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いくさの底

カテゴリー:ヨーロッパ / 日本史(戦後)

(霧山昴)
著者 古処 誠二 、 出版  角川書店
 福岡県に生まれ、自衛隊にもいた若手の作家です。前に『中尉』という本を書いていて、私はその描写の迫力に圧倒されました。それなりに戦記物を読んでいる私ですが、存在感あふれる細やかな描写のなかに、忍び寄ってくる不気味さに心が震えてしまったのでした。
 『中尉』の紹介文は、こう書かれています。「敗戦間近のビルマ戦線にペスト囲い込みのため派遣された軍医・伊与田中尉。護衛の任に就いたわたしは、風采のあからぬ怠惰な軍医に苛立ちを隠せずにいた。しかし、駐屯する部落では若者の脱走と中尉の誘拐事件が起こるに及んで事情は一変する。誰かスパイと通じていたのか。あの男は、いったい何者だったのか・・・」
 今度の部隊も、ビルマルートを東へ外れた山の中。中国・重慶軍の侵入が見られる一帯というのですから、日本軍は中共軍ではなく、国民党軍と戦っていたわけです。そして、山の中の小さな村に駐屯します。村長が出てきて、それなりに愛想よく応対しますが、村人は冷淡です。そして、日本軍の隊長がある晩に殺されます。現地の人が使う刀によって、音もなく死んだのでした。犯人は分かりません。日本兵かもしれません。
 そして、次の殺人事件の被害者は、なんと村長。同じ手口です。
 戦場ミステリーとしても、本当によく出来ていると感嘆しながら一気に読みあげました。だって、結末を知らないでは、安心して眠ることなんか出来ませんからね・・・。
(2017年11月刊。1600円+税)

重力波で見える宇宙のはじまり

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者  ピエール・ヒネトリュイ 、 出版  講談社ブルーバックス新書
 フランスの理論物理学者による解説書です。よく分からないなりに、宇宙のなりたちを知りたくて読んでみました。手にとって軽い新書だからといって、内容まで軽いとは限りません。
これまで人類が宇宙を観測してきたのは、まずは可視光のおかげであり、次にはあらゆる波長帯の電磁波のおかげだ。
重力波は、質量の大きな物体が、すばやく動くときに発生する。重力波は、観測可能な宇宙の大きさほどの脅威的な長距離を伝わる。重力波は非常に弱い力のため、重力波が途中にある物質に乱されることはほとんどなく、宇宙全体に届く。そのため、重力波は重力を起因する現象(ブラックホール)や重力波によって支配されている宇宙全体を観測する非常に有効な手段となる。
この重力波を検出するのは難しく、重力波を直接検出するまでに100年もの年月がかかった。重力波も光速で移動する。
合体した二つのブラックホールの質量を調べてみると、太陽の29個分と、36個分だったのが、合体したのだから、65個分のはずだったけれど、実際には62個分しかない。
重力波は、基本的な力のなかでも、最も弱いものだったが、今ではシンデレラのように主役におどり出ている。
重力波という、つかまえどころのないテーマを分かりやすく(実際には難しすぎたと反省しています)解説してくれる著者に感謝します。
たまには俗世間の憂さを忘れて星空でもながめないと毎日やっていけませんよね。
(2017年10月刊。1200円+税)

