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頂上決戦

カテゴリー:警察

(霧山昴)
著者  濱 嘉之 、 出版  文春文庫
  大学時代に過激派に所属していて、今では経済ヤクザをしているという人物が登場します。ありうる設定です。
ZⅡとは、元反社会的勢力の構成員を意味する符号。Zは反社会的勢力で、Ⅱがつくと「元」になる。
中国人がもっとも心配する中国国内の三大安全問題の第一が食品、第二が医療、第三が環境。
一般的な秘密文書はマル秘。角秘とは、秘密文書に押印される印の形が丸ではなく、正方形の中に「秘」の字が記されており、マル秘以上に秘密が求められる。
公安部にはキャリアとノンキャリアの二つの参事官がいる。公安部長は警視監、二人の参事官はその下の警視長。
警察庁のチヨダの研修とは、情報専科を意味する。1か月間の専科講習には、全国から30人が選抜され、全員が偽名で受講する。そのなかで行われる行動確認訓練(要するに尾行訓練)は、5人一組で1人のマル対(対象者)に対して行う。このマル対象は、警視庁公安部出身の警部が就くのが慣例。行確時間は6時間。
岡広組(山口組をさす?)は、世界のあらゆる犯罪組織のなかで最大の収益力を有する。麻薬密売や賭博などの非合法ビジネスだけでも、総収入は800億ドル9兆8000億円に達する。
Nシステム対策は進んでいる。レンタカーを一日契約で乗り回す。Nシステムは当日限りになってしまっている。そして、Nシステムのある道路と高速道路はなるべく使わないようにしている。
今や、警察もIT機器をかなり活用しているようです。当然のこととは思いますが、行き過ぎて、プライバシーの保護を侵害しないようにしてもらいたいものです。暴力団(たとえば山口組)が中国での市場開放策の実情を知って、そこに乗り出しているようです。それに反比例して、若者の海外留学が減っています。残念でなりません。山口組の分裂、中国人の爆買いの実態をも生々しく描いた警察小説でした。
(2016年1月刊。660円+税)

チェルノブイリの祈り

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 スベトラーナ・アレクシェービッチ 、 出版  岩波現代文庫
 著者は私と同世代のロシアの作家です。2015年のノーベル文学賞を受賞しています。著者による『戦争は女の顔をしていない』(群像社)は、このコーナーでも紹介しましたが、涙を流さずには読めない傑作です。まだ読んでいない人には強く一読をおすすめします。
 チェルノブイリの事故のあと、その収拾作業にあたった消防士はまもなく大半の人が亡くなっています。その遺体は特別扱いです。遺体は放射能が強いので、特殊な方法でモスクワの墓地に埋葬される。亜鉛の棺に納め、ハンダづけをし、上にコンクリート板がのせられる。放射線症病棟に14日。14日で人は死んでしまう。生まれた赤ちゃんは肝硬変。肝臓に28レントゲン。それに、先天性の心臓欠陥もあった。
 チェルノブイリは、戦争に輪をかけた戦争だ。人には、どこにも救いがない。大地のうえにも、水のなかにも、空の上にも・・・。
 牛乳を飲んじゃだめ。豆もだめ。キノコもベリーも禁止されちまった。肉は3時間、水に漬けておく。ジャガイモは2度、湯でこぼせ。ここの水も飲んだらダメ。
 ぼくらは口外しないという念書をとられた。だから沈黙を守った。大量の放射線をあびた。バケツで黒鉛を引きずった。1万レントゲン。普通のコップで黒鉛をかき集めた。友だちは死ぬとき、むくんで腫れた。石炭のように真っ黒になり、やせこけて子どものように小さくなって死んだ。
 赤ちゃんが生まれた。でも、身体の穴という穴はみなふさがっていて、開いているのは両目だけ。多数の複合以上あり。肛門無形性。女児なのに膣無形成、左腎無形性。おしっこも、うんちも出るところがなく、腎臓は1個だけ。それでも、この子は、生後2日目、にっこりほほ笑んだ。生命力のすごさを感じますが、本当に悲惨ですね。言葉もありません。
 事故処理作業に投入されたのは、全部で210部隊、およそ34万人。屋上を片づけた連中は地獄を味わうことになった。鉛のエプロンが支給されていたが、放射線は下から来た。下は防護されていなかった。
 チェルノブイリ原発(原子力発電所)で事故が起きたのは今から25年以上も前の1986年4月26日。人口1000万人の小国ベラルーシにとって、事故は国民的な惨禍となった。チェルノブイリのあと、485の村や町を失った。うち70の村や町は永久に土のなかに埋められた。今日、ベラルーシの5人に1人が汚染された地域に住んでいる。その210万人のうち70万人が子どもだ。
 福島第一原発事故は今も収拾のメドがまったくたっていないのに、安倍政権は強引に原発再稼働をすすめています。そして、海外へ原発を輸出しようとすらしています。無責任きわまりありません。いったい事故が起きたとき、誰がどうやって責任をとるというのでしょうか。政権党である自民党・公明党の政治家にとって、今さえよければ、それも目先の今さえ利権が得られたら、すべて良しということのようです。残念です。子や孫そして、ずっとずっとこの日本列島に住んでいくはずの人々のことなんか、どうでもいいというのです。恐ろしい人たちです。それこそ神罰があたるのではないでしょうか・・・。
 チェルノブイリ事故は、日本人の私たちにとって決して対岸の火事ではありません。
                           (2016年1月刊。1040円+税)

