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刑事裁判のいのち

カテゴリー:司法

著者  木谷 明 、 出版  法律文化社
ながく刑事裁判を担当してきた著者が、中学生に対して刑事裁判とは何かを分かりやすく語っています。
 被告人が起訴された事実を行ったどうかは、神様と被告人以外には誰も知ることができない。しかし、社会の秩序を維持するためには、一定の証拠が提出されたときには、その被告人を処罰することも考えなければならない。
 ただ、そのとき、まず「被告人は無実である」という前提から出発しなければならない。検察官が提出した証拠を検討するときにも、「犯人らしく見える証拠が提出されているが、本当は被告人は犯人ではないのではないか」という頭で、とことん考え抜き、それでも被告人が犯人でないとしたら容易に証明できない事情があるとき(まず絶対に犯人であると考えられるとき)に有罪と認め、そうでないときには、被告人に無罪を言い渡すべきである。
 「合理的疑いを入れる余地のないまでの立証」という考え方は、真犯人処罰の要請と無実の者を処罰してはならないという要請とのギリギリの妥協点である。この二つの要請のうち、「無実のものを処罰しない」というのを基本に考えるべき。
 無実のものを処罰したときには、それによってそのものにいわれのない苦痛を負わせるだけでは、真犯人を取り逃す結果にもなってしまうからだ。
 刑事裁判において、もっとも重要なことは無実の者を処罰しないことであって、その結果、ときとして真犯人が逃れることがあってもやむをえないと考えるべきだ。
 刑事裁判を担当するなかで、検察官が被告人に有利な証拠を隠蔽するのに何度も出会った。検察官は、証拠開示に関する法制度が不備であるのを利用して、そういうことを日常茶飯事的にしてきた。
 検察官のこのような行為をチェックするのは、裁判所の役割であるはず。しかし、これまで裁判所はその役割を適切に果たしてこなかった。
足利事件の真の悲劇は、一審における弁護人が菅家さんから「事案の真相」を打ち明けてもらえなかったことに始まったと言ってもよい。
 弁護人は、被疑者・被告人の唯一の味方である。
 刑事裁判は、検察官が事実上とりしきっている。検察官が強すぎる。有罪率が極端に高い。検察官が被疑者の勾留を求めたとき、それが却下されることはほとんどない。保釈もなかなか認められない。
被告人が否認していると、まず保釈されないという現実がある。人質司法は検察の有力な武器である。
 重罪事件について、取調べ初日、まだ逮捕もされていない取調べ初日に嘘の自白をさせられてしまう人が現にいる。しかも、かなりの頻度である現実だ。自白の信用性を安易に認めてきた裁判所は深刻に反省するべきである。
 検察官が強く抵抗されると、それをひりきって無罪判決を書くのには、なかなかの勇気がいる。
 裁判官は、日頃、嘘をつく有罪被告人、つまり有罪であるのに嘘をついて責任を逃れようとする被告人を見慣れているから、被告人に騙されたくないという気持ちが強い。そのため、いったん被告人が重要な点について述べた弁解が嘘だと分かったりすると、その反動として有罪の心証に一気に傾く傾向がある。これを心証の雪崩現象と呼んでいる。
 私も40年間、弁護士をしていて、反省させられることの多い本でもありました。
(2013年8月刊。1900円+税)

鳥類学者、無謀にも恐竜を語る

カテゴリー:恐竜

著者  川上 和人 、 出版  技術評論社
鳥は恐竜である。だから、恐竜は死滅(絶滅)したのではない。恐竜は今も生きて、あなたの身のまわりに存在する。
 これはすべて本当のことです。ええーっ、でも可愛い小鳥があの、いかにも怖いステゴザウルスと同じだなんてウソでしょ、という反発の声が聞こえてきそうです。だけど、本当に鳥は恐竜の一部なのです。これは、学界で定説となっています。
鳥類を除くと、ワニは恐竜にもっとも近い現生動物である。
 翼竜、魚竜、首長竜などは、恐竜ではない。
 恐竜が、二足歩行を実現することができたのは、それ以前の爬虫類と異なる脚のつき方を進化させたからだ。
鳥にとって独特の特徴だと思っていた羽毛は、恐竜時代に発達したと考えられている。多くの恐竜には羽毛が生えていた。
 二足歩行は、鳥類と恐竜の大いなる共通点である。シソチョウ(始祖鳥)は、羽ばたきは無理でも、滑空はしていただろうと考えられている。
翼竜は、空を自由に飛翔した、はじめての脊椎動物である。この点では翼竜は鳥類の先輩だが、系統的には鳥や恐竜とはまったく異なるものだ。鳥類が空に進出したときには、すでに翼竜が空を支配していた。
 鳥が羽毛をつかって飛ぶのに対して、翼竜は皮膜を利用して飛行する。
羽毛は皮膜よりも優秀な飛行器官である。羽毛は軽い。飛翔のための強度をもちつつ、とてつもない軽量さを誇っている。これに対して、翼竜の皮膜は、生きた皮膚であり、血流は水分を含み、必然的に羽毛より重くなってしまう。
 恐竜と鳥の大きな違いの一つが、尾の部分だ。恐竜において、バランサーやエンジンとして役に立っていた尾は、子孫の鳥では不要になってしまった。
ほとんどの翼竜には、立派な歯が残されている。その多くは、魚を食物としていた。
 鳥は、空を飛ぶために、むしろ歯や腕、尾を捨てた。
毒牙をもつと考えられる恐竜が見つかっている。実にシノルニトサウルスという小形恐竜である。牙に溝がある。
 恐竜の一部は渡りをしていた。
鳥類を研究する学者が恐竜を真面目に論じている面白いキョーリューの本です。なかなか恐竜展に行けないのが残念です。
(2013年6月刊。1880円+税)

