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ルポ貧困大国アメリカⅡ

カテゴリー:アメリカ

著者:堤未果、出版社:岩波新書
 この本を読んでもっとも驚いたのは、アメリカの刑務所のことです。刑務所を出所したときに、元囚人が多大の借金を背負っているというのです。
 1年半の刑期をつとめたジャクソンは、出所したとき、訴訟費用の未払い金8900ドル(89万円)、それにともなう利子と罰金が1万3千ドル(130万円)、総額2万1900ドル(219万円)の借金をかかえていた。いやはや、すさまじいことです。
刑務所は、犯罪防止のための場所とか更生の場所ではない。囚人たちは用を足すときに使うトイレットペーパーや図書館の利用料、部屋代や食費、最低レベルの医療サービスなど、本来なら無料のものまで請求される。
重罪で投獄される犯罪者の8割は貧困層で、経済的困難から犯罪に走る。それなのに、その彼らに刑務所のなかで、さらに借金を背負わせるのです。
うひゃあ、これって、あまりにひどいことですよね・・・。
今や、刑務所はアメリカ経済そしてイラク戦争まで支えている。国防総省はサービスの半分以上を刑務所に発注している。兵士たちの食事、生活備品、防弾チョッキなど、など・・・。
アメリカの電話番号案内サービス(日本の104)は、70億ドル規模の巨大市場だが、そこでもオペレーターは囚人が活躍している。
アメリカの囚人は2008年に連邦刑務所で160万人。前年比2万5000人の増。地方刑務所に72万3000人。したがってアメリカの囚人は10万人あたり740人。ロシアは628人である。アメリカの総人口は世界の5%だが、囚人数は世界の25%を占める。カリフォルニア州だけで、1000ヶ所もの刑務所がある。
アメリカは刑務所を運営・維持する費用が年570億ドル(7兆7千億円)。国の教育予算420億ドルを上まわっている。
カリフォルニア州では、この10年間に大学の教職員が10万人も解雇されたのに対して、刑務所の看守は1万人が増やされた。カリフォルニア州政府は、大学生1人あたり年6000ドル(60万円)の教育予算を支出しているのに対して、囚人1人あたりには、6倍にあたる3万4000ドル(340万円)を支出している。
そして、刑務所を民営化して、その会社は、株価を急上昇させています。こんな国に未来のあろうはずがありませんよね。
このほか、学資の問題そして医療・福祉が取りあげられています。「自己責任」の国アメリカでは、弱者は切り捨てられ、金持ちだけが栄えています。にもかかわらず、まだまだ少なくない人がアメリカン・ドリームの幻想に浸っているのです。
日本は決してアメリカの後追いをしてはいけない、せめてヨーロッパ型でいくべきだとつくづく思わせる、いい本でした。一読を強くおすすめします。
(2010年2月刊。720円+税)
久しぶりに朝からよく晴れた日曜日となりました。でも春の陽気というより冬の冷たさを感じます。4月に入って東京で雪が降るなんて信じられない異常気候です。
いま我が家の庭はチューリップ畑が終わり黄色と白色のアイリスの花畑から橙色のヒオウギの畑に移行しつつあります。そして青紫のアイリスから真っ黄色のアイリスへと変わった先に登場するのはお待ちかねのジャーマンアイリスです。昨年のうちに大々的に庭銃を移し替えていた成果があがりジャーマンアイリスはなんと60本ほど期待できそうです。
天候不順のせいで野菜が品薄になり高値傾向にあるというので自給自足を目ざして野菜にも挑戦しました。というのは嘘です。お隣のレストランのシェフからキュウリやトマトの苗を分けて貰いましたので庭の一部を整理して植え付けてみました。久しぶりの野菜ですからうまくいく自信はありませんが、せっかくですのでチャレンジしてみることにしたのです。がんばります。
チューリップ畑だったところの大半を掘り起こしました。球根は小さく分球していますので、来年は使えません。紅白のクレマチスの苗を植えそのそばに朝顔のタネも植え付けて見ました。目もさめるような鮮やかな赤い色の朝顔が私の好みです。
 夕方6時に作業を終えて風呂に入って心身をリラックスさせます。早めの夕食をとり薄暗くなってきたので雨戸を閉めました。夜7時15分まで外は薄明るく初夏も間近だと実感します。
 蚊や虫のいない今が庭に出て一番楽しい時です。

