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カテゴリー: 司法

付き添うひと

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 岩井 圭也 、 出版 ポプラ社
 弁護士が少年の非行事件の弁護人として行動するときは、付添人(つきそいにん)と呼ばれます。そして、この少年には少女も含んでいます。
 少年非行事件は激減しました。年間50万件あったのが、今ではその1割の5万件ほどしかありません。ところが問題行動を起こす少年が減ったことを手放しでは喜べない、そんな気がしてなりません。いじめなど、非行が陰温化しているのではないか、子どもたちの伸びのびした創意工夫の芽が型にはめられて失われているのではないか、不登校やひき込もりが増えているのではないか…。子どもたちを取り巻く問題状況は、かえって深刻になっているようにも思えます。
 そして、何より、社会に起きていることや政治に関心がなく、無気力になっているのではないでしょうか。若者の投票率の低下は、そのあらわれの一つだと思います。
 親との葛藤のなかで生まれる少年事件では、付添人は親との対話にも大変苦労することがしばしばです。この本では、最後の参考文献に福岡弁護士会子どもの権利委員会による『少年事件付添人マニュアル』(日本評論社)もあげられていて、わがことのように鼻が高いです。
 子どもに関心を持たない親、子育てをあきらめてしまった親がいる。親の無関心は肌でわかる。手を差しのべられていないと感じる子どもが立ち直るのは容易ではない。手を差しのべる人は、親でなくてもいいのです。付添人は、そんな人とつながりをもって、少年の立ち直りを支えるのです。この本は、子どもが親からの虐待に逃げ込む場(シェルター)があることを紹介しています。虐待親の多くは子どもを自分のものと考え、必死に子どもを取り戻そうとします。なので、シェルターの所在は絶対秘密です。
 ところで、主人公のオボロ弁護士もまた親との関係で苦労させられた一人という経歴です。高認(高卒認定試験)を経て、働きながら夜間の大学の法学部で学ぶようになり、29歳のとき、3度目の司法試験に合格した。だから、対象となった子どもたちの気持ちがよく分かる。
 これほど劇的な体験を経て弁護士になったという人は私の身辺にはいませんが、少年付添人を熱心にやっていた(いる)人は何人も知っています。その日夜を分かたぬ熱心な活動に、いつも頭の下がる思いでした。
 少年事件の実際と付添人の弁護士の活動の実情を知ることのできる貴重な小説です。ご一読ください。
(2022年9月刊。税込1870円)

刑期なき殺人犯

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 ミキータ・ブロットマン 、 出版 亜紀書房
 司法精神病院の「塀の中」で、というサブタイトルがついている本です。
 両親を射殺した殺人犯は、責任能力がないとして刑務所ではなく、精神病院に収容される。すると、そこは、刑務所のような明確な刑期というものがない。精神科医の判断と刑務所当局の都合によって、刑期のない、いつ終わるか分からない生活を余儀なくされる。
両親を殺害したブライアンはショットガンと銃弾を購入した。ブライアンは妄想に浸り、眠れないなか、父親の背中をショットガンで撃ち、また、母親の身体を撃った。その瞬間、ブライアンは、これが現実だと分かり、その場から逃げた。やがて、警察署に自首した。
 アメリカでは、年300件以上の親殺しの殺人事件が起きている。統計によると、両親を殺した子どもが再び殺人を犯すことは、ほとんどない。彼らの恐怖や怒りの対象はもう死んだから。親殺しは、子どもが追いつめられ、押しつぶされ、絶望したり、どうしていいか分からなくなったりして限界を超えたときに起こることが多い。とても耐えきれないような状況に対する絶望の末の反応なのだ。
 ブライアンは司法精神病院に収容された。ここでは、患者の平均入院期間は6年以上。犯罪に関して「責任能力がない」とみなされるのは、「無罪」になるのと同じではない。「無罪」は、無実の罪が晴らされたことを意味している。しかし、「責任能力がない」というのは、ほかの意味では犯罪に責任があるとしている。
 女性患者は男性患者よりもトラブルが多い。
武器や自殺の道具に使われる可能性があるものはすべて禁止。ベルト、バスタオルなど・・・。そしてケータイ、パソコン、ハンドバッグ、財布も禁止。カフェインの入ったコーヒーや紅茶も禁止。
 精神病の人の診断は、担当した臨床医の判断による。精神科医には、強大な力がある。違う医師に診察を受けると、診断名がどんどん増えていくことがある。
ブライアンにとって、病院スタッフの大半が自分のことを思ってくれているのではないことは分かっていた。事なかれ主義だ。
病院の食事にも頼れない。スタミナを取り戻すためには、週に一度のテイクアウトの食事を利用し、エクササイズを再開するしかない。ブライアンはそう考えて、実行した。
 大半の患者にとって、一番の助けになったのは、他人と接する環境にいること。
ブライアンは、「チーク」もした。薬を飲んだふりをしてほほの内側に隠し、あとでトイレに吐き出す。コツがあり、一度覚えてしまえば簡単だ。チークすることで、自尊心は少し回復した。
 精神科医の一人が、妄想型統合失調症だということが、かなりたってから判明した。うひゃあ、そういうこともあるんですね・・・。
この病院の患者は、インターネットにアクセスすることができず、法律書もなく、タイプライターもコピー機も使えないので、申立書は全部手書きするしかない。しかも、副本は8本も必要なことがある。
 パーキンスは病院だと思われているが、刑務所よりたちが悪い。精神病院には、刑務所と同じくらい、法律に関して玄人はだしの収容者がいる。精神疾患は必ずしも見えて分かるものではない。外見に騙されないよう、弁護人として注意する必要がある。
 ブライアンは、犯行の時点では重度の精神病だった。これは本人も認めている。27年後、自分の病気は20年前より寛解していて、もはや妄想型統合失調症ではないと信じている。そして、まだ慢性の精神障害ではなく、決して危険でもない。
加害者を措置入院させるのは、本人を治療するためなのか、社会から隔離するためなのか、親族の都合なのか・・・。そもそも精神病院とはどういうものなのか。医師にとっては目に見えるように確かなものなのか。投薬を主としている現在の治療の傾向は正しいのか。身体の病気のように全快することはありうるのか・・・。ブライアンは事件から30年たった今もなお精神病院に入っている。
いろいろ深く考えさせられる本でした。
(2022年8月刊。税込2640円)