それでも企業不祥事が起こる理由

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者  國廣 正 、 出版  日本経済新聞出版社
 コンプライアンスと聞くと、なんだか法令を形ばかり守っていればいいんだろうというマイナスのイメージがありますよね。著者は、その体験を通して、そんなものではないと力説しています。
 重箱の隅をつつく形式的な法令遵守(じゅんしゅ)の強制が、コンプライアンスの名のもとで横行している。コンプライアンスという言葉は誤解されている。コンプライアンスは単なる法令遵守ではない。危機的状況にある企業は、弁護士の法律的意見にしがみついてはいけない。
 パロマの教訓は、人が死亡するという重大事故が続発しているという重大リスク情報をもつ企業は、それを公表して次の事故を防ぐべきだというのが今日の日本社会における企業に対する社会的要請なのである。
企業の管理とは、裁判所を相手にするものではなく、消費者やマスコミなどの社会を相手にするものである。日本社会はルール重視の社会に変わっている。ところが、企業がそれに対応できずに、従来と同じ行動を続けていることが、多くに企業不祥事を生み出している。
 公正取引委員会に談合やカルテルがあったことを通報したら、申告1番目の企業については課徴金が全額免除されるという法律が既に10年前(2006年1月)に施行されているのですね。ちっとも知りませんでした。
 コンプライアンスを「法令違反に問われないこと」と考える企業は、「法令に触れない限り、少しばかり行儀が悪くてもかまわない。ビジネスチャンスはそこにある」という経営姿勢をとりがちだ。これは、合法的に法の網をかいくぐって利益をあげる手法。しかし、いつかは必ず失敗し、取り返しのつかない制裁を受けることになる。
 ダスキンは、「積極的には公表しない」というあいまいで成り行きまかせの方針でのぞんだ。この姿勢が危機を拡大させた。危機管理広報で大切なことは、報道されないことではなく、報道を1回で終わらせ、連続報道を防ぐこと。報道されないことを追及するあまり発覚したときに、いかに対応するかがおろそかになってはいけない。
 第三者委員会に入って苦労した体験を踏まえていますので、新人ではない私も大変勉強になりました。ありがとうございます。
(2010年7月刊。1600円+税)

