法律相談センター検索 弁護士検索

レーニン、権力と愛(上)

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者  ヴィクター・セベスチェン 、 出版  白水社
 大学生のころ、レーニンの著書は私の愛読書でした。日本語訳の出来が良かったこともあるのでしょうが、社会分析と運動論が鋭くて、いつも驚嘆、感服していました。
 レーニンが若くして病気で亡くなっていなければ、スターリンによる暴政(圧政)もなかったと思うのですが・・・。プーチン大統領の祖父がレーニンの料理人だったというのも不思議な縁ですよね・・・。
この本は、レーニンが妻のクルプスカヤ(ナージャ)とは別に愛人(イネッサ・アルマンド)がいたことも重視しています。なるほどレーニンの私生活では大きな比重を占めていたのかもしれません。でも、フランスのミッテラン大統領が、「エ・アロール?」(それで、何か問題なの?)と言ったというセリフを私も言いたくなります。
 1917年10月のペトログラードでは、銀行も店も工場も正常どおり操業していて、路面電車も走っていた。劇場には満員の観客がいて、レストランも満席だった。誰も革命が進行していることを知らなかった。200万人の人口の大都市で、蜂起に加わったのは、最大でも1万人だ。
 レーニンは母親とほとんど会っていないけれど、定期的に母親へ手紙を書いて送っていた。母親はレーニンが無条件で愛情を示した唯一の人間だった。レーニンの母親にはユダヤ人の血が入っていたが、レーニン自身は、そのことを知らなかった。
レーニンの兄はロシア皇帝の暗殺未遂によって、21歳で絞首刑となった。帝政ロシアの最後の25年間に大臣、県知事、高級官吏、陸軍高級将校など、2万人ほどが革命グループによって暗殺された。
レーニンは弁護士資格をとったが、弁護士として活動した期間は長くない。レーニンは、弁護士を憎んでいた。
「弁護士は強権的に支配し、非常事態下に置き続けなければならない。なぜなら、このインテリのくずは、しばしば汚い手を使うからだ」
ええっ、そこまで言わなくても・・・と、弁護士である私は悲鳴を上げます。
 レーニンは、その一生涯に家族や友人などへの手紙を除いて1000万語以上を執筆し、出版した。レーニンの文章は明晰で説得力があり、非常に効果的にアイロニーを使った。レーニンは自分では外国語に堪能だと考えていたけれど、実際には、そうではなかった。ドイツ語、英語、フランス語を勉強していたが、会話は初め、あまりできなかった(あとでは話せた)。
 ロシアの秘密警察はレーニンがどこにいて、何を書いているのか、どの集会で演説しているのかを常に把握していた。
レーニンは、あまりにも人を信じやすい人柄だった。レーニンは、マリノフスキーを信用していた。マリノフスキーが秘密警察のスパイだという証拠が出てきて初めて、レーニンは「ろくでなしの正体が見抜けなかった、なんたる豚野郎だ」と自分自身をののしった。陰謀と謀議に明け暮れ、他人に対して容赦がなく、猛烈に秘密好きな人間にしては、レーニンは無邪気にも信じやすい一面があった。
レーニンは、組織運営に関する洞察力をもっていた。レーニンは、鉄のような意思と不屈のエネルギーを体現していた。レーニンは食べ物に興味がなかった。レーニンは猫を愛した。レーニンは整理整頓を旨とした。レーニンは、コミューンから離れたアパートに住むことにこだわった。
レーニンは金持ちだったことはなく、派手な生活をしたこともない。しかし、お金に困ることもなかった。質素に暮らしていた。
初期のレーニンがもっていた最大の手腕は、楽観的な考え方と希望を鼓舞する力である。レーニンは、意気盛んで、快活な人間に囲まれていることを好んだ。ゴーリキーは、レーニンについて、人間としては好きだが、政治家としては嫌いだという立場を崩さなかった。
レーニンは、個人の暗殺や体制の特定メンバーを暗殺の標的にすることに意味があるとは考えなかった。それは無意味な「一騎打ち」だと論じた。
レーニンの最大の特技の一つは、会議をまとめること。レーニンは、相手を取り込み、命令する能力をもっていた。レーニンは、それが自分の主張にあうと考えたら、戦術を180度転換することができた。
レーニンは祖国ロシアの敗戦を望んだ。敗戦が革命の火種(ひだね)になると考えた。
ロシア革命が起きて100年たちました。今では「資本主義、万歳!」と叫んでいるのは1%の人々だけなのではないでしょうか・・・。多くの人々は、共産主義はひどい結果をもたらしたけれど、資本主義だって似たようなものだと今では考えているように思います。マルクスやレーニンの目ざしていた理想を今あらためて考えてみてもいいように思うのです。なんといっても、99%の人々が明るく、食べていける生活を実現すべきだと思うからです。
(2017年12月刊。3800円+税)