家裁調査官 庵原かのん

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者  乃南アサ、 出版  新潮社
 福岡家裁北九州支部の少年調査官を主人公とした小説です。実は、実際にあるのは小倉支部であって、北九州支部ではありません。著者は、もちろん知ったうえで、全国版の小説として北九州支部にしたのでしょうね。
 少年とあっても、これには女子も含まれます。少年・少女という男女の使い分けはしません。
 調査官は、まず読み、次に聴き、最後に書く。そのとおりです。少年本人や家族に会って話を聴く前に、関係の書面をまず読まなければいけません。そこで、いわば一定の「予断」を抱くことになりますが、それは手続的に仕方のないことだと思います。
 話を聴くといっても、少年と1対1で話がスムースに進行するとは限りません。親が同席して、介入することは多々あります。逆に、親との対話が難しかったり、本人がなかなか本心を言わないということも多いことでしょう。
 そして、調査官の所見(意見)を書かなくてはいけません。私の経験では、調査官の意見を完全に無視した裁判官に出会ったことはありません。むしろ、調査官の意見に盲従するタイプの裁判官のほうが多かったように思います。
 少年たちの多くが、強烈な人間不信に陥っている。そして、ほめられたり、無条件で愛された経験をもたないため、自尊感情がとても低い。自分には何の価値もないと思っているので自暴自棄になりやすい。自分のしたことの何が悪いのかなど考えもしなかったり、規則を守ることの意味も分からなかったり…。ガマンしたり、自分を律する訓練を受けていない、また自分の気持ちを明確にできないし、他人の思いをくみとることもできない。
 そんな人、いますよね…。ああ、この人は威張りちらすばかりだから、きっとこれまで大切にされたという実感がないんだな…と思うことはよくあります。
 弁護士(私のことです)に向かって威張りちらす人が、多くはありませんが、少なからずいます。弁護士の話の揚げ足とりをする人もいます。親や周囲から愛されたという実感をもたない、淋しい人生をおくってきた人なんだろうなと、いつも実感しています。
 家庭裁判所の補導委託先となっている人は大変だと思います。本当に頭が下がります。少年たちは、初め、大人をさまざまに試す。わざと怒られるようなことをしてみたり、嘘をついたりして、委託先の大人を「やっぱり信じられない」と決めつけようとする。
 なので、委託先の人たちは、少年を叱りつつ、根気強く諭(さと)すことを欠かさず、徹底的に話し相手になる、ほめるところはほめ、ときに共にふざけあったりして、少年が心を開いていくのを辛抱強く待つ。そのためには、少年を指図するだけでなく、率先して汗をかき、働く姿を見せる。
委託先の人たちは、「ガッカリ」させられることを積み重ねる。それが、運命だと割り切る。いやあ大変ですね…。
 外国人家庭の子の場合、日本語ができるのか、親との意思疎通をどうしているのか…。「援助交際」にはまった女の子の場合、家庭に居所がそもそもなかったり、むしろ親から逃げだしたほうがいいケースもあったりします。私も、最近、親との関係で一刻も早く家を出たほうがいいと思われるケースを担当しました。しかし、それでも先立つものが必要になりますので、その加減がむずかしいということは多々あります。
 いろいろ考えさせられるケースが提示されていて、弁護士として身につまされる本でした。
                         (2022年8月刊。1800円+税)

