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きみは赤ちゃん

カテゴリー:人間

著者  川上 未映子 、 出版  文芸春秋
 芥川賞作家の女性が、妊娠、そして出産という人生の一大事について、自らの体験を赤裸々に語り明かした本です。
 さすがは作家だという軽妙な語り口で話が進行していきます。どうやら、ブログに現在進行形で語られていたようです。ですから、臨場感があります。
 じっさいの妊娠生活は、私の想像をはるかに超えた、苛酷かつ未知すぎるものだった。
 赤ちゃん(胎児)が育たないのは、受精卵の状態によるものがほとんど。だから、母親があれこれ心配しても、育つものは育つし、育たないものは育たない。
つわりが終わったとき。吊しベーコンを思い浮かべる。瓶詰めのアンチョビ。そして排水口。これまでなら、ちょっと思い浮かべるだけでも即座に吐いていたのに、難なくクリアできた。
 そして、それからの食欲は、これまでに体験したことのないほどの凄まじさだった。とにかく、すべてを食べ尽くしていった。驚いたのは、何を食べても、頭がおかしくなるくらいに美味しいこと。
 出産費用は、普通分娩だと60万円ほど。出産時に、国から42万円が支給される。
 ところが、無痛分娩だと、国からの42万円とは別に50万円が必要となる。検診ごとに1万円かかるので、合計すると20万円。それをあわせると、ざっと140万円かかる。これも、日本では、無痛分娩が一般的ではないからだ。
 骨盤が変化していくのを自覚する。大陸が移動するかのような変化が、手にとるように分かる。みしみし鳴って、本当に分かる。
 無痛分娩の麻酔は、背中の脊髄あたりに針を刺して、管にかえて出産が終わるまでそれを刺したまま過ごすことになる。
 1ミリの子宮口が出産のときには、全開10センチになる。
 麻酔薬を入れたとたん、いっさいの痛みが、瞬間に消え去った。
 結局、著者は子宮口がいくら待っても開かず、帝王切開になったのでした。
 そして、生まれたとき、赤ちゃんを見ての気持ちが次のように語られます。
 私はきみに会えて本当にうれしい。自分が生まれてきたことに意味なんてないし、いらないけれど、でも私はきみに会うために生まれてきたんじゃないかと思うくらいに、きみに会えて本当にうれしい。この先、何がどうなるかなんて誰にも何にも分からないけれど、分からないことばっかりだけど、でも、たった今、私はそんなふうに思って、きみを胸に抱いて、そんなふうに思っている。
 帝王切開だったのに、手術の翌日に歩行。2日目にシャワー、そして5日間で退院。
 生む苦しみ、育てる楽しみをしっかり味わい尽くしたという実感がひしひしと伝わってくる貴重な本だと思いました。
(2014年9月刊。1300円+税)

幕末維新の漢詩

カテゴリー:日本史(江戸)

著者  林田 愼之助 、 出版  筑摩選書
 幕末の志士たちが、見事な漢詩をつくっていたことを紹介した本です。
 江戸時代は、漢詩が本格的に成熟をみせた時期である。
 平安時代には、嵯峨天皇や菅原道真などの漢詩人がいるが、まだ唐詩の模倣段階にあった。室町時代には、宋(中国)からの帰国僧、絶海中津、義同周信などのすぐれた漢詩人が登場するが、禅風詩が多かった。
 徳川幕府は朱子学を政道の基本にすえたので、武士階級の教養として、漢学、儒教の学を修得することが不可欠となった。その一環として漢詩をつくるのが、ごく普通のこととなった。
 文人が誕生し、自律した存在となり、武士だけでなく富裕な商人層にも普及した。
 漢詩についても、格調主義から、自由で砕けた宋代風の詩風が流行した。漢学的なものに反旗を翻す専門的な詩人・文人が相次いだ。幕末になると、倒幕に動く憂国の志士たちが、さかんに時世を慷慨(こうがい)する詩をつくった。
 佐久間象山(しょうざん)、藤田東湖(とうこ)、吉田松陰、橋本左内(さない)、高杉晋作、西郷隆盛らは、折につけ浮沈する思いや感慨を、多くの漢詩に託している。その詩の出来栄えは、江戸期の専門的な漢詩人にくらべて、少なくとも見劣りしない詩的力量を発揮している。
 人間 到処 有青山
 (じんかん、いたるところ、せいざんあり)
 山口県生まれの僧、月性の有名な漢詩の一節です。
 「人間」は、中国風に「じんかん」と読むのが漢詩文の常識で、世の中、世間という意味。
 詩をつくる人は温潤で、詩を好まない人は刻薄である。詩は、もともと情より出ずるもので、詩を好まない人は、情が稀薄である。
 西郷隆盛が西南の役で敗れ、ふるさとの城山で自刃する直前につくった漢詩がある。
 尽日 洞中 棋響 閑
 (じんじつ、どうちゅう、ききょう、のどかなるを)
 日がな一日、この洞窟の中で碁を囲み、その音が響くなかで、のどかに暮らしていることだ。
 洞窟のなかで、死の寸前まで隆盛は囲碁をしていたというのです。これには驚きました。
 竹角一声響
 指揮非有人
 弱氓皆猛虎
 潤屋乍微塵
 酷吏空懐手
 姦商僅挺身
 撫御誰違道
 乱党本良民
 これは山田方谷が体験した松山藩内に起きた百姓一揆のありさまを詠じたものです。
 一揆にたちあがった農民は善良な民である。政治が道を間違えているのだと、方谷は百姓一揆を詠じて、はっきりと政治の疲弊を断罪している。
幕末の志士たちの教養の深さに感服しました。
(2014年7月刊。1700円+税)

