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小泉今日子・書評集

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 小泉今日子  、 出版  中央公論新社
  歌手であり、女優としても有名な著者の10年分の書評が本になりました。
  キョンキョンというそうですが、テレビを見ない私には、どんな女性なのか全然知りません。
  「あまちゃん」に母親役で出演していたそうですね。
  でも、この書評はよく出来ていると感嘆しました。文章が生きています。思わず手にとって書評で紹介されている本を読んでみたいと思わせます。そして、著者の息づかいとともに著者の日常生活の一端が伝わってきます。そして、それによって著者を身近に感じることが出来て、親しみを感じるのです。
  紹介されている97冊のうち、私が読んだと思った本は9冊しかありませんでした。
  私は毎年500冊以上の本を読んでいますので、10年間だと5000冊になります。そして、10年以上にわたって1日1冊の書評を書いていますが、それでもわずか1割しか本が重ならないのですね。これは、ホント不思議な気がしました。でも、読書傾向が異なると、そうなるのでしょうね。
  私は、知りたいから読むという感じが強いのです。何を知りたいのかというと、世の中の仕組み、そして人間なのです。まだまだ探求の旅は続きます。
  本を一冊読み終えると心の中の森がむくむくと豊かになるような感覚がある。その森をもっと豊かにしたくて、知らない言葉や漢字を辞書で調べてノートに書き移した。
  本を読めば勉強になるし、頭の中のことではあるけれど、どこにでも行くことができる。未来でも過去でも、ここにはない世界にでも。ただ文字が並んでいるだけなのに、不思議だなって思う。
  同じ日本語を使っているのに、作家ごとに全然違う世界がつくられているというのもすごいこと。
  家から一歩もでなくても、宇宙でもどこにでも行ける。そして、本を読みながら、自分のこと、誰かのことを考える。それが自分にとって大事だった。
  小説はタイムマシーンだ。ページをめくれば、どこにでも、どの時代にも旅することができる。とても贅沢で、かけがえのない時間が、そこにある。
  本は、心を豊かにしてくれます。そして、そんな本を紹介してくれる書評の本です。
  私も、この書評コーナーを2001年から始めました。
(2015年11月刊。1400円+税)

江戸の経済事件簿

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者  赤坂 治績 、 出版  集英社新書
 2百数十年におよぶ江戸時代を経済の観点でふり返っています。
 江戸時代を通じて、元禄時代は、衣類がもっとも華やかな時期だった。今、着物と言われている衣服が完成したのも、この時期で、当時は小袖(こそで)と言った。
 木綿は、江戸時代のごく初期に庶民の着物の素材となった。木綿の生産地として、とくに有名だったのが、伊勢・松坂。木綿の確保が容易だった伊勢商人が江戸に進出し、次第に多数を占めるようになった。染めていない白木綿は武士と庶民に共通する肌着として使われ、染めた縞木綿は庶民の上着として使われた。
 秀吉時代の南蛮貿易の主要な輸入品は、中国・朝鮮の生糸と絹織物だった。
18世紀前半の享保(将軍・吉宗)期までは、大坂を中心とする上方が日本経済の中心地だった。歌舞伎など、芸能の興行には課税されなかった。芸能人は「河原者」と呼ばれて差別されていて、人間扱いしなかった者から税金をとるわけにはいかなかった。
 18世紀(1720年ころ)、芝居が大ヒットし、役者は年間1000両の給金と夏休みをもらった。そこから「千両役者」という言葉が生まれた。
 落語のほうは、料金は安く、下層庶民の娯楽だった。
井原西鶴は「日本永代蔵」で自らの創意工夫で銀玉百貫目を貯めた人を分限と呼び、千貫目を貯めた人を長者というとしている。
 江戸時代初期は、衣料革命の時代だった。庶民も木綿の着物を着るようになった時期に、越後屋は呉服店を開店した。越後屋は、売掛けのリスク分と、店員が外へ出かけなくてもよくなった分、商品の値段を下げることができた。
 江戸時代は、庶民が派手な色の着物を着ることが禁止されていた。そのため、茶色、ネズミ色、あい(藍)色系統の色など、地味な色を使いながら、微妙に色調を変えて、さまざまないバリエーションの色の着物を編み出した。
 これを知れば、江戸の時代を暗黒の200年とみることなんて許されませんよね・・・。
(2015年9月刊。740円+税)

