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カテゴリー: 生物

善良なウィルス

カテゴリー:生物

(霧山昴) 

著者 トム・アイルランド 、 出版 文藝春秋 

本書の主役はファージ。細菌に感染して自己複製するウィルス。正式には、バクテリオファージ、細菌を食べるもの、と呼ばれる。

ウィルスは、実に多様で、その大半は人間に無害。それどころか、ファージは、細菌に自らのDNAを注入し、その細菌細胞内で無限に潜伏するか、激しく増殖して細菌を破壊させ、そして人間を助けてくれる。

以上は、末尾の「訳者あとがき」を抜き書きしたものです。

ファージの大半は、尾を持つファージだ。カプシドと呼ばれる正20面体の不気味な頭部とタンパク質の管(テール)を持ち、それを小さな注射器のようにして、不運な宿主に自らの遺伝子を注入する。

ヒトが呼吸する空気中の酸素の20%は細菌が生成したもの。

地球上には、10の31乗もファージが存在すると推定されている。これは地球上の砂1粒あたり1兆近くのファージが存在するということ。

独ソ戦のなか、最大の激戦地だったスターリングラードで、ソ連の女性医学者が、毎日5万人の兵士と市民に投与できるほど大量のコレラ治療用ファージ混合物をつくっていたとのこと。初めて知りました。

ガンジス川の水は抗菌効果を持っている。煮沸しないガンジス川の水は、3時間以内に、コレラ菌を死滅させる。ええーっ、これって本当のことなんでしょうか…。信じられません。

ウィルスは群を抜いて豊富な生物学的存在。熱帯の海水1リットルに存在するファージの数は、世界人口より多い。

地球上のあらゆる環境において、ウィルスの数は、宿主である細菌の数を圧倒的に上回っている。

地球の歴史の大半を通じて、つまり40億年前に化学反応から生命が生まれて以来ずっと、生命はウィルスのスープに浸ってきた。ウィルスは、進化の主な原動力だ。

ウィルスは、ときどき細胞を殺す。しかし、細胞はウィルスからたくさんの、非常に重要な情報を得ている。あらゆる種類の細胞はウィルスを必要とする。

結核やコレラなどに対するファージ療法は、グローバル・サウスにとって特に有望だ。

条件がそろえば、フラスコの中で数個のファージが一晩で何兆個にも増える。

末尾に、ファージ図鑑があります。電子顕微鏡を通して見るファージの姿は千差万別であり、いかにも奇妙天烈です。これを見るだけでも、生命界の奥深さをちょっぴり実感できます。

(2025年11月刊。2700円+税)

すごい生きもの 春夏秋冬

カテゴリー:生物

(霧山昴) 

著者 本川 達雄 、 出版 中央公論新社 

「ゾウの時間、ネズミの時間」 (中公新書)の著者がラジオで放送していた内容を本にしたものです。毎月1回、15分間の生放送を7年間も続けたとのこと。たいしたものです。80回ほど、毎回違った話をしたので、得意な話題が尽きたあとは、前から知りたいと思っていた身近なことを勉強してまとめたそうです。偉いものです。尊敬します。

そのときには気が付きませんでしたが、著者は私と同じ団塊世代(1948年生まれ)で、同じ年に東大に入学しています。私は法学部で、著者は理学部の生物学科動物学教室です。10数年間、沖縄の離島でナマコを研究しています。

この本で、私が知って驚いたことを、いくつか紹介します。なんといっても、「排尿時間一定の法則」です。イグノーベル賞を2015年に受賞した「21秒の法則」とも言います。

尿を出し始めて出し終わるまでの時間が21秒。大人も子どもも、ゾウもみな21秒。出る量はみんな違う。でも、時間は同じ21秒。

これを発見したのは著者ではありません。アメリカのジョージア工科大学のフーさんという、中国系の若いアメリカ人。

このフーさんは、動物園に学生とともに行って、いろんな哺乳類の排尿時間と尿量を調べた。すると、みんな、平均21秒だった。

そして哺乳類は1日にだいたい5回トイレタイムがあるのも共通している。ええっ、私なんか、もう少し多いようですが…。

次は、鳥です。鳴いている、さえずっている小鳥は、みな、スズメ目に属している。鳥は1万種いて、その6割はスズメ目。カラスもスズメ目なんです。

シジュウカラの鳴き声には法則があることを野外調査で突きとめた話は、このコーナーでも紹介しましたが、メスはオスの鳴き声にひかれてやって来るけれど、さらに近づくかどうかは、目で見て判断しているとのこと。やっぱり見た目は大切なんですね。

見かけは植物としか思えないサンゴは本当は動物。ところが、サンゴは光合成している。しかし、それはサンゴ本体がなのではなく、体の中に藻類を住まわせていて、それが光合成する。この藻類はサンゴの細胞の中にぎっしりと入っていて、サンゴの体の半分ほどを占めている。なので、サンゴは半分植物。

