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ローズ・アンダーファイア

カテゴリー:ヨーロッパ

(霧山昴)
著者 エリザベス・ウェイン 、 出版  創元推理文庫
イギリス空軍(補助航空部隊)に所属するアメリカ人女性飛行士がドイツの上空を飛んでいると、ドイツ空軍機に見つかり、強制着陸を余儀なくされるところから話は始まります。そして、強制収容所に収容されるのです。
収容所のなかの生活、日々の殺人マシーンに慣らされていく様子が描かれます。そして、ついに収容所から再び飛行機に乗って航走するのです。
先日、天神で『ヒトラーと戦った28日間』というロシア映画をみました。ナチスの強制収容所の一つ、ソビヴル収容所からの集団脱走に成功したというすさまじい映画です。実話をもとに状況を再現していましたが、ナチスの大量殺人、非人道的な虐待行為もよく描けていました。やはり、脱走に成功する話という、少しは救いのある話がいいのですよね。
あとがきを読むと、小説ではありますが、本書も実際にラーフェンスブリュック収容所からの脱走に成功し生還した人々への取材にもとづいていることが分かります。
この収容所で人体実験に供されたポーランドじん女性74人全員の名前が「数え唄」として紹介されています。
収容所では、主としてフランス語、ドイツ語、ポーランド語が話されていました。
大勢の罪なき人々が共生収容所で即時に、また徐々に殺されていった事実がありますが、これを直視するためにも、例外的に生還できた人々の話をもとにした小説を読んでその苦しみを想像するのもいいこと、必要なことなのではないでしょうか・・・。
(2018年8月刊。1360円+税)

マジョリン先生、おはなしきいて

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 土佐 いく子 、 出版  日本機関紙出版センター
私の子どもがお世話になった保育園が創立40周年の記念行事として著者を招いて講演会を開きましたので、参加して話を聞いたのです。
聞いているうちに、時代感覚が共通しているので、団塊世代じゃないかと思うと案の定でした。私と同世代の女性が小学校教員生活をつとめあげて大学講師をし、日本作文の会で活躍してきた薀蓄が詰め込まれた本です。
読んで楽しいし、うふふと笑いながら元気が出てきます。いえいえ、子育てをとっくに終わった私としては、反省させられることばかりの本でもあります。本当に子どもたちにどこまで向きあえたかな、そう思うと忸怩たるものがあります。
運動会。周囲の目が気になり、見栄えを気にして、教師が大声で子どもたちを怒鳴りまくる光景がありふれています。でも、主役は子どもたちのはず。怒鳴らない運動会を心がけよう。すると、見ていた地域の人々が、今年は、練習以来、先生の怒鳴り声もなく、とてもすがすがしくて良かったという声を寄せてきた。
うーむ、なるほど、そうなんですよね。子どもの主体性を生かすというのは、学校でも家庭でも忍耐心がいるものなんです・・・。
釣りの好きな小学校の校長先生が、退職の年、最後に学校のプールで子どもたちと一緒に魚釣りをしてみたいという夢を語った。いいんじゃないの、やってやろうよ。みんなで準備をして、実現させたそうです。
「火曜日の2時限から始めます。まず、3年1組がやります。3時限目は3年2組です」。魚たちには大変申し訳ないことをしたけれど、子どもたちは歓声をあげ、大喜び。
いやあ、いい話ですよね、そんな学校なら、行きたいですよね・・・。いま、公立小学校で、こんなことは出来ないのでしょうね、残念ながら・・・。下手な道徳教育より、よほど学校のプールで、校長先生と並んでみんなで魚釣りしたほうが、効果があがると思いますよね・・・。
明治12年の教育令には、およそ学校においては、生徒に体罰を加えてはいけないと明記されていた。
うひゃあ、そうだったんですか、ちっとも知りませんでした。
人間の眼には白目がある。ところが、食うか食われるかの競争と暴力関係の中に生きている動物には白目がない。白目があると、敵を狙っているのが即座に分かってしまうから。暴力関係ではなく、コミュニケーション関係のなかで、目と目を合わせて会話をすることで、人間は人間になってきた。
ふむふむ、人間は努力して人間になってきたのですね。
親と教師を結ぶ連絡帳のなかに、最近では、親が非常に感情的かつ攻撃的な文面を書き込むことが目立っている。
いやあ、ベテラン弁護士の私に対しても威圧的な態度をとる依頼者がたまにいます。男性とは限りません。女性にもいます。ほんのちょっとしたミスというか言葉尻をとらえて、激しく迫ってくる依頼者がいるのです。弁護士だったら辞任して返金したら終わりですが、教師は逃げ場がありません。世の中がギスギスしたら、こうなるだろうなという典型的な現象です。
アベ首相のように、平気でウソをつき、ウソをウソで塗り固めながら、学校では道徳を教えろ、点数をつけて評価しろと迫るし、それが「許されている」社会なのですから、モンスター・クレイマーが出てくるのも必然です。
そんな状況下でも、教育って、子育てって初心に戻ることが大切なんだよね、それを教えてくれる本でもありました。
(2018年2月刊。1700円+税)

