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2022年7月 の投稿

クモの世界

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 浅間 茂 、 出版 中公新書
わが家には、本当にたくさんのクモがすみついています。たまに手のひらほどの大型のクモが室内を徘徊することがあり、そのときは室内ホーキで外に追い出します。芥川龍之介の「クモの糸」を読んでから、クモを殺すことは絶対にしません。
クモって、どんな生きものなのか、よくよく分かる新書です。
日本には1700種のクモがいて、半分は網を張り、残り半分は徘徊性。我が家のクモも、半々です。クモは世界中に5万種いて、南極大陸以外のすべての大陸に分布している。
クモは8本の脚をもつ。昆虫は6本脚。そして、クモは頭と胸が一つになっている。
クモの多くは、人間にとって毒液の毒性はほとんどない。
クモは糸を出すのが特徴。一生涯を通じて糸を出す。歩き回っているときも必ず糸を引いている。
クモは、地中性のクモから造網性のクモ、そして徘徊性のクモへ進化した。
地中性のクモは一般に長生きで、成体になるのに3年以上かかり、飼育下では9年以上という記録もある。
ジョロウグモは、オスは7回、メスは8回脱皮して、成体になる。オスが早く成体になって、脱皮中のメスと交尾する。
日本のカバキコマチグモは母グモが子グモに自分の体を与える。
うひゃあ、自分の体を子グモに食べさせる母グモがいるんですね…。
クモは、一般的に、メスよりオスが小さい。「ノミの夫婦」という言葉があるが、それよりはるかにオスは小さい。
徘徊性のクモは、視力がそれなりに優れている。造網性のクモの視力は、あまり良くない。
オオジョロウグモのメスは5センチほどもあり、網にかかった鳥やコウモリを捕食する。
クモは紫外線を利用する。クモは擬態する。刺激を与えると、一瞬で体色を変えるクモがいる。クモは変温動物。
クモが壁にへばりつけるのは、原子・分子間で生じる引力、ファンデルワース力による。
クモの糸には、粘着性のある糸とない糸がある。クモの糸の先に粘球がついている。
口から粘球を吐きかけて獲物を捕らえるクモがいる。
クモは、獲物にかみつき、牙の孔から毒液を出して注入し、麻痺させて動けなくする。そのあと消化液を注入して溶かし、半ば消化されたものを吸う。
一般にクモは肉食性で、何でも食べる。クモを専門に食べるクモもいる。
クモだけを専門に狙う狩りバチがいる。
このように、クモは生態系の中で、中間捕食者として、捕食者であり被食者でもあるという役割を果たしている。
コサラグモのオスは、魅惑的な分泌液をメスにプレゼントして、その間に交尾する。
アシナガグモのオスは、食べられないようにしてからメスと交尾する。
クモの糸は軽く、同じ太さでは鋼鉄以上の強さをもち、かつ、しなやか。今のところ、まだ、自然界のクモ糸を越えた人工クモ糸は合成されていない。前に、このコーナーで、クモの糸をより集めて、強い糸をつくったという実験結果を報告したことがあります。
クモの不思議な生態がぎっしり詰まった、カラー写真いっぱいの楽しい新書です。
(2022年4月刊。税込1100円)

