法律相談センター検索 弁護士検索

勝者なき戦争

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 イアン・J・ビッカートン   出版 大月書店
アベ内閣がすすめているのは、日本を再び戦争する国へつくり変えること。戦前の軍国主義ニッポンを美しい国だなどとごまかし、日本の若者を大義なき戦場へ駆り出そうとしています。この本は、戦争とはどういうものなのかを冷静に考えるうえで参考になる実例をたくさん提供しています。
戦争を始めることは、その目的達成を不可能にしてしまう、リスクの髙い行為である。
戦争における勝利は、それに見合った好ましい結果をうむことはなく、戦争の犠牲はあまりにも大きすぎる。
現実には、戦争による犠牲は、過去にも現在も、払うに見合う価値はない。戦争は、降伏式典や紙吹雪が舞うパレードによって終わることは決してない。
戦争とは、すべてが曖昧な混乱のなかで終わるものであり、獲得したものよりも失われたものを認めるほうが、はるかに容易だ。
戦争における勝利の笑顔は、偽りであり、それは仮面にほかならない。勝利の顔は、結局敗北の顔と同じく「死に顔」であり続ける。
陸軍大将、海軍提督そして空軍司令官は明らかに戦争での勝利から恩恵を受けてきた。名誉と称賛を得て、感謝する大衆や国民によって政治家としての道が開かれる。しかし、一般兵士のほうは、恥や不名誉を感じることはあったとしても、報酬を受けることはめったにない。
戦争は国家を破綻させるか、あるいは経済的苦境を生み出し、大部分の人々を悲惨な状況に追いやる。
戦場での勝利が、持続的な恒久的な平和に導くことはない。戦場での勝利は、戦闘の短期的停止という、わずかな政治的機会を勝利者に与えるにすぎない。戦場で勝敗を決した戦争は、これまで存在していない。
戦争においては、「純粋に」軍事的な勝利という結果は存在しない。
戦争のもたらす結果とは、殺戮と破壊にほかならない。戦時においては、何千、何万、何百万もの人々が、戦闘員か非戦闘員であるかを問わず、殺害され、傷つかられ、暴行される。無数の家々や村、町、都市が破壊され、農業や産業基盤が大損害を受ける。戦勝が卑しむべく独裁者を排除するために戦われることは、まったくない。
戦争は、より一般的には領土的、経済的膨脹という欲望を偽装するイデオロギー上の理由のために戦われる。
戦争は、指導層の少数集団によって計画的な計画的になされた決定による結果である。恐怖、名誉、利害という三つの要素に駆り立てられた結果である。すべての戦争は、地位、栄誉、称賛の計算を含んでいる。
戦争は、想像力の欠如であり、戦うために召集された人々の生命を恐ろしいくらいに軽視する。
戦争をヒロヒト個人の責任にしてしまえば、あまりにも単純化してしまう。
戦争を個人の責任に帰すると、戦争を過度に単純化することになる。
戦争によって失われた生命は、ほとんど省みられることはない。
勝敗にかかわらず、戦争は戦争当事国の社会に十分な民主主義的な経験を提供しない。
庶民にとって戦争はまったく割りの合わないものだと言うことが分かりやすく解明されています。
(2015年5月刊。3600円+税)

鏡映反転

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 高野 陽太郎   出版 岩波書店
 
鏡に映ると左右が反対に見える。なぜか、、、。上下は反対にならないのに、なぜ左右だけが反対に見えるのか?
あまりにもあたりまえの現象なので今さら、なぜと問われても、、、。
実は、これって昔から難問であり続け、今も正解の定説がない。ええーっ、そ、そうなの、、、。
鏡映反転は、じつは、「左右が反対に見える」という単純な現象ではなく、かなり複雑な現象なのである。
鏡映反転というのは、物理の問題ではなく、認知の問題である。すなわち、鏡のなかでは、物理的には左右が反転しないにもかかわらず、人間が左右反転を認知するのはなぜかという問題である。
この難問を説明すべく、昔からいろんな仮説が提唱されてきたが今なお、定説というものはない。うひゃあ、そうなんですか、、、。
著者は、その説明のために「多重プロセス理論」を提唱する。これは、鏡映反転は、ひとつの現象ではなく、複数の現象の集まりだとする。視直反転、表象反転、光学反転の三つから成る。
文字の鏡映反転はすべての人が認知するのに対して、自分自身の鏡映反転は2~3割の人が認知しない。つまり、この二つの反転は、別の原理で生じている、別の現象なのである。
多重プロセス理論によれば、人体の鏡映反転を生み出しているのは、視点変換と光学変換である。したがって視点変換をする人は、鏡映反転を認知し、視点変換をしない人は、鏡映反転を否認する。
鏡映反転は、見かけとは裏腹に、非常に複雑な現象である。
うむむ、なんと、そういうことなんですか、、、。鏡の前に立って、左右あべこべに見えてるのに解けない謎があるなんて、考えたこともありませんでした。
その謎を解明しようとする本ですが、やや私にとっては高度すぎる内容ではありました。
(2015年7月刊。2700円+税)
 

