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後期日中戦争

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 広中 一成 、 出版 角川新書
著者は後期日中戦争が混迷した主たる要因の一つは、日本が日中戦争に明確な目的を示せなかったことにあるとしています。盧溝橋での偶発的な衝突により始まり、関東軍の出先幹部の暴走であり、日本政府や陸軍中央が組織的計画によってすすめたものではない、というのです。
「東亜新秩序の建設」という抽象的な大義名分では、日中両軍の軍事衝突を止める効果はなく、日本は何ら解決の糸口を見出せないまま、強国である米英を相手とする太平洋戦争まで始めてしまった。
目的なき日中戦争を始めた時点で、日本の敗北は事実上決まっていた。日中戦争の後半は、その作戦の大半が、太平洋戦線の展開に大きく影響を受けながら立案・実施されている。第二次長沙作戦は、香港作戦を容易にするための防動作戦。浙かん作戦は、ドーリットル空襲への反撃、湘桂作戦(一号作戦)はアメリカ空軍による日本本土空襲を防止するための中国南西部敵飛行場攻撃が目的だった。
太平洋戦争に引きずり込まれた中国戦線は、国民政府のある中国奥地の重慶方面へ進むよりも、南方戦線に近い中国南部から西南部方面へと広がった。日中戦争は、ゴールの見えない、果てなき戦いとなった。
日本が敗戦したあと、蒋介石がすぐに日本軍を武装解除しなかったのは、すでに強大な勢力となっていた八路軍の動きを抑える目的があった。しかも、蒋介石とその部下の多くは若いころ日本に留学して陸軍士官学校などで訓練を受けた経験があり、岡村寧次総司令官をはじめとする日本陸軍の将校らと実は親しい関係にあった。これは知りませんでした…。
浙かん作戦前年の1941年の時点で、日中戦争での日本軍の戦没者の半分は、戦いで命を落とす戦死ではなく、戦病死だった。日本軍将兵の敵は中国軍と病の二つだった。しかも、その病は、実は、日本軍の七三部隊がまいたペスト菌などによるもので、まさしく自業自得だった。いやはや、なんということでしょうか…。そして、日本軍は細菌だけでなく、毒ガス兵器もつかっていたのです。
日本が一号作戦のため第三師団など華中にあった主力部隊を南下させたことから、八路軍と新四軍は、その軍事的圧力から解放され、本格的な反撃に転じることができた。一号作戦は8ヶ月に及んで日本本土空襲を阻止するための敵飛行場の占領を達成することができた。しかし、そのときには、さらに奥地の飛行場から次々にB29が飛び立って日本本土を襲っていた。つまり、第三師団をはじめ、第11軍の将兵が命がけで戦い抜いた一号作戦は、結局、劣勢な戦況を打開することはできずに終わった。
軍人の単純な頭に国のカジ取りをまかすことはできないということですよね。
昔のバカな話と思ってはいけません。今の自衛隊のトップたちのなかにも議員バッジをもって日本の国政を左右しようと考えている人々が次々とうまれていることを忘れてはいけません。彼らは、国民を守るのではなく、国を守ると称して、軍需産業と自分たちの利権を図っています。それが残念ながら戦争をめぐる古今東西の不変の事実です。
(2021年4月刊。税込1012円)

