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カテゴリー: 生物

時間とは何か

カテゴリー:生物

(霧山昴)

著者 池内了 、 出版 ちくま文庫

時間とは不思議なもの。刻々と過ぎ去っていくのを実感しながら、ときには止まって欲しいと願い、ときに早く過ぎて欲しいと望むことがある。

親から叱られている時間はわずか3分間であっても、30分間にも感じられる。一方、体を動かして遊んだり楽しんでいるときは3時間か30分間としか感じられない。

子供のころは一日が長かったのが、年をとるにつれて一日が短く感じられて仕方がない。

タイムマシンに乗って過去にさかのぼることが出来るとしたら、自分の親たちの出会いと結婚を止められたり、親を殺してしまうことができる。となると、自分は生まれないことになってしまう。それは明らかにおかしい。

アインシュタインが発見した法則によると、非常に速く動く物体の時間は遅れる(つまり、ゆっくり進む)。運動によって時間の流れる速さが異なっている。

アサガオは7月になってから、つるをニョキニョキと伸ばし、花を咲かせる。夏至(6月21日ころ)が過ぎて昼間の時間が短くなり、夜の時間が長くなると花が咲きはじめる。アサガオは昼の時間を測っているのではなく、夜の続く時間の長さを測って花を咲かす。夜の時間が長くなるのを知ってから花を咲かせる。

人間のからだのリズムは、多くが25時間の周期。真っ暗闇のなかで人間の体のリズムを調べる実験によって、人体のリズムはほぼ24時間。人による差異は、せいぜい30分ほど。つまり、人間は地球の自転周期、つまり一日の長さにあわせた時計を内部にもっている。

時間って、つくづく不思議なものですね。私も弁護士生活50年以上になりますが、振り返ってみると、まさに、あっと、いう間です。絵入りでもあり、とても面白い本でした。

(2026年1月刊。880円)

鳥は飛びながら眠る

カテゴリー:生物

(霧山昴)

著者 渡辺佑基 、 出版 中公新書

本屋に立ち寄って、たまたま手にした新書ですが、すこぶるつきの面白さでした。いやあ、生物はこんなふうに生きているのか……と、驚嘆し、感嘆し、また学者の地道な努力に対して、心から尊敬の念にあふれてしまいました。

画期的な新発見を次々に得たのは、バイオロギングです。超小型の計測器を動物の体に取り付けられるようになったからです。今や、人の目の代わりに、小さな電子機器と、上空に浮かぶ人工衛星が動物を観察する時代になったのです。そして、得られたデータを解析していくわけですが、そこには幾多の仮説を考え、想像して、データを当てはめたり分析していくという地道な作業が求められます。解明まで自動的に得られるというものではありません。

海中を泳ぎまわれるニシオンデンザメは、遊泳速度はのろいけれど、大人になるのに150年かかるという超スローの成長速度なので、寿命は400年という。ええっ、そんな大型生物がいるのですね、信じられません。

ニシオンデンザメは、北極の冷たい海中に生息するものとして、低体温。体が常時冷えきっているので、エネルギー消費量は非常に少ない。体重200キロのサメが1日に160グラムの魚を口にしたら、必要なエネルギーをまかなうことができる。いやはや、これは超超省エネの動物です。

ハチドリは、暗くて寒い夜になると、動きを停止して、昏睡(こんすい)状態になる。すると、昼間は40度の体温が、10度以下にまで下がり、3度になることもある。ハチドリは体温低下に伴って休眠する。

野生のゾウは1日に2時間しか眠らない。ゾウは無用のエネルギーを要する傾斜地を避けて平地のみで生活を完結させてエネルギーを節約している。

バショウカジキは、長い吻と大きな背びれを持っている。バショウカジキにも「利き手」がある。右利き、左利き、自分の得意な攻撃法を集団内に隠すことで狩りの成功率を上げている。

