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カテゴリー: 社会

伝える力

カテゴリー:社会

池上彰 PHPビジネス新書 2007年 840円
かつてNHKの記者や子供ニュースのキャスターを務め、現在はフリーのジャーナリストとして活躍する著者の2007年のエッセイ集。著者の近年の池上ブームといえるほどの大活躍により、改めて本書も脚光を浴び、ベストセラーランキングの上位に名を連ねている。
試しにいくつか目次を拾ってみる。
・深く理解していないと、わかりやすく説明できない
・まずは「自分が知らないことを知る」
・「よい聞き手」となるために
・「型を崩す」のは型があってこそ
・悪口は面と向かって言えるレベルで
・優れた文章を書き写す
・寝かせてから見直す
・アウトプットするには、インプットが必要
・思い立ったらすぐメモ
このように難しいことは何も書かれていない。ただただ人と人との関わり方を易しく易しく書き綴っている。これが「伝える力」の源泉なのだなあと感じる。
振り返って私も平素より「伝える」ことを生業とし、そのことに力を注いでいるつもりであるが、伝える内容の難しさを競うことに自ら陶酔しているところがあるな、とふと気付く。平易であることが大切であることを再認識させてくれる。
また本を読むのに時間がかかる私でさえ、この本を2時間で一気に読み通せた。このような一気に読み通させる迫力も、「伝える力」の本質に一面なのであろうな、と思った。
伝えること、それはその語義からも明らかなように、人が人に云うことである。伝える力を磨くことは、自分を磨くことであり、相手を尊重することであり、伝え、伝えられることの力は、そのような両者の健全で融和な関係の中で生み出されるものであるのであろうな、と考えた。

やめられない-ギャンブル地獄からの生還

カテゴリー:社会

著者  帚木 蓬生、    集英社 出版 
 
 やめられない病気は多い。アルコール、覚せい剤、シンナー、買い物、万引、露出症、セックス・・・・そしてタバコ。やめられない病気は数多いが、そのやめられない度合いの強さと本人の人生上の破滅だけでなく、周囲の人々をとことん苦しめる点において、やめられない病気の最悪のものは、ギャンブル依存である。学生なら勉強が手につかなくなり、社会人は仕事がそっちのけになる。家庭をもっても、不和と離婚。社会的な信用は失い、家族や親類から忌み嫌われ、軽蔑される。
 いくつものギャンブル依存症の症例が紹介されています。私の依頼者にも少なからずいましたし、現にいます。パチンコ店の前を素通りできない人々がいるのです。
借金と嘘。これがギャンブル地獄であがいている人間の見まごうことない二大症状である。悪性腫瘍よりもタチが悪く、治癒しない限り進行し、自然治癒もないのが病的ギャンブリング。
借金の尻ぬぐいは、病気を進行させる厳然たるカラクリがある。チャラにしたつもり、リセットしたつもりというのは見せかけだけ。見えないところで病気はぐんと進行している。
 著者のクリニックで初診した100人がギャンブルに平均して投入した金額は1300万円。うひゃあ、ちょっとした中古マンションが買えますね。ギャンブル開始年齢は20歳前後、受診時の平均年齢が39歳、19年間に1300万円がギャンブルで消えた計算になる。
 受診までにギャンブルに使った最高額は1億600万円。借金をかかえたギャンブル依存症の患者に対しては、一番いいのは、放置すること。本人の借金は、あくまで本人が少しずつでも返済していく。この重しが、再びギャンブルへと足を踏みはずさないためのガードレールの役目をしてくれる。
 病的ギャンブラーの頭のなかでは、寝ても覚めても、どんな巧妙な嘘をつけばいいかで占められている。思考がそこに集中するので、編み出された嘘は成功に出来ていて、なかなか見破れない。
 借金と嘘。この二大症状のために骨の髄まで苦しむのが配偶者であり、親兄弟である。本人はケロリとしているのに対し、周りの者が、心労からことごとく病気になっていくのが、病的ギャンブリングの特徴である。
 本人そして家族の錯覚は、この病気が本人の「意思」の力でどうにでもなると思っていること。この病気は「意思」とは無関係。ギャンブル地獄に落ちてしまっている病人には、もう「意思」はないと考えるべき。「意思」よりも強い脳の変化が、そうさせてしまっている。
 年少時にギャンブルを始めればはじめるほど、病的ギャンブリングにうつ病が合併しやすく、自殺企図にまで至りやすい。
病的ギャンブリングに効く薬はない。病的ギャンブリングには、自然治癒もなく、進行性である。回復の方位はただ一つ。週1回以上の自助グループへの参加と、月1回の通院、受診である。
鬼よりもロボットよりも悪いのが病的ギャンブラーである。
人間性を回復したとき、人は自然に次の三つの言葉が言える。
ありがとう。お世話かけるね。ごめんね。
なーるほど、ですね。お互い、いつまでまっとうな人間でありたいものです。作家として高名な著者は、本業の精神科医としてギャンブル依存症の治療に積極的に関わっています。
 私は少し前に、著者と個人的に話すことがありました。一年に一作ということで、その前の取材に何年かかけるということです。なるほど、よく出来ていると感心することばかりの本です。この本は、実践的な啓蒙書として読み通しました。
(2010年9月刊。1200円+税)
 フランス語の試験が終わったあと、KBCシネマで『ハーモニー』という韓国映画を観ました。いやあ、本当に心が洗われるっていうのは、こんなことを言うのですね。澄み切った歌声がまさしくハモっていて、素晴らしい映画でした。心の震える2時間が、あっというまにたっていました。女子刑務所のなかで収容者たちが合唱団をつくっていき、ついには外部でも発表するまでの出来栄えになったという実話に基づく映画です。指揮役の大女優の貫録に心が打たれました。ぜひみて下さい。

