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ルポ・介護独身

カテゴリー:社会

著者  山村 基毅 、 出版  新潮新書
 未婚率が年々、上昇している。25歳から29歳前は、男性が72%、女性は60%(2010年)。
 平均初婚年齢は、男性が30.7歳、女性は29.0歳。これは、1950年に比べて、5~6歳あがっている。
 生涯未婚率(50歳での未婚率)は、男性が16.0%(2005年)から20.1%(2010年)になった。女性は7.3%から10.6%に上昇している。
 初婚の年齢が高くなるのと同時に、結婚しない、出来ない人たちも増えている。
 同じ介護でも、高齢者の介護の先には「死」がぶら下がっている。乳幼児には、少なくとも「見かけ」は輝くばかりの未来が広がっている。
 高齢者の介護を担うものが祝福されることは、ほとんどない。
 2012年、厚労省は認知症の高齢者は300万人をこえるという推計を発表した。この10年間で2倍増大した。65歳以上の10人に1人は患っていることになる。8年後には、認知症の高齢者は400万人をこえるとみられている。
シングルの介護者は「孤立感」を抱いている。どうして、孤独感や孤立感を感じるのか・・・。
 介護が家族内で行われているときには一対一の関係である。デイサービス・センターでは職員のチームワークで介護するが、家庭内では一人で介護にあたる。
 そして、介護は、それぞれ個別の状況にあるため、他人の体験がうまく活用されないことがある。
 シングルの介護者には独身者が多い。結婚したくても出来ないからだ。同じように、ヘルパーにも独身が多い。出会いが少ないためだろう。そして、勤務時間が不規則なうえに、収入も低い。
 本当に介護職の置かれている状況は悲惨としかいいようがありません。安倍首相は軍事予算のほうは5兆円規模へ増大させている一方で、福祉のほうは、相変わらず、冷たく切り捨てています。これで、そんな「国を愛せ」と押しつけるのですから、本当にあの政治は間違っていますよね。
 誰でも、いずれお世話になる介護の現場の大変さがそくそくと伝わってくる新書でした。
(2014年6月刊。720円+税)

天地雷動

カテゴリー:日本史(戦国)

著者  伊東 潤 、 出版  角川書店
 長篠合戦と、それに至るまでを克明に描いた小説です。長篠合戦では、織田信長軍が鉄砲三千挺を三段撃ちしたという通説が疑われていましたが、最近、それが逆振れして、やはり通説どおり三段撃ちはあったのではないかということに収まりつつあります。私も、そのように今では考えています。
 この本は、では、どうやって、三千挺もの鉄砲を織田信長はそろえることができたのか、そして、そのため玉薬をどうやって確保したのかが、大きな主題となっています。逆に、反対側の武田軍の鉄砲と玉薬についてはどうなのか、ということにも目配りされています。要するに、武田勝頼も鉄砲はそれなりにもっていたけれど、玉薬のほうが枯渇してしまった(枯渇させられた)という状況なのです。
 この本では、武田勝頼は突撃しか知らない馬鹿な若殿様ということにはなっていません。信玄亡きあと、実力で「御屋形様」になったものの、信玄に仕えていた有力武将たちとの折りあいに苦労していた様子が描かれています。
 このころの鉄砲は南蛮物が主流でした。しかし、その南蛮物は、使い古したものが輸入されていたので、すぐに壊れた。4分の1は使いものにならず、武将たちは辟易していた。
 玉薬は、硝石7割、木炭1.5割、硫黄1.5割を混ぜてつくる異色火薬のこと。弾丸を飛ばすときに使われる粒子の粗い胴薬(どうぐすり)と、点火のために使う粒子の細かい口薬の二種を、鉄砲足軽は常に携行していた。
 長篠合戦は、織田信長の作戦勝ちだとしています。つまり、まず、武田軍の玉薬を欠乏させ、その確保のためには前進するしかないようにする。そして、後詰め(後方部隊)を奇襲して全滅させ、前進するしか活路を開けないようにしたのです。そこを、三段構えで、鉄砲足軽が待ち構えているというわけです。
 武田軍の主要な武将たちも、勝頼から、「この期(ご)に及んで命を惜しむのか」と皮肉られたら、前方の織田軍へ突進するしかなく、バタバタと倒れていくのです。
 この本は、最新の学説の到達点を見事に小説にまとめあげている点もすごいと思いました。
 「この時代小説がすごい」1位というのも、うべなるかな、です
(2014年4月刊。1600円+税)