本土空襲全記録

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 NHKスペシャル取材班 、 出版  角川書店
日本の敗戦前に、日本全国がB29爆撃機による大空襲の被害にあいました。
その空襲の状況をアメリカ側の資料によって丹念に掘り起こしています。その典型が専用機に取り付けられていた「ガンカメラ」と呼ばれる特殊なムービーカメラです。ガンカメラが記録した映像は、被害にあった日本の都市や逃げまどう人々を生々しく描いているのです。
大分県宇佐市を拠点として活動する市民団体「豊(とよ)の国、宇佐市塾」が映像の収集・分析をしている。
九州はアメリカ軍による空襲被害が大きい。なぜか・・・。アメリカ軍のオリンピック作戦は九州南方の3地点から強襲上陸作戦を考えていたから。
アメリカ軍による本土空襲の被害者は46万人。
アメリカ軍は、軍関連施設と生産関連施設の両方を狙った「精密爆撃」を早くから緻密に計画していた。しかし、現実には「精密爆撃」というより「地域爆撃」、「無差別爆撃」が実施された。それは、都市労働者の能力に打撃を与えること、住民の戦意・抗戦意思を破壊するためのテロ(恐怖)効果を狙った。
しかし、実際にはドイツへの大空襲もロンドン大空襲も、狙われた住民の戦意喪失どころか、戦意の高揚を大々的にあおるものでしかなかった。都市への無差別攻撃を始めたのは、実は日本とドイツだった。日本軍は、中国の重慶を狙って壊滅させた。
アメリカ軍のF-13写真偵察機は、B-29を改造したもので、1回の飛行で7000枚ものネガを持ち帰った。17回の偵察旅行を繰り返し、写真撮影と気象観察を徹底して行った。
アメリカ軍の飛行機は、日本軍の迎撃を避けるため1万メートルの高度から爆撃を仕掛けていた。ところが、日本の上空は天候が不安定で、いつも嵐が吹き荒れていた。
東京大空襲を指揮したのはカーチス・ルメイ将軍。
「もしジャップが戦争を続ける気なら、奴らにはすべての都市が完全に破壊される未来しかない」
一連の爆撃で投下された焼夷弾は192万発。1944年11月からの4ヶ月間でアメリカ軍が失ったB-29は105機。兵員の死者・行方不明者は864人にのぼった。
実は、それまでアメリカ空軍は存在しておらず、アメリカ陸軍航空軍でしかなかった。陸軍の地上軍17万人、海軍14万人に対して、航空軍は2万人しかいなかった。航空軍にとって、太平洋戦争は、組織の独立戦争でもあった。
当時、前線での指揮権をもたない航空軍が手柄を立てるには、B-29をつかった日本への直接攻撃しかなかった。ルメイ将軍は、日本式の家には低空用の対空砲火がなかったことを知り、焼夷弾を有効活用することにした。
アメリカ航空軍は、1939年は最新型爆撃機を14機もっていた。ところが1944年には10万機、戦前の20倍も持つに至った。
カーチス・ルメイが当時38歳だったとは知りませんでした。道理でベトナム戦争でも悪役になれたわけです。それなのに、日本は戦後何十年もたってからルメイへ勲章を授与しているのです。呆れてしまいます。市民を大量無差別虐待していただいたことに敗戦国政府として感謝します、そんな意思表示したと同じです。私は許すことが出来ません。
いずれにしても、この本を読んでいろいろ貴重な情報を得ることができました。
(2018年8月刊。1500円+税)

