(霧山昴)
著者 大鹿靖明 、 出版 構談社
熊本県にTSMCが進出してから、「熊本バブル」という現象が起きています。TSMCが立地した菊陽町の地価は31%も上昇し、日本一の上昇率。隣接する大津町でも32%も上昇している。規制の存在しない雑種地とか山林を不動産ブローカーが買いあさり、300%アップの価格で取引されている。
TSMCは賃金を引き上げた。800人を地元雇用でまかなったが、新卒の初任給は28万円。熊本県庁職員のそれは23万円。台湾からやってきた400人の社員は年収2500万円以上。
熊本県内の台湾人は1500人超。教育環境の整備が求められている。
TSMCの熊本工場の建設費用1兆2000億円のうち5000億円近くを国が補助した。ちなみに、日本の司法予算は3200億円でしかありません。一私企業のため、国は5000億円をぽんと投げ出してやってるのです。
TSMCは膨大な地下水を阿蘇山系からくみ上げます。地下水の枯渇とあわせて化学物質による汚染が心配されています。国が規制を強化したという報道はありません。本当に大丈夫なのでしょうか…。
今やハイエンドの半導体の95%はTSMCを含む台湾から供給されている。そうなると、台湾が海上封鎖されたら、世界経済は大混乱になる。日本のGDPは80兆円も落ちこむと経産省は試算している。
ラピダス。ラピダスとは、ラテン語で「迅速」の意味。ラピダスは、北海道の千歳空港の近くに立地する。このラピダスに対して経産省は9200億円もの税金を投入した。ラピダスには800人の正社員を含めて1000人が働いている。学部卒で26万円、修士修了で31万円という給与は、全国平均より3万円も高い。
半導体関連企業41社が立地し、さらに80社が進出しようとしている。10棟のホテルが立ち、マンションは建設ラッシュ状態。この9200億円は補助金ではなく、「研究委託費」。国が98%もの株式を保有する事実上の国有会社。しかも、2025年度にさらに8000億円が投下され、累計1兆7200億円を国につぎ込む。
ところが、2026年4月現在ラピダスは大口客を確保していない。国は、これからさらに7兆円を追加で投資する計画。私たちの貴重な税金が惜し気もなく投下されていくというのです。軍備予算の急膨張とあわせて、こちらも心配です。
この本は、シャープの「失敗」も明らかにしています。液晶テレビの成功に目がくらみ、次の展開を考えなかったということのようです。
さらに、自社で、技術開発から製造・販売をすることの難しさも指摘しています。TSMCは「水平分業」でうまくいったようです。つまり、技術開発と製造は分離しているのです。
ソニーの会長兼社長だったストリンガーは、会社が4500億円もの大赤字を出しているのに4億5000万円もの高額な報酬を受けとっていた。ストリンガーにへつらっていた平井一夫も、同じく報酬1億円を手にしていた。会社がもうかっていて、役員に特別ボーナスでも支給しているのならともかく、大赤字の会社の取締役の報酬が1億円だなんて、他人事ながら許せません。まあ、それでも、ストリンガーや平井は追い出され、シャープと違って、ソニーはまだ会社として生き残っています。
ソニーはTSMCと結びついているラピダスに大金を投下していますが、その悪しき前例がエルピーダ・メモリです。2012年2月に会社更生法申請しました。
半導体の開発は、より小さくすることへのあくなき追求の歴史。そこでは、年単位ではなく、3ヶ月単位で仕事がずんずん進んでいく。過去の栄光は何の意味も持たない。
今、半導体の世界では、台湾そして韓国に日本は大変な遅れをとっているようで、その経緯をじっくり解明している本です。
それにしても、これほどの巨額の税金を投下し、失敗しても、誰も責任を問われなくてよいものなのでしょうか…。あとは野となれ、山となれとは…、許せません。
(2026年8月刊。2750円)