ヒトの女性は妊娠すると味覚が変化し、苦みについてさらに敏感になる。吐き気を催すのは、毒性への耐性の弱い胎児を守るための防御的な対応。

うまみは、消化しやすいタンパク質のしるし。

鳥は洋上を低く飛びながら、半球睡眠している。左目を閉じるときは脳の右側が眠り、左側は起きている。

オオツリハシギという鳥は、子育てが終わると、地球の裏側、1万キロも離れたニュージーランドまで、1週間ぶっ続けの羽ばたき飛行で移動する。

冬の寒いときに、小鳥がくちばしを自分の羽毛に埋めているのは、熱の発散を防ぐためです。

アザラシは、脳の片方の動きを止めて体が沈下しはじめるとノンレム睡眠が見られ、数分後にレム睡眠に切り替わって5分間ほど続き、最後に少しだけノンレム睡眠に戻ってから覚醒し、海面に向かって泳ぎ始める。このパターンだ。

クラゲには脳がない。神経細胞は体内に分散している。集中していない。それでも、観察すると、夜間に眠っている。

ヒトの睡眠パターンは、月の周期と連動している。女性の生理の周期は平均して29.5日。これは満月から満月までの日数とぴったり一致する。だから月経とも呼ばれる。

ヒトの睡眠にも月のリズムがある。満月の夜には寝付きが悪くなり睡眠が浅く短くなる。新月の夜は、逆にぐっすりと長く眠れる。

アザラシは、わずか4日間で子を独り立ちさせる。ズキンアザラシの母乳の脂肪分は、なんと60%にもなる。ヒトは3〜4%なだけなのに……。

生涯の途中でメスが閉経するのは、ヒトを除くと、シャチなど数種のハクジラ類に限られる。群れの行き先を決めるのはリーダーではなく、民主的な多数決で決まる。そのほうが失敗が少なく生存率向上に資する。

渡りをするツルに年長者がいるかどうかで、渡りの巧拙が決まる。やはり年長者の経験は生きるものなのですね……。

わずか250頁の新書ですが、次から次に新発見がテンコ盛りされていました。ご一読ください。

(2026年4月刊。1232円)

カモシカと進化をめぐる冒険

カテゴリー:生物

(霧山昴)

著者 髙田 隼人 、 出版 文一総合出版

 長野県浅間山にある浅間山荘そして小緒市火山館を拠点としてニホンカモシカを観察し続けている動物学者の面白い見聞記です。

 ニホンカモシカ(以下、単にカモシカ)の寿命は20年以上。ところが、全国各地でカモシカは減少傾向にあり、代わってシカ(鹿)が増えている。シカが増えると、植物が食べられ、踏みつけられる。美しかったカモシカ平のお花畑が喪失寸前になっている。

 著者は、カモシカを個体識別しています。前に金華山の野生のシカの全部を個体識別している本を紹介しましたが、それと同じです。カモシカに、こんな名前をつけています。オオシマ、アサコ、ヤッコ、ヤシロ、カワムラ、ミツウラ、そしてクロサワとムーさん、だ。

 クロサワはムーさんにずんずん近づくと、互いの鼻と鼻を突き合わせてご挨拶。その状況を見て、「やっぱり仲がいいなあ…」と野帳に書き込む。

 自然の中での調査は、野生動物が好きというだけではどうにもならない大変さがある。30キロ以上の荷物をもって長時間、山に登って観察する。落ちたら即死する断崖絶壁近くでカモシカに追いつめられることもある。

 ところが、研究は半端なく面白い。まだ誰も知らない自然の秘密を見つけだし、世の中に発表できたときの興奮と喜びは半端じゃない。

 カモシカは反芻(はんすう)獣。4つに分かれた胃のうち第一から第三胃で微生物による発酵を行っている。植物のセルロースを効率よく発酵分解する。この3つの胃は食道起源。第4胃が人間の胃にあたる。