波よ、鎮まれ

カテゴリー:社会

著者  沖縄タイムス「尖閣」取材班 、 出版  旬報社
 尖閣諸島付近の漁業の実情を知ることのできる本です。この海域は、かつて日本人も中国人も共存共栄していた漁業だったのです。知りませんでした。
 偏狭な領土ナショナリズム思想をもつ活動家たちが魚釣島に上陸して緊張感を高めた。そして、石原慎太郎都知事(当時)が尖閣諸島の購入計画を発表して、緊張関係は一挙にエスカレートした。
 中国漁船の衝突事件では、日本政府も中国政府も対応を誤った。
 中国漁船による尖閣諸島周辺の操業は、日中漁業協定によって合法である。中国漁船と沖縄漁船のトラブルはほとんどない。起きるトラブルの大半は、台湾漁船のマグロはえ縄漁による漁具の交差・切断や漁具盗難である。
小さな徴発の応酬が戦争にまで発展した事例は世界にはいくつもある。
 マグロはえ縄漁船は、最前線で台湾漁船と激しい漁場の競合に直面している。
 尖閣海域は、高級魚(フエダイ、ムツ、ハチビキ科など)が捕れる好漁場だが、近年は漁場を利用する人はほとんどいない。
 尖閣海域は、石垣島から170キロ離れ、自船で行くと、10時間かかる。そして、尖閣諸島周辺の海は荒い。
 尖閣海域は、かつて沖縄と台湾の農民が魚を分けあう「生活圏」だった。この背景には、台湾の漁場が日本に比べて圧倒的に「視野」が狭かったことにある。
釣魚台周辺は、好漁場。サバの産卵地域でもある。
安倍首相のように、中国や韓国・北朝鮮について頭から敵視して、対話交流もしないというのは、信じがたいほどの誤りです。70人もの大企業代表国を引きつれて世界各地に出かけている安倍首相が、今もって中国にも韓国にも行ってないなんて、許せないことです。
(2014年4月刊。1600円+税)