外来生物クライシス

カテゴリー:生物

著者:松井正文、出版社:小学館新書
 世界中の生き物たちが、本来の生息地を離れて世界各地に拡散しています。外来生物と呼ばれるこれらの生き物たちは、当然ながら日本にも押し寄せ、私たちを取り囲む環境に入り込んでいるのです。
 日本には、2239種の外来生物が定着している。そのうち動物については633の外来種の定着が認められている。
 京都の鴨川にはオオサンショウウオがいるが、チュウゴクオオサンショウウオが入り込んでいる。オオサンショウウオの寿命は長く100歳に達する個体もいる。2008年9月の時点の分析によると、111匹のうち中国型が13%、雑種が44%となっていた。幼生の71%が雑種だった。
 中国ではチュウゴクオオサンショウウオは珍味として異常な高値で取引されている。そこで日本にも食用に輸入された。その子孫が鴨川に存在するらしい。
 外来種のタイワンザルは、姿がニホンザルと見分けにくい。ただ、尻尾が40センチと、ニホンザルの尾が10センチ程度と短いのに比べて、ずっと長い。この2種の交雑が急速に広がっている。
 日本のメダカが減少している。それに似ているのがカダヤシ(蚊絶やし)。いずれも3センチほどで、見分けるのは容易ではない。
 メダカが減っているのをカダヤシのせいにすることはできない。メダカの棲めない環境が急速に増えていること、それによってメダカの繁殖能力が落ちていることが根本的な原因である。日本各地にメダカを戻したいのなら、カダヤシを駆除するだけでなく、田園環境や、小川のあった自然を復元し、メダカの棲みやすい環境を取り戻す必要がある。
 ミツバチを受粉に利用している園芸農家は日本全国で1万ヘクタール。女王蜂の輸入がストップすると、すぐに国内の果物や野菜生産に多大な影響が生じる。国内自給率40%を切っている日本の農業のもう一つの危うい姿である。
 2008年、働き蜂の突然の大量死によって、1割ないし2割もミツバチが減った。
 アメリカでは、2005年ころから、ミツバチの4分の1が死滅した。
 アルゼンチンのミツバチには凶暴なアフリカ系ミツバチの遺伝子が拡散している。欧州系ミツバチに比べて攻撃性が強く、長時間にわたって攻撃するため人や家畜を死に至らしめることがある。
 セイヨウオオマルハナバチは、あまりにも強い繁殖力をもっている。そして、花の外側に穴を開けて吸うため、日本固有の植物の繁殖を妨げる心配がある。
 なるほど、外来種が入りこんできたって、種が多様化するだけじゃないの、なんて気楽なことは言っておれないようです。人間と違って、混血(ハーフ)というのはいいことだけではないのですね・・・。
(2009年12月刊。740円+税)

ゲゲゲの女房

カテゴリー:社会

著者:武良布枝、出版社:実業之日本社
 「ゲゲゲの鬼太郎」の作者である水木しげるの奥様による自伝です。NHKで連続テレビ小説になっているそうですが、私はテレビは見ませんので、そちらは分かりません。
 しみじみとした、いい本です。人生の悲哀を感じさせます。人生は、終わり良ければ、すべて良し。この言葉は奥様のつぶやきです。なんだかホッとさせられますね。
 「少年マガジン」にデビューしたとき43歳、猛烈に忙しくなったのが44歳、それから必死で走り続けて50歳をすぎ、心と体がついに悲鳴をあげた。
 水木しげるは睡眠をとても大切にしてきたようです。それでも、モーレツ時代は、さすがにそうもいかなかったようですが・・・。
 少し前まで、お金になる仕事がほしいとずっと思い続けてきたけれど、ここまで忙しい事態は想像していなかった。成功しても、水木の体がボロボロになってしまったのでは、幸せとはいえない。
 睡眠時間は、すべての健康の基本である。いつもふらふらの寝不足ではいけない。
 水木しげるは、心配する奥様に対してこう答えた。
 オレも眠りたい。ノンキな暮らしがしたい。でも、また貧乏をするかと思うと、怖くて、仕事を断ったりすることは、とても出来ない。締め切りに追われる生活も苦しいが、貧乏に追われる生活は、もっと苦しい。それに、いまが人生の実りの時期なのかもしれない。だから、後にひいてはダメなんだ。
うむむ、力を感じます。すごい言葉ですよね。
 人気商売なので波はあり、1981年(昭和56年)ころ、仕事が急に落ち込んで、連載は一本になってしまった・・・。
 うむむ、そういうこともあったのですか。
 精魂込めてマンガを描き続ける水木の後ろ姿に奥様は、心底から感動しました。
 ひたすらカリカリと音を立てて描く後ろ姿から、目を離せなくなることが、しばしばあった。背中から立ちのぼる不思議な空気、オーラみたいなものに吸い寄せられるような気がした。この人の努力はホンモノだ。
 すごい奥様の言葉です。奥様も偉いですよね。
 貧乏な生活でした。質屋に次々に身のまわりの品を入れて借金し、そんな生活をしながら、ひたすら売れない漫画を描き続け、それを奥様が支えたのでした。ひたすら真面目に努力を重ね、ついに報われたわけですが、それに至るまでの過程が実に明るく、むしろあっけらかんと書きすすめられていて、心に深い余韻を残しています。
 境港にあるという「水木しげるロード」に一度行ってみたいと思いました。
(2009年9月刊。1200円+税)