「主権なき平和国家」

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 伊勢崎賢治・布施祐仁   出版  集英社
東チモールやアフガニスタンで国連代表として武装解除の仕事をしてきた伊勢崎氏は日本が真の主権国家であるなら、憲法を改定するかどうかの議論の前に日米地位協定を改定すべきだと主張しています。
これには私もまったく同感です。沖縄でアメリカがどんなにひどいことをしても、日本政府(アベ政権)は文句の一つも言わず、ただただ大金を差し出して臣下のように尽くすばかりです。これで「愛国心」教育を言いたてるのですから、あまりに情けなくて涙が出てきます。
現在の日本は、形式的には「独立国」でも、日米地位協定によって主権が大きく損なわれている。主権とは、国家が他国からの干渉を受けずに独自の意思決定を行う権利のこと。それは当然に、アメリカ人が日本国内で犯罪をおかしたら、直ちに逮捕して裁判にかけることができるはずです。
しかし、現実には、アメリカ軍の関係者はほとんど逮捕されず、訴追されることもなく、アメリカ本土へまんまと逃げ帰っています。これって、悔しくないですか・・・。まるで、日本は植民地、治外法権じゃありませんか。
強姦容疑で摘発されたアメリカ兵35人のうち、8割の30人は逮捕されていない。殺人などの凶悪犯として摘発されたアメリカ兵118人のうち半数の58人は拘束されないまま終わっている。
8年間で、アメリカ軍関係者の起訴率は17.5%でしかない。これは、日本全体の起訴率48・6%の半分以下。
しかも日本はドイツなどと違って、アメリカ軍に雇傭されているわけではない、単にアメリカ軍が契約しているだけの民間業者とその従業員(コントラクター)についてまで特別扱いをしている。
アメリカ軍は、日本全国どこにでも好きなところに基地を設定することができる(全土基地方式)。これは、アメリカが実力支配してきたアフガニスタンにもないもの。
日本が負担しているアメリカ軍の関係経費は2016年度に7642億円。このうち、いわゆる思いやり予算は、1920億円。1978年度に62億円でスタートしたものが、15年間で30倍にもふくれあがった。
たとえば、アメリカ軍の家族住宅の建設費は2900万円。これに対して自衛隊の家族用官舎は1000万円でしかない。日本が負担する在日アメリカ軍(軍人・軍属あわせて4万人)の光熱水費は247億円。これに対して、自衛隊(自衛官だけで5倍以上の22万5千人)の光熱水費は329億円。アメリカ軍はまさしく王侯貴族のように湯水のごとく使っていて、私たち日本人は税金で負担しているわけです。
そもそも、アメリカ軍は日本を防衛するために日本に駐留しているのではありません。あくまでアメリカの防衛戦略の一環として日本全国に基地を置いているだけなのに、あたかも支配者のように好き勝手に行動しているのです。
私は何もアメリカと国交断絶しろ、なんて叫ぶつもりはありません。そうではなくて、この本の著者たちが主張しているように、アメリカと対等の立場で交渉すべきだと言いたいのです。
(2017年11月刊。1500円+税)

新・貧乏物語

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  中日新聞社会部 、 出版  明石書店
 アベ首相のもとですすめられたアベノミクスは大企業と大金持ちをますます富み栄させた一方で、貧しい人々は、より一層貧しくなり、しかも絶望感、政治への不信感が増大して、投票所へ足を運ぶ人が5割という状況をもたらしてしまいました。
 この本は、日本全国いたるところで貧困があふれていることを鋭く告発すると同時に、そのことへの異議申立の可能性をも語っています。日本社会の真実を知ることのできる貴重な本だと思いました。
 慶応大学2年の女子学生が派遣型の風俗店で働いていることが紹介されています。週3回、1日7時間働いて月収50万円、うち30万円を実家に仕送りし、残りはアパートの家賃5万5千円と生活費に充てる。学費は4年間で450万円。貸与される奨学金は月6万4千円。卒業までに307万円を借りる。卒業時に一括返済するため、風俗店で働くことを選んだ。
彼女のように風俗店で働く女子大生が増えているという。なんということでしょうか・・・。奨学金は貸与制ではなく、支給性にすべきですし、学費は無料にすべきではありませんか。私が大学生だったころは、月1000円でした。
 アベ内閣はイージス・アショアに出す2000億円はあっても、人材育成にまわすお金はないというのです。まったく間違っています。
 養護老人ホームは、入所困難のため順番待ちしているとばかり思っていると、なんとなんと、定員割れになっているのが実情だというのです。千葉県では、2015年10月時点で、全22ヶ所の養護老人ホームのうち20ヶ所が定員割れで、176人の「空き」がある。なぜか・・・。2005年にホームの運営費が市町村の全額負担とされたことが大きい。
 立命館大学を卒業してファミリーレストランをチェーン展開する企業に入った37歳の男性は、3年たっても給料は手取り14万円で、上がらない。入社時30人いた同期は6年たったら3人しか残っていなかった。
 一日中テレコールをさせられるブラック企業に入ると、1日で500件の電話かけがノルマ。一度切ったら3分間もおかずに次の電話をかけなくてはいけない。タバコ休憩は認められない。職場に監視カメラがあり、すべてを監視される。これは辛いですよね。
2014年の非正規な雇用労働者は1962万人。不本意非正規が18%を占める。社会の中核を占める30代から40代まで非正規が増えている。
人間や労働の価値のすべてを市場原理で測るようなことは、もうやめるべき。この指摘に、私はまったく同感です。国破れて山河あり、ではありません。人々が大切にされてこそ、政治です。力のある者は、政治が放っておいても自分の力だけで生きていけるのです。弱者にもっと光をあてた政治が望まれてなりません。
 中日新聞そして東京新聞は、国民目線のいい記事をたくさん報道しています。ぜひ、これからもがんばって下さい。
(2017年6月刊。1600円+税)