ルポ・トラックドライバー

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 刈屋 大輔 、 出版 朝日新書
私の依頼者にはトラックドライバーの人たちが何人もいます。話を聞くと、本当に大変な仕事だとつくづく思います。必要な仕事なのに、その労働条件がすごく悪化しているというので、私まで腹が立ちます。
かつては、トラックドライバーは、「仕事は激務だが、3年ガマンして働いたら家が建つ」と言われていた。たとえば、佐川急便のセールスドライバーの年収は1000万円を超えていた。ええっ、ウッソーですよね…。
今やトラックドライバーの労働環境は一変した。「3K(きつい、汚い、危険)なのに稼げない」仕事、「稼げない」の頭文字を加えて「4K仕事」になっている。
長距離トラックの運転手が自宅に戻るのは、週に2日ほど。出発前の食事は運転中に眠くならないよう、軽くする。
トラックドライバーの仕事は、肉体的、精神的な負荷が大きいうえ、拘束時間が長い。
大型車ドライバーは2580時間、中型車ドライバーは2496時間。一般より大型の42時間、中小型35時間も長く働いている。
トラックドライバーはピーク時に90万人いた。2015年には80万人。
トラックドライバーの7割は40代以上で、15%は60代以上が占めている。
事業者の7割が人手不足を訴えている。
軽トラ・ビジネスは、2015年に15万4000社、2018年には16万3000社に増えた。軽トラ業界は、いま完全な売り手市場で、人手不足。
アマゾンは、日本国内での自社配送率を高めていこうとしている。ドライバーの時給は2000円、しかも、報酬は週払い。
アマゾン対応で、ヤマトをふくめ宅急便の現場は完全に疲弊してしまった。「当日配達」を停止したのは、ドライバーたちの長時間労働を是正するためだった。
コロナ禍の下、企業と個人間の取引は「巣ごもり消費」の拡大で急伸している。必要な仕事なのに、その待遇が悪化しているなんて、やっぱりおかしいですよね。世のなかの矛盾のあらわれのひとつではないかと思いました。
それにしても、宅急便をドローンで運ぶのだけはやめてほしいです。上からいつ物が落下してこないか、気になって仕方ありません。空を見上げたら荷物が飛んでいるなんて、マンガの世界だけで十分ですよ…。
(2020年11月刊。税込869円)

檻の中の裁判官

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 瀬木 比呂志 、 出版 角川新書
この著者の本は、決してすべてではありませんが、何冊も読みました。裁判所と裁判官についての実情認識についてはほとんど異論がありません。
かつて裁判官のなかに印象の鮮やかな人、個性的な人が、多くはなかったが、存在した。人間的な美点、温かみや相当の知性、視点を備えた人が一定の割合でいた。そんな人が減っていった。
かつての裁判所には、ゆとりや隙間があった。ところが今では、裁判所の官僚的支配、統制、管理が進み、職人的裁判官が減り、そつなく事件を処理していく司法官僚に変わっている。
日本の裁判官は、できるかぎり波風を立てず、大過なく、思い切った判決をしない方向へ流れていきやすい。
賄賂で買収される裁判官はいないが、裁判所当局によるコントロールで動いているのが現実だ。これで、本当に自由で公正だと言えるものなのか…。
いま、若手裁判官中心に「コピペ判決」の傾向が強まっている。形式的には一応ととのっているが、その内容は裁判官が自分の頭でじっくり考えて全部を構成したものではないから、中身が薄く、また読みにくいものになっている。
裁判官としての自負やモラル、それを支える基礎的な教養も欠いている裁判官たちだ。権威主義、事大主義的傾向も強まっている。
日本の裁判官は、事案と当事者をよく理解したうえで、個々の事変について、ささやかな正義の実現を図るという志向が十分ではなく、事件を手早く処理する方向に傾きがちだ。そして、大きな正義の実現については、きわめて及び腰で、現状追随、権力補完的傾向が強い。この分析には、残念ながら、まったく同感です。本当に残念ですが、そのとおりとしか言いようのないのが日本の裁判の現状です。なので、ごくごくたまに、「自分なりの視点、物事に対する洞察力、本当の意味での人間知、謙虚さ、人権感覚、民主的感覚」という要素をもった裁判官に出会うと、めったにそんなことはありませんが、心が震えるのが自分で分かるほど感激してしまいます。
ということで、この本に書かれていることの多くは同感なのですが、著者が、何回も「左派法律家」なる存在をあげつらって、ことさら批判するのには大いなる違和感があります。よほど、過去にトラウマになるような「被害」経験でもあったというのでしょうか…。私も、著者のいう「左派法律家」の一員になるのでしょうが、こんな余計な決めつけコトバを抜きに、まともな議論をすすめてほしかったと思いました。その点だけは残念ですが、一読の価値は大いにあります。
(2021年3月刊。税込1034円)