浅井さん、まだマンガ描いてる?

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 浅井俊雄さん追悼集編集委員会 、 出版 左同
 心優しき異彩の弁護士・浅井俊雄氏の追悼集です。2021年7月に亡くなった札幌弁護士会の浅井俊雄弁護士(修習37期)に対する心温まる追文がたくさん寄せられています。なにより浅井弁護士のホンワカタッチのマンガが秀逸です。弁護士会主宰の集会の告知など、たくさんのポスターに、内容ピッタシのマンガが描かれています。国家秘密法の制定に弁護士会が反対したときの「おぢいちゃんと国家秘密法」という4頁ものストーリーマンガは、本当によく出来ていて驚嘆します。
 中央大学で漫画研究会に所属し、浅井さんは研鑚を積んだようです。ところが、小・中・高以来、マンガを描いていたのかと思うと、さにあらず。大学まで一度もマンガを描いたことがないから、必要な道具は分からないし、道具の使い方も知らなかったというのです。ところが、描き方を教わると、なんとなんと、1ヶ月後に50頁ものマンガを描いて持参したというのです。これはすごーい。どうしても描いておきたい物語(ストーリー)があると浅井さんは言ったとのこと。果たして、どんなストーリーだったのでしょうか・・・。
 浅井さんは漫画研究会でマンガを描きつつ、司法試験の勉強にも集中して取り組み、卒業した翌年に、合格しています。そして、さらにすごいのは、合格したあと、「週刊少年チャンピオン」新人まんが賞に応募して、最終選考に残ったというのです。審査員の一人は、かの天才マンガ家の手塚治虫でした。プロのマンガ家になれなかった浅井さんは、その後はおとなしく弁護士の道に入ります。イソ弁もして、独立しますが、じん肺訴訟弁護団に誘われて活動します。弁護団の議論がとても性にあったようです。
 浅井さんと同期の2人とあわせた3人は「奴隷階級」と言われて、全般的にこきつかわれたそうです。でも、楽しげに浅井さんは仕事をこなしました。浅井さん本人が描いた「ある日の弁護団会議」というマンガがあります。浅井さんたち3人の弁護士は、とびきり優秀なので、どんな仕事も安心して任せられたのです。
 浅井さんは、大量で複雑な情報や理屈をとてもシンプルにとらえ、他人(ひと)にわかりやすく伝えるという能力にすぐれていました。それはマンガに如実にあらわれていると思います。実際に起きた長距離トラック運転手の過労死事件をドラマ化して市民集会で上映したとき、浅井さんは脚本と監督を担当しました。すごい、すごい・・・。
 浅井さんは映画も好きで、「僕の好きな映画2本」として、「ローマの休日」と「七人の侍」をあげています。私とまったく同じ好みなのに驚きました。
 最後に、浅井さんは、夕張炭鉱にもぐった経験があり、それを詳しくレポートしています。三池炭鉱が閉山する前に、私も有明海の地底深くに一度だけもぐったことがあります。浅井さんたちは「じん肺訴訟」の検証として裁判官たちと一緒に坑内にもぐったのです。このときの炭鉱の職員とのやりとりはとても興味深いです。
浅井さんは60歳で難病(病名は書かれていません)のために、やむなく弁護士の仕事をやめ、63歳で亡くなりました。私は面識はまったくありませんが、この追悼集を読んで本当に惜しい人を亡くしたと思ったことでした。
 同期(26期)の岩本勝彦弁護士から贈呈してもらいました。いい本を、どうもありがとうございます。
(2022年12月刊。非売品)