介護の値段

カテゴリー:社会

著者 結城康博 、 出版 毎日新聞社
 国を守るためと称して軍事予算は惜しみなく使われています。新型戦車、ヘリコプター空母、アメリカ軍のための空中そして海上給油、思いやり予算などなど・・・。ところが、国を構成しているはずの国民生活のほうはちっとも守られていない気がしてなりません。
 病院に入院しても、20日以内に退院させられる。入院費の負担額は毎月18~25万円もかかる。個室に入ったら35~50万円になる。リハビリのための入院だったら、3~5ヶ月で転院させられる。なぜなら、病院が減収するから。中小病院は相次いで倒産している。
65歳以上は2900万人。75歳以上の後期高齢者は1300万人いる。一人暮らしの高齢者は433万人、うち男性117万人、女性316万人。在宅介護の対象者は男性28%、女性72%で、3割以上が70歳以上。
 高齢者のなかには特養ホームで個室を好む人は多いが、4人部屋を好む人も少なくない。個室だと夜になると、不安になったり新しくなって徘徊してしまう人がいる。有料老人ホームの入居金は数百万~1000万円。そして、1ヶ月に都内では25万円、その他の県で20万円ほど必要となる。
誰だって、みんな老人になっていくわけです。老後が安心して過ごせない日本って、困りますよね。こんな国を愛せなんて押しつけられたら反発する人が出てくるのも当然です。
 介護施設にもっと国は投資すべきだと思います。いえ、私が還暦を過ぎたから叫んでいるというのではありませんよ。ほら、あなただって、もういいとしになったでしょ……。
(2009年12月刊。1000円+税)

ある明治女性の世界一周日記

カテゴリー:日本史(明治)

著者 野村 みち、 出版 神奈川新聞社
 すごいです。明治41年(1908年)というと、亡くなった父が生まれた年より1年前のことです。日露戦争のあとで、まだ日英同盟も生きていたようです。
 その年(1908年)3月、東京・大阪の両朝日新聞社の主催する世界一周旅行に、56人の日本人団体客が出かけました。そのうち女性は3人。その一人が32歳の主婦であった著者でした。
 日本を船で出航して、ハワイ、アメリカ、そして大西洋を渡ってイギリス、さらにフランス、イタリア、ドイツ、ロシア、最後に中国東北部を船と汽車をつかって100日ほどで駆け巡ったのです。著者は、その年のうちに「世界一周日記」として出版したのでした。
 主婦と言っても、横浜で外国人相手の古美術店「サムライ商会」を夫とともに営んでいましたし、英語を話せたのです。この本は、現代語に訳されていて、とても読みやすくなっています。日本人女性の勇敢さと行動力には、ほとほと感心します。
 幼い子供たちをかかえた母親として、世界周遊に出かけたい気持ちをかかえて迷っていたとき、実家の母は「行って来なさい。あとは全部引き受けるから」と言って励まし、送り出してくれたと言うのです。偉い母親ですね。
 そして、著者は、旅行中ずっと和装で通したのでした。そして、またそれが結果的に良かったのです。見なれない服装を見て、欧米人は感嘆したのでした。
 このころ、ハワイには日本人が7万人もいた。うち2万人はサトウキビ栽培に従事していた。
 アメリカは大変深刻な不景気だった。モルモン教の本拠地であるソルトレイク市にも行っています。そこで、おはぎや鮨を在米日本人からもらったと言うのですから驚きます。
 シカゴで劇を見て、ナイアガラの滝を見学したあと、ワシントンに入り、ホワイトハウスに出向いて、ときのルーズベルト大統領と面会して握手までしています。それほどの珍客だったのですね。驚きました。
 そのあと、ニューヨークを経て、イギリスにわたります。
 今回の旅行で、日本人は共同一致の精神に乏しく、団結力も弱く、公共を重視しないことを深く感じた。
 ええーっ、後半はともかくとして、前半の評価は逆じゃないのかしらんと思いました。
 イギリスでは、ちょうど、婦人参政権運動が盛り上がっているときでした。
 フランス、イタリア、スイス、ドイツと巡って、ロシアにたどりつきます。
この旅行は、イギリスの旅行会社トマス・クック社の企画したもので、団体旅行・パック旅行として世界初のものでした。旅行費用は1人2340円。当時、民間企業の大卒初任給が35~40円だったので、その5年分にあたる。
 このように、若いときに世界を知っていただけに、著者は、1941年に太平洋戦争がはじまったとき、「アメリカのような国土の広い、資源豊富な国を相手にしても勝てるわけがない」と家族に小さな声で言っていたそうです。当然ですよね。今読んでも面白い本です。
 先日の新聞に、アメリカのハーバード大学に留学している日本人学生が1人しかいないという記事がありました。いま、老壮年はしきりに海外旅行に出かけていますが、むしろ若者ほど国内志向が強く、海外へ目が向いていないと言います。さびしい限りです。
 若者は書を捨てて(本当は捨ててほしくはありませんが……)海外へ旅に出かけよう。若い時こそ、何でも見てやろうの精神が大切です。
 
(2009年10月刊。1400円+税)

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