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久保利英明、ロースクール講義

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 久保利 英明 、 出版  日経BP社
 「債権者集会って、面白くないよね」
 「そんなことはないさ。債権者集会は宝の山なんだぜ」
 「えっ、どうして?」
 「だって、債権者集会に来る債権者は、今日は債権者だけど、いつ債務者になるか分らない零細企業なんだ。だから、倒産した企業の代理人となった弁護士がどれくらい頼り甲斐があるか、よく見ている。ビシッと債権者集会を仕切っていたら、自分が倒れたときには、この弁護士に頼もうっていう気になる」
 「なるほど、債権者集会は弁護士にとって依頼者獲得の場でもあるんだね・・・」
 「そう、そのとおり」
 このやりとりは、私も、なるほどと思いました。
 良い準備書面とは、司法修習所で評価される模範答案とは違う。何のために準備書面を書くのか。自己満足のためでなく、依頼者のためでもなく、相手方をやっつけるためでもない。裁判官に、そうか、この事件は、こういう話なのかと、思わず膝を叩いてしまうような書面を書かなければいけない。
話を聞くときは、まずは依頼者の立場に立って、どうしてこういう経緯になったのか、それぞれの時点で依頼者はどういうことを考えてこうしたのか、といった動機や理由を理解してあげることが必要だ。そのうえで、疑問に思ったところをきちんと正面から尋ねて理由を解明していく。そのとき、決して依頼者を責めないこと。
訴訟の見通しを説明するときは、「現時点の情報によれば」と、その時点で得ている情報にもとづく見通しであることを明確にしておく。
 腕のいい弁護士は、よく負ける。勝率の高い弁護士は、負けようのない種類の仕事を数多くこなしているだけのことが多い。勝率の高い弁護士を目ざしても意味はない。
 裁判期日の報告は、きちんと書面で作成して依頼者に渡すのが良い。信頼関係を生む始まりだ。
 予想外の判決をもらうことは弁護士生活30年になってもある。ホント、そうなんですよね。裁判官次第で、判決の勝ち負けが決まる。そのとき、必ずしも論理と事実によらず、好き嫌いの感情論が隠れたベースになっていることが少なくない。
 おそらく先に結論を決め、どの論点でその結論を導くかを決め、それにあわせて事実認定しているのではないかとしか思えない判決文がある。本当に、私も何度となく実感させられました。
人生を元気に、やり甲斐をもって生きることが幸せなのだ。自主性と、能力、そして人間関係が大切だ。
弁護士にとって一番大切なことは、依頼者を、事務所に入ってきたときよりも、事務所のドアを開けて出ていくときのほうが元気にして帰すこと。
これらの指摘(岡田和樹弁護士)に、私もまったく同感です。
 全力では仕事をしない。ふだんから「ゆとり時間」のない状態で、いつも全力疾走していたら、緊急事態に対応できない。つまり自由になる時間をもっておくこと。
 自分のもらう給料の3倍は稼がないと、独立した職業人とは言えない。
 病気するのは、日頃の生活態度にゆるみがあるから。弁護士が風邪をひいて休むなんて、恥ずかしいことともうべき。病気にならないよう、仕事と生活を適切に管理し、定期的な運動や休息をとる。
久保利弁護士には、先日、福岡で講演していただきましたが、そのきっかけがこの書評コーナーによる本の紹介だったと聞きました。うれしいことです。先輩弁護士の培った貴重なノウハウをきちんと受け継ぎ、次に伝達していきたいものです。
 
(2016年8月刊。1800円+税)

外来種は本当に悪者か?

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者  フレッド・ピアス 、 出版  草思社
何が外来種なのか、そう簡単な話ではないということを、この本を読んで知りました。
自然はたえず流動しており、不変の生態系など、ほとんど存在しない。どこに生息しようと、そこは仮の宿でしかなく、あらゆる生態系はたえず変化していて、地質学的な偶発現象の犠牲になる生き物も多々ある。
セイヨウミツバチを、ほとんどのアメリカ人は在来種と信じている。しかし、イギリス人が17世紀にアメリカに巣箱を持ち込んだもの。つまり、意外にも外来種なのである。
スノードロップは我が家の庭にも春に咲いてくれます。これがイギリスの花かと思っていると、16世紀にフランスのブルターニュ地方から園芸植物として入ってきて、すぐに野生化したものなのだ。
熱帯には手つかずの自然がそのまま残っているというのは神話でしかない。実は、どんなに深い密林にも、数千年前から人間の手が入っていた。手つかずの自然というより、放棄された農園なのだ。昔、熱帯雨林でも、偉大な文明が繁栄していた。
自然はぜったいに後戻りしない。前進するのみ。たえず更新される自然に、外来種はいち早く乗り込み、定着する。
外来種の侵入は人間にとって不都合なこともあるが、自然はそうやって再野生化を進行させている。それが、ニュー・ワイルドということなのだ。
私たちの素朴な思い込みは、案外まちがっているということのようです。
たとえば、ひところセイタカアワダチソウが危険な外来種として日本全国で話題となり、躍起になって、その絶滅を目ざしていましたよね。ところが、今では、ほそぼそと生き残るだけで、かつての勢いはどこにも認められません。それは、ひところの絶滅運動の成果ではなく、自滅システムが作用したからのようです。
先日、わが家の庭に固くなった古パンをまいていると、真っ先に見つけてやってきたカササギを三羽の黒光りのする太いカラスが追い払ってしまいました。このカササギは朝鮮半島からの外来種とされていますよね。ところが、ヨーロッパに行くと、列車の車窓から田んぼにカササギを普通によく見かけます。自然って、偶然と必然が交互に起きるものでもあるのですね・・・。
(2016年8月刊。1800円+税)