平成司法改革の研究

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 須網 隆夫ほか 、 出版 岩波書店
 375頁、5000円という大作なので、いったいどれほどの弁護士が読むのか、いささか疑問があります。しかも、司法改革は失敗したと言いつつ、司法試験合格者を2000人に戻せとか(私は反対しません)、裁判員裁判を被告人の選択制にせよとか(私は疑問です)、民事審判委員会を新設せよとか(これも疑問です)、予備試験を廃止せよとか(私は賛成です)、とかく話題というか議論を呼びそうな提起がいくつもされています。
 この本で指摘されていることで、私自身にもっとも身近なことで言えば、東京・大阪以外の地方、とりわけ地裁しかない単位会では、20年以上前の2000年ころの人数にまで弁護士が減少していること、今後も増える見込みはなく、やがて、その地域での「法の支配」は確実に減少するということ(250頁)。これは、九州各県でも、まさしく現時点で現実化しつつあります。
 弁護士、とくに若手弁護士は窮乏化している、それは合格者を2000人にしたからだ、合格者は1000人以下にしろという主張を声高に言いつのる人は、昔も今もいます(最近では、さすがに少なくなってきました)が、私は現実を直視しない議論だと昔も今も考えています。若手弁護士の窮乏化は合格者2000人が原因ではなく、「弁護士急増」が原因でもないと私は思います。合格者を2000人にしても1500人にしても、また1000人以下にしても、7割以上の人が東京・大阪そして高裁本庁の大都市に登録を希望するのは必至です。だったら、少しでも合格者の多様性を確保すべく2000人にしたほうがいいと思うのです。
 いったい、「若手弁護士の窮乏化」は本当なのか…。この本(138頁以下)は、「弁護士全体のニーズは減っておらず、弁護士市場は飽和している、パイはこれ以上大きくならないという主張には根拠がないとしています(141頁)が、私の実感にもあいます。
 たしかに、以前に比べると私自身の法律事務所の経営状況は楽ではありません。それは事実なのですが、それは以前ほどガムシャラに事件活動をしなくなり、顧客の新規開拓にも意欲的ではないことにもよります(所員の高齢化が主たる原因です)。それにしても、若手弁護士の初任給が600万円、700万円いや1000万円だという話には驚いてしまいます。東京の大手事務所そしてカタカナ事務所の実情はどうなっているのでしょうか。
 弁護士の受任事件の今後を議論するときに欠かせないのは、法テラスをどうみるのか、LAC関係の受任予測はどうか、だと思います。この本では、その点が十分でなく、不足しているように思います。法テラスの報酬は「生き甲斐搾取」でないかと私も思いますが、それでも、かつての低額そのものだった国選弁護報酬とか法律扶助に比べたら相当改善されたことも事実です。
 若手弁護士は法テラスに頼らなくなっているとか、報酬への不満から登録しなかったり、登録を取り消しているという主張を聞きます。本当でしょうか…。
 私の法律事務所では、法テラス関与が弁護士によって4割から8割ほどにもなっていて、貧困・低所得者層が大量に存在する現実を前にして、法テラスに登録しないでやっていける若手弁護士がいたら、それは貧困・低所得層は相手にしないでやっていける(やっている)ということだと私は思います。法テラスに登録せず、国選弁護事件はやらないと公言している若手弁護士がいるのは残念でなりません。
 司法試験制度を考えたとき、予備試験の受験生が急増していることが本書には見あたりません。早道なのは、初めから分かっていたことです。せっかくロースクールを設置するのなら、こんなバイパスはきわめて限定的な例外的なものにすべきだったと思います。今の現実は、まったく例外でもなんでもなく、むしろ「王道」かのように見えてしまいます。なので、ロースクールに一本化することに私は賛成せざるをえません。
 行政訴訟が極端に減っているのは、どうせ裁判しても勝てないというあきらめ感の反映でもあると思います。苦労ばかりさせられたあげく勝訴できないのでは、「絵に描いた餅」の典型です。私も住民訴訟を何回もやりましたが、ついに一回も勝訴判決を得ることはできませんでした。行政のやっていることには問題があるが、違法とまでは言えない。そんな裁判所の姿勢では行政事件を起こそうという気にならないのも当然です。たまには勝たないと、勝訴の可能性が少しでもなければ、重たい行政訴訟をやる気にはなりません。だって、基本的に行政事件は途中での和解というのが考えられず、被告席には5人ほど並んでいますから、プレッシャーは強烈なのです。
 もっともっと議論していいし、議論する一つの材料が提供されている本だと思いました。
(2022年9月刊。税込4950円)

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