炎を越えて

カテゴリー:社会

著者  杉原 美津子 、 出版  文芸春秋
 NHKスペシャルで、放映された(2014年2月28日)内容が本になったもののようです。
 事件が起きたのは、1980年8月19日の夜9時すぎのこと。東京・新宿駅西口のバス停です。突然、バスにガソリンが投げ込まれ、火が付いて、30人の乗客猛火に包まれた。結局、6人の乗客が死亡し、20人が重軽傷を負った。犯人は無期懲役。やがて、刑務所内で自死した。
 この本の著者は、乗客の一人でした。熱傷の範囲は全身の80%に及び、医師は「絶望」とみた。しかし、死線を乗りこえ、ケロイドの皮膚をもちながらも退院できるようになった。ただし、大量の輸血のために、C型肝炎に感染した。
看護師が「魔の薬浴」と呼んだ治療と処置が毎朝、全身の傷口がふさがるまで数ヶ月間も続いた。手術が一週間に一度の割合で行われた。壊死した皮膚組織をメスで削りとる。次に、本人の皮膚を植皮する。
 加害者は当時38歳の男性。自らの不甲斐なさに腹立ちと焦燥を覚え、自分のみじめな境遇を思うにつけ、世間に対してねたみや恨みの感情を抱くようになった。人々から、行く先々で唾棄され、「自分だって、やる気になれば、何だってできる。馬鹿野郎、なめやがって」と思い、火とガソリンを投げ込んだ。
 死刑の求刑に対して、無期懲役の判決が出た。犯人(被告人)は低知能を基調として、心因反応性の被害・追跡妄想にもとづく情動興奮と酩酊との影響を受け、心神耗弱(こうじゃく)の状態にあったとされた。
 千葉刑務所内で自殺したとき、彼は55歳。事件から17年がたっていた。
 著者はC型肝炎から、肝がんになった。医師は「余命、半年」を宣告した。ところが、アメリカ発のサプリメントの効果で、ガンは消滅してしまった。
 人に出会い、人と胸を開けば、自分が見えてくる。そうしたら、自分にも非があったことを「詫びる」ことができる。そこから、「赦しあう」関係ができる。
 「被害者」になっても、「加害者」になっても、自分のその痛みを直視して、それを小突く者たちと闘って行くのだ。自分の痛みを自分で受けとめることができたら、相手の痛みを感じる神経も戻ってくる。
 それでも、人間は苦しみ、災害も事故も事件も繰り返され、加害の立場に立ったものは、赦されることのないその後を生き、被害を受けたものも、痛みの終わるときのないその後を生きていかなければならない。だから、被害を受けたものには、その痛みを伝え、その痛みを乗りこえていくことが許される。それが、被害者と加害者との決定的な違いだ。
 憎しみ続けることは苦しいことで、膨大な負のエネルギーが必要になる。少年は、それを抱えていく耐性が弱いため、そこから解放されたいという思いから、誰かに憎しみの感情を受けとめてほしいということになる。
 心身に傷を負った被害者が被害者として生きてくことの難しさをよくよく実感させてくれる貴重な本です。それでも、モノカキとして生きてきた著者は素顔を出して、私たちに語りかけてくれました。その勇気をもらって、元気になれる本です。
(2014年7月刊。1400円+税)

リニア新幹線

カテゴリー:社会

著者  橋山 禮治郞 、 出版  集英社新書
 この本を読んでいるうちに、ふつふつと怒りが沸きあがってきました。いえ、もちろん著者に対してではありません。書かれている内容からです。
 1997年12月に供用を開始した東京湾アクアライン(横断道路)は、現在、1日あたり1億円の赤字を出している。工事費は、当初予算の125%の1兆4千億円超。料金は当初から8割も値下げして800円。この料金収入は借入金の支払い金利すら下まわっている。投資の回収は絶望的。巨額の損失をこうむったのは日本道路公団。
要するに、私たちの税金が日々、ムダづかいされているというわけです。そして、誰も責任をとっていません。戦後最大の失敗プロジェクト。
しかし、リニア新幹線は、それをさらに上回るスケールで失敗するのは必至のプロジェクト。
 JR東海の社長は、「絶対にペイしない」と断言した。
 リニア新幹線の建設工事費は異常に高い。東京-大阪間で9兆300億円。うち、東京-名古屋間では、5兆4300億円。
 リニア新幹線は東京-名古屋間では86%が地下と山岳トンネル。大都市圏内では、地下40メートル以深の大深度地下。
 推進派の学者は次のように発言した。
 「薄暗いリニアの車内で、誰にも邪魔されずに静かに瞑想できる」
 リニア新幹線は、時速500キロで東京-大阪間を67分、東京-名古屋間を40分という。わずか1時間ほどの「瞑想」時間に、これほどの巨額の投資をするものか・・・。
 リニア新幹線には運転士は乗っていない。地震などによって中央制御センターが破壊されたときには制御不能になるのではないか・・・。5~10キロ毎に立て坑が設置されるというが、どうやって安全に乗客を誘導するというのか。
 強力な電磁波は、果たして人体に影響ないのか・・・。
 リニア新幹線は、在来のJR、新幹線と相互乗り入れすることはでいないし、連絡もありえない。ネットワーク無視の鉄道である。
 リニア新幹線の危機性だけでなく、とてつもない無駄な超大型公共工事であることが良く分かりました。こんな典型的なムダづかい工事は、一部の政治家とゼネコンを喜ばせるだけです。
 ストップさせるしかありません。
(2014年3月刊。720円+税)

