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敗者の古代史

カテゴリー:未分類

(霧山昴)
著者 森 浩一 、 出版  KADOKAWA(文庫)
筑紫君石井(つくしのきみのいわい)が継体大王(ヲホド王)と戦った。これを「磐井(いわい)の乱」と呼ぶのは正しくない。石井(いわい)は北部九州を治めていた地域国家の王であって、ヤマト政権に服属していたわけではないから。
筑紫を「つくし」と読むのは慣用であって、古くは「ちくし」(竹斯)である。
当時の国際情勢は、磐井が新羅と組み、ヲホド大王が百済と組んだことが読みとれる。継体21年(527年)におこった継体・磐井戦争は、朝鮮半島での情勢と連動していた。地域国家の王としての磐井の立場では、侵入者と戦うのは当然の行為だった。
磐井は、玄界灘にのぞんだ糟屋に海の拠点をもっていた。磐井は海の王者でもあった。そして磐井は、火(肥後と肥前)と豊(豊前と豊後)に勢力を伸ばしていた。
磐井戦争の最後は、高良山と御井と呼ばれた泉のある土地でおこなわれた。磐井は負けて斬られたが逃亡した。しかし、その子は港は奪われたものの存続することができ、筑紫の君として、地域の豪族となった。
磐井の墓である岩戸山古墳は、墳長132メートルで、北部九州では最大規模である。ちなみに、ヲホド大王の今城塚古墳は、墳長190メートルの前方後円墳。
いま、岩戸山古墳のあたりはきれいに整備され、博物館もあります。まだ行っていない人々は一度ぜひとも行ってみて下さい。
山鹿市には鞠智(きくち)城が復元されています。一般には白村江の戦いで、日本軍が大敗したため、朝鮮半島が攻めて侵入してきたとき、太宰府で喰い止めきれなかったときの備えと位置づけられています。
ところが、著者は、そうではなくてクマソ勢力を威圧するための施設だと考えています。この鞠智城見事に復元されています。ここもまた一見の価値のある場所です。
さすが古代史の権威の本だけあって、とても驚くような話が満載の読んで楽しい日本史の本です。ぜひ買って、手にとって読んでみて下さい。
(2016年10月刊。800円+税)

プルートピア

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 ケイト・ブラウン 、 出版  講談社
アメリカは西のワシントン州東部のリッチランド。ロシアはウラン山脈南部のオジョルスクに、プルトニウムのまち、原子力村をつくった。特異なユートピアが、そこにある。
核兵器製造ラインの全行程のなかで、プルトニウムの製造がもっとも汚い。最終的な製品1キログラムにつき、何百何千ガロンもの放射線廃棄物が生じる。
リッチランドの設計について、デュポン社と陸軍工兵隊が合意すると、まちはわずか18ヶ月でつくりあげられた。
放射能の危険についての知識は、その階級的な差に応じて分け与えられた。放射性溶液にもっとも近いところで働く者は、もっとも訓練を受けておらず、もっとも情報を与えられていない者が多かった。黒人やメキシコ系アメリカ人は雇われず、全住人が白人だった。多数派はプロテスタントで、15%がカトリック、10人がユダヤ人だった。
はじめ、デュポン社は女性の雇用は考えていなかった。妊娠可能な年齢の女性に対する遺伝学的な悪影響を恐れたから。ところが、女性は賃金が安いので、女性を雇うほうが安上がりだったことから、女性が雇われるようになった。
1940年代までに、科学者たちは、放射能が不妊症や腫瘍、内膜障、癌、遺伝学的変異、早老といった病状と早期の死をもたらすことを知っていた。
ソ連では、原子力計画の指導者たちは、放射線の危険に対して無頓着な態度をとった。自らを放射能汚染にさらすことは、工場の書かれざる規約の一つだった。
労働者は、100~400レムを被曝した。400レムは初期の放射線による老化を生じるのに十分な量で、これは、慢性的な疲労、関節痛、骨の粉砕を招き、最終的には癌や心臓病、肝臓病をひきおこす。
ソ連初の核実験は秘密主義で行われたが、核爆発を隠すのは難しかった。
アメリカのリッチランドには自由企業はなく、自由な出版権もなかった。
組合活動をする者は、左翼で、裏切り者で、不忠な者として嫌われた。組合攻撃は便利なものだった。
ソ連では、チョコレート、赤肉、そしてウオッカが工場の労働者に与えられた。これらが放射性同位体を浄化するのに役立つと考えられた。
若い女性が突然老けてしまった。半分以上が50歳になる前に癌になった。
そして、新しい病気、病気の若者、工場労働者の死因は、国家機密とされた。
アメリカでは、全年齢の癌発病率が1950年から2001年までに85%も上がった。かつては医療的に稀だった幼少期の癌がアメリカの子どものもっとも多い病気になった。
ロシアの子どもの3分の1しか、健康な状態で生まれない。
放射性汚染物質の恐ろしさがひしひしと伝わってくる本です。この目に見えない敵に人類が勝てるはずはありません。ノー原発、ノー核兵器と叫びましょう。ところが、アベ政権は核兵器廃絶の取り組みに、国際社会で公然と「ノー」と宣言したのです。信じられない暴挙です。やめてください。なんでもアメリカ頼みでは世界と日本の平和は守れません。
(2016年7月刊。3000円+税)