受難

カテゴリー:朝鮮・韓国

(霧山昴)
著者  帚木 蓬生 、 出版  角川書店
済州島に行くフェリーが沈没し、修学旅行のために乗船していた韓国の高校生が300人も亡くなった、世にも悲惨な事件は、私にも忘れることが出来ません。本当にひどい話でした。
この本は、その実話を取り込んだ小説です。事件の背景がよく分かる展開です。
沈没してしまった船は、もとは日本の船でした。それを韓国の船会社が買って大改造したのです。乗客を積め込めるだけ積め込む利潤本位でしたから、安全性は完全に無視。問題は、それを見逃した当局の監視体制の甘さです。
そして、事故が起きたときの対処にも問題がありました。なにしろ、船長たち幹部船員が真っ先に船から脱出し、高校生たち乗客には、じっとして動くなという船内放送を繰り返して、脱出のチャンスを奪ったのでした。こんなひどい話はありません。
ところが、船員は船長以下、ほとんど非正規社員だったというのです。愛船精神が生まれる余裕なんて、なかったようです。となると、オーナーと海運当局、そして救難体制の不備が問題となります。
それはともかく、300人もの前途有為な高校生をいちどに失った親族の悲しみはなんとも言えない深さです。国家的損失でもあります。本当に思い出すだけで悲しい、悔しい話です。
この本は、この事故で水死した少女が細胞再生技術によってよみがえる話を中心にして進行していきます。やや出来すぎという感を受けましたが、それも小説だから許せます。
日本だって、安全第一のはずの原発で大事故が起きたのに、今なお原発の安全神話にしがみつき、金もうけしか念頭にない電力会社と政治屋の一群がいます。それには、本当に許せない思いです。
それにしても、人間の再生技術って、簡単なことではないでしょうが、それは是非やめてほしいと思いました。人間が人間ではなくなりますから・・・。
(2016年6月刊。1800円+税)

江戸のパスポート

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者  柴田 純 、 出版  吉川弘文館
江戸時代、旅行している旅人が病気になったり、お金がなくなったとき、病人の郷里まで安全に送り届ける仕組みがあったというのです。
56歳の女性が旅の途中で仲間とはぐれて一人旅になってしまったあと、足を痛め、所持金も乏しくなったので、保護願いを出したら、村役人が郷里まで無事にリレー式で引き継いで届けてくれた。
保護から送り出しまでの過程がシステム化していた。旅の途中で困難にあい、しかも所持金がなくても、往来手形さえ携帯していれば、何とか国元まで送ってもらえた。このように十分な旅費をもたない旅人が、途中で野垂れ死にを心配せず、旅に出る条件が生まれていた。
往来手形を発行してもらえる人々にとっては、パスポート体制は福音だった。他方、往来手形を発行してもらえない無宿(むしゅく。無国籍の人々)は、パスポート体制から完全に除外されていた。
江戸時代の庶民の旅は、元禄時代、つまり17世紀末から18世紀初めから増えはじめ、18世紀後半から急増し、19世紀前半にピークを迎えた。旅行難民対策が整備され、旅行難民救済システム体制が日本列島全体で機能しはじめたので、19世紀前半のピークを迎えたのだ。
加賀藩は、歩行できなくなった旅人に対して、本人が希望すれば、馬や駕籠を使い、足軽を差し添え、「宿送り」を続けていた。ただし、全国どこの藩でもそうだったというのではない。このように旅行難民対策は、諸藩がそれぞれ異なった対応をとっていた。
19世紀前半のころ、田辺城下には、少なくとも年間10万人ほどの順礼が宿泊していた。うひゃあ、これって、すごく多人数ですよね・・・。
日本の往来手形に保護救済規定が入ったのは、往来手形が領主の側からではなく、民衆の救済慣行をもとにして、自律的に形成されたものであるからと考えられる。
江戸時代の日本人は、現代日本人と同じく、旅行が大好きだったようです。女性の一人旅も珍しくなかったというのですから、まさしく平和の国、ニッポンならでは、ですよね。
そして伊勢参りやら、「ええじゃないか」の大群衆など、旅行好き日本人の面目躍如だったのですね。江戸時代の世相を知ることのできる本です。
(2016年9月刊。1800円+税)