ダマして生きのびる虫の擬態

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 海野 和男 、 出版 草思社
小さな大自然の驚異をたっぷり味わうことのできる写真集です。木の葉そっくりのコノハムシ。どうして、こんな色と形、模様ができたのか…。
昆虫が意思をもって擬態を発展させてきたとしか思えない。でも、昆虫自身は自分の姿を客観的に見ているはずがない。それなのに、どうして、こんな芸当ができるのか…。本当に不思議、フシギです。
昆虫の擬態と隠蔽の姿のオンパレード。何かの姿に「化けて」誰かをだましている。
団塊世代の著者は50年以上かけて、昆虫の擬態を観察し、撮影してきました。なので、写真もバッチリ、解説文もバッチリ。
木の葉に似せるにしても、色も形も異なっている。すると、昆虫のほうも、それにあわせていろんな葉の色や形にあわせている。
コノハムシのメスは木の葉にうまく擬態しているため、飛ぶことができない。すると、オスがメスのところにまで飛んでいかないといけない。なので、もちろんオスは飛べる。
著者が日本一すごい擬態の巧者としているのはムラサキシャチホコ。長野県や東北地方にフツーにいるガの仲間。必ず葉の上面にとまる。すると、光が上からあたって、丸まった枯れ葉のように見える。ところが、これは、実際には、翅が丸まっているのではなくて、たんに前翅と胸の模様の陰影によって立体的に見えているにすぎない。
ホシミスジは、おとりをつくって身を隠す。
マレーシアには、枯れ葉そっくりの彼はカマキリがいる。まさしく枯れ葉そのものです。そして、メスの葉が葉に似ている。それは卵をうむメスは重要なので、オスより上手になったのだろうと著者は推測しています。いやあ、ホントでしょうか…。
色や模様で捕食者を脅かす昆虫がいます。翅を開いたマレーシアのセンストビナフシは、まさしく扇子を開いた格好をしています。
バラの茎にいる昆虫は、バラのイバラまで形も色も似せます。
ハチでないのに、ハチに似せた生き物がこんなにもたくさんいるというのも驚きです。縞(しま)模様はハチの印なのです。
突然、目玉が出てくるヤママユガも、不気味そのものです。よくぞ、こんな色と形を思いつき、それを体現したものです。これも何か、誰かの意志のたまものなのでしょうか…。大自然はまさしく不思議だらけです。だから生きているって面白いのですよね。
(2022年6月刊。税込2640円)

弁護士のすすめ

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 宮島 渉、多田 猛 、 出版 民事法研究会
この本には、若い人たちに弁護士になることを強くすすめたいという思いがあふれています。まったく同感です。そもそも弁護士志望が減っていると言われて久しいのですが、予備試験の受験者は1万5千人をこえているのですから、私はそうは思いません。
今や、あちこちで「弁護士不足」が指摘されています。九州各県の弁護士会は、福岡を除いて、せいぜい微増です。そして、大都会志向はますます強まっています。
いま、企業に勤務する弁護士は2820人(2021年)。その団体である日本組織内弁護士協会(JILA)は、司法試験の合格者を2000人とすること、合格率を70%とすることを求めている。
現状は、合格者1500人です。これを以前から1000人にまで減らせ、若手弁護士は食べていけなくなっている、見殺しにしていいのかと声高に叫び続けている人たちがいます。私は、そうは思いません。少なくとも合格者1500人は維持する必要があるし、若い人には東京だけでなく地方都市にも目を向けてほしいと考えています。
1000人減員を主張する人の多くは、福岡のあさかぜ法律事務所のような弁護士過疎地対策の拠点事務所の持続になぜか冷たいという共通点があります。でも、弁護士独占を法律で認められているのに、弁護士過疎地があっても仕方がないだなんて、そんなワガママが許されるはずもありません。
さらに、法テラスに対しても批判的な人が多いというのも共通しています。たしかに、法テラスに対しては、もっと改善してほしいところは多々ありますが、それでも法テラスをなくせだとか、法テラスに依存するなと言われても、私は「はい、そうですか」とは絶対に言いたくありません。だって、お金がない人が法テラスを利用してようやく裁判手続を利用できているのですから。
「弁護士は食えない」という点についていうと、地方で法テラスと契約しないで弁護士が生きていくのは難しいという現実はたしかにあります。でも、私のように、法テラスと契約して、積極的に利用していると、事務所全体の売上の半分ほどを法テラスが占めていますが、決して「食べていけない」ということはありません。これは、大東京でも同じではないでしょうか…。東京だからといって、弁護士みんなが大企業や金持ち層を顧客にしているはずはありません。
73期の修習修了者の4分の1近くが、五大事務所(17%)と、新興二大手(6%)に就職している。これは、恐るべき現象だと思います。東京三会への登録率は、この10年間で、46%から62%に上昇しています。いやはや、なんという東京志向でしょうか…。これに大阪、愛知の2県を加えると、同じく63%から76%へ上昇しているのです。
企業内弁護士への需要が増えているだけでなく、地方自治体でも積極的に弁護士を職員として採用しようというところが増えています。私は、とてもいいことだと思います。
そして、五大事務所や新興二大事務所の弁護士初任給は1000万円から1200万円とのこと。私の事務所では、考えられない高給です。
合格者1000人へ減員せよと叫ぶ人は、裁判所の一般民事事件の減少を根拠とします。たしかに、ひところの過払いバブル時期と比べると民事事件は減っています(この本では、地裁は7%増だとしています)が、その代わり家事事件は大きく増えています。
そして、弁護士の側の工夫も求められていると私は考えています。じっと何も宣伝しなくても客はやって来るというのは古いのです。
以上が、この本の前半ですが、実は、この本の読みどころは後半で、弁護士がいかに魅力にあふれた職業なのかを本人たちが語っているところにあります。
弁護士過疎対策で、ひところ「松本三加(みか)現象」とまで言われた松本弁護士(54期)は、北海道にある紋別ひまわり基金法律事務所で2年間やりとげたあと、アメリカに留学し、今は福島県で活躍しています。日本企業が海外展開するのをサポートする弁護士として活躍している弁護士もいます。たいしたものです。
弁護士の未来は明るいのです。ぜひ、弁護士を目ざしてほしいと思います。
(2022年6月刊。税込1540円)

