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カテゴリー: 社会

奇跡の村

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 相川 俊英 、 出版  集英社新書
 「限界集落」が必ずしも自然消滅するわけではないということを再確認させられる新書でした。知恵と工夫によって、若者を呼び込んで、それなりに復活することがあるのです。だって、人間は、目標さえ具体的で確であれば、80歳をこえても楽しく働いていけるし、それが村(町)おこしにもなっていくのですから・・・。
 この新書では、全国いくつかの実例を紹介していて、大変参考になります。
 長野県の南端にある下條村は人口4千人足らず。ところが、子育て支援が効を奏し、全国有数の高い出生率を誇っている。この村は若者定住促進住宅を建設している。マンション風の村営集合住宅が村内に10棟(124戸)建てられている。家賃は2LDKで3万4千円ほど、これには車2台分の駐車スペースが付いている。ただし、二つの入居条件が付いている。一つは、子どもがいるか、これから結婚する若者であること。二つは、祭りなど、村の行事への参加と消防団への加入。この住宅は家賃の安さと暮らしやすさから絶えず満室状態。
 医療費は高校卒業まで無料。給食費は半額補助。保育料も半減。第三子は無料。出産祝い金は、第二子に5万円、第三子以上に20万円。入学祝金は小学生に3万円、中学生に6万円。ただ、悩みも大きい。その悩みは、村内に高校が一つもないこと。下條村は、「平成の大合併」を拒否して、自律した村として独自の歩みを続けてきたのでした。
 群馬県南牧村は人口2千人あまり。ここでは、小学校の運動会は村民参加型となった。小学生が少なくなり、また村民が高齢化して村民体育祭ができなくなったことから、一緒にしたのだ。ここでは古民家バンクという取り組みが進んでいる。人が住まなくなった古い民家を1ヶ月3万円で貸し出す。その結果、3年間で14世帯26人が村に転入してきた。ここでも二つの条件がある。きちんと近所づきあいをすること。地域の伝統行事に必ず参加すること。移住者は地元の人と一緒になって花を栽培して出荷している。
 いずれ地方は消滅すると単純に決めつけていはいけませんね。かの大東京にしても、いつ大震災で破滅するか分りませんし、あの3.11のときには危機に直面したわけです。やはり、日本が生き残るためには地方を守り育てておく必要があると改めて思いました。
                           (2015年10月刊。740円+税)

泣くのはいやだ、笑っちゃおう

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 武 井  博 、 出版  アルテスパブリッシング
 昔なつかしいHHKの人形劇「ひょっこりひょうたん島」について、担当ディレクターだった著者が裏話をたっぷりふくめて書いています。
 『ひょうたん島』が始まったのは1964年4月のこと。私が高校に入学した年です。それから5年間続いて1969年4月に最終回をむかえました。私がまだ大学2年生、本当は3年生に進級するはずでしたが、例の安田講堂攻防戦が1月にあり、ほぼ1年ぶりに授業が再開されましたので、4月進級はありませんでした。
 高校生のときですから『ひょうたん島』をじっくり見た記憶はありません。でも、そのパンチのきいた人形劇はとても印象に残っています。
 博士、ダンディ、ガバチョ、トラヒゲ、サンデー先生という個性的な人形と声優、そしてセリフがすごく印象に残っています。
 毎年1回、かつての弁護士会役員仲間が奥様同伴で全国を旅行してまわっていますが、そのグループの名前が『ひょうたん島』なのです。そして、博士とガバチョがメンバーにいます。私は、そこではモノカキと称しています。
『ひょうたん島』は東京オリンピックそして東海道新幹線と同じ年にスタートしたのだそうです。ええっ、そうだったっけか・・・。
 テーマソングを歌ったのは、なんと当時はまだ中学1年生だった前川陽子。これはすごいですね。そして、テーマソングの歌詞をつくる生みの苦しみが紹介されています。丸2日間、なんのアイデアも出ずに苦しみ、ついにNHKへ戻っていく列車の中で、井上ひさしが、「まるい地球の水平線」という言葉を思いついた。「丸くて水平」。実に非凡な夢ふくらむ発想だった。そして、列車のなかで歌詞が完成したのです。
 泣くのはいやだ。笑っちゃおう。井上ひさしにとっても、これはこれからも生きていくうえでの、人生のモットーだった。
 5年間の番組の脚本を書いたのは井上ひさしと山元護久。どちらも同時はまだ20代。二人がケンカすることなく共同執筆を続けたというのも、すごいです。遅筆堂で有名な井上ひさしですが、5年間、一度も空白をつくらなかったというのもすごいですね。井上ひさしは、実は大変な速読ができたようです。私も本を読むのは早いほうですが、はるかに上回る量と内容です。とてもかないません。
 そして、この二人には、どちらもカトリック施設育ちという共通項があったのでした。
 二人は、人形劇に対する不信感から、その限界を乗りこえようと、「せりふ」で勝負した。
 NHKで、この50年間でもっとも良かった番組の人気投票をしたら、『ひょうたん島』は『おしん』に次いで堂々の第二位だった。これまた、すごいですね。それほど、私たちの心に残っているのです。
 惜しむらくは、その放送がほとんど残っていないことです。当時はテープが高価だったため、上書きされていて保存されていないのです。本当に残念なことです。この本は、その良さを再確認する手がかりとなっています。
                           (2015年12月刊。1800円+税)