弁護士 馬奈木 昭雄

カテゴリー:司法

著者  松橋 隆司 、 出版  合同出版
 福岡の現役弁護士のなかでは今や最長老となった馬奈木弁護士の活躍ぶりを、その取り組んだ事件ごとに本人がまとめて語ったという本です。
 『たたかい続けるということ』(西日本新聞社)、『勝つまでたたかう』に続く本です。160頁の薄さですし、事件ごとにまとまっていますので、すっと読むことができます。
 「ムツゴロウの権利を守れ」という裁判では、そもそも勝てるわけがない。実務家として、裁判には勝たないと意味がない。負ける結果になった裁判であっても、それは「心ならずも」であって、負けることを前提として始めた裁判は一つもない。
 水俣病裁判のとき、国側についた医師は、「自分たちは医者として中立だ」と言った。しかし、医師は、そもそも患者のために存在するのであるから、患者の立場に立たなくて、どこに立場があるというのか。医師が「自分は中立だ」と言った瞬間、それは患者の側には立たないと宣言したと同じことを意味する。
 母親の胎盤がガードしているから、胎児には毒はいかないと考えられていた。しかし、このバリアが機能せず、胎児性水俣病の赤ちゃんが生まれてしまった。それは、人間がつくり出した毒だったから。35億年かけてガードしてきたのは、自然環境のなかにある毒である。ところが、それとは違う人工の毒物なので、人体の防御機能が働かなかった。そこに、人間のつくり出した毒物の恐ろしさがある。
 弁護士は、ときには暴力団と怒鳴りあわなければならないときがある。ゴミ問題にとりくむと、暴力団が出てくることもある。そのとき、怒鳴り負けない。「声の大きさなら、おまえたちには負けんぞ!」と怒鳴る。こちらが怒鳴ったら、相手は黙る。
かつては、相手を侮辱することを弁護士の商売と考えていた。この相手は普通の事件ではなく、国や権力機関、とりわけ裁判所を相手にするときのこと。ともかく、裁判官とケンカして一本取らないといけないと思っていた。しかし、それは決して正しいことではなかった。相手を侮辱しても相手の敬意は勝ちとれない。要は、相手をいかに説得するか。相手にいかに共感しあえるか、そこが勝負なのだ。
 なーるほど、ですね。でも、裁判官とケンカすること、出来ること自体は大切ですし、必要なことです。理不尽なことを言ったり、したりする裁判官に対しては、その場で反撃しなければいけません。そのときに、侮辱的な言動をしてはならないということなのです。
 公害発生源企業(加害企業)が裁判に負けたとき、被害者・患者に対して土下座することがある。しかし、それは本当に本心からお詫びし、反省したのか。口先だけ、マスコミの手前の格好だけで頭を下げても、何の解決にもならない。世間から「もう許してやったらどうか」という同情を狙っているにすぎない。必要なのは、本当の意味で謝ること。それを明確にしたスローガンが、じん肺裁判の「あやまれ、つぐなえ、なくせ、じん肺」である。
 この点は、私も本当にそうだと思います。
 ハウツー本によれば、企業幹部は、謝罪すると腰を何度に曲げて頭を下げ、それを45秒間続けることと、されているのです。マニュアルどおりの謝罪に、本心は感じられません。
裁判官のなかには、何が何でも国を負けさせてはならない。国を勝たせるべきだと頭から思い込んでいる人が少なくない。これは、いかんともしがたい事実だ。
 これは、本当に私の実感でもあります。正義と良心を貫くには勇気がいります。ときには、いくらか俗世間の誘惑を拒絶する覚悟もいるのです。そんなことの自覚のないままに流されている裁判官が、なんと多いことでしょうか・・・。
 「国の基準を守れば安全だ」という論理は、3.11福島原発事故によって完全に破綻している。しかし、今なお、「原発神話」にしがみついている行政、官僚、司法界とマスコミの人々、そして企業サイドが、いかに多いことでしょうか・・・。
 馬奈木弁護士の今後ひき続きの健闘を心から期待します。ぜひ、皆さん、気軽な気持ちでお読みください。
(2014年9月刊。1600円+税)
 雨の日が多い夏でしたが、いつのまにか秋の気配が濃くなりました。稲穂が垂れ、畔には彼岸花が立ち並んでいます。
 連休に庭の手入れをしました。いま一番は朝は純白で、夕方になると酔ったように赫くなる酔芙蓉の花です。
 庭のあちこちにリコリスが咲いています。紅ではなく、純白なクリーム色です。すっと立つ姿は気高いりりしさを感じさせます。
 ナツメの実がたくさんなっていました。高いところにあるので、枝ごと切り落としました。ナツメ酒をつくろうと、日干しすることにしました。
 ヘビが庭をうろうろしていますので、ジャガを整理して、すっきりさせました。
 そろそろチューリップの球根を植える時期です。ツクツクホーシという夏の終わりを告げるセミの声が秋風のなか響きわたりました。

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