「刑務所」で盲導犬を育てる

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者  大塚敦子 、 出版  岩波ジュニア新書
  とても素晴らしい取り組みだと思いました。「刑務所」で収容者が盲導犬を育てるというのです。
  子犬が産まれてから盲導犬になるまで2年もかかる。子犬は生後2ヶ月までは母犬のそばで兄弟と一緒に育つ。そして、その後の10か月間を「パーピーウォーカー」と呼ばれるボランティア家庭に預けられ、人の愛情をりっぱに受けて育つ。1歳になると、盲導犬訓練センターに送られ、6ヶ月から1年ほど、プロの訓練士による本格的な訓練を受ける。そして、次に視覚障害者との共同訓練をして、2歳で盲導犬デビューをする。と言っても、実際に盲導犬になるのは3~4割ほど。
  パピーウォーカーのものとで育つ10ヶ月間は、盲導犬になるための「社会化」をする非常に重要な時期。「社会化」とは、人間や人間の暮らす環境に慣らし、人間社会で生きていける犬に育てるということ。
  盲導犬になるためには、愛情を注いでくれる人のもとで、規則正しい生活リズムを身につけ、人混みや駅、電車や車、雨や雪など、さまざまな状況を経験し、人間社会に暮らすためのルールを学ぶ必要がある。何より肝心なのは、その過程で人間に対する信頼を築くこと、人間のために働くのが楽しいと思えるような犬を育てることが、パピーウォーカーのもっとも重要な仕事だ。
  島根あさひ社会復帰促進センターは、日本で4番目の「PFI刑務所」。ほかには山口県の美称、兵庫県の播磨、栃木県の喜連川にある。PFI刑務所は民営刑務所ではない。民間の資金とノウハウを活用して、施設の建設、維持管理・運営をおこなう刑務所。公権力の行使は国の責任。民間は、受刑者の給食、清掃、警備、受付などを担当する。
  日本の刑務所の収容者は2万3千人ほど。男性のほうは定員オーバーの過剰収容状態は解消された。男性は2007年(H19)より減少傾向にある。ところが、女性の収容者は増え続けていて、20年前の3倍にもなっている。
  PFI刑務所では、全員が職業訓練を受けられる。
  国が負担する受刑者1人当たりの費用は、年間250~300万円。
  刑務所で盲導犬を育てるという試みは、アメリカで始まり、成功したといいます。
  犬を訓練するうちに、人間への不信や怒りに満ちていた受刑者たちが、再び人間を信じる心を取り戻していった。人を傷つけただけでなく、みずからも深く傷ついた受刑者たちが、命あるものをケアし、誰かの役に立つ経験をすることで、自分自身を肯定し、他人をも尊重できるようになっていった。
  心温まる本です。犬派の私には涙がこぼれそうなほど、うれしい本でもありました。
(2015年2月刊。840円+税)

医系技官がみたフランスのエリート教育

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者  入江芙美 、 出版  NTT出版
  九大医学部を卒業したあと、医師として活動するのではなく厚生労働省に入り、フランスに留学します。留学先はフランスのエリート養成機関であるENA(国立行政学院)です。
  日本の官僚は、毎年100人が2年間の海外留学に出かけます。私は、これはとてもいい仕組みだと思うのですが、残念なことに、その行く先80%がアメリカです。いつも戦争ばかりしているアメリカに日本の官僚が行っても、ろくなことを学んでこないように思います。そして15%がイギリスです。残る5%をフランスやカナダの国に行く。
  私は、もっとヨーロッパ各国に日本の官僚は行って学んでくるべきだと思います。とくにスカンジナビア三国なんて、必須ではないでしょうか・・・。
  フランス語を学んでいた著者は迷わずフランスを選択して出かけました。フランスと日本の一番の大きな共通項は、世界トップクラスの医療制度。いま、これを自民・公明の安倍政権が少しずつ壊しています。とんでもないことです。国民皆保険は、日本が豊かで安全・平和な国であるための前提条件です。アメリカは、これがなかなか実現できません。国民皆保険を提唱すると「アカ」呼ばわりされるとのこと。時代錯誤としか思えません。
  ENAは、フランスのグランゼコールというエリート校。グランゼコールの教育目標は、国のために働く優秀な人材を育てること。そこでは実践的な問題解決能力を養うことに重点が置かれている。
  ENAの創立は戦後の1945年10月。その卒業生には、オランド大統領をはじめ、ジスカール・デスタンやシラク元大統領、ジュペ・ジョスパン、ヴ・ヴィルパン元首相などがいる。
  ENAの学生には、給料が支給されている。ENAの授業料は無料。給料をもらうくらいですから、当然です。
  ENAの受験生の8割はシアンスポ(パリ政治学院)出身者。
ENAの卒業生は、卒業して10年間は行政で働く義務が課せられている。これは、民間への流出を防ぐための措置。
  ENAには外国人学生も多く、3分の1を占める。アフリカ出身も多い。逆に、アメリカやイギリスの学生は入っていない。
  