あなたは、こうしてウソをつく

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 安部 修士 、 出版 岩波科学ライブラリー
人間はよくウソをつく。アメリカの研究では人は平均して1日に1回、学生だと2回、ウソをつく。日本でも学生が1日に2回ウソをつくというレポートがある。
ええっ、本当でしょうか…。まあ、ウソも方便というように、たしかに潤滑油になることもありますよね…。私は弁護士として、「許されたウソもある」とよく言います。なんでもバカ正直に言えばいいというものではないからです。
ウソとは、意図的に相手をだますような、真実でない言語的陳述。「意図的に」とは、「故意に」ということ。
ウソをつく理由。
①自分のためか、他人のためか。
②利益を得るためか、不利益や罰を避けるためか。
③物質的な理由か、心理的な理由か。
ウソをつく理由は多様で、複合的である。
ウソは、人間が円滑な社会生活を営むうえで必須のルールでもある。
ウソは簡単には見抜けない。言いよどみ、言い間違い、声の高さや話す速さ、視線やまばたきなど、顔から得られる情報もある。手や足、頭の動きや姿勢など、さまざまな体の動きも手がかりになる。しかし、これらの手がかりに着目(こだわる)すると、むしろウソを見抜けなくなることもある。
脳波の研究では、虚偽検出にはP300と呼ばれる電位が有効だと考えられている。
fMRI(機能的磁気共鳴画像法)は、脳の深部の活動をとらえるのを可能にする。しかし、虚偽検出のためのツールとして有効に使えるものではない。
人間の記憶は、ビデオカメラのように正確なものではない。自分のでっち上げたウソが時間の経過とともに、記憶の中で真実として置き換わってしまうことがある。
人間には一度ウソをついてしまうと、その後もウソをつき続けてしまうことがある。
男性は女性よりも利己的なウソをつくことが多く、利他的なウソは女性に多く見られる。
男性の利己的なウソは相手が男性のときに多く、一方で女性の利他的なウソは相手が女性のときに多い。
若い人ほどウソをつきやすい。ウソの頻度は、発達とともに上昇し、青年期にピークとなり、その後は下がっていく。
知能が高ければウソをつきやすい、あるいはウソをつきにくいといった単純な関係性はない。
人間は3歳児からウソをつけるようになる。4歳~5歳児は、間違いとウソの違いを区別できる。
自然に発現する正直さは、人間の本質的な善の要素を示しているが、同時に、誘惑への克己をもとに発言する正直さも、人間が理性によって善を実施できる一例。
性善説と性悪説は連続体として考えるのがより適切。
この本を読みながら人間とウソとの関係を考えてみました。よくよく弁護士って、日常にウソにまみれた職業でもあります。なので、身近なものとして面白く読み通しました。
(2021年1月刊。税込1430円)

清華大生が見た中国のリアル

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 夏目 英男 、 出版 クロスメディア
清華大学といったら、中国の超エリート大学です。中国のトップ大学は、精華大学と北京大学。現在の国家主席の習近平、その前の胡錦涛も精華大学の卒業生です。工業系大学としては、マサチューセッツ工科大学(MIT)を抑え世界1位と評されています。
著者は、そんな精華大学の日本人学生なのです。すごいですね…。
清華大学に入ると、学生は全員が大学寮に入る。全寮制。門限はないが、消灯時間は夜の11時。4人1部屋。
清華大学のキャンパスは東京ドーム84個分の広さで、そこに5万人の学生と4千人の教職員が住んでいる。そこは何でもそろっている学園都市。
「海亀」(ハイグイ)は、開学のトップ大学に留学し、卒業したあと、中国に帰国した学生のこと。2018年の中国人海外留学生は66万人強。チャイナ・イノベーションは、海亀が牽引している。
習近平の中国共産党は「天下の人材を一堂に集めて活用する」という戦略をとっている。なるほど、ですね。
ところが、日本人学生の海外留学は減少傾向にあります。パスポートをもっている日本人は、人口の23%のみ。G7では最下位。若者が海外の治安の悪さに恐れをなして、海外へ出ていこうとしない…。
日本の大学生は、アルバイトするのがあたりまえ。ところが、中国や韓国では、学生はアルバイトをほとんどしていない。中国では学費が安く、寮費がタダで、食事も安く食べられるから…。
清華大学では、朝8時からの第1時限の講義を聞くため、自転車が集中して渋滞まで起きる。ええっ、大学内で自転車の渋滞だなんて…、信じられません。
アリババの創始者であるジャック・マーとテンセントの創始者であるポニー・マーの2人についても詳しく紹介されています。
変化の速い中国の実情の一端が日本人大学生の目で紹介されている、面白い本でした。
(2020年10月刊。税込1628円)

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