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2019年7月 の投稿

奮闘!クレサラ問題に取り組む

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 永尾 広久 、 出版  大牟田しらぬひの会
福岡県大牟田市で42年間、弁護士活動していた著者は、そのうち37年間、大牟田しらぬひの会というクレサラ被害者の会と一緒に活動してきました。クレサラ問題は今や完全に下火になっていますが、クレジット・サラ金問題とは何だったのか、被害者運動は何を目ざしたのかを振り返った貴重な労作です。
サラ金三悪というのがありました。超高金利(日歩30銭というのもありました。年10割を越します)、無選別過剰融資(収入のない主婦や学生にまで貸し付けます。申し込み額以上の金額を押し付け貸します)、そして強硬取立(多くの自殺者を生みました)です。
サラ金会社は急成長し、オーナーたちは日本の長者番付けの上位を占めました。そして、自民党や公明党の政治家が莫大な政治献金をもらいながら超高金利を支えました。
被害者運動は全国的に取り組みをすすめました。借りた奴が悪い、借金返済しない奴が取立にあって苦しむのは自業自得だ。こんな借主責任論、自己責任論を打破するのは容易ではありませんでした。
被害者運動のなかに極論が生まれました。借金の原因はすべて生活苦、苦しんでいる多重債務者は一刻も早く免責して救済すべきだ。しかし、しらぬひの会の26年間の相談件数1万4千件を分析すると、借金の原因が生活苦であることもたしかに多いけれど、決してそれだけではない。ギャンブルや買い物しすぎも多い。なんでも免責は、根本的な解決にならないことが少なくない。そのように指摘し、多重債務者が本当に立ち直るためには、励ましの場、支えあう被害者の会が必要だということを大牟田しらぬひの会は主張し、実践してきました。相談活動だけでなく、学習会・勉強会そして花見や望年会、ときには焼肉パーティーという懇親の場をもちました。
そのことを多角的に明らかにした座談会は読みごたえがあります。なかでもギャンブル依存症の体験談、そしてホームレス体験談は心を打つものがあり、考えさせられます。同時に、果たして、クレサラ被害者を被害者と呼ぶことができるのか、という根本的な問いかけに対する回答にもなっています。
全国クレサラ対協内では、なんでも一律・無条件に免責して救済すべきだという意見が主流を占め、それに異を唱える人は排除されたりしました。その典型がクレジットカウンセリング協会に対する誤った見方です。カウンセリングの効用を認めないという考え方から、大阪には、最近まで、カウンセリング協会の相談窓口がありませんでした。
九州では被害者の会が毎年1回集まって交流集会を開いてきました。7月に福岡で第32回の交流集会が開かれたばかりです。
裁判所の破産手続の変遷もたどっています。集団面接という手法もありました。そして、破産・免責手続については、江戸時代にも破産・免責手続があったことが紹介され、興味をひきます。
著者は、クレサラ問題解決の手引書を発刊し続けました。類書が少ないときには、1回の全国集会で30万円以上もの本の売上があったといいます。
歴史に残るべき取り組みとして紹介させていただきました。
(2019年6月刊。2000円(悪税込み))

ネオナチの少女

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 ハイディ・べネケン・シュタイン 、 出版  筑摩書房
18歳までナチと過ごした若きドイツ人女性が過去をふり返った本です。
ドイツでヒトラーを信奉してひそかに活動している人々がいるのは私も知っていましたが、その実態を自分の体験にもとづき赤裸々に暴露しています。
著者の父、祖父母、親の友人、みなナチでした。ナチの親のもとでナチ・イデオロギーを刷り込まれ、ひそかに軍事的な訓練まで受けています。
著者が幼いころ、ナチの父親は、マックからコーラに至るまで、アメリカの商品はすべて禁止した。ナチの父親は、すべてにおいて厳格で、誰もが従わなければいけない。父親にとって大切なのは常に結果、つまり勝ち負けだった。
父は税関職員で、ナチの団体のリーダーの一人だった。
その父親とは15歳のとき絶縁を決意した。父親は18歳の誕生日まで養育費を支払ったが、あとは、お互いに没交渉となった。
母親は、ナチの父親から去った。
父親にとって、ユダヤ人虐殺のホロコーストはでっち上げられたものでしかなかった。ホロコーストを否定するため、絶えず陰謀や思想操作をもち出した。まるでアベ首相のようですね・・・。
ナチの団体の親は、高学歴、高収入の狂信的な大人の集まりだった。貧しい人や庶民はおらず、大学教授や歯科医だった。
著者はアメリカ人とユダヤ人が嫌いだった。アメリカ人とユダヤ人はグルだ。アメリカ人は石油を我が物にしようと戦争を仕組んでおきながら、世界の警察という顔をして、帝国主義的な目的を追求している。
著者は強いと思っていたけれど、弱かった。勇敢だと思っていたけれど、意気地なしだった。成熟していると思っていたけれど、未熟だった。自由だと感じていたけれど、囚われていた。正しいと思っていたけれど、間違っていた。
いま私の娘の住んでいるミュンヘンに生まれ育ち、ナチから脱却した今は保育士として働いている27歳の女性による本です。
親の影響の大きさ、恐ろしさをひしひしと感じさせられました。
(2019年2月刊。2300円+税)