沙飛(さひ)

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 加藤 千洋 、 出版 平凡社
「中国のキャパ」と呼ばれた戦場写真の先駆者、沙飛の生涯を明らかにした本です。もっとも有名な写真は、八路軍の聶(じょう)栄臻(えいしん)司令官が4歳の日本人少女と手をつないでいるものです。
この女の子は、八路軍の百団大戦によって襲撃された炭鉱につとめていた両親とともに生活していたのですが、父とは生き別れ、このとき母は殺されて一人になったところを八路軍兵士に救われ、聶司令官の所へ運ばれたのでした。聶司令官は撤退するときに手紙を添えて日本軍に送り届けるよう手配し、少女は無事に救われたのです。そして、戦後40年もたって日本のマスコミが少女の現在を探しあてました。宮崎で生活していた女性は、そんな幼いころの記憶は何もなかったのです。
さて、問題は、この写真をとったカメラマンです。「沙飛」という名前のカメラマン。どんな経歴なのか、よく知られていませんでした。
沙飛は魯迅(ろじん)の生活最後の写真をとり、また毛沢東が高く評価したことで有名なベチューン医師の手術中の写真もとっています。
沙飛の本名は司徒傳。司徒は、中国では数少ない二文字の姓。1912年5月5日に生まれ、1950年3月に38歳で亡くなった。しかも、それは日本人主治医を射殺し、銃殺刑になったのだった。精神錯乱状態に陥って、八路軍に協力していた日本人医師を妄想にかられてピストルで射殺した。
1937年7月7日の盧溝橋事件のあと、8月に国共合作のなかで八路軍が誕生した。
総指揮は朱徳、副総指揮に彭徳懐。第115師団(林彪・師団長)、第120師団(賀竜・師団長)、第129師団(劉伯承・師団長)の3師団態勢で、総兵力は3~4万人。
第115師団で政治委員をつとめる聶栄臻はフランスに留学し、ベルギーの大学に学び、カメラの趣味もあった。なので、カメラマンの沙飛を部下として認めたと思われる。
「4歳の女の子」は、1980年7月に訪中し、北京の人民大会堂で、聶栄臻元帥と対面した。そして、「4歳の女の子」を助け出した元八路軍の兵士まで本人が名乗り出たことによって判明したというのです。生きのびていたのですね。百団大戦のときは17歳の兵士だったとのこと。そして、写真をとったのが沙飛という中国の戦場カメラマンだということも判明しました。
「4歳の女の子」を手紙とともに受けとった日本軍指揮官は聶司令官あてに返信を送ったというのです。ええっ、本当でしょうか…。
「子どもは確かに受けとった。貴部隊の人道主義精神に感謝する。将来、平和時に面会した際、謝意を伝えたい」
いやあ、立派な内容ですね。この日本軍指揮官の氏名は判明していないのでしょうか…。
百団大戦のあったのは1940(昭和15)年8月から11月にかけてのこと。炭鉱を守備していた日本軍は全滅したようです。「4歳の女の子」はトーチカで震えているところを八路軍兵士に救出されたのでした。名前を訊かれたとき「母ちゃんは死んだ」、「死んだ」と答えたので、「死んだ」を「しん」と聞いた八路軍の兵士が女の子を「興子」(しんこ)と名づけたというのです。なんとも泣けてくる名前です。
沙飛に殺された日本人医師は、津村勝という内科主任の医師(41歳)。河北省の石家荘の和平病院には、100人の医療スタッフをふくめて200人ほどの日本人がつとめていたのでした。これが、「留用者」と呼ばれる、日本敗戦後しばらく八路軍の求めに応じて中国にいた人たちです。医療関係者が断然多かったようです。
私の叔父(父の弟)は紡績工場のたちあげと技術指導する技術員として8年ほど中国にいて、1953年5月に日本に帰国しました。八路軍の三大規律・八項注意の素晴らしさを聞かされたものです。今、その叔父の中国における歩みを文章化しています。
(2022年4月刊。税込3080円)