  今は違いますけれど、私も40年以上前の司法修習生のときには授業料がいらず、給料をもらっていました。これが廃止されたのは政策として、まったく間違っています。今では、借金して司法修習するしかありません。一刻も早く給費制を復活したいものです。
  ENAで鍛えられたのは、① 文書作成能力、②コミュニケーション能力、③交渉力、④国際性と幅広い視野、⑤人間力すなわち忍耐力や環境への適応力。
  なるほど、これらは必要な能力ですよね。
  ENA在学中の成績順に卒業時に入省先を選ぶ。これって、能力主義のフランスらしいやり方です。人気の高いポストは、国務院や会計院の監査官、財務監査官。
  フランスの試験はエンピツはダメで、万年筆かボールペン。なぜか?エンピツだと採点する試験官が改ざんできるから。
  ENAの女子学生は3割ほど。女性会社進出では、フランスはヨーッロッパのなかで後進国。ENAはパリではなく、ストラスブールにある。
  フランスの医師は1970年に6万人だったのが、年々増加し、2014年には22万人。人口10万人当たり330人。これは日本の240人を大きく上回っている。
  フランスでも医療の偏在は深刻。南高北低。年中、太陽の光が降り注ぐ地中海沿岸にすみたいというのがフランス人の一般的な願望。
  ENAでフランス人と対等にわたりあった日本人女性です。何年やってもうまくフランス語を話せない私からすると、うらやましい限りとしか言いようがありません。
 
             (2015年9月刊。2800円+税)

遺骨

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者  栗原俊雄 、 出版  岩波新書
  アベ首相とその取り巻き連中は靖国神社の参拝には執着していますが、遠く異国の地で埋もれてしまったままの旧日本軍の将兵の遺骨の回収には冷淡そのものです。
  それこそ自己責任理論を持ち出すのでしょうか・・・。許せません。
  そして、東京大空襲を仕掛けたアメリカ空軍の責任者に対して、なんとなんと勲一等というとんでもない勲章をうやうやしく授与したものです。大虐殺された被害者側が加害者の親玉に感謝の勲章を送るなんて、前代未聞ではないでしょうか・・・。このカーチス・ルメイ将軍は、ベトナム戦争のとき、ベトナム北爆を指揮し、北ベトナムを原始生活の国に戻してやると嘘ぶいた札つきの軍人なのです。日本の権力ってどうして、こんなにアメリカに卑屈になるのでしょうか、信じられません。それでいて「美しき日本」を取り戻せなんてカラ叫びをするのですからね・・・。
  硫黄島の戦いによる日本軍の戦死者は2万人、生き残ったのはわずか1000人。アメリカ軍は戦死者6821人、戦傷者2万1000人。地上戦で、アメリカ軍の犠牲者が日本軍を上まわった珍しい例。硫黄島には、今もなお1万人柱以上の遺骨が残っている。今も、ほそぼそと遺骨回収作業が続けられている。
  沖縄本島にも、回収されていない遺骨がある。モノレールの「おもろまち駅」のところは、「シュガーローフヒル」と呼ばれた激戦地跡だ。1週間も戦闘が続き、アメリカ軍の死傷者だけで2662人にのぼった。日本軍の死傷者は不明のまま。ここも、掘れば、今も人骨が出てくる。
  戦前・戦後ずっとずっと戦争してきたアメリカは、戦死者の遺体・遺骨はすべてアメリカ本国に帰還させることを原則としている。それはそれで立派な原則ですよね・・・。
  戦争しない、平和な日本で今日まで来た日本も、アベ政権の下で戦争する国・ニッポンへつくり変えられようとしています。そして、その危険性が今なおピンと来ていない日本人が少なくありません。それこそ「平和ボケ」していて、努力しなくても平和でいられるものと錯覚しているようです。
「抑止力」に名をかりて日本の自衛隊が戦争しかけに海外へ出かけて行ったら、戦場で戦死者が出るだけでなく、国内でもテロ攻撃の被害者が続出することになるでしょう。絶対にそんなことにならないよう、今、声を上げるべきです。
  2011年度の海外戦没者の遺骨収集の予算は15億円。帰還した遺骨はわずか1500柱ほど。自衛隊の戦車一両が10億円というのですから、あまりにも少なすぎます。せめて戦車を減らしてでも遺骨収集にお金をまわすべきでしょう。
  いったい、この狭い日本に戦車なんか持っていて、誰と戦うというのでしょうか・・・。馬鹿げています。
(2015年5月刊。740円+税)

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