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カモシカと進化をめぐる冒険

カテゴリー:生物

(霧山昴)

著者 髙田 隼人 、 出版 文一総合出版

 長野県浅間山にある浅間山荘そして小緒市火山館を拠点としてニホンカモシカを観察し続けている動物学者の面白い見聞記です。

 ニホンカモシカ(以下、単にカモシカ)の寿命は20年以上。ところが、全国各地でカモシカは減少傾向にあり、代わってシカ(鹿)が増えている。シカが増えると、植物が食べられ、踏みつけられる。美しかったカモシカ平のお花畑が喪失寸前になっている。

 著者は、カモシカを個体識別しています。前に金華山の野生のシカの全部を個体識別している本を紹介しましたが、それと同じです。カモシカに、こんな名前をつけています。オオシマ、アサコ、ヤッコ、ヤシロ、カワムラ、ミツウラ、そしてクロサワとムーさん、だ。

 クロサワはムーさんにずんずん近づくと、互いの鼻と鼻を突き合わせてご挨拶。その状況を見て、「やっぱり仲がいいなあ…」と野帳に書き込む。

 自然の中での調査は、野生動物が好きというだけではどうにもならない大変さがある。30キロ以上の荷物をもって長時間、山に登って観察する。落ちたら即死する断崖絶壁近くでカモシカに追いつめられることもある。

 ところが、研究は半端なく面白い。まだ誰も知らない自然の秘密を見つけだし、世の中に発表できたときの興奮と喜びは半端じゃない。

 カモシカは反芻(はんすう)獣。4つに分かれた胃のうち第一から第三胃で微生物による発酵を行っている。植物のセルロースを効率よく発酵分解する。この3つの胃は食道起源。第4胃が人間の胃にあたる。

 カモシカは、指の減少、蹄(ひづめ)への進化によって、手先の繊細な操作性を失う代わりに、補食者から逃れるための走行能力を得た。

ウシ科の角(フックはホーン洞角。ほらづの)と呼ばれ、杖分かれがなく、一生生え変わらずに伸び続ける。これに対して、シカ科の角はアントラー(枝角。えだづの)と呼ばれ、枝分かれがあり、一定のペースで抜け落ちてはまた生えるというサイクルをもつ。

 カモシカはシカ科ではなく、ウシ科の動物。ウシ科のなかでもヤギやヒツジに近縁なヤギ亜科に属する。

 カモシカは「生きた化石」、原始性の魅力がある。カモシカにとって、急斜面上にある藪(ヤブ)は、安全と食べ物の両方を提供してくれるもの。

行動観察は、膨大な時間と労力がかかるうえ、しっかりデータがとれる保証のない、リスキーな方法だ。フィールドワークは、危険と隣り合わせ。地図と方位磁石を使って、迷わずに山を自由に歩き回る能力と、危険を予測して会費する能力が必須だ。そして、この調査技術を身につけるには、フィールドでたくさんの経験を積むことが絶対に必要。

カモシカは見た目に性差がほぼない。オスの「ちん玉」も簡単には確認できないし、メスの外部生殖器はほとんど見えない。

 カモシカはかくれんぼの達人。なんと、2時間も著者の前でフリーズしていたという。

カモシカ平の真ん前に建っている火山館を拠点として、著者は高山地帯のカモシカを観察していくのです。この火山館は電気は太陽光発電、調理のための火はカセットコンロ。暖房器具は薪(マキ)ストーブだけ。

冬山でパウダスノーを口にほおばるのは絶対やってはいけない。体内で雪を溶かす際に大量のエネルギーが奪われてしまうから。ええっ、そ、そんなこと知りませんでした。

 いやぁ、大変なんですね。研究者って……。でも、本人が満足しているんだから文句ありませんよね。一読をおすすめします。

(2025年11月刊。2200円)

松本清張の昭和

カテゴリー:人間

(霧山昴)