それでも企業不祥事が起こる理由

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  國廣 正 、 出版  日本経済新聞出版社
 コンプライアンスと聞くと、なんだか法令を形ばかり守っていればいいんだろうというマイナスのイメージがありますよね。著者は、その体験を通して、そんなものではないと力説しています。
 重箱の隅をつつく形式的な法令遵守(じゅんしゅ)の強制が、コンプライアンスの名のもとで横行している。コンプライアンスという言葉は誤解されている。コンプライアンスは単なる法令遵守ではない。危機的状況にある企業は、弁護士の法律的意見にしがみついてはいけない。
 パロマの教訓は、人が死亡するという重大事故が続発しているという重大リスク情報をもつ企業は、それを公表して次の事故を防ぐべきだというのが今日の日本社会における企業に対する社会的要請なのである。
企業の管理とは、裁判所を相手にするものではなく、消費者やマスコミなどの社会を相手にするものである。日本社会はルール重視の社会に変わっている。ところが、企業がそれに対応できずに、従来と同じ行動を続けていることが、多くに企業不祥事を生み出している。
 公正取引委員会に談合やカルテルがあったことを通報したら、申告1番目の企業については課徴金が全額免除されるという法律が既に10年前(2006年1月)に施行されているのですね。ちっとも知りませんでした。
 コンプライアンスを「法令違反に問われないこと」と考える企業は、「法令に触れない限り、少しばかり行儀が悪くてもかまわない。ビジネスチャンスはそこにある」という経営姿勢をとりがちだ。これは、合法的に法の網をかいくぐって利益をあげる手法。しかし、いつかは必ず失敗し、取り返しのつかない制裁を受けることになる。
 ダスキンは、「積極的には公表しない」というあいまいで成り行きまかせの方針でのぞんだ。この姿勢が危機を拡大させた。危機管理広報で大切なことは、報道されないことではなく、報道を1回で終わらせ、連続報道を防ぐこと。報道されないことを追及するあまり発覚したときに、いかに対応するかがおろそかになってはいけない。
 第三者委員会に入って苦労した体験を踏まえていますので、新人ではない私も大変勉強になりました。ありがとうございます。
(2010年7月刊。1600円+税)