常識外の一手

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 谷川 浩司   出版 新潮新書
 
定跡(じょうせき)。定跡を指しているだけでは、プロ棋士の世界で勝ち抜くことは出来ない。また、最新の棋譜を追いかけて研究しているだけでも勝てない。
なぜか、、、?
本筋しか指せない人は一流にはなれない。つまり、定跡、常識に沿っているだけでは、プロの中で頭角をあらわすことはできない。本筋をわきまえたうえで、さらに「常識外の一手」を指せるかどうか、ここが重要だ。
どれだけの選択肢があるか、、、。オセロは10の60乗。チェスは10の120乗。将棋は10の220乗。そして囲碁はなんと10の360乗。
正しく先を読むためには、直観こそが重要。日々、研究にいそしんでいるのも、実戦で正しくこの直観が働くようにするため。多くの可能性があっても、その9割以上は直観で捨てて、残りの1割をより掘り下げて検討している。
直観を養うために必要なのは、知識、経験、個性、そして流れ。
初心者と達人は紙一重。深い修練の先にこそ「常識外の一手」がある。
コンピュータと対局するときには、事前に長い時間をかけて、コンピュータの指し手を研究しなくては勝利を望むことはできない。
若いころは、一直線の手順は詰めても、手広く読むことができない。逆に年齢が上がると先まで読む力は落ちるが、経験によって大局観が鍛えられて、深く読めない代わりに広く手を読むことができる。若いころは「狭く深く」、年齢を重ねるほど「浅く広く」考えるようになる。
勝負にかかわる環境や条件をすべて味方につけて、自分の力を最大限に発揮できるのが本物の勝負師といえる。
プロ棋士であれば、自分の感情をうまくコントロールできるのは当然として、勝負事では相手を威圧するような迫力も大切である。
気合十分の棋士は全身から闘志があふれ出るように感じられる。
プロ棋士のすごさを知ることのできる新書でした。
(2015年6月刊。700円+税)

太陽の草原を駆けぬけて

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ウーリー・オルレブ   出版 岩波書店 
ユダヤ系ポーランド人の子どもが厳しい環境のなかで生きのびていった話です。
1936年生まれですから、ナチス・ドイツがポーランドに侵入してきたときは5歳。そして、ユダヤ人の両親とともに、ソ連の東方へ逃げます。落ち着いた先は、はるか彼方のカザフスタン。キルギスにほど近いジャンブールの郊外です。
きびしい自然環境のなか、快活で知恵のまわる少年らしく、地元の子どもたちとまじわって遊ぶようになり、牛糞を燃料にするやり方、そこで小鳥(カッコウ)を取って料理するやり方、そして凍った湖で魚をとるやり方などを身につけて、母親や姉たちを心配させながらも肉などを持ち帰っては喜ばれるのでした。
そのありさまが実に詳しく生き生きと描かれていて、『二つの名前をもつ少年』のように一人で森で生きるよりは、母親や姉たちとともり一家で住めるだけ救いもある話です。
しかも、音楽の教師をしていた母親は、お祝いの席でバラライカを演奏してお礼として食料をもらったりするのです。まさに芸は身を助ける、というものです。
ユダヤ人の父親は共産主義者であり、スターリンを崇拝していました。ですから、ナチス・ドイツの侵攻を予期していなかったし、すぐに撃退してくれると思っていたのです。ところが、敗退に次ぐ敗退。
そして、ついにはスターリンの粛清にあって父親は生命を落とすのでした。母親は新しい伴侶を見つけますが、主人公の男の子は、それが不満です。
そして、一家は、戦後、ついにイスラエルへ移住するのでした。
冒険話が面白くて、ついつい引き込まれ、一心に読みふけってしまいました。
(2014年12月刊。1700円+税)
 