異色の教育長、社会力を構想する

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 門脇 厚司 、 出版  七つ森書館
学校教育のあり方を教育長経験者が鋭く告発する本であると同時に、あるべき姿も呈している頼もしい本です。
ながく教育研究者であった著者が、ひょんなことから(交通事故で瀕死の重傷を負い、一命をとりとめたのです)、居住する村の教育長を引き受けた6年あまりの活動をふり返った本です。ですから、学校現場のことがよく分かっていて、教育長ががんばれば、それなりのことが出来ることを証明しました。
私が感嘆したのは、「選書会」です。中学校に300万円、小学校には100万円を振り分けて、生徒全員に1人3冊まで選ぶ権利を与えます。合計600万円の予算で、業者に2000冊の本(マンガ本ははいっていません)をもってきてもらって、授業時間1コマを丸ごとつかって本を子どもたちに自由に選ばせ、図書館に置いて貸し出すのです。これでは子どもたちは図書館に通うようになりますよね。本好きは、新たな世界へ飛び出すのを助けます。この試みを幼稚園にまで広げた(ただし50万円)というのですから、たいしたものです。
そして、「ノーテレビ、ノーゲーム」運動を推進します。
さらに、「読み合い」です。これは、「読み聞かせ」ではありません。これまで会ったことのない2人が絵本を媒介にして仲良くなるきっかけにすることを主たる狙いとした取り組みです。
また、「おんぶ、だっこ運動」というのも実現させました。体育館のなかで、他の子をおんぶして一周する。また、他の子をだっこして一周する。これで、他の子と体と体を接することになり、相手の重さや体の温かさ、ときには特有の匂いにも気がつく。他者に対する親近感が高まり、クラスのまとまりが良くなり、いじめがなくなっていく。さらには、子どもの背筋力が向上する。
いいですね、いいですよね、こんな工夫って・・・。
そして、著者は学力向上路線からの離脱を宣言します。子どもたちが授業が楽しいと思えるようにするのです。勉強が楽しいと子ども思っていると、結果的に学力は向上します。うん、うん、そうなんですよね・・・。
また、キッズ・カンパニーを設立し、子どもたちがサツマイモをもとに商品として売り出す機会を与えます。もうけたら、村に税金を払ってもらいます。残ったもうけは子どもたちのために使われます。いやあ、楽しいですね・・・。
日本の教員は世界でも珍しいほど忙しい。朝7時から夜10時まで、働かされている。そして、その結果、日本の教員は勉強せず、自分の頭で考えなくなっている。その能力が「ほどほど」で、求められている水準に達していない。従順さはあっても、子どもたちの将来を考えようという視点に欠けている。
「ゆとり教育」は、知識偏重を憂い、人間らしい人間の育成を目ざすという目的だったが、現場の教員たちは何をしていいのか分からず混乱してしまった。
新しく教員になったうちの4分の1しか教員組合に加入しない。今では、教職員組合の存在感は薄い。
著者は、教員はもっと本を読み、勉強し、自分の頭で考えること、上からの指示にひたすら従うだけではいけないと強調しています。まったく同感です。そして、そのためには、もっと教員が学校でゆとりを感じられるようにする必要があります。まったくムダなイージス・アショアに2000億円を投じるなんてことをやめて、教育予算を増やしたらいいのです。そして、日の丸、君が代、そして教育勅語を押しつけるなんてバカなことをやめましょう。学校の教員をのびのびさせたら、子どもたちもハッピーになり、日本の未来も開けてくること間違いありません。
ところで、著者は、今はつくば市教育長です。続編が待たれます。楽しみです。
とても画期的な、いい本でした。あなたもぜひ図書館で借りて読んでみてください。
(2017年12月刊。2800円+税)