日本の現場 ― 地方紙で読む

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著者  高田 昌幸 ・ 清水 真、   旬報社 出版 
 
全国紙が、どれもこれも似たりよったりの記事しか書かない状況で、地方紙のほうが読みごたえのある記事をかくことがあります。その典型が沖縄の地方紙です。普天間基地問題についての沖縄タイムズや琉球新報の紙面は、まったく本土の記事とつくり方が違います。物事の本質をつき、しかも大胆な紙面構成です。沖縄に行ったときに、ぜひ一度、手にとってみて下さい。こんなにも違うものか、きっと衝撃を受けられると思います。
 共産党を除くオール与党の議会というのが全国どこでもあたりまえとなっています。それでは、議員と議会は何のためにあるのか。そこに目をつけたのが阿久根であり、名古屋、大阪でした。私は議会を無視する首長の独裁的なやり方は許せないと考えています。かといって、「オール与党」のぬるま湯にどっぷりつかって、質問もせず、ぬくぬくとして高給をもらっている議員に問題がないわけでは決してありません。先に『カウントダウン』という本を紹介しましたが、あの本も議会と議員の情けない実情を鋭く告発しています。福岡でいうと、先日の西日本新聞の特集記事でも少し問題としていましたが、今の県議会は本当に県民の役に立っているのか、私は大いに疑問を感じています。
 北海道議会は、議員の質問はすべて「答弁調整」によって質問も答えもあらかじめ出来あがっている。それを全廃したのが鳥取県議会。シナリオのない、スリルとサスペンスの本会議。これが本当の議会のあり方でしょう。行政当局と議会とのあいだに緊張関係がなくなったら、例の阿久根市長のようなとんでもない人物が出現します。
 陸上自衛隊の中央即応連隊は宇都宮駐屯地にあるのですね。下野新聞社がルポで報道しています。総勢700人の中即連隊員のうち3分の1が常時、待機している。海外派遣に備えて風土病などの予防のためワクチン9種類の予防接種をくり返す。
 陸上自衛隊で最初に死ぬのは中央即応連隊員。だから覚悟しておくように。
中央即応集団は、合計4200人態勢である。これって怖い話ですよね・・・・。
静岡県内には「デカセギ」として、ブラジルから日本に逆移民してきている。5万人いる。その実情を静岡新聞社が追っています。差別と孤独。希望と閉塞感。2つの祖国・・・・。静岡県内の公立小中学校に在籍する外国籍の児童・生徒は4000人。うちブラジル国籍が2600人。言葉の壁は厚い。外国人犯罪も発生している。
 びっしり記事のつまった622頁をざっと読みました。日本全国、各地でさまざまな深刻な問題をかかえていることを今さらながら知りました。もっと知るべき、知らされるべき現実だと思います。大新聞以上にテレビがあてにならない現状では、地方紙の健闘に大いに期待したいところです。
(2010年9月刊。2500円+税)