タンパク質をサンゴ虫が捕まえるのは、触手を使って、動物プランクトンを捕まえて食べる。サンゴの排泄物は褐色藻の良い肥料となっている。これが共生。

「ゾウの時間、ネズミの時間」にナマコが紹介されています。ナマコは砂をのみこみ、その中に入っている有機物を栄養としている。こんな栄養価の低いものを食べてもやっていけるのは、祖先ゆずりのエネルギー消費量の低さがあるから。

そして、時間です。時間は唯一絶対不変なものではない。動物においては、時間は体重の4分の3乗に比例する。動物は、そのようにデザインされている。物理的時間で測れば、ゾウはネズミよりずっと長生き。ネズミは数年しか生きないけれど、ゾウは100年近い寿命をもつ。しかし、心臓の拍動を時間として考えるならば、ゾウもネズミもまったく同じ長さだけ生きて死ぬことになる。

本棚に大切にとってあった中公新書の奥付を見ると、1992年8月に初版が出て、私が買った1993 6月には、なんと20版となっています。この当時、爆発的に売れて、広く読まれたことが分かります。

さて、今度のラジオ放送が本になったものも、大変勉強になりました。

(2026年3月刊。2250円+税)

冬眠の生命科学

カテゴリー:生物

(霧山昴)

著者 山口 良文 、 出版 エクスナレッジ

冬眠をする動物は珍しくない。哺乳類の100種以上、全体の 5〜20%が冬眠する。

クマは冬眠するとされていたのに「冬ごもり」と呼ぶべきだとされていた時期がある。でも、 今では、やはりクマは冬眠すると再定義されている。

冬眠と呼ぶための最小限の特徴は、「低代謝」がコントロールされた形で長時間続くこと。

ヨーロッパの寒い地域に生息するオオヤマネは、なんと 1年のうち11ヶ月も冬眠する。1ヶ月しか活動しない。ええーっ、いったい寿命は長いのでしょうか…。

冬眠と睡眠は似て非なるもの。

恒温動物は、代謝を自ら落とすことで体温が下がる。 地球上のほとんどの動物は変温動物。脊骨をもたない無脊椎動物はすべて変温動物。脊椎(背骨)をもつ脊椎動物のうち、哺乳類と鳥類を除いたものはすべて変温動物に分類される。

凍った状態で冬眠するカエルがいる。凍るカエルは、細胞の中の水をうまく細胞の外に追い出すことで、氷点下でも細胞の中身自体は凍らないようにしている。心臓も止まっている。不凍タンパクは、水分子とうまい形で結合することで、水の 成長を抑えて凍結しないようにしている。

変温動物の中には、夏の暑さや乾燥などから身を守るため夏眠(かみん)するものもたくさんいる。えっ、冬眠ではなく、夏眠するのですか……。

鳥類は、基本的に冬眠しない。冬眠のときの体温は、外気温とほぼ同じ。兵庫県の六甲山で遭難した人が体温22度まで下がり、2週間も生きていて発見され助かったことがある。意識を失って、ほとんど何も食べなかった のだから、冬眠していたのと同じようなもの。いやはや、これはすごいことですね。

科学は誰も答えを知らない問題を自分で見つけて解かなければならないもの。新しい「問い」を立てて、それをいかにしたら解けるのか、解き方を自分で 考えるのが科学者で、それをプロとしてやっていくのが研究者の仕事。なるほど、ですね。

弁護士の仕事でも、正解はなく、絶えず次善の解決策を探っています。少しは似たところもあるように思いますが、いかがでしょうか。

(2026年3月刊。1980円)

食べた後どうなっているのか図鑑

カテゴリー:生物

(霧山昴)

著者 アリ・ベスタール 、 出版 ナショナル ジオグラフィック

とても面白い本です。知らなかったことが満載でした。消化器系に重きをおいた本です。

反芻(はんすう)動物とは胃が4つあり、4番目の胃が人間の胃袋にあたる。

プラナリアという扁形(へんけい)動物がいる。原始的な動物。プラナリアは自分の体を2つに切断すると、粉々になった体がそれぞれ再生し、完全な個体になる。プラナリアには心臓がない。なので血管もない。

人間の体内に寄生するサナダムシには消化管がない。胃も腸も口さえもない。宿主である動物(ヒトも含まれる)が消化した栄養素を体から直接吸収する。

クラゲは5億年以上も前から地球上に存在している。クラゲには目はないが、光のある場所を感じている。山形県鶴岡市のクラゲ水族館はぜひ一度行ってみたいと思っています。

ヒトデは5本ある腕のうち、残ったのがたった1本であっても、そこから円盤状の本体部分まで再生できる。

ナマコは攻撃を受けると内臓を外に放り出し、相手が驚いているうちに逃げる。内臓が再生するまでのあいだ、ナマコは内臓なしで生き続ける。

ウロコフネタマガイは、海底の火山に棲息する巻き貝。生きていくために、ものを食べる必要がない。食道の一部にすみついた細菌のおかげで生きている。硫黄を消化しているのは自分ではなく、化学合成菌。