職場を襲う「新型うつ」

カテゴリー:社会

著者  NHK取材班 、 出版  文芸春秋
NHKスペシャルで放映された番組を本にしたものです。日頃テレビをみない私は、この番組もみていませんが、大牟田市にある不知火病院の「海の見える病棟」も紹介されたようです。私も見学に行ったことがある精神科の開放病棟です。実は、この病院の徳永雄一郎理事長は私の中学校時代のクラスメートなのです。
新型うつは、新型うつ病ではない。新型うつは、性格的な問題がからむうつなので、なかなか薬が効きにくく、慎重に薬を投与しなければならない。
 ところが、医師が従来型のうつ病と同じような処方をしてしまうケースが多い。その結果、薬が効かない、患者の症状は良くならない、薬を処分してしまって、症状はますます悪化するという悪循環に陥ってしまう。
新型うつを甘く見てはいけない。放置しておくと、重大な事態をひきおこす危険がある。
 統計をとると、かなり企業が新型うつに手を焼いていることがわかった。
新型うつの特徴は、仕事が出来ずに休んでいても、好きなことで遊んでいるのに何の罪悪感もない。自分から「うつかもしれない」と、いきなり人事部に申し出てくる。自分から病院に行って、自分から休みを申請して休む。訪ねると、だいたい家にいる。
精神的な特徴としては、三つある。ストレスに弱い。人間形成が未熟。失敗をものすごく恐れる。新しいものには食いつかない。ものすごく保守的。なんでも他人のせい、仕事のせい、もののせいにする。こだわりがすごく強い。プライドが強くて、間違いを認めない。ミスしたのは自分が悪いのではなく、教えてくれなかった上司であり、周りが悪い。
育った環境が大きい。母親は、自分の子に問題があるとは絶対に言わない。おそらく、親から叱られたことがない。新型うつの大きな特徴は、職場ではうつ、プライベートでは元気。
過労が原因になることの多い従来型のうつ病だと、しっかり休ませ、治療することが効果的なことが多い。
 新型うつが増えている根底には、上司や職場側と若者側との価値観のギャップがある。新型うつは、結局はコミュニケーション不全から生まれているのではないか・・・・。
 親の過保護・過干渉があったため、自分で考えて何かに挑戦したり、そこで失敗したり、成功したりする経験が少ないことによって、自分に自信を持てていない。自己否定感が低い。だから、会社で怒られたりすると、弱い自分を守るために他者を攻撃し、また逃避行動して、すぐに会社を辞めたりしてしまう。
 新型うつを克服するためには、本人が自分の非を認められるようになること、そのためには、本人が自分に自信を持てるようになることが必要だ。いわば、自己肯定感を取り戻すのだ。
 それにしても、最後のあたりに威張りちらすばかりで、仕事以外の場でのコミュニケーションのできない中高年のコミュニケーション能力の不足が指摘されているところは、耳の痛いものではあります。
 それと、日本社会に優しさが薄れているのも気になりますよね・・・・。
(2013年4月刊。1300円+税)

命のビザを繋いだ男

カテゴリー:日本史(戦後)