会社という病

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 江上 剛 、 出版  講談社α新書
 会社がらみの不正が頻発している。なぜか・・・?
 社員が疲れきっているからだ。会社でストレスがないのは経営者だけ。社員は、誰もが「助けてくれ!」と悲鳴をあげている。多くの会社は、一見、社員を大事にするホワイト企業の顔色をしているが、その内実は「死ぬまで働け」というブラック企業になってしまっている。かつての日本企業は社員を大切にすると言っていたし、外国からそうしていると信じられていた。今では、非正規社員が雇用者の4割近くになったし、社員の多くが将来に不安を抱きながら働いている。
 東大卒は、大企業での出世に強い。それは「潜在能力が高い」からだという。
 うひゃあ、なんということでしょう。「潜在能力」だなんて、誰にも分らない「能力」ですよね・・・。
 長くサラリーマン人生を送ってきたものとして、学生に出来るアドバイスは、ただ一つ。出世なんかするな。出世欲にとりつかれ、そのためだけに他のすべてを犠牲にし、本来の自分の人生を失うことが非常に多い。ある程度の年齢になったら、出世欲は抑えたほうがいい。
派閥会社を生き抜く第一の鉄則は、絶対に浮気をしないこと。あっちふらふら、こっちふらふらというのは最悪だ。そして第二は、派閥に入った以上は、お茶くみ、雑巾がけをいとわないこと。
部下は育てるものではない。育つものである。
嫌な上司とつきあうには、ストレスをためこまず、上手に付き合っていく方法を考える。
会社の業績は、勉強のできる人材だけでは絶対に伸ばせない。バラエティに富んだ人材がいなければ、イノベーションは起きないし、馬力ある営業活動もできない。
サラリーマンにとって、定年とは、なかなか辞めどきを自分で判断できない愚かな組織人にとって、辞めどきを教えてくれる重宝なシステムだ。
社長経験者が相談役だの顧問だのといって会社に残ってプラスになることは一切ない。定年をもっとも必要とするのは、社長や相談役という経営トップなのだ。
日本の会社の成果主義というのは、ひとにぎりの老獪な経営者グループが、欧米なみの超高額の報酬を受けとり、少ない残飯を社員に配っているようなもの。会社の成果の大部分を経営者層がとってしまう欧米のシステムは日本には合わない。巨額の報酬をもらって居座るというのでは、社員のモラル(士気)は低下するばかりだ。
 銀行員として長くつとめた著者が、会社の病(やまい)を切れ味も良くバッサリ切り捨てています。会社づとめの経験がない私は、資格をとって良かったなと思うばかりです。
                           (2016年2月刊。880円+税)

「脳疲労」社会

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 徳永 雄一郎 、 出版  講談社現代新書
 ストレスケア病棟から見える現代日本、というサブタイトルがついた本です。著者は、全国初のうつ病専門病棟を開設した精神科の医師です。福岡と大牟田で診察・治療にあたっています。私も海の見える開放病棟に見学に行ったことがあります。
アベ内閣が推進している残業代ゼロ法案は、ますます際限ない長時間労働へと勤労者を追いこんでしまう危険があると著者は指摘しています。
 仕事による強いストレス原因で心の病気になったとする労災請求件数は2014年度は過去最多の1456件、うち支給決定が397件だった。前年を61件も上回っている。
 ホワイトカラー・エグゼブションを導入するのは現状に逆らうもので、過労死をさらに増やしてしまう危険がある。
 日本人は、家庭のストレス(20%)よりも職場でのストレス(50%)から体調を悪化させ、病気になる。この四半世紀で、ますます多くの職場が長時間労働や過重労働で疲労している。労働環境が悪化している。若い勤労者のIT化による脳疲労がすすんでいる。
不知火病院のストレスケア病棟に入院した患者は4000人をこえた。
クレーマーの心理的背景には、淋しさや悲しさがある。大事にされていない淋しさが潜んでいる。だから、逃げない姿勢が大切。逃げれば追いかけてくるが、向き合えば次第におさまってくる。心の奥底には、話を聞いてもらいたい願望が横たわっている。
クレーマーは攻撃しながら相手を細かく観察している。怒りながら、相手が嫌がっていないか、逃げてはいないか、手足の動きまでも細かく見えている。クレーマーには、逆に頼りたい感情が隠されている。そうなんですね。そんな人としっかり向きあうのは大変ですが、避けられませんね。
 上司も部下も、ゆとりをなくすと、感情をコントロールしづらくなる。上司はパワハラをはじめ、部下は上司を攻撃するという逆パワハラを起こす。
 風邪は、うつ病のもと。慢性的な脳疲労の最大の要因は、長時間の労働にある。
 うつ病は、世界的にみても有病率が高い。WHOによると、全世界の人口の5%、3億5000万人以上がうつ病に苦しんでいる。
うつ病治療の基本は、一に休養、二に薬物療法、三に再発防止のためのカウンセリング。
脳疲労を防止するためには、70%のエネルギーを会社で使い、30%のエネルギーを家庭のために残すこと。
著者は、私と同じ団塊世代です。実は、中学校の同級生なのです。これまで、たくさんの啓蒙書を出しています。今回も贈呈してもらいました。ありがとうございました。お互い、引き続きがんばりましょう。
                           (2016年1月刊。760円+税)

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