プリズン・サークル

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 坂上 香 、 出版 岩波書店
私は残念ながら映画をみていませんが、映画づくりの苦労、そのなかのエピソードが紹介されています。
映画「プリズン・サークル」の撮影期間は5年あまり。完成までに10年を要した。撮影許可がおりるまで6年かかった。前例がないというのが最大の障害だった。映画は受刑者の顔を隠すことが条件で撮影が許可された。これに対して、アメリカの刑務所を舞台とする映画「ライファーズ」は、全員が顔を出している。
舞台は、私も一度だけ、そのなかに入ったことのある「島根あさひ社会復帰促進センター」。私は、施設内で、入所者の証人尋問をしたのです。ここは、最大収容者数2千人の刑務所。犯罪傾向のすすんでいない、初犯で刑期8年までの男性が対象。
PFI刑務所でもある、官民混合運営型の刑務所。民間の資金や経験を活用して運営される。全国に4つのPFI刑務所がある。私が行ったときには、ここでは盲導犬パピーの育成をしていますが、その引き継ぎがあっていました。
ソフトな外観ではありますが、目に見えない監視網が張りめぐらされていて、ITを使った24時間監視体制がとられている。
日本の刑務所のもっとも顕著な特徴は、沈黙。現在、日本の受刑者は4万人。一般の刑務所では、6~8人で1室の雑居。「島根あさひ」はホールをはさんで両側1、2階に居室が並び、大半は単独室と呼ばれる個室。窓は鉄格子ではなく、強化ガラス。個室内には、ベッド、勉強机、テレビが備えつけられ、さながら学生寮。
一般刑務所内では受刑者の単独行動は許されないが、「島根あさひ」では、付き添いなしの行動が許されている。余暇時間には、自由に居室とホールを行き来できる。面会や医務室への移動も付き添いなし。
食事は、食堂で、全員がそろって、「いただきます」のかけ声とともに始める。そして、みな、猛スピードで食事を口の中にかきこみ、7~8分で食事は終了する。食べるペースは、人それぞれのはずだが、ここでは、ペースは均一化されている。まるで、さざ波のように音が流れていく。
刑務所における過剰な秩序は学校教育現場と結びついていると指摘されている。
本当に、そうですよね、画一化すぎます。
「感盲」という用語があるそうです。感識が乏しかったり、自分の気持ちや考えに鈍感だったり、特定の感情に目を向けられない、逆にとらわれてしまうという状態をさす。
当事者が授業をリードするのが特徴の一つ。
一般の刑務所では、受刑者は笑ってはならないことになっていて、懲罰の対象になることさえある。ええっ、これは、いかにも人間性に反しますよね。刑務所での映画鑑賞のとき、寅さん映画シリーズは見せていないのでしょうか…。
受刑者の多くは、女性への加害改憲をもっている。ところが、そのDV加害体験を何年かかっても思い出せない人がいる。
加害者の加害体験を入所者が聴いているときの身体反応が興味深かった。身体をぎゅっと固める人、キョロキョロする人、拳を握りしめる人、お腹をおさえる人…、みんな心が動いていることが身体にあらわれていた。
受刑者の多くが、過去にいじめの体験をもつ。いじめの被害・加害は、彼らの現在に影を落としている。暴力をふるった子どもたちも、暴力の被害者だった。子どもたちが施設で暴力を受け、無力感を強め、その無力感を子どもに暴力をふるう。暴力の「世代内連鎖」が起きている。
いろいろ深く考えさせられる本でした。ぜひ映画をみてみたいものです。
(2022年6月刊。税込2200円)

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