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カテゴリー: 中国

モンゴル帝国

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 楊 海英 、 出版 講談社 現代新書
 チンギス・ハーンの創設したモンゴル帝国で、カギを握っていたのは、実は女性だったという視点に貫かれた新書です。最後まで興味深く読み通しました。
 モンゴルの女性は、遠征や大ハーンを選出する政治集会やクリルタイや宮廷行事に参加していただけでなく、多くの場合、むしろ主催者だった。遊牧社会の経済を牛耳り、日常的に運営していたのは女性。男性は戦士であり、家庭の日常的な経済運営には関わらない。経済と子育て、一家の独立自強を支えているのは女性。
 モンゴルの男たちは、みなマザコン。モンゴルなど、ユーラシアの遊牧民は娘を溺愛する。
 チンギス・ハーン家と有力な貴族家との婚姻関係は双方向だった。モンゴル帝国が成立したあと、チンギス・ハーン家の娘たちは、草原の慣習法を背負いながらイスラム世界に嫁ぎ、かの地で子どもを育て、政治と軍事活動に加わった。
女性は、独自の天幕(ゲル)式宮殿おルド(宮帳)を持っていた。オルドには、多くの家臣と将軍が陣取り、複数の千戸軍団を指揮し、応範囲にわたって経済活動を展開した。猟は男性の遊びであり、軍事訓練でもある。
 モンゴルの男性は、7歳くらいから猟に加わる。天幕の前で馬糞を燃やして人間の匂いを消し、馬の腹帯をしっかりと締めてから出発する。
 族外婚の制度を実施する遊牧民は、なるべく遠くから嫁をもらう習慣を古代から現代に至るまで維持する。無理矢理の略奪婚でも、数日後には同じように正式の手続きを進めていかなければいけない。今日でも、結婚式は、略奪婚時代のしきたりに従って挙げられる。略奪婚は儀式と化して残っている。
チンギス・ハーンの本名であるテムージンとは、「鉄のように強い男」という意味。
モンゴルの女性は、ウバジャルタイという野生の果物の汁を顔に塗って、赤く見せていた。
 遊牧民の世界では、部下の功績に対して公平に賞与を与え、戦利品を平等に分配することがなによりも重要なこと。
 遊牧民の天幕は太陽の方向に門が開くように設営される。家の主人は天幕の北側に南面してすわる。主人の右側は男性のエリアで、左は女性の世界。主人の左に陣取る夫人たちも南に向かってすわる。侍女たちは北に向かって食事を用意したりして働く。
 現代に至るまで、モンゴルの男性は、旅するときに自分専用の椀と食事用のナイフ類を持参する。
 ユーラシアの遊牧民社会において、人間は父方から骨を、母方から肉を受け継ぐとされている。貴族は「白い骨」、庶民は「黒い骨」だと分類される。
チンギス・ハーンの遺体は故郷にもち帰られ、オノン河の西にそびえ立つブルハン山の頂上、万年雪をいただく峰々のなかに埋葬された。ええっ、大草原の地下深くに埋められ、地上部分は見事に整地されて誰にも分からないようにされたと聞いていましたが…。
 高麗の出身者は、モンゴル人の大元ウルスの宮廷において多数派を占めるようにまでなった。ユーラシアの遊牧民社会のオルド(宮帳)に宦官はいなかった。そして、高麗出身の宦官と宮女が主力となった。
 著者はモンゴル人として生まれ、日本に帰化しています。中国人(漢人)がモンゴル人を大量に虐殺した過程をたどった本の著者でもあります。
(2024年7月刊。1300円+税)

恐竜大陸・中国

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 安田 峰俊 、 出版 角川新書
 世界でもっとも恐竜が見つかった国は、アメリカでもカナダでもなく、中国。これまで322種が発見され、毎年10種もの新種の恐竜が報告されている。いやあ、これは驚きですね…。
 ティラノサウルスやトリケラトプスなどの仲間の起源が中国大陸にあったことも判明した。ということで、中国は、今や世界一の恐竜大国だ。
 中国の恐竜名は「龍」を「ロング」としたり「ロン」としたり混在している。
 中国では年に20体ほど、恐竜の全身化石が見つかっていて、ありふれた現象になっている。
 これまで、中国で恐竜化石発見には、農民が必ず登場していた。ところが、今ではネット社会なので、インフルエンサーが活躍している。
 恐竜の卵の化石を発見したのは、なんと9歳の少年だった。2019年7月、広東省の河源市に住む少年。
恐竜のタマゴ化石は、中国では、すでに1万8千個も発見されている。いやあ、これはすごいですね、1万8千個とは、ケタ外れの数です。
 恐竜の足跡化石もあちこちで発見されていて、家畜のエサ皿として使われていたのもあった。高僧の化石だと思われていたものが、実は恐竜の足跡だったということもあった。
 ちなみに、台湾では恐竜の化石は見つかっておらず、今後も見つからないだろう。つまり、地層が古くなく、新しいからです。
 中国が恐竜大国であることを実感させてくれる新書でした。
(2024年6月刊。960円+税)