 カモシカは、指の減少、蹄(ひづめ)への進化によって、手先の繊細な操作性を失う代わりに、補食者から逃れるための走行能力を得た。

ウシ科の角(フックはホーン洞角。ほらづの)と呼ばれ、杖分かれがなく、一生生え変わらずに伸び続ける。これに対して、シカ科の角はアントラー(枝角。えだづの)と呼ばれ、枝分かれがあり、一定のペースで抜け落ちてはまた生えるというサイクルをもつ。

 カモシカはシカ科ではなく、ウシ科の動物。ウシ科のなかでもヤギやヒツジに近縁なヤギ亜科に属する。

 カモシカは「生きた化石」、原始性の魅力がある。カモシカにとって、急斜面上にある藪(ヤブ)は、安全と食べ物の両方を提供してくれるもの。

行動観察は、膨大な時間と労力がかかるうえ、しっかりデータがとれる保証のない、リスキーな方法だ。フィールドワークは、危険と隣り合わせ。地図と方位磁石を使って、迷わずに山を自由に歩き回る能力と、危険を予測して会費する能力が必須だ。そして、この調査技術を身につけるには、フィールドでたくさんの経験を積むことが絶対に必要。

カモシカは見た目に性差がほぼない。オスの「ちん玉」も簡単には確認できないし、メスの外部生殖器はほとんど見えない。

 カモシカはかくれんぼの達人。なんと、2時間も著者の前でフリーズしていたという。

カモシカ平の真ん前に建っている火山館を拠点として、著者は高山地帯のカモシカを観察していくのです。この火山館は電気は太陽光発電、調理のための火はカセットコンロ。暖房器具は薪(マキ)ストーブだけ。

冬山でパウダスノーを口にほおばるのは絶対やってはいけない。体内で雪を溶かす際に大量のエネルギーが奪われてしまうから。ええっ、そ、そんなこと知りませんでした。

 いやぁ、大変なんですね。研究者って……。でも、本人が満足しているんだから文句ありませんよね。一読をおすすめします。

(2025年11月刊。2200円)

動物には何が見え、聞こえ、感じられるのか

カテゴリー:生物

(霧山昴)

著者 エド・ヨン 、 出版 柏書房

 犬の鼻がよくきくことは、あまりにも有名ですが、それは鼻の孔(あな)の形にもよっているとのこと。前向きに空いた鼻の孔は、先端部が外側に細く切れ込んだ形になっている。地面を嗅ぎ回りながら息を吐くと呼気はその切れ込みを通って外に排出され、それによって空気の渦ができ、その気流に乗って新たな匂い成分が鼻腔内に流れ込むようになっている。うまく出来ているんですね……。

 アリのフェロモンは特殊だ。フェロモンの種類は多く、アリたちは、特性に応じて使い分けている。アリが匂いにどれほど依存しているかは嗅覚を絶たれたときに明らかになる。

 味は、もって生まれた再帰的な性質。しかし、匂いはそうではない。匂いは経験と関連づけられるまでは、何の意味も持たない。乳児は汗やうんちの匂いを嫌がらない。嫌がるようになるのは、成長してから。成人してからも、匂いの好き嫌いには大きなばらつきがある。匂いと味には違いがあるんですね。

 アメリカ陸軍が、群衆を統制する目的で悪臭弾を開発しようとしたとき、すべての文化圏で普遍的に嫌悪される匂いを見つけ出すことは出来なかった。いやぁ、これは驚きですね。

 色というのは、主観的なもの。色は見る人の眼の中、見る人の脳の中にしか存在しない。これって不思議なことですよね。すべての物体に色がべったり塗られているとばかり思っていたのですが…。

私たち人間に見えているのは、鳥が識別できる数億色のうちのわずか1%にすぎない。人間は偏光にほとんど気がついてない。しかし、大半の昆虫、甲殻類、頭足類には、色が見えるのと同じ仕組みで偏光が見えている。

 冬眠は睡眠ではない。もっと極端な不活性状態なのである。

 コオロギは帯電したクモが生み出す微風を感知し、アザラシは魚が泳いだあとに残る眼に見えない流れを追跡できる。魚は側線を使って、文字どおり周囲を流れゆく豊かな情報源を感じることができる。フクロウは、音を感知する能力に秀でているだけでなく、その音がどこからきたのかを正確に割り出す能力にも優れている。