会社という病

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 江上 剛 、 出版  講談社α新書
 会社がらみの不正が頻発している。なぜか・・・?
 社員が疲れきっているからだ。会社でストレスがないのは経営者だけ。社員は、誰もが「助けてくれ!」と悲鳴をあげている。多くの会社は、一見、社員を大事にするホワイト企業の顔色をしているが、その内実は「死ぬまで働け」というブラック企業になってしまっている。かつての日本企業は社員を大切にすると言っていたし、外国からそうしていると信じられていた。今では、非正規社員が雇用者の4割近くになったし、社員の多くが将来に不安を抱きながら働いている。
 東大卒は、大企業での出世に強い。それは「潜在能力が高い」からだという。
 うひゃあ、なんということでしょう。「潜在能力」だなんて、誰にも分らない「能力」ですよね・・・。
 長くサラリーマン人生を送ってきたものとして、学生に出来るアドバイスは、ただ一つ。出世なんかするな。出世欲にとりつかれ、そのためだけに他のすべてを犠牲にし、本来の自分の人生を失うことが非常に多い。ある程度の年齢になったら、出世欲は抑えたほうがいい。
派閥会社を生き抜く第一の鉄則は、絶対に浮気をしないこと。あっちふらふら、こっちふらふらというのは最悪だ。そして第二は、派閥に入った以上は、お茶くみ、雑巾がけをいとわないこと。
部下は育てるものではない。育つものである。
嫌な上司とつきあうには、ストレスをためこまず、上手に付き合っていく方法を考える。
会社の業績は、勉強のできる人材だけでは絶対に伸ばせない。バラエティに富んだ人材がいなければ、イノベーションは起きないし、馬力ある営業活動もできない。
サラリーマンにとって、定年とは、なかなか辞めどきを自分で判断できない愚かな組織人にとって、辞めどきを教えてくれる重宝なシステムだ。
社長経験者が相談役だの顧問だのといって会社に残ってプラスになることは一切ない。定年をもっとも必要とするのは、社長や相談役という経営トップなのだ。
日本の会社の成果主義というのは、ひとにぎりの老獪な経営者グループが、欧米なみの超高額の報酬を受けとり、少ない残飯を社員に配っているようなもの。会社の成果の大部分を経営者層がとってしまう欧米のシステムは日本には合わない。巨額の報酬をもらって居座るというのでは、社員のモラル(士気)は低下するばかりだ。
 銀行員として長くつとめた著者が、会社の病(やまい)を切れ味も良くバッサリ切り捨てています。会社づとめの経験がない私は、資格をとって良かったなと思うばかりです。
                           (2016年2月刊。880円+税)

「脳疲労」社会

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 徳永 雄一郎 、 出版  講談社現代新書
 ストレスケア病棟から見える現代日本、というサブタイトルがついた本です。著者は、全国初のうつ病専門病棟を開設した精神科の医師です。福岡と大牟田で診察・治療にあたっています。私も海の見える開放病棟に見学に行ったことがあります。
アベ内閣が推進している残業代ゼロ法案は、ますます際限ない長時間労働へと勤労者を追いこんでしまう危険があると著者は指摘しています。
 仕事による強いストレス原因で心の病気になったとする労災請求件数は2014年度は過去最多の1456件、うち支給決定が397件だった。前年を61件も上回っている。
 ホワイトカラー・エグゼブションを導入するのは現状に逆らうもので、過労死をさらに増やしてしまう危険がある。
 日本人は、家庭のストレス(20%)よりも職場でのストレス(50%)から体調を悪化させ、病気になる。この四半世紀で、ますます多くの職場が長時間労働や過重労働で疲労している。労働環境が悪化している。若い勤労者のIT化による脳疲労がすすんでいる。
不知火病院のストレスケア病棟に入院した患者は4000人をこえた。
クレーマーの心理的背景には、淋しさや悲しさがある。大事にされていない淋しさが潜んでいる。だから、逃げない姿勢が大切。逃げれば追いかけてくるが、向き合えば次第におさまってくる。心の奥底には、話を聞いてもらいたい願望が横たわっている。
クレーマーは攻撃しながら相手を細かく観察している。怒りながら、相手が嫌がっていないか、逃げてはいないか、手足の動きまでも細かく見えている。クレーマーには、逆に頼りたい感情が隠されている。そうなんですね。そんな人としっかり向きあうのは大変ですが、避けられませんね。
 上司も部下も、ゆとりをなくすと、感情をコントロールしづらくなる。上司はパワハラをはじめ、部下は上司を攻撃するという逆パワハラを起こす。
 風邪は、うつ病のもと。慢性的な脳疲労の最大の要因は、長時間の労働にある。
 うつ病は、世界的にみても有病率が高い。WHOによると、全世界の人口の5%、3億5000万人以上がうつ病に苦しんでいる。
うつ病治療の基本は、一に休養、二に薬物療法、三に再発防止のためのカウンセリング。
脳疲労を防止するためには、70%のエネルギーを会社で使い、30%のエネルギーを家庭のために残すこと。
著者は、私と同じ団塊世代です。実は、中学校の同級生なのです。これまで、たくさんの啓蒙書を出しています。今回も贈呈してもらいました。ありがとうございました。お互い、引き続きがんばりましょう。
                           (2016年1月刊。760円+税)

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