水危機を乗り越える

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 セス・M・シーゲル 、 出版  草思社
イスラエルが砂漠の国であること、そこで海水の淡水化をふくめて真水確保で大きな成果をあげていることを知りました。
イスラエルの学校では、最少の水で歯みがきする方法が教え込まれている。それだけ水の大切さが繰り返し教えられている。
パレスチナには1200万人がいて、イスラエルに800万人、ヨルダン川西岸とガザ地区に400万人が住んでいる。
1948年にイスラエルが独立を宣言したとき、国の人口は80万6千人だった。
ネゲブ砂漠を通る国営水輸送網が完成して、1200億ガロン(4億5千万立方メートル)の送水能力を得て、南部の荒涼たる土地でも、種類を選ばずに作物を育てられるほどに大量の水が利用できるようになった。そのため、イスラエルにたどり着いた移民はネゲブ砂漠に入植して農民として生計を立てていくことになった。
イスラエルで点滴灌漑の手法が開発され、実用化された。一滴ずつ灌漑すれば、水分の蒸発はおさえられ、作物の必要とする水を直接その根に届けてやることができる。節水効果はばつぐんで、蒸発や不必要な土壌への浸潤で減少する水はわずか4%にすぎない。
点滴灌漑農法によると、湛水灌漑やスプリンクラー灌漑を上回る収穫を必ずといってよいほど達成できる。現在では、2倍以上の収穫が標準だ。40%の用水を節約しながら、湛水灌漑より550%の生産量をあげている。
もちろん、点滴灌漑の装置は、降雨に比べると、はるかに高額だ。
この灌漑法では、水と溶解性の肥料の混合液が作物にたびたび投与される。これが養液点滴灌漑である。
イスラエルでは、点滴灌漑が標準農法で、灌漑されている耕作地の75%の地下もしくは地上部分に滴下装置を認めることができる。残る25%はスプリンクラー灌漑である。
この点滴灌漑農法がもっとも劇的に増加しているのは、中国とインドである。
今日、イスラエルでは排水の95%が処理され、利用されている。残る5%は汚水処理タンク方式で処置されている。
海水の淡水化にもイスラエルは取り組んでいる。ソレクに建造された施設は世界最大にして最新で、一日に62万立方メートル(1億6500万ガロン)の淡水を生産している。
海水淡水化はイスラエルの水事情を根底から変え、その影響はこの国の社会の隅々に至るまで感じられる。
海水淡水化とは、他人をあてにしなくてもよいということ。これがあるから、我々は自らの運命をコントロールできる。イスラエルの農家にとって、再生水は、今や貴重な水源で、処理して際しようするために国の廃水の85%が集められている。
イスラエルは水問題の解決法においてたくさんの発明をうみ出し、世界の水のあり方を変えてきた。
世界で「水戦争」が深刻化しているという本を読んだことがありますが、こうやって解決する方向で実践している国があるのですね・・・。日本は、その点、どうなっているのでしょうか。
この本の解説に日本がバーチャルウォーター(仮想水)を輸入していると書かれていますが、よく分からない文章でした。残念です。ともあれ、イスラエルという国を見直しました。世界の平和に少しは貢献しているのですね。
(2016年6月刊。2800円+税)