機密を開示せよ

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 機密を開示せよ
 著者 西山 太吉、  岩波書店出版 
 1969年というと、私は大学3年生で東京にいました。東大闘争が3月に終わり、1年ぶりの授業が始まってまもなくのころです。そのころ、沖縄はまだアメリカの統治下にあり、日本に復帰する前でした。
アメリカは、日本に沖縄を返還するから、それまでに投資した資本は全部回収する。返還するとき、アメリカは1ドルだって支出はしない。基地については、移転・改良を含めて日本側で費用は負担する。そんな屈辱的な密約が結ばれたのです。当時の首相は、ノーベル平和賞をもらった佐藤栄作首相でした。こんなことを決めたアメリカ言いなりの首相に対して、日本の右翼が売国奴といわないのは不思議なことです。
 アメリカは、このとき日本から7億ドルをもらえることになったほか、基地移転その他の費用として2億ドルも日本から得ることになった。そして、思いやり予算は1978年に62億円で始まったが、その後も存続して、今日なお2000億円台のまま、ずっと推移している。
 これって、日本はアメリカの属国だっていうことなんじゃないのでしょうかね。こんなことをやっている国は、世界中で日本だけです。ひどい話です。それも、日本の安全をアメリカが「守って」くれている代償だというわけです。でも、アメリカに日本を守るつもりがないことは、何回となくアメリカ政府・軍部の高官自身が高言していますよね。本当に日本っておかしな、不思議な国ですよね…。
 著者の長年の取り組みが、判決文によく反映されていると思いますので、2010年4月9日の東京地裁(杉原裁判長)の判決文の一部を紹介します。
 「原告らが求めていたのは、本件各文書の内容を知ることではなく、これまで密約の存在を否定し続けていた我が国の政治あるいは外務省の姿勢の変更であり、民主主義国家における国民の知る権利の実現であったことが明らかである。
ところが外務大臣は、密約は存在せず、密約を記載した文書も存在しないという従来の姿勢を全く変えることなく、本件各文書について存否の確認に通常求められる作業をしないまま、本件処分をし、原告らの期待を裏切ったものである。このような、国民の知る権利をないがしろにする外務省の対応は不誠実なものと言わざるを得ず、これに対して原告らが感じたであろう失意、落胆、怒り等の感情が激しいものであったことは想像に難くない」
 国は、この敗訴判決に拉訴しましたから確定はしていませんが、なるほど著者の主張するとおりですし、一審判決の認定(判断)したとおりだと私も思います。
 国民に大事なことを知らせず、マスコミを使ってキャンペーンをして国民を誘導するという、戦前からの情報操作を止めさせなければならない。つくづくそう思わせる本でした。
 それにしても、西山太吉氏の不屈のがんばりには頭が下がります。
(2010年10月刊。1500円+税)

世論の曲解

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世論の曲解
著者 菅原 琢、 光文社新書  出版 
 メディアや政治評論家にだまされるな。この本のオビに書かれている言葉ですが、本当にそうですよね。でも、テレビの影響力って、怖いですね。小泉改革なんて、弱い者いじめの典型だと私は思うのですが、それを若者をはじめとする「弱者」が支持し、声援を送って投票所まで出かけたわけですから、世の中はほんとうに分かりませんね。
 自民党をぶっ壊せと叫んだ小泉ほど近年の自民党に貢献した人物はいない。小泉は選挙で窮地に陥っていた自民党を一定期間、救った。小泉政権の方針・政策はとくに自民党が苦手としていた都市部住民、若年層と中年層から支持を集めた。自民党は農村の支持基盤を維持したまま、都市部での支持を厚くすることに成功した。これが「小泉効果」である。
 2005年の総選挙で自民党は圧勝したが、それには若年層が大きく寄与している。このときテレビ報道が自民党への投票を促した。テレビが自民党のイメージを良化した。テレビは、限られた放送時間を郵政造反組と「刺客」との対決に焦点をあてた報道に消費し、野党を蚊帳(かや)の外に置いた。300選挙区のうち、わずか1割の33に過ぎない選挙区を過度に取りあげることにより、小泉政権による改革の続行か、守旧派による既得権益の温存か、という選挙の対立軸を設定した。恐らく、これが有権者の認識に影響を与えたのだろう・・・・。そうでしたね。これでころっと騙された人が多かったですね。
 小泉は、「自民党をぶっ壊す」と叫ぶことによって、既得権を擁護する古い自民党の立場を攻撃し、構造改革により小さな政府を目ざす路線を明確な形で導入した。これが新しい自民党路線である。しかし、小泉政権の終了とともに、古い自民党が勢いを取り戻し始める。
麻生太郎は、漢字を読めない。失言癖がひどく、他人(ひと)の注意を聞かない人物だというのは、もともとよく知られていた。リーダーとしてふさわしくないからこそ、小泉以前には麻生は首相候補とは見なされていなかった。うーん、そうだったんですよね。そんな人物でも首相になれるなんて、なんということでしょう・・・・。
 小泉が成功したのは、世論が望むことと合致することを発言し、ある程度、その方向に自民党政権を引っぱっていったからである。
20代や30代の若年層は、おしなべて政治報道に接する頻度が低い。新聞の政治報道に関して、4人に1人のみ。40代、50代の42%、60代以上の62%に比べて圧倒的に低い。ネットでは、政治情勢に触れることは少ない。
 2009年総選挙での自民党について、票の「行ったり来たり」とみるのは間違いである。自民党は、本来ならもっと負けていたところ、民主党が候補者を絞ったことによって助けられた。自民党が農村の10選挙区で「善戦」したように見えたのは、民主党が候補者を絞ったことによるものである。
私は日本の国政選挙の投票率が6割前後でしかないことにいつも歯ぎしりする思いです。北欧のように常時8割をこす投票率であってこそ、政治と生活が定着しますし、この日本が良い方向に進んでいくと確信しています。あなたまかせでは決して日本の政治は良い方向に変わりません。大変刺激的な本でした。一読をおすすめします。
(2009年12月刊。820円+税)

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