虚像の抑止力

カテゴリー:社会

著者  猿田 佐世、マイク・モチヅキほか 、 出版  旬報社
 この本の発行主体である新外交イニシアティブ(ND)の事務局長である猿田佐世弁護士は、日本とアメリカで弁護し活動しながら、アメリカ議会で活発なロビー活動を進めています。その猿田弁護士が企画した沖縄でのシンポジウムが本になっていますので、大変読みやすく、問題の本質が明快にえぐり出されています。
 柳沢協二氏は、海兵隊が沖縄に存在することが抑止力であるという論理は成り立たないと力説しています。
 そもそも、抑止力とは何か? 抑止力とは、相手が侵略してきたとき、これを抑止し、その目的に見合う以上の損害を与える意思と能力を認識させることによって、侵略を思いとどませることを言う。
 いま、アメリカと中国とは、相互にライバル意識を持ちながら、経済的には切っても切れない関係にある。それは、冷戦時代のアメリカとソ連との関係は決定的に異なっている。つまり、相互に最大の貿易・投資のパートナーであり、国の存立の基盤である経済活動において互いに必要としている。だから、両国のあいだには、相互に相手を破滅させるような戦争をする動機はない。
 アメリカは、尖閣諸島をめぐる日中の対立軍事衝突に発展し、そこに巻き込まれることを心配している。
 沖縄の海兵隊は、能力はともかくとして。投入の意思がない以上、抑止力とはなりえない。
 沖縄にアメリカ軍の基地が集中していることは、中国にミサイル能力が向上するに伴い、基地の脆弱性が増していることを意味する。いざというとき、中国のミサイルの格好の標的になって、破滅してしまう恐れが強い。
 屋良朝博氏は、なぜアメリカ軍の海兵隊が沖縄に移ってきたのか、いまも謎だという。沖縄には、そもそも海兵隊はいなかった。知りませんでした。
 尖閣諸島を中国軍が占拠したとき、沖縄にいるアメリカ軍海兵隊が奪還してくれるはずだ。日本人の多くは、このように思い込んでいる。しかし、アメリカ軍の海兵隊トップは、小さな島の奪還に、海兵隊は無用だと断言する。海兵隊は地上戦闘兵力であり、シーレーン防衛とか中国の艦船と対決するような事態には投入されない。
 アメリカの国防総省(ペンタゴン)は、海兵隊を沖縄から全面撤退するように提言した。
在日アメリカ軍の駐留経費は年間3600億円。日本の負担は、ヨーロッパのNATO諸国の負担の2倍。イタリアの12倍、韓国の8倍。まさしく大盤振る舞い。「おもてなし」だ。
 半田滋氏は、日本政府はアメリカ政府に対して盲目的な主従関係にあるという。
 アメリカ軍の駐留経費の75%を日本政府が負担している。
 いえ、決して安倍首相のポケット・マネーで負担しているのではありません。私とあなたの税金によって、まかなわれているのです。毎日、苦労して働いて納めている税金がアメリカのために使われているなんて、とんでもないことです。プンプン・・・。
 アメリカ軍の海兵隊は、沖縄に常駐しているのではない。海兵隊は、沖縄に1年の半分以上はいない。
 新書版より少し大きなポケット・サイズの本です。190頁しかありませんので、大切なポイントをつかみやすい本になっています。それにしても、猿田弁護士は会うたびに若々しく、美しくなっています。やっぱり、時代の要請にこたえて活動すると、人は若返ることができるんですね。こんな外交活動を支えるためにも、ぜひ本屋の店頭で手をとり、お買い求めください。あなたの、そのささやかな行動が日本を救うのです。
(2014年8月刊。1400円+税)

東大首席弁護士の7回読み勉強法

カテゴリー:司法

著者  山口 真由 、 出版  PHP
 タイトルにひかれて、本屋でつい手にとって読みはじめました。
 東大(法学部)を首席で卒業した人って、どんな勉強をしていたのかなっていう好奇心からです。すると、この女性は本人いわく天才ではなく、努力した秀才だということを知りました。そして、その7回読み勉強法なるものは、とても合理的なものであることを知って、なんだか安心しました。
 東大法学部を卒業したあと財務省で8年間はたらき、今は、なぜか弁護士をしている女性です。とても素直な文章なので、それこそスラスラ30分で読み終えました。
 著者は、頭の回転が人並み外れて速いわけではなく、発想力がずば抜けているわけでもなく、むしろどちらも平凡だけど、勉強の力を頼りにして、進んできた。
勉強とは、今日できなかったことを、明日は出来るようにする力なのだ。今の自分をこえて進んでいく、明日の自分に夢を描くための力なのである。
 著者は、読むことを中心とした勉強法を確立した。それは、幼いころから活字に触れる機会が多く、多くの本を読んでいたことによる。
 勉強は決して楽しいものではない。なにより大切なのは、目的・目標をもつこと。小さな目標を達成していく。それによって喜びとやる気を確実に積み重ねることができる。それは、「自信」という自分自身の基盤をつくり出してくれる。
 勉強法を確立するには、自信が強い基盤として必要になる。
 失敗の印象ばかり抱いたまま生きていると、自分を信じる力が低下してしまう。
 失敗は、ミクロな視点では覚えておいて、マクロな視点では忘れてしまうこと。
 7回読みは、さらさら読み。それほど時間をおかずに、また読む。記憶が薄れないうちに再び読むと、定着が早まる。
 7回読みは、一冊の基本書を決め。目移りしない。
 7回読みは、丸暗記とは違う。
 やる気エンジンをかけたいなら、まず机に向かうこと。
 勉強をすすめるためのヒントが満載の本でした。なーるほど、これなら売れる本だと思います。
(2014年8月刊。1300円+税)

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