「南京事件」を調査せよ

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 清水 潔、 出版  文芸春秋
「南京事件」について、今も「幻」だったとか、「日本軍が虐殺なんてするはずがない」として否定する人がいますが、信じられません。最近亡くなった三笠宮は、日本軍が南京で大虐殺したことを再三にわたって明らかにしています。
この本は、最近、日本テレビがNNNドキュメントとして放映したテレビ番組の苦労話をまとめたものです。マスメディアがこうやって勇気をもって真実を掘り起こしたことを私は高く評価したいと思います。NHKにも、ぜひ別な角度から迫った番組をつくってほしいものです。
問題は被害者の人数が20万人か30万人かではありません。南京事件は一日だけの戦闘行為ではないのです。
その現場は南京錠内や中心部だけではない。南京周辺の広範囲の地域で起きている。時期も6週間から数ヶ月という期間だ。
「当時20万人しかいなかった南京市街」などという限定はまったく意味がない。日本軍は、長崎から飛行機20機を飛ばして、連日、爆弾を投下していた。そのとき「邦人保護」という説明は無理。
この番組(本)では、南京での虐殺現場にいた福島出身の上等兵の日記を紹介しています。そして、その日記を他の兵士の日記などで裏付けているのです。
これを読んで「大虐殺が幻だった」などという人は、ただ真実をみたくないというだけです。
(1937年)12月16日 2、3日前に捕虜にした支那兵の一部5000名を揚子江の沿岸に連れ出し、機関銃をもって射殺する。そのあと、銃剣にて思う存分に突刺す。自分も、このときとばかり憎き支那兵を30人も突刺したことであろう。
次は、別の少尉の陣中日記。
12月16日。捕虜兵約3千を揚子江岸に引率し、これを射殺する。
さらに、別の少尉の陣中日記。
12月16日。捕虜総数1万7025名。夕刻より軍命令により捕虜の3分の1を江岸に引出し、射殺する。
別の伍長の出征日誌。
12月16日。2万の捕虜のうち3分の1、7千人を今日、揚子江畔にて銃殺と決し、護衛に行く。そして全部処分を終る。生き残りを銃剣にて刺殺する。
別の二等兵の戦闘日誌。
12月16日。捕虜三大隊で3千名、揚子江岸にて銃殺する。
別の伍長の陣中日記。
12月16日、捕いたる敵兵約7千人を銃殺す。揚子江岸壁も、一時、死人の山となる。
そして、12月16日だけではなく、翌12月17日にも捕虜虐殺は続いている。
日本軍は中国軍を捕虜にしたものの、水も食料も与えることが出来ずに困った。日本軍自身が十分な食料を持っていなかったから、困ったのは当然だった。それで、捕虜を虐殺し、その死体は揚子江に流した。死体を埋めたわけではない。
南京城内の「安全区」の人口は十数万人だったかもしれないが、南京周辺は100万人ほどの人口となっていた。
この本を読むと、今の日本では歴史の真実を語ることに大変な難しさがあること、しかし、それを私たちは乗りこえなければいけないことを痛感します。その点、マスコミ人々は、とりわけNHKで働く人々は、もっと勇気をもって行動していただくよう期待します。
私は残念ながらテレビ番組自体は見ていません。そんな人には、とりわけ一読をおすすめします。
この番組にサンケイ新聞が「幻」の立場からケチをつけているとのこと。信じられません。真実から目をそらしたジャーナリズムって、いったい何なのでしょうか・・・。
(2016年9月刊。1500円+税)

戦争のリアルと安保法制のウソ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 西谷 文和 、 出版  日本機関誌出版センター
中東の現地に何度も足を運んで取材しているフリージャーナリストが中東の現実を紹介した貴重な小冊子です。
かつてイラクは、「中東の日本」と呼ばれた。人々は勤勉で技術力が高く、大学まで教育費は無償だったので、学力レベルも中東トップクラスだった。そして、首都のバグダットは「平和の都」と呼ばれていた。
イラクと日本は、戦後にアメリカから占領されたという点で共通している。しかし、日本では戦前の支配層が戦後も基本的に温存されたのに対して、イラクでは、40万人のイラク軍を解雇しただけでなく、フセイン政権の幹部そして官僚を追放してしまった。その結果、イラクは無政府状態になった。
イラクが無政府状態になったので、欧米のゼネコンがイラク復興費に群がった。
バグダットには、シーア派とスンニー派が混在していた地区も多かった。ところが内戦が始まると、人々は逃げ出した。大規模なアメリカによる空爆で逃げ出さなかった人々が、内戦が始まると家を捨て、故郷を捨てて逃げ出した。その結果、バグダットは、チグリス川の西側がスンニー派、東側はシーア派しか住めない分断都市になってしまった。
シリアという国は、東側には広大な砂漠が広がっていて、人口は雨の降る西側に集中している。ISの支配する油田からの収入は、1日2億円にのぼる。ISは3万人から5万人もの兵士を有し、700万人の「国民」に税金をかけている。
指導者のバグダディーやザルカウィは「飾り」なので、いくらでも取り替えが効く。
だから、アメリカが無人機でいくらISの幹部を暗殺してもISを弱体化させることはなく、逆効果でしかない。
アメリカがイラク侵略戦争を始めたのは、フセイン退治というより、石油利権を狙ってのこと。アメリカが効果のない「空爆」にこだわるのは、戦争がもうかるから。トマホークミサイルは1発数千万円、劣化ウラン弾は50~100万円。オスプレイは1機56億円。
安倍政権は恐怖をあおることで、軍事費をどんどん増大させている。社会保障や教育予算を削って、防衛費だけを伸ばしている。
「おい、日本人。おまえは何をしに来たのか。日本はアメリカの手先だ。日本人は、この国から出ていけ」
ついにイラクの人々から私たち日本人は、このように嫌われるようになったのです。悲しいです。残念です。
大勢の子どもたちが家を失い、故郷を失ってさまよい歩いています。そして傷つき、殺されています。そんな映像があります。
著者の撮った写真、ドローンによるアレッポ市街の動画もみましたが、戦争の悲惨さのほんの一端を実感しました。アベ政権は、そんな戦争に加担しようというのです。怖いです。止めさせたいです。黙っていないで、声をあげましょう。貴重な小冊子(88頁)です。ぜひ、手にとってみてください。
(2015年11月刊。800円+税)

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