 水中では、音波は1分以内に80キロ先まで広がる。クジラが2500キロメートル離れた場所にいる別のクジラを聞いたとき、それは、30分前の声を聞いたことになる。

ゾウの家族は互いに何キロも離れた場所にいても、同時に同じ方向に移動する。それは超低周波を使ったゾウ同士のコミュニケーションによる。クジラの発する超低周波とほぼ同じ。

体内で電気を生み出すことのできる魚は350種ほどいる。デンキウナギのなかの最強の種は、860ボルトで放電でき、ウマ1頭を再起不能にできる。すごい力を持っているんですね……。

 人間が体感できない動物の感覚がどんなふうなのかを学者は科学的に究明しようとしていること、それが紹介されています。驚くほかない状況です。まさに動物界というより大自然の不思議です。

 500頁もの大作です。何日もかけて読み切りました。完全に理解できたわけではありませんが…。

 

(2025年5月刊。)

日本の馬

カテゴリー:生物

(霧山昴)

著者 近藤 誠司(編) 、 出版 東京大学出版会

 馬って、日本列島に昔からずっといたかと思っていました、違うようです。そして、馬というのも外来語であって、固有語はないそうです。

 日本にいる馬について、過去・現在・未来を語っている本です。

 3世紀の「魏志倭人(ぎしわじん)伝」では、邪馬台国に馬はいないとされていて、古墳時代中期以降に馬が登場する。4世紀以降のこと。

 鎌倉時代から戦国時代にかけての武将が乗った馬は、体高148センチから135センチと、非常に大きな馬格をもっていた。戦場に使う軍馬は大きかった。

 農村地帯の馬は四尺(120センチ)ほどの小型が好まれた。飼料が少なくてすみ、荷を積みやすいから…。

 日清・日露戦争のころ、日本の軍馬について、諸外国の軍人から「日本の馬は馬ではない。馬の皮をかぶった野獣だ」と酷評された。それほど、かみつき、けとばし、扱いにくかった。それで、日本政府は、在来馬をすべて去勢し、西洋馬におき換えることにした。

日本の在来馬は、すべてモンゴル在来馬に由来する。

 宮崎県の都井(とい)岬にいる御崎馬は、半野生の馬。江戸時代、高鍋藩には5000~8000頭の馬がいた。ここでは、周年自由放牧している。現在は111頭(2020年末)がいる。春にはオス1頭、メス2~3頭のハレム群が形成され、毎年15~20頭の子馬が生まれる。

 ビジターセンターがあり、観光客がガイド付き御崎馬を観察できる。

 大牟田市にあった三池炭鉱では、坑内運搬のため対州馬を使役していたことがある。一度坑内に下げられた馬は、死ぬまで坑外に出されることはなく、平均2年10ヶ月しか生きることができなかった。それだけ過酷な労働(衛生)環境だったわけです。

野生馬の寿命は長くて32歳で、30歳ほど。

 日本の在来馬は側対歩(そくたいほ)をする。側対歩とは、2拍子のリズムを刻む対称歩法。同側の前後肢がほぼ同期して動くところが速歩と異なる。側対歩は重心を左右に移動する必要があるため、キリンやラクダなど重心が高い位置にある四肢の長い動物で見られる歩法。

 側対歩するモンゴル馬はそれをしない馬の2倍の高値がつく。それは、長時間馬にのって移動するとき、騎乗者は、上下動の小さな側対歩をする馬に乗るほうが疲れが少ないから。

 在来馬はタフであり、粗食にもよく耐えることを学問的に裏付けています。さすが学者ですね。馬のことをいろいろ知ることが出来ました。引退したサラブレッド馬に観光牧場で乗ったことがありますが、意外に高いので、怖いくらいでした。

(2021年10月刊。4950円)

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