台湾のデモクラシー

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 渡辺 将人 、 出版 中公新書
 これは面白い本でした。「台湾危機」をあおり立てる風潮が強まっているのは、軍備予算を拡大させて自分の金もうけにつなげようとする腹黒い人間がいかに多いかということだと思います。まあ、それにしても、この本を読んで、つくづく私をはじめ日本人の多くが台湾のことをちっとも知らないことに気づかされました。
台湾には「四不一没有」がある。四つのノー、ひとつのない。中国共産党が台湾に軍事力を行使する意思がない限りは、台湾の独立を宣言しない。国号を変更しない。憲法に「二国論」を盛り込むことを推進しない。現状を変更する統一か独立かの国民投票を推進しない。国家統一綱領や国家統一委員会の廃止をめぐる問題もない。
 つまり、台湾の人々の多くは台湾の独立を望んでいるけれど、それが中国と戦争することを意味するのなら、もう少し先送りして様子をみようという賢明な選択をしているわけです。
 それなのに、自民党の麻生太郎のように「台湾危機」をあおりたて、いざとなったら日本は戦争しても台湾を守るなんてバカなことを放言したのです。戦争が起きないようにするのが政治家の勤めなのに、お金欲しさに馬鹿なことをヌケヌケと言ったのです。許せません。
 長く台湾を支配してきた国民党は一般庶民に直接訴える必要はなく、団体を通じて有権者を動員できると考えてきた。それに対して民進党は、社会的な草の根組織がなかったことから、市民を動かすために宣伝する必要があった。
 アメリカと違って戸別訪問文化のない台湾では、辻立ちするか、集会を開くしかなかった。台湾は38年間も戒厳令を体験している。日常が非日常という日々を生きてきた。
アメリカへの台湾人留学生は多く、年間2万人を維持している。アメリカ留学帰りが一番偉く、次にヨーロッパと日本が来る。
台湾は学者閣僚が多い。台湾では、教授は尊敬の対象だ。台湾の政治集会は、台湾特有の夜市文化と一体化している。夜市と政治は、台湾では選挙集会をライブコンサートに進化させてしまった。集会は政策を語る場ではない。地域と同じ体験を共有して確認しあう場。感情の共振こそが大切で、政策論は関係ない。だから音楽が欠かせない。
 テレビメディアが急に党派的になったのは、市場経済の競争原理が関係している。むしろ政治的に色があいまいな人はテレビに出演できない。政治討論番組は生放送ではなく、録画して、編集されている。
 若い人々は台湾語を理解できないことが増えている。
台湾には言論の自由があるため、偽情報も流通しやすくなるというジレンマがある。
台湾が日本と決定的に違うのは、台湾の運動が成果をあげ、成功体験が学生そして市民に共有されていることです。1990年の「野百合(のゆり)学生運動」、そして2014年の「ひまわり学生運動」は、いずれも成果をあげて成功体験が集団的記憶として積み重ねられている。いやあ、これは日本と決定的に違いますね。
10年前に安保法制法反対運動は大きく盛り上がりました。弁護士会も市民とともに集会を開き、パレードをしましたが、若者そして市民のなかに成功体験を共有化することはできませんでした。
台湾について、大変勉強になりました。ご一読を強くおすすめします。
(2024年5月刊。1080円+税)