貧困と自己責任の近世日本史

カテゴリー:日本史(江戸)

(霧山昴)
著者  木下 光生 、 出版  人文書院
 飽食とも言われる現代日本でも餓死が現に発生しています。それも路上のホームレスではなく、自宅(アパート)での餓死です。これに対して、自己責任だとして冷たく切り捨てようとする風潮があります。年末に日比谷公園で貧困救済で「年越し派遣村」が生まれて全国的にも大きく注目されましたが、あっという間にその熱は冷めてしまいました。
貧困の公的救済に対して異様に冷たく、貧困をもたらす原因として極度に自己責任を重視するというのが社会全体の姿勢になっている。
 日本では他者に対する信頼度(社会的信頼度)が先進諸国のなかで最低になっている。日本社会は、貧困の公的救済に対して世界的にみて突出した冷たさを示している。なぜなのか・・・。
本書は、文化5年(1808年)の江戸時代の奈良県(大和国吉野郡)田原村の全世帯41件についての1年間の収支報告書をこまかく分析した結果にもとづいています。それによると、村人の生活が年々貧しく(厳しく)なっていったこと、それは藩による年貢率の引き上げによるものだという通説は誤っているというのです。
 この本は、「持高」つまりどれだけの石高(お米の生産量)によっては貧富かどうかは一概には決められないこと、税負担率は、世帯間で相当な落差があって、それだけでは決められないし、むしろ一般には実質税率は軽減されていたこと、村人の家計を苦しめていたのは、年貢や借金よりも、主食費や個人支出といった、自らの消費欲に左右される消費支出部分であったこと、などを明らかにしています。
 年貢率は、長期的な上昇傾向をもつ村はほとんどなく、むしろ一定率で固定あるいは下降傾向にあった。平均税率は20%以下の15%未満ということもあった。こまごまとした現金収入の存在が案外、生活者にとっては大きかった。
 江戸時代、苦しい生活実態にある住民の根本的な救済責任は村にあって、藩当局(ましてや江戸幕府)ではない。ということは藩による恒常的な救済活動は望むべくもない。藩による御救(おすくい)は、継続的・恒常的になされるものではないこと、このことが繰り返し明言された。
 江戸時代、つまり近世日本社会における生活保障は、基本的に民間まかせであり、領主によるお救いは、はなから期待されていない。どれほど生活が困窮していたとしても、他人の施しにあずかるようなマネだけはしたくない。こんな強迫感を人々はもっていた。村人から助けてもらうと、まことに厳しい社会的制裁を受けることになった。日笠をさすな、雪踏(せった)を履くな、絹織物を着るな、などなど。
 江戸時代の村社会の現実を当時の村落の住民の収支表をもとに論述されています。貴重な労作だと思いました。
(2017年10月刊。3800円+税)

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