著者  山田 純大 、 出版  NHK出版
1940年(昭和15年)、ナチスドイツに追われて逃げてきたユダヤ難民たちが、リトアニアの日本の領事館に日本へのビザを求めて押し寄せてきた。領事代理の杉原千畝(ちうね)は、人道的見地から、本国の指令に反して日本通過を許可するビザを発給した。そして、ユダヤ難民6000人がヨーロッパからシベリア経由で日本の神戸、横浜、東京へ渡っていった。
 ここまではセンポ・スギハラのビザ発給によるものとして、私も知っていました。この本は、日本にやってきたユダヤ難民のその後を扱っています。
 杉原が発給したビザは、あくまでも日本を通過することを許可するビザであり、許された日本滞在期間はせいぜい10日ほど。たった10日間で、目的地の国と交渉し、船便を確保するのは不可能。そして、ビザの延長も拒否された。
 そんなユダヤ難民の窮状を救ったのが小辻節三(こつじせつぞう)だった。この本の主人公・小辻節三はヘブライ語学の博士号をもち、ヘブライ語を自由に話すことができた。そして、60歳のときにユダヤ教に改宗した。
 最近も、外務省の元高官が晩年にユダヤ教に改宗した人がいるという記事を読んだことがあります。日本人でも、インテリにはユダヤ教に魅かれる人が少なくないのですね。この本は、その小辻節三を生い立ちから、その家族の現在に至るまで、よく調べていて、本当に感心します。
 日本が国際連盟を脱退したときの外務大臣として有名な松岡洋右(ようすけ)は、その前は満鉄総裁だった。そして、小辻を顧問として破格の高給で迎え入れた。
どうやら満州にユダヤ人を迎え入れようとする計画があったようなのです。
ハルピンで極東ユダヤ人会議が開かれたとき、小辻は1000人をこえる聴衆の前でヘブライ語で演説をはじめた。ただし、そのヘブライ語は、とても古典的なヘブライ語ではあった。みんな驚いたことでしょうね。日本人が古典的ヘブライ語を話すなんて・・・。
 ユダヤ難民が神戸へ上陸して苦労しているとき、小辻は頼まれて、その局面打開のために東奔西走した。そして、小辻に力を貸したのが、元満鉄総裁であった松岡洋右外務大臣だった。まさしく偶然のおかげでした
 松岡外相は、ドイツとの関係は良好に保ち、アメリカとの戦争は回避したいという立場にあったので、小辻のユダヤ難民の救出に手を貸した。
 その後、小辻は満州に渡り、そこでユダヤ人に助けられた。
小辻に神戸で助けられたユダヤ難民のなかには、アメリカに渡ったあとイスラエルの宗教大臣になった人もいました。
 小辻は、戦後、そのような人々との交流も大切にしたようです。まったく知られていなかった事実を、足で歩いて発掘していった著者に感謝したいと思いました。
(2013年4月刊。1700円+税)

市長「破産」

カテゴリー:司法

著者  吾妻 大龍 、 出版  信山社
私は長く住民訴訟にかかわってきました。残念なことに、一度も勝訴したことはありません。それでも、一つだけ、マスコミの事前予測では「住民側勝訴」というものがあり、事前に取材を受けましたが、当日、「請求却下」判決が出て、がっかりしたこともあります。第三セクターの破綻によって30億円ものムダな公金支出をさせられたことについて、市長個人の責任を追及した住民訴訟でした。
この本は、住民訴訟をはじめ行政訴訟に精通している学者がペンネームで架空市の行政側の内幕をバクロする仕立てになっていますので面白く、分かりやすく、問題点を理解することができます。住民訴訟を担当している人、とくに裁判官にはぜひ読んでほしいと思いました。
 権利放棄議決というものがあります。これは、市長個人に市への賠償責任があるという判決が確定したとき、市議会が市に対する賠償は必要ないと議決して、市長の個人責任を免責するというものです。いわば脱法的な議決です。この有効性が裁判で争われて、最高裁は個々の事案毎に「諸般の事情を総合考慮」して、裁量権の範囲の逸脱または濫用にあたらないかで判断するとしました。権利放棄決議を無効とした判決もあります。
 京都のぽんぽん山訴訟では、元京都市長に一審で4億円の賠償が命じられ、高裁では、それが26億円にアップしました。最高裁でもそのまま認められて確定したため、元市長の遺族は限定承認をして8000万円を市に支払ったとのことです。
 住民訴訟の対象になるものはたくさんあります。要するに、フツーの市民の感覚からして、それは税金のムダづかいではないか、という公金の支出です。そして、失敗しても誰も責任をとらないというときに、住民訴訟という手法をとるのです(その前に住民監査請求をしなければいけません)。
 行政当局側の、市長と担当部局そして法規担当、顧問弁護士の対話がメチャメチャに面白いものになっています。真相は、あたらずとも遠からず、と言うところではないかと思って読みました。
 行政法の権威である阿部泰隆先生の書いた本です。
(2013年7月刊。980円+税)

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