新・自衛隊論

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  自衛隊を活かす会 、 出版  講談社現代新書
 自公政権のゴリ押しで安保法制法が「成立」しました。憲法違反の法律は無効なわけですが、アベ政権は来年にもアフリカ(スーダン)へ自衛隊を派遣しそうです。
政府があるのか分からないような国、コトバも通じない国へ、アメリカの言いなりになって自衛隊を派遣したら、しかも今度は民生支援ではありませんから、「戦死者」が続出するのは必至です。
「日本の平和のための抑止力」なんて、とんでもありません。アベ首相の嘘によって日本人が殺される(現地の人を殺す)なんて、本当にとんでもない事態が生まれようとしています。
 この本は、11人の元幹部自衛官と安全保障論の専門家が日本の国を本当に守るためにはどうしたらよいのかを論じています。説得力があります。
いま守るべきなのは、ながく大切に守ってきた「非戦のブランド」だという点には、私もまったく同感です。
今のアメリカと中国の関係は、最大の貿易相手国、投資の対象国、国債保有国というものです。
 今朝(9月23日)の新聞には、アメリカのカリフォルニア州の高層ビルや豪邸を、中国人が次々に買収し、建築しているという記事がありました。豪邸のほうは平均1億円、それを中国人が即金(現金)で買うというのです。恐るべき状況です。
 ですから、アメリカも中国も、お互いに戦争するなんてことはまったく考えていないし、ありえないのです。日本人だけが、アベ政権のあおりたてる「中国脅威論」を素直に信じ込まされてます。
 日本の安全には、アメリカだけでなく中国の関与が欠かせない。中国の安全にも、日本やアメリカの関与が欠かせない。国の安全は、政治体制の違いを超えて、一国だけで成り立つものではなくなっている。
 北朝鮮は、たしかに危険だ。たいした力は持っていないが、追い詰めると何をするか分からない。追い詰められたときに怖いのは、核ミサイルと十何万人の特殊部隊。日本の原発が特殊部隊のテロ攻撃・自爆攻撃にやっれてしまったら、日本はもの破滅です。それは防ぎようのないことです。
日本が北朝鮮の敵基地を攻撃するなんて、口で言うのは簡単だけど、実際には不可能。そもそも敵の基地がどこにあるのか、日本の自衛隊はまったく把握していない。敵の基地は動きまわるし、地下にあるから把握しようがない。
海外で抑留された日本人の救出作業を自衛隊がするといっても不可能なこと。アメリカ軍のスペシャルフォールに出来ないことが、日本の自衛隊に出来るはずがない。アメリカ軍の救出作戦はこれまで一度も成功したことがない。日本の自衛隊には情報がなく、情報収集手段がなく、訓練もしていない。訓練していないことが出来るはずはない。
 中国の指導部にとっては、国内社会が不安定化することこそ、もっとも恐ろしいこと。
 中国には空母が一隻しかないが、それはロシアから購入した中古船であり、動いているのが奇跡というような艦船。発着艦訓練もできておらず、まったく実戦用ではない。
 日本の陸上自衛隊は、用意周到動脈硬化。海上自衛隊は、伝統墨守唯我独尊。
 航空自衛隊は、勇猛果敢支離滅裂。
 日本は国土全体を守るのがとても困難であり、また長期にわたる消耗戦にはまったく向かない地政学的特徴がある。だから、日本にとって大切なことは、紛争を未然に防ぎ、万一、紛争が起きたときには、それをできるだけ局地的なものに限定しつつ、早期に収拾すること。
 日本と世界の平和を武力によって守ろうとか、抑止力を強めて日本を守るなどというのが、まったくの夢物語であり、危険なものだということがよく分かる本です。
 ぜひ、あなたもご一読ください。
(2015年6月刊。900円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.