著者 酒井 信 、 出版 講談社現代新書

 井上ひさしもすごい作家ですが、松本清張もまた、まさしく巨匠ですよね。

 私は、松本清張の書いたものはそれなりに読んでいますし、北九州にある記念館にも数回は行きました。映画「砂の器」なんて、傑作中の傑作ですよね。

 40歳を過ぎて文壇にデビューし、49歳にはベストセラー作家になったのです。学歴は高等小学校。いわゆる高校・大学には行っていません。ところが、英語の勉強はずっと続けていて、海外へ取材に行ったときには、通訳なくして現地の人と話しています。いやあ、すばらしいことです。私がずっとずっとフランス語を勉強しているのも、巨匠を目ざすという魂胆があるからなのです(嘘です)。

 松本清張にはゴーストライターがいると信じられたことがあります。少なくとも常勤の取材チームがいて、下原稿をつくっていると、まことしやかに言う人もいました。でも、ゴーストライターなんていませんし、下原稿を書く取材チームもいないのです。もちろん、取材に協力した人は何人もいるようです。

 松本清張の武器は口述筆記できることでした。それこそ専属の速記者がいたのです。私は、その人の書いた本も読みました。ともかくすごいのです。1日に30枚もの原稿を口述しています。しかも、同時に2つか3つの本を交互にやっていくのです。信じられません。

 文壇バーに飲みに行くこともなく、午前10時から夜10時まで、毎日、ひたすら口述していったのです。そのとき、話しコトバがそのまま文章(書きコトバ)になるよう自らを訓練していました。これは簡単なようで、実はかなり難しいことなんです。

10日で単行本が1冊できあがるというペースだったと聞くと、モノカキ志向の私でも腰を抜かしそうになります。

清張の小説には「悪女」が登場します。それを生々しく描けるほど、清張にも浮いた話はあったのです。

この本ではA子とC子が紹介されています。瀬戸内寂聴は両方とも知っているようで、A子については高く評価していて、C子については本気で悪女だと想っていたとのこと。そして、清張もC子との交際によって、「悪女というものを初めて識(し)った。それ以来、小説に悪女を書けるようになった」と書いています。C子との苦労を作家として小説に生かしているのです。残念なことに、私は、この方面の経験が圧倒的に不足しています。

 清張にとって、小説は満たされない旅情を埋めあわせる「現実逃避」の手段だった。思春期に本を読みあさり、見識を深めることで、独自の人生観を築き、作家となったあとの創作に生かした。その着想そして下調べ、文章構成、本当にどうやって自分のものにしたのか、不思議でなりません。

 それなりに知られていることですが、清張は戦前、治安維持法違反で特高警察につかまりブタ箱に入れられています。共産党の活動をしたということではありません。知人から雑誌(合法の左翼誌です)を借りて読んでいただけで、芋ヅル式に検挙されたのでした。

 十数日間、留置場に入れられ臭いメシを食べた経験は、江戸時代に無宿人が佐渡島で強制的に働かされるという「無宿人別帳」に生かされている。これまた、たいしたものです。

 松本清張は作家生活40年を送り、82歳で亡くなりました。

(2025年12月刊。1210円)

ピッケルの神様、山内東一郎物語

カテゴリー:人間

(霧山昴)

著者 工藤 隆雄 、 出版 山と渓谷社

 私は本格的登山はしたことがありませんし、しようとも思いませんので、ピッケルなるものの実物を手にとったこともありません。でも、山に登るならピッケルが欠かせない道具だということくらいは、もちろん知っています。

 ピッケルとは、雪山に登るときになくてはならない道具の一つで、突風が吹いたとき雪に突き刺して飛ばされないように体を預けたり、滑落したときにピックという尖った部分を雪面に噛ませて停止させるなど、命をも左右するとりわけ重要なもの。そのため、ピッケルは「雪山にのぼる登山者のシンボル」として大切に扱われてきた。

ピッケルはヘッドとシャフトを合体させる。シャフトは北海道産のアオダモ(モクセイ科トネリコ属)。

仙台に住む山内東一郎は、そのピッケルをつくり続けた類にまれなる鍛冶職人。ところが、山内はコスパが悪く、いつも貧乏だったので、息子は愛想を尽かして、後を継がないどころか、逃げていった。

