧山昴)
著者  井上 理律子 、 出版  新潮社
 人間の死にかかわることを仕事としている人たちの現場に出かけて取材した本です。その捨て身の現場取材のたくましさに圧倒されました。葬儀屋、遺体復元師、エンバーマー、火葬場で働く人々、そして現代的なお葬式のあり方を考える・・・。
 葬儀社への就職を目ざす2年制の専修学校があるのを初めて知りました。2年間の授業料は182万円(教材費は別)というのですから、安くはありません。
 今の日本のお葬式は昭和のはじめからのものなので、わずか90年の歴史しかない。
 その前は葬列があったし、参列者は白い喪服を着ていた。
 葬祭ディレクター技能審査(1級・2級)をパスした人が、全国に2万5千人いる。
 「村八分」のとき、許された「二分」は、火事と葬儀だった。
 エンバーミングは、アメリカで南北戦争(1861年~1865年)のとき、亡くなった兵士を遺体を遺族のもとに長距離搬送する必要があったことから始まった。今では、アメリカ、カナダで7割以上、ヨーロッパでも6割以上の遺体に施術されている。
 エンバーミングの費用は、搬送費をふくめて12万円ほど。
 葬儀業界の市場規模は、返礼品や運送・飲食費をふくめて1兆6千億円。
 お寺へのお布施は、地方だと20~30万円。東京では戒名代をふくめて60~70万円。
 エンバーミングの薬液は、防腐・殺菌・修復の三つの効果を狙っている。体の中のたんぱく質を固定し、まだつながっているアミノ酸の鎖の力を強める。
 日本で亡くなった外国人を母国に帰すためには、エンバーミングが必要なことが多い。日本には、3時間ルールがある。3時間内にエンバーミングを終えて、遺族に遺体を返すべしというルール。
 全国の火葬場は公設が95%。東京だけでは例外的に民営がある。
 欧米には、骨上げという習慣はない。遺族は2~3日後に、「灰」を受けとる。
 よくぞ、ここまで葬送の現場に踏み込んで調べあげたものだと驚嘆しました。
(2015年6月刊。1400円+税)

楽しく生きる

カテゴリー:人間

                              (霧山昴)
著者  藤野 高明 、 出版  かもがわ出版
 戦後まもなく、小学2年生の夏、弟と一緒に不発弾と知らず扱って遊んでいたとき、爆発して弟は即死、自分は両手と両眼を失ったのです。7歳でした。両手がなくては点字を読めないということで、盲学校にも入れなかったのです。20歳になるまでの13年間、何の教育も受けられませんでした。
 両手がなくても点字は読める。どうやって・・・?
 口、そう手の代わりに唇をつかって点字を読むのです。もちろん、すぐには読めませんでした。でも、慣れたら、唇で点字が読めるのです。といっても、手よりも遅いし疲れます。それでも藤野さんは読みました。ついに20歳で、大阪の盲学校に入学を認められました。
 福岡出身ですが、残念なことに福岡では拒否されました。大阪の盲学校では、福岡まで出張してきて面接し、入学が認められたのです。すごいことですね、よかったですね・・・。
 藤野さんは、20歳で盲学校の中学2年生に入り、それから猛勉強し、高等部を卒業して大学の通信教育部に入り、教員の資格をとって、今度は盲学校で教える側にまわりました。全国初めて、両手・両眼のない教師です。
 今、76歳になる藤野さんは生まれてきて良かった、生きてきて良かったと心から言えます。それは、この人生を楽しく感じられたからです。楽しさの源泉の第一は、人とのつながりにある。第二は、人生に目的ロマンをもつこと。第三に、好奇心とチャレンジ精神をもち続けること。
 藤野さんは、盲学校で30年間、社会科の教員をしてきました。主として世界史を担当しまいた。今でも、センター試験の世界史Bの問題を解いているそうです。
 そして、将棋を指すのも楽しみです。頭のなかに盤上の駒が鮮明に見えるのです。
 これまた、すごいことですよね。楽しみでやっているわけですが、やはり負けると、かなりくやしいそうです。
 大切なことは、見えることだけが人生じゃないということ。障害を受容する。あるがままの自分を受け入れて生きるのは、なかなか難しいけれど、とても大切なこと。
 人間らしく、しっかり生きる術を人間は持っている。一人でできなかったら、家族や友だちが助けてくれる。
 藤野さんは、障害者である前に、当然のことながら一人の市民であり、働き手であり、普通の人間なのです。
 藤野さんが18歳のころ、このころは盲学校にも行っていません。21歳になる看護実習生が、一冊の本をくれたのです。ハンセン病で苦しんだ人が唇で点字を読んだことも書かれている本(『命の初夜』)です。それから、藤野さんも唇で点字を読むようになったのでした。
点字を覚えることによって、新しい人生が開けてきたのを感じた。
 唇で点字を読むと疲れる。どんなにしっかり読んでも、1時間に30頁にもならない。
 唇で読むというのは、身体を倒して首を点字に沿わせるようにするから、肩がこり、首がこる。とても疲れてしまう。そして、唇で読むから、不特定多数の人の手を触れた図書館の本は、衛生上、読めない。
 両手先がなく、両目とも見えない藤野さんですが、将棋を指し、プロ野球を楽しみ、音楽に浸って、人生を大いに楽しんでいるのです。両目が見えているのに、社会の現実を見ようとしないなんて、実にもったいないことですよね・・・。
 本当に心あたたまる、いい本でした。ちょっと、このごろ疲れたなあ・・・、と思っているあなたに、おすすめの一冊です。いつのまにか元気が静かに湧いてきますよ。藤野さん、引き続き、お元気で、人生を楽しんでくださいね。
(2015年3月刊。1500円+税)

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