中国拘束2279日

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 鈴木 英司 、 出版 毎日新聞出版
 公安調査庁のスパイとして中国で逮捕され、6年という実刑判決を受けた著者による体験記です。著者は公安調査庁には中国に内通している大物スパイがいて、今も活動していると推察しています。
 日本の公安調査庁は、オウム真理教のおかげで生きのびている、盲腸のような存在だとみられてきましたので、中国側の認定は誇大視だと思うのですが…。
この本で、中国の刑事司法手続の一端を知ることができました。
 その一が、居住監視。逮捕ではないけれど、拘束されます。その実態は監禁そのもの。3ヶ月間という制限があるが、延長が許されている。そして、この期間は、法律援助(扶助)制度による弁護人は付けられない(付かない)。
著者が居住監視生活に入ったのは2016年7月15日。正式に逮捕されたのは2017年2月。そして、同年5月に起訴され、2020年11月にスパイ罪で懲役6年の実刑判決が確定し、刑務所に収監された。著者が日本に帰国したのは、2022年10月11日。したがって、6年以上、中国で監禁、拘束されたわけです。
 著者に付いた弁護士は、著者からすると、「まったく期待外れだった」。著者が無罪を主張すると言っても、「それはやめよう、罪の軽減をめざしてがんばる」というだけ。著者の主張を否定も肯定もせず、応援することもなかった。「何もありません」「特にありません」としか言わなかった。スパイ罪の裁判だったからでしょうか。裁判は非公開。2回目の公判で判決が下された。
 中国には、「認罪認罰制度」というのがあり、罪を認めて謝罪したら、法律によって刑期が短くなる。しかし、著者はあくまで無罪を主張した。
 ちなみに、弁護士を依頼したら、40万元(820万円)かかるだろうとのこと。これはまた、べらぼうな金額ですね…。
裁判官、しかも最高人民法院の裁判官だった人が著者と拘置所で同室だったそうです。汚職で逮捕された元裁判官です。その元判事によると、中国の「依法治国」は、まったくのインチキ。そんなことは中国では不可能。中国に人権なんてない」とのこと。そして、中国の裁判官は最高人民法院の院長をはじめ、裁判官の全員が賄賂(わいろ)をもらっているとのこと。恐るべきことです。
かなり以前の韓国でも、弁護士が裁判官を接待するのが常識でした。今ではもうそんなことはないでしょうね…。でも、中国では、どうやら、今も、続いているようです。
 アメリカ人(アメリカ国籍を有する人)が中国で逮捕・監禁・拘留されることはないとのことですが、日本人はときどき拘束されています。2015年5月から少なくとも17人の日本人が拘束され、うち5人は起訴されずに帰国した。10人は起訴され懲役3~15年の実刑判決が確定し、3人が服役中、1人は死亡、6人が刑期満了で日本に帰国した。
 日本政府も、大使館、領事館も、日本人保護のためには何もやってくれない。日本人としては寂しい現実です。
(2023年5月刊。1600円+税)

中国農村の現在

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 田原 文起 、 出版 中公新書
 これは面白い本でした。中国については相当数の本も読み、何回か行ったこともありますので、それなりに分かったつもりでいましたが、実はまったく分かっていないことをこの本を読んで、よくよく自覚しました。
 韓国の、かの有名な「爆弾酒」ほどではありませんが、中国の宴会には酔いつぶれるまで乾杯を繰り返す儀式があります。私はそんなことはしたくありませんので、そんなときは、全然飲めないことにして逃げます。実は少しは飲みたくても、ガマンするのです。
 中国官界の宴会には、表向きの賑(にぎ)やかさの裏に、言外に秘められた意味がある。村幹部を含め、現代の「官場」に生きる人々は腹芸に長(た)けた役者であり、タヌキでもある。つまり派手な宴会にしておいて形式的に歓迎を表明しておくと、相手の本意を察した客人は気持ちよく引き上げてくれるだろうということ。だから、そんな腹芸を知らない、うぶな日本人は宴会の翌日、みんなが歓迎してくれていると思っていると、あわわ、まだここにいたの…という反応に出会うというのです。こんなこと、日本では考えられませんよね…。
 農村地帯に住む人々は、大都市の住民と自分たちを比べることはしない。あくまで身近な村人とのあいだで比べて競争する。なので、4階建の家が村のあちこちに次々に建つ。1階は物置きにして、2階に住む。3階と4階は、子どもたちが戻ってきたら、そこに住まわせる。それまでは内装せず、コンクリート打ち放しのまま。
 家は巨大であり、勇壮であり、豪華なものでなければいけない。周囲が4階建の家なのに、自分のところは3階建てというのは「面子(めんつ)を失う」ことになる。こうやって、村から大勢の人々が都会に出稼ぎに出ているところでは、次々に4階建の家が立ち並んでいく。
 中国で分家になるのは、日本と違って、本家が優位に立つことはない。あくまで兄弟間の徹底的な平等の関係が前提であり、兄弟は親の財産を公平に分配する。
 中国では古い古い昔から戦乱の時代が続いたため、非常に流動性の高い社会であった。ここが、日本社会と決定的に違います。日本には地縁的なムラ社会が古くからありましたが、戦乱に明け暮れた中国には、そんなものはありません。では何があるかというと、血縁。安全保障の最後のよりどころは血縁だったのです。すると、どうなるのかというと、血族の中の誰かが出世すると、その人は一族を援助する「道徳的義務」を負うのです。
 もちろん、これは日本にもないわけではありません。でも、韓国や中国ほど一族(血縁関係)に尽くすということはないように思います(私個人もそうですし、私の周囲にも見当たりません)。
 若い農村出身者にとって、大都市は憧れの対象ではあっても、自身との「引き比べ」の対象ではない。都市は働くだけの場所でしかない。
 伝統的な中国の農村には「村八分」はなかった。血縁にもとづく実力関係のほうが大事であり、地縁的な共同体が存在しなかったので、「村八分」というのは村民の行動を制御する力にはなりえなかった。
自分に関係のない人間と付きあうのは面倒くさい。これが家族主義者である中国村民の心情を的確に代弁している。
 中国の農村地帯に入り込んで聴き取りすることの難しさがひしひしと伝わってくる本でもありました。
(2024年2月刊。960円+税)

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