バーニー・サンダース自伝

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 バーニー・サンダース 、 出版  大月書店
 思わず涙が出てくるほど感動しました。大学生時代の初心を、こうやって今なお貫いていること、そしてそれが多くの心あるアメリカ市民に支持されていること、それを知って私の心まで熱く震えてしまいました。すごい人です。
 バーニー・サンダースはアメリカで民主党の大統領候補にあと一歩というところまで迫りました。ヒラリー・クリントンが金持ち階級の代弁者だとして人気がないことにも助けられたのでしょう。でも、バーニー・サンダースの主張は、アメリカの多くの若者の心をがっしりつかんだのです。ここに私は、アメリカの未来があると思いました。
 バーニー・サンダースは社会主義者を名乗り、一貫して無所属だった。大統領選挙に向けてだけ民主党員になった。
 今のアメリカには貧困層と弱者を代表する主要政党がない。そして、貧困層を叩くことは、今や「上手な政治」だ。
「この国の貧困層は、母豚の乳を吸う大きな子豚だ。彼らは、この国のもたらす便益をみんなもっていってしまう。いつも人を食い物にしているんだ」
アメリカでも日本でも、保守反動の政治家は貧困層を叩いて、中間層の喝采を得ています。自らは金力も権力もある自民党の政治家が、ことあるごとに生活保護受給者を目の敵にして、ぜいたくな生活をしているかのように叩いています。そして、その尻馬に乗る、決してリッチではない中間層がいます。悲しい現実です。
 アメリカの現在の主たる危機は、失業ではなく、労働者階級の賃金が急送に低下していること。失業率が高いことは問題だが、それよりさらに深刻なのは、アメリカの労働者の実質賃金が過去20年間に16%も低下したこと。
 これは、日本も同じですよね。アベ政権下で、労働者の賃金が低下する一方なので、消費・購買力が低下しているため、日本の経営回復の目途がいつまでたってもたちません。アベノミクスの失敗は明らかです。
バーニー・サンダースは、シカゴ大学の学生のとき、人種平等会議、学生平和連合、青年社会主義者同盟の一員だった。図書館では、マルクス、エンゲルス、レーニン、トロッキー、フロイト、フロム、そしてもちろん、ジェファーソンもリンカーンも読んだ。すごいですね。そして、ベトナム反戦運動にも取りくんでいます。
サンダースが公職に立候補しようと思ったのは、今日この国の政治状況が本当に危険であることに多くの人が気がついていないと思ったから。
 はじめは1%、そして2%・・・。バーリントン市長に選出されたときには、わずか14票差(数え直しの結果、10票差)だった。ところが、その後は市長に3回も再選された。
サンダースの選挙運動の基本は戸別訪問。運動員が組んで、一軒一軒を歩いてまわり、対話して支持を広げていくのです。日本で戸別訪問が禁止されているのは、本当におかしいと思います。買収の温床になるというのですが、とんでもないことです。個別訪問を一律に禁止するのは憲法違反だとする下級審の判決がいくつも出ましたが、自民党は一向に公選法を改正しようとしません。買収で摘発されるのは圧倒的に自民党なんですけど・・・。
 アメリカ社会の重大な政治的危機は、働く人々が黙ってしまうことだ。もし組織労働者の5%が政治的に活発になれば、アメリカの政治的・社会的政策を根本的に変えることが出来るだろう。今日、大多数の低所得労働者は投票に行かない。働く人々の圧倒的多数は無力感を抱いている。
そして、投票率をあげるだけでなく、政治プロセスについて、市民への教育をもっとしっかりやらなければいけない。今こそ、学校で若者に民主主義の教育をすべきだ。
労働組合の積極的役割について、テレビのゴールデンタイムで語られ、紹介されるべきなのだ。
戦争は政治家が始める。そして、戦場で政府のために命を危険にさらした男女がいざ助けを必要としているとき、その同じ政府に背を向けられてしまう。許しがたい非道だ。
これは、アメリカのことですが、今、同じ状況が日本にも起きようとしています。
 アフリカ(南スーダン)へ日本の自衛隊を派遣して、なんで日本の平和が守れるというのですか。反対ではありませんか。日本の若者がアフリカの地で、殺し、殺されることを日本にいる私たちは黙って見ていいのですか。私は、そんなことは止めてほしいと思います。弁護士会も、そのための行動を起こしています。
 久しぶりにたぎる思いに接し、胸が熱くなりました。あなたも、ぜひ手にとってお読みください。 
(2016年6月刊。2300円+税)

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