タコは自然界でもっとも知能の高い、無脊椎動物。腕の一本一本に小さな脳がある。全部で3つの心臓があって、血液の色は銅を含んでいて青っぽい。

ゴキブリは、何も食べなくても1ヶ月以上は生きのびられる。

ハエ(イエバエ)の足には味を感じる受容体がある。

ハトは頭をもち上げることなく、頭を下げたまま水を飲める。それはハト目だけができること。ハトのミルク(ピジョンミルク)は、メスだけでなく、オスもつくる。

ネコの舌は甘さを感じることができない。舌にはざらざらした突起がある。

ウォンバットのうんちは立方体。大腸の終わりの部分でつくられる。転がりにくく、落ちた場所に留まりやすいため、うんちが目印となっている。

馬は一度に長い睡眠をとるのではなく、1日になんども短い睡眠をとる。

オオアリクイの舌は1分間に150回も出し入れができる。

すごい、すごい。そうだったんだ…。そう思って連休中はじっくり読みふけりました。図書館で購入してもらって、借りて読んでみてください。自然界の脅威(不思議)にふれることができます。

(2026年2月刊。3690円)

生きものは遊んで進化する

カテゴリー:生物

(霧山昴)

著者 デイヴィッド・トゥーミー 、 出版 河出書房新社

誰だって遊ぶのは好きですよね。それで、人間だけが遊ぶのかと思っていると、生物全般が遊んでいるというのです。もちろん、食べ物が確保されてこそだとは思いますが…。

この本には、意外な動物、それこそ虫や魚たちまで遊んでいることが次々に紹介されています。なーんだ、遊びって、人間だけの特権かと思っていたら、そうじゃないんだね。改めて、そう思いました。

ワタリガラスは飛びながらぐるぐる回転しては仲間どうしで追いかけっこをする。水族館でテールウォーク(尾の力で水面上に体を垂直に打ち上げて立ち泳ぎをする)を覚えたハンドウイルカは、野生に戻ったあと、野生の群れの仲間も一緒になってテールウォークをはじめた。ゾウは、ぬかるんだ斜面を腹ばいになって滑ったり、背中で滑ったりする。

タコは意外に賢い。巣の近くに石を並べると、巣のなかにするりと潜り込み、そのあとで集めた石を引き寄せて入口をふさいだ。侵入者が入れないようにして眠りについた。タコは、いたずらと創意工夫を発揮する。

大人のキツネは、子ギツネと、しかも我が子ではない子ギツネとも遊ぶ。

野生馬では、遊びに費やす時間の長い子馬ほど、その後訪れる最初の1年を生きのびる可能性が高い。

ヒグマの遊びは識別しやすい。遊びの追いかけっこや取っ組みあいは声を出さずにおこなわれる。子グマ時代によく遊んだクマは翌年まで生きのびる可能性が高い。

健康なブタほどよく遊ぶ。遊びはブタの健康を示す妥当な指標である。子ブタが走るのを止め、いきなりでんぐり返しをする。子ブタが期待しているのは、でんぐり返しの直後、体勢を立て直して制御を取り戻す瞬間の体験。その部分が子ブタに満足感を与え、遊びを続けさせる。子ブタのでんぐり返しなんて、私は見たことがありません…。

荒っぽい遊びはケガにつながる恐れもあるが、情動を制御する手段を脳に授けてくれるかもしれない。とりわけ闘争遊びは、不測の事態に備えたトレーニングや、社会的スキルの獲得に必要な練習になる可能性がある。

人間の心を「読む」能力と狩りの力を兼ねそなえたイヌは、ヒトにとって貴重きわまりない存在となった。そしてイヌにとっても、十分に栄養をとれるうえ、世話もしてもらえるのだ。

闘争遊びをするイヌは、特定の合戦ルールにしたがう。力まかせにかんだりせず、しばしば役割を入れ替える。

魚も遊ぶ。魚のする「ひとり遊び」は、のんびりくつろいだもの。ある魚は、水から跳び出し、また水に潜る。これは娯楽である可能性がきわめて高い。

マルハナバチは、オスのほうがメスより、若い個体のほうが年老いた個体よりもよく遊ぶ。

多くの動物は弛緩した口を用いた表情を示して、自分が遊んでいることを示す。そのとき、口を開くのはわずかだけで、犬歯のある動物は、それが見えるほどには開かない。

動物学者は、遊びとは自然選択のようなものだと言う。生命はごく本質的な意味において遊びに満ちたものなのだ。

朝、鳩たちが大勢で飛びまわっているのをよく見かけます。あの鳩の集団にはリーダーがいないそうです。誰かが適当に先頭に立ち、適当に空を飛びまわっているようなのです。

多くのいまの子どもたちがゲームに夢中です。あれって本当に遊んでいると言えるのでしょうか…。機械に遊ばされているだけなのではありませんか…。自分の頭を使っているように見えて、そんなことはない。機械の手のひらの上で踊らされているだけ。頭はまったく機能していないように思えてしかたありません。ゲーム漬けの頭が柔軟な思考力を身につけることは、果たして出来るのでしょうか。

人間とは何かをも考えさせてくれる本でもあります。

(2026年2月刊。2475円)

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