 山内は注文した人と実際に会い身長などを確認して、その人の体形にあったピッケルをつくる。山内は昭和41年に亡くなるまでの50年間に2千本のピッケルをつくった。

 山内No1が言成したのは昭和4年、山内が39歳のとき。山内40歳のとき、ニッケル・クローム鋼のピッケルを年間20本つくった。昭和8年ころ、輸入もののピッケル20円以下では買えないとき、山内のピッケルは16円ほどした。

 憲法学者の樋口陽一(昭和9年生まれ)も山内のピッケルを愛用した。

 ピッケルを手抜きしてつくったものは、ヘッドとシャフトを溶接したもの。だからピッケルが折れて事故を起こした。

鉄を極めるには機械より鉄の心を聞く。鉄の心を知ること、鉄から、「今だ、叩いてくれ」と言ってくる。その声を聞いて、火床から引き上げる。なかでも大変なのは火加減。金属を火床に入れ、フイゴで炭の火力を強くし、金属が赤色から柿色になったとき、焼き入れ(素早く取り出して急冷する熱処理)をする。

それは、ほんのわずかな時間。瞬間といってもよい。すべては勘。焼き入れが熱すぎても低すぎても、硬くならず使いものにならなくなる。 

鉄と話をしながら鍛錬しないとうまくいかない。鉄の心を知ることが大切だ。鉄は一見すると同じように見えるが、人が一人ひとり違うように同じものは何ひとつない。しかも、天候や火加減などによって、叩いているうちに質が変わってくることもある。そんなときは、焼き入れの時間を早めたり、水をかけて調節したりする。それでもダメなら、惜しげもなくスクラップにする。ピッケル作りは、それほど手間のかかる仕事だ。

職人技のすごさを少しだけ知(識)ることのできる本でした。

(2026年2月刊。2420円)

戦争ではなく平和の準備を

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 川崎 哲・青井 美帆  、 出版 地平社

 今やトランプのひどさがあまりに目立ってしまい、プーチンはひそかにほくそ笑んでいるのではないのでしょうか。

 ホルムズ海峡閉鎖によって原油が日本に入らなくなり、このところナフサ途絶によるモノ不足が大変心配されています。

 それにしても、高市首相の無為無策には呆れるというより怒りを覚えます。それでも支持率が53%だなんて、なんて日本人は騙されやすいのかと嘆くばかりです。

でも、まだ希望を捨てたわけではありません。連日のように国会周辺に「高市やめろ」「改憲反対」などを叫んで人々が何万人と集まり、声を上げているからです。この集会について、NHKをはじめ一般マスコミがほとんど報道しないのはおかしなことです。希望というのは、これまでのように年輩者だけではなく、20代と30代で参加者の半分を占めていて、なかでも女性が7割もいるということです。これなら、お隣の韓国にならって高市退陣も夢ではありません。

 本書の杉原浩司氏による「死の商人国家」への墜落をどう喰い止めるかの要点を紹介します。

 岸田首相(当時)は、「戦闘機の第三国への輸出は国益」だと断言した。殺傷能力のある兵器の輸出を日本はずっと禁止してきました。しかし、人殺し兵器で軍事企業をもうかるのを「国益」だとしたのです。とんでもないことです。

 日本は、これまでアメリカの不法な武力行使を一度だって反対したことがありません。いつだってアメリカの言いなり。先日のトランプ・高市会談で高市首相はトランプに抱きつくという醜態を見せて心ある人のひんしゅくを買いました。ホワイトハウスでの歓迎パーティーのとき、両手をあげて踊っている姿は、これぞまさしく「奴隷」の踊りといわんばかりの醜さでした。

 高市首相はトランプに何を約束したのか、させられたのか、外交上の機密と称して国民に明らかにしていません。とんでもない首相です。

 イタリアのメローニ首相は、もとは高市と同じく右翼のようですが、イタリアはトランプの言いなりにはならないと、きっぱりした態度をとっています。高市には見習ってほしいものです。

 今や日本は、国内外の「死の商人」にとって魅力的な市場となっている。なにしろ、軍事費は5年間で43兆円(ローン込みだと60兆円)というのですから、アメリカだけでなく、世界各国が日本に売り込みをかけるのも当然です。