決断

カテゴリー:司法

著者 大胡田 誠 ・大石 亜矢子 出版  中央公倫社
全盲のふたりが、家族をつくるとき。全盲の弁護士と同じく全盲のピアニストが出会い結ばれて二人の子どもをもうけ、家庭を築きあげていく過程が語られています。
実際には毎日、大変な苦労があったことと思いますが、読み手の心を重くするどころか、ああ、人生って、こんなに素敵な出会いがあるんだねと、何かしら明るい希望をもたせてくれる爽やかなワールドへ誘ってくれます。
ちょうど花粉症の症状が出はじめていた私は、電車のなかで読みながら、目と鼻から涙なのか汁なのか分からず水様性のものがポタポタ垂れてきて、周囲に変なオジさんと思われないようにするのに必至でした。
妻は、出生したとき1200グラムの未熟児度。そのため、保育器に入れられ高濃度の酸素を与えられて網膜が損傷して失明した。光を認知できないので昼と夜が逆転してしまうことがある。昼も夜もない世界に住んでいるので、深夜を昼間と勘違いして深夜の3時ころ、靴音の違いを知ろうと遊んでいたころがある。
夫は、新生児の3万人に1人にあらわれる遺伝性の先天性緑内障のため小学6年生に完全に失明した。父親は、失明する前も失明したあとも、子どもたちを山のぼりに連れでいった。弟も同じ病気で失明している。FMラジオの音を頼りに、前へ、前へと進むうちに、見えないにもかかわらず、つまずいたり、転んだりしながら、前にある障害物や危険な穴などを察知する能力を体得すること、これを父親は求めた。すごい父親ですね、すばらしいです。勇気もありますね。
夫は中学生とき、学校の図書館で、竹下義樹弁護士(京都)の『ぶつかって、ぶつかって』という本に出会います。そして、そうだ、ぼくも竹下さんのような弁護士になろうと思ったのです。竹下さんの本はこのコーナーでも紹介したと思いますが、あらゆる苦難を乗りこえる力強い呼びかけに満ちています。そして、その呼びかけに中学生がこたえたのです。夫は、5回目の司法試験で合格しました。全盲の受験生は、4日間で36時間30分の試験時間ですから、朝から夜まで試験を受けている感じ。一般の受験生は22時間30分ですから14時間も余計に長いのです。これは大変ですね・・・。29歳で合格し、今は弁護士として立派に活動中です。前の本『全盲の僕が弁護士になった理由』はテレビドラマ化させたそうですね。
耳が慣れているので、パソコンでの読み上げ速度は普通の2倍に設定している。おかげで目で文字を追うのと遜色ない早さで文章を耳で読むとことができる。たいしたものです。
読むとモリモリと元気の湧いてくる本です。負けてはおれないなと気にさせてくれます。人間の能力のすごさ、無限の可能性を実感させてくれる本でもあります。決してあきらめてはいけないということです。
これからも、お二人には無限なくがんばっていただくことを心より願います。
(2017年11月刊。1500円+税)

牛天神(うしてんじん)

カテゴリー:日本史(江戸)

著者 山本 一力 、 出版  文芸春秋
団塊世代で、私と同年生まれの著者の本は、いつ読んでも素晴らしく、江戸情緒あふれる一力(いちりき)ワールドにぐいぐいと引きずり込まれ、その心地よさがたまりません。必ず人情味ある人物が登場してきて、ほっと救われるのです。
殺人事件が起きるのではありません。商売上のいざこざをうまく解決していくのです。
時代は老中田沼意次(おきつぐ)の時代のあと。松平定信の安政の改革で棄捐令が発布され、江戸の景気が一気に冷え込んでいくなかで、商売人同士が蹴落としあうのではなく、なんとかお金がまわるように工夫し、しのいでいく様子が描かれています。
神田川、柳橋そして深川という地名が舞台です。質屋、損料屋、料亭など、たっぷり江戸の人情話を堪能できました。
この本の最後に、「オール読書」に2012年5月号から2017年8月号まで足かけ5年の連載とあるのを見て、小説家の息の長さに驚嘆しました。
(2018年1月刊。1700円+税)

「反戦主義者なること通告申し上げます」

カテゴリー:日本史(戦国)

(霧山昴)
著者  森永 玲 、 出版  花伝社
 長崎県島原半島に生まれた末永敏事(びんじ)は、結核を研究する医学者であり、アメリカに留学して研究し、日本に帰国しても結核研究にいそしんでいた。
 末永敏事は、1938年(昭和13年)、茨城県知事に対して、次のように書面で申告した。
「ここに私が反戦主義者なることを、および軍務を拒絶する旨通告申し上げます」
 51歳の末永敏事は、この申告の直後、特高警察に逮捕された。
 末永敏事は、1887年(明治20年)に島原半島の北有馬村今福で生まれた。実家は代々の医家だった。末永敏事は、長崎医専(長崎大学医学部)を卒業したあと、台湾に渡った。その後、アメリカ・シカゴ大学で学んだ。内村鑑三と交流があった。そして、日本に帰国してからは、古里に戻って「村医者」となった。ところが、キリスト者として反戦主義者である末永敏事のいるところではなくなり、茨城県へ転居した。
 末永敏事の申告について、当局は不敬罪の適用を敬遠した。不敬は日本国民にあってはならないこと。当局は、不敬罪容疑の摘発にこそ取り組んだが、その送検・起訴には消極的だった。なぜなら、訴追したら、その状況が目立ってしまうから。まるで天皇制へ不信感が日本国民に広まっているように自ら認めることになりかねない。それは当局にとって不都合だった。
 そこで末永敏事は、造言飛語罪で起訴されたが、本人は法廷をふくめて無言を貫いた。その結果、禁固3ヶ月となった。そして、末永敏事は1945年8月25日に東京の清瀬村で死亡したことになっているが、その死亡状況は判然としない。
 医者として結核をアメリカに渡ってまで専門的に研究して成果をあげていた真面目な医学者が戦前の戦争推進体制の下で有罪となり、その死亡状況すら不明というのです。戦争体制による悲劇の一つだと思いました。
長崎新聞に2016年10月から連載されていたものが一冊の本となりました。価値ある歴史掘り起しの一冊です。もっと新事実が出てくることを期待しています。
(2017年7月刊。1500円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.