奇跡の会社

カテゴリー:アメリカ

(霧山昴)
著者 クリステン・ハディード 、 出版  ダイヤモンド社
アメリカはフロリダ州のある清掃サービス会社の若き女性社長が苦闘の日々を語っています。
会社を起こした女性社長はフロリダ大学の学生。仕事は寮や個人住宅の清掃サービス。社員は、すべて大学生。しかも、一定以上の成績を保持していることが条件。低賃金なのに、離職率は一般だと75%なのに、この会社はとても低い。
どうして、そんなことが可能になったのか・・・。成功談というより、失敗談を語ることによって、会社を運営することの意義と手法が明らかにされていきます。
なぜ社員は大学生に限るのか、しかも、一定以上の成績上位者だけを求めるのか・・・。
ど素人といってよいレベルの大学生が、清掃業界という、あまりうま味のない業界で、知恵もカネも後ろ盾もなく、行きあたりばったりで起業、そこからもがいてはい上がり、キラリと輝く会社をつくっていったのでした。
起業したてのこと。アパート数百室の清掃を請け負い、大学生60人が清掃にとりかかった。ところが、始まって数時間、そのうち45人が集まって、こんな仕事はしたくないので、会社をやめると言い出した・・・。当然、女性社長はパニックになります。いったい、どうしたら請負った契約目的を達成できるのか・・・。
この大学生たちはミレ二アル世代。下積みに興味はなく、すぐにトップに駆け上がれると考えている。顔を見て話そうとせず、小説のように長いメールを送る。批判されるとすねるから、上司は慎重に言葉を選ばなければならない。自分がインパクトを与えていると感じられない仕事はさっさと辞めるくせに、どういうインパクトを与えたいのか、具体的に説明できない。
清掃会社の粗利率は15%でしかない。しかし、人を信じて大きな責任を託し、失敗する余地を残しておき、自分のミスは自分で取り戻す機会を与えれば、彼らはそこから学ぶ。
子どもが可愛いあまりに過干渉になるヘリコプターペアレンツの努力は逆効果になる。親があれこれ世話を焼いた結果、間違えることを恐れて自分で決断できない若者が育ってしまう。親が子どものためと思って何でもしてやることは、図らずも子どもに自信をつける機会を奪い、リーダーシップを身につける機会を奪っている。
新人研修では、掃除のしかたよりも、問題解決のアプローチを教えることを重視するようにした。すると、学生たちは自分で判断を下せるようになった。リーダーは、部下が問題を解決しようと苦悩する姿を見守る一方で、介入して代わりに解決するタイミングを見きわめる必要がある。そのバランスをとるため、自分が失敗をどこまで許容できるのか、知っておく必要がある。
成績のいい大学生から成る清掃サービス会社という発想がすばらしいです。
(2019年2月刊。1600円+税)

地下道の少女

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 アンデシュ・ルースルンドほか 、 出版  ハヤカワ文庫
スウェーデンの首都、ストックホルムに起きた話です。
寒々とした光景が展開します。町の中心部にある広場の地下トンネルに住みついている人間が50人ほどもいるという状況を前提として進行していきます。それはホームレスの人々です。そのなかには未成年の少女もいました。
さまざまな年齢の女性たち11人が広場下の地下トンネルで共同生活していた。
ルーマニア人の子どもが43人もストックホルムの中心部でバスを降ろされたこと、本人たちはスコットランドに来たと思っていたこと、それらは本当の出来事。それを小説にしたのが本書。
そして、生きのびるために、自分の体を売るスウェーデン人の少女や女性が増えていることも真実だと著者は強調しています。
2018年のストックホルム市の調査によると、ホームレスが2500人近くいて、その3分の1は女性。女性の割合は増加傾向にある。ホームレスの55%が薬物依存症で、45%の人には精神障害がある。
ストックホルムにストリート・チルドレンがいるなんていうのも驚きでしたし、東欧からの移民流入のもたらす問題にも目を開かされました。
異色のミステリー小説として読みふけったので、紹介します。
(2019年2月刊。1160円+税)

「若き医師たちのベトナム戦争とその後」

カテゴリー:アジア

(霧山昴)
著者 黒田 学 、 出版  クリエイツかもがわ
私は大学生のころ、「アメリカのベトナム侵略戦争に反対!」と何度も叫んだものです。それは学内だけでなく、東京・銀座で通り一面を占拠してすすむ夜のフランスデモのときにも、でした。ですから、私の書庫をベトナム戦争に関する本が200冊以上、今も4段を埋めています。
そのなかでも超おすすめの本は『トゥイーの日記』(経済界、2008年)です。
ハノイ医科大学を卒業して女性医師として志願して従軍し、1970年に南ベトナムで戦死したダン・トゥイー・チャムの日記を本にしたものです。戦死した彼女の遺体のそばから偶然に拾われ、アメリカに渡って英語に翻訳されたという本です。思い出すだけでも泣けてくるほどの率直な若き女医の日誌です。
この本には、トゥイーと同級生のチュン医師の回想記も紹介されています。
この当時の医学生たちは、こぞって戦地への赴任を希望し、その多くがトゥイーのように戦死したのでした。そんな人々が今のベトナムの繁栄を支えているのですよね・・・。
ベトナム戦争の後遺症であるベトちゃんドクちゃんという結合双生児分離手術に至る話も紹介されています。この分離手術は無事に成功し、ベトちゃんは分離手術後、植物状態のまま20年で亡くなったものの、ドクちゃん、38歳は結婚して2人の子ども(名前は富士と桜)がいます。日本もこの分離手術には深く関わっていて、手術の成功は、ベトナムと日本の保健医療分野の前進の成果だと評価されているのです。なにしろ、手術は15時間以上も続いたといいます。そして、テレビで生中継されたのでした。
『トゥイーの日記』を読んでいない人は、ぜひ手にとって読んでみてください。今を生きる勇気がモリモリ湧いてくる本ですよ。
(2019年6月刊。1500円+税)

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