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キッチンとマルシェのあいだ

(霧山昴)

著者 辻 仁成 、 出版 光文社

シングルファザーになって、一人息子を育てあげた著者の食育日記みたいな本です。

著者が作家なことは知っていましたが、コンサートをやる歌手でもあるようです。でも、この本では、なんといっても料理人です。レストランのシェフではありませんが、あまたのシェフとの交流があり、自らマルシェに食材を買い出しに出かけ、それをもとに自ら料理に精を出すのです。ええっ、そんな生活で暮らしていけるの…、と不思議に思いました。きっと莫大な印税収入が入ったのでしょうね。そして、SNSで自分のフランス滞在記と料理を発信していますが、これも収入の足しになっているのでしょうか…。

料理が出来ず、また、手を出したいとも思わない私にとっては、半ばはうらやましくもありますが、その反面、ひとりで本を読みふけるほうが自分の性(しょう)にあっていると、やっかみ半分に思い、自分を納得させています。

フランスでは、どこの家にも必ずオーブンがある。オーブンのない家庭はないと断言してよい。フランス人はオーブン料理を好む。

家庭料理にはシンプルなものが多い。フレンチのフルコース料理を家庭で食べるフランス人なんて、いない。

ポルトガル料理に欠かせないのが塩ダラ(バカリャウ)。それ自体がすでにうまいわけではない。でも、ゲルマン人のジャガイモ、日本人の米に匹敵する。

パリの冬の食卓の主役はモンドール。私はモンドールなるものを食べたことがありません。残念です。オーブンで焼いてトロトロにしたモンドールを、ゆでたジャガイモやシャルキュトリー(豚肉?)、バゲットに合わせて食べる。チーズの女王。

美味しくするためには、時間が働いてくれる。スパイスや、火力よりも、時間が一番大事なんだ…。

日本で売っているバゲットとフランスのバゲットは、まったく別のもの。

もうウン十年も前のことです。パリのカルチェラタンのプチホテルに家族で泊まりました。そこの朝食に出たバゲットの美味しいこと。今でも我が家の語り草です。絶妙な塩味なのです。プチホテルの近くのパン屋で買ってきたものがぽんと出されます。サラダも何もなく、カフェオーレとバゲットのみの朝食でしたが、家族そろって毎朝、大満足でした。

ヨーロッパ人の食生活に欠かせない食材の一つにオリーブオイルがある。絹のような口当たり。ぬめりやとろみが少なく、また全体にすーっと行きわたるような、透明感あふれるばかり、ものすごい新鮮さがある。それがO.2。

料理とは、発想と失敗と食い意地で上達するもの。

フランスには全土で1万以上ものマルシェがある。著者はそのマルシェをめぐって、店主と食材を会話しながら仕入れていくのです。

フランスでは、老後、子どもたちと暮らす人は少ない。さすが、個人主義を愛してやまないフランスです。

著者の出身は福岡とのこと。弟と母親が福岡に暮らしていて、ネットでレシピを伝え、弟が料理して、母親に食べさせるという話も出てきます。さぞかし美味しかったことでしょうね。

著者が離婚したとき少年だった息子も、無事に大学を卒業して独り立ち。65歳になった著者は、犬と一人生活。そして自分のための料理に精を出すのです。新しいパートナーは必要ないのでしょうか…。そんな話が全然出てこないのが不思議でした。

最後に、著者のつくった(と思われる)料理がカラーで紹介されています。目で眺めるだけなのが残念でなりません。お相伴させてほしいのですが…。

(2026年3月刊。1980円)

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