注目すべきはイスラエルです。幕張メッセでの武器見本市には、イスラエル軍事企業が16社も出展した。ドローンを防衛省はイスラエルから購入しようとしているとのこと。

 ロシアに攻めこまれているウクライナは、ドローンを大生産してロシア軍と対抗している。ドローンは偵察用から今や自爆型の攻撃兵器となっている。電波妨害を受けるようになると、光ファイバーによる有線ドローンを生み出し、今ではAIドローンが「活躍」している。ウクライナのドローン関連企業は450社もあり、ドローンの95%はウクライナ産だという。

 日本でも、三菱重工業やIHIなど、軍事産業でもうけを飛躍的に伸ばしている。そこに防衛省・自衛隊幹部が天下りして、軍産複合体が生まれ、「死の商人」たちばかりが肥え太っていくことになる。日本も落ちぶれたものです。なんとかして歯止めをかけたいものです。

(2025年5月刊。1980円)

ドローン戦争の時代

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)

著者 尾崎 孝史 、 出版 地平社

 杉原浩司氏の講演会が福岡県弁護士会があった(4月11日)ときに買い求めた雑誌「地平」5月号の特集記事の一つです。ロシアによるウクライナ侵攻戦争のなかで、ミサイルとあわせてドローンが大「活躍」している実情を知りたくて一読しました。

 ドローンに見つけられたら終わり。攻め手が負傷することはない。100対ゼロの非情の戦い。ウクライナ第63独立機械化兵団は、3年間で3000人のロシア兵を殺害し、400以上の兵器を破壊した。そして、2025年の1年間で撃墜した航空機とドローンは1万機をこえ、2024年の5倍となった。

 ウクライナの前線では、ドローンの9割はウクライナ製。ウクライナは年間400万機のドローンを生産している。これはNATO加盟国全体の生産量を上回っている。450社のウクライナ企業がドローンの製造に従事していて、ウクライナ最大規模になっている。

 ウクライナ政府は、ノルウェーやポーランドとドローンの共同生産に重点を置く文書に署名した。

ウクライナの若者のなかには、ロシア軍のドローンを集めて、アメリカに売って報酬を得ている者がいる。ドローン関連の商品を開発しようとするアメリカの起業家が購入している。

 いま、日本政府はウクライナ製のドローンを自衛隊に導入しようとしている。杉原浩司氏によると、日本はこれまで偵察用など防御的な用途のドローンを主としてアメリカ企業から輸入してきた。しかし、今や攻撃型ドローンの導入を急いでいる。その大半がイスラエル製。イスラエル製のドローンを扱っているのは海外物産という日本の小さな軍需商社。

ドローンによる攻撃で特徴的なのは、逮捕するとか捕虜にするといったことはなく、殺害することだけ。

 そして、ドローンを操縦する兵士の心理的トラウマやPTSDが指摘されている。遠隔操作なので、自分は被害にあわないものの、被害者側の状況を映像で詳細にみることから来る心理的負荷は強烈で、精神的に病んでしまう兵士が続出している。また、ドローン攻撃にもAIが活用されると、心理的負荷のないまま大量殺戮が可能になってくる。

 日本の防衛省は、5年間で1兆円をドローン関係にかける、2026年度の予算案に2773億円を投入しようとしている。自衛隊の隊員不足は深刻なので、無人化と省人化のためにもドローンを活用しようとしているということ。

 今、ガザでは、ドローンによって、いつ、どこで、誰が殺されるか分からない状況が長く続いている。そのため、ドローンに似た音がするだけで人々がパニックになってしまう。市民が心理的に大変なダメージを受けている。

 先日、私の家の上をオスプレイの3機編隊が飛んでいきました。低空ですし、騒音がいつものヘリコプターよりひどいので、すぐに分かりました。

 ドローンから目をつけられたら最後、というのは本当に怖いです。

 一刻も早く、ロシアもアメリカ・イスラエルも停戦し、みんなが平和に穏やかに生きられるようにしたいものです。

(2026年4月刊。1100円+税)

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