アマゾン

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 成毛 眞 、 出版  ダイヤモンド社
私にとってアマゾンは、急に本を求めるときに利用するところでしかありません。ところが、この本を読んで、アマゾンは、今や世界制覇を狙っている企業なのではない、そんな恐れの気持ちすら抱いてしまいました。
アマゾンが営業を開始したのは1995年。今から、わずか23年前のことです。ところが今では、とんでもない世界的巨人企業になっています。
アマゾンの株価は、上場したときより125倍に上昇した。といっても、配当はしていない。
長いあいだ、アマゾンは利益を計上せず、ほとんど設備投資にばかりまわしている。アマゾンは、毎年、数千億円も費やして、超大型の物流倉庫や小売店を次々に建設している。
アマゾンの本当の強さは個人向けに本を売るところではなく、企業向けサービスにある。アマゾンウェブサービス(AWS)の営業利益は43億ドル。これは、アマゾンのどの事業よりも高い。
フルフィルメント・バイ・アマゾン(FBA)の仕組みがあるため、マーケットプレイスで扱われる商品数は全世界で2億品目をこえる。アマゾンのマーケットプレイスには全世界で200万社が利用している。アメリカのネット通販市場ではアマゾンのシェアは4割をこえ、その取扱い高は20兆円に達している。
アマゾンの最強の物流システムでは1ヶ所の倉庫から毎日160万個の商品を出荷できる。
アマゾンの時価総額は78兆円(7777億ドル)。これは、日本の上位5社、トヨタ自動車、NTT、ドコモ、三菱UFJフィナンシャル・グループ、ソフトバンクをすべて足しても及ばない。
アメリカの低所得層、つまりフード・スタンプの受給者はウォルマートを頻繁に利用している。アマゾンは、そこを狙った。
アマゾンには、ダッシュボタンがある。定期おトク便だ。よく購入する商品を、あらかじめ設定しておくと割引価格で定期的に商品が届くシステム。これがうまくいくと、その企業にとって消費者は競争相手の商品を買わず、広告費を大幅に抑えられる。
AWSはアメリカのCIAも利用している。そのセキュリティーの高さが証明されたようなものなので、全世界で利用が広がった。
アマゾンのプライム会員になると、映画やドラマが見放題で、音楽も100万曲が聴け、写真も保存し放題。日本では、本や食品が当日配達される。
これらは、AWSのもうけがつぎ込まれるため可能となっている。
世界中のデータセンターのうち、アマゾンのシェアは4割。
日本のアマゾンプライム会員は600万人。アメリカは8500万人。年会費は前払い。プライム会員の年会費はアメリカで1万2千円なのに、日本では3900円でしかない。しかも、月400円もある。
アマゾンの配送費は1兆円をこえている。売上高に対する配送費の割合は10%をこえている。
アマゾンは、日本で4億個を配送するが、その65%の2億5千個をヤマトが請負っている。ヤマトの15%に相当する。
アマゾン、まさしく恐るべしを実感させる本でした。
(2018年10月刊。1700円+税)

中国経済講義

カテゴリー:中国

(霧山昴)
著者 梶谷 懐 、 出版  中公新書
観光地に大勢の中国人観光客を見かけ、その爆買いで日本経済が支えられているというのに、日本人のなかに反中国感情が根強く、しかも広がっていることを私は大変心配しています。
今にも中国が日本(の島)に攻めてくるように錯覚している日本人が少なくないという報道に接するたびに、私は呆れ、かつ恐れます。
現実には、中国側から見たら、日本の軍国主義復活こそ危惧していると思います。日本が航空母艦をつくったり、アメリカのF35戦闘機(1機100億円もします)を100機も購入するというので、トランプ大統領が安倍首相を称賛したり、もはや専守防衛ではなく、海外へ戦争しに出かけようとする日本の自衛隊、そして軍事予算が5兆円を突破してとどまることを知らないという状況では、中国側の心配こそ根拠があります。
この本は、中国経済が今にも破綻しそうだというトンデモ本を冷静に論破しています。
久しく中国に行っていませんが、いま上海には4万人の日本人が住んでいるとのこと。上海に行くと、ここが「共産圏」の国だとは絶対に思えません。日本以上に資本主義礼賛の国としか思えません。
中国経済は表の顔だけでなく、裏の顔までふくめてトータルとして評価し分析する必要があると痛感しました。
現在の中国の政治経済体制は、権力が定めたルールの「裏」を積極的にかく、民間企業の自由闊達さを許容するだけでなく、それがもたらす「多様性」をむしろ体制維持に有用なものとして積極的に利用してきた。
中国のように確固たる「法の支配」が不在な社会で、民間企業主導のイノベーションが生まれてくるのは、権威主義的な政府と非民主的な社会と自由闊達な民間経済とが、ある種の共犯関係にあるからだ。
「一帯一路」といっても、そこに何かのルールや、全体を統括する組織などの実体が存在するわけではない。一帯一路とは、そもそも成り立ちからして捉えどころがないもの。一帯一路が中国を中心とする経済圏としてアメリカや日本に脅威を及ぼす存在になっていくという見方に、それほどの説得力があるわけでもない。
中国で生産する日系企業の売上高の増加にともなって、日本からの中間財の輸出が明らかな増加傾向にある。WTOに中国が加盟した(2001年)あと、中国が日本をはじめ韓国、アセアン諸国から中間材を輸入し、最終製品をアメリカやEUに輸出するという東アジア域内での貿易・分業パターンが次第に強固になってきている。
中国は液晶パネルや半導体、電池といった電子部品や特殊な樹脂や鋼材などの供給は、その多くを日本製品に頼っている。つまり、製造業とりわけ中間材の製造において、技術・品質面において、日本企業が優位性を保っている分野が、まだかなりの部分を占めている。今までのところ、日本と中国との経済関係は、多くの産業において、競合的というよりも、むしろ補完的な関係にある。
現在の中国では、テクノロジーの進歩によって、ある部分では、日本よりもずっと進んだ、これまで誰も経験していない情景が広がっている。「まだらな発展」ともいうべき状況が、社会の矛盾とともに、独特のダイナミズムも生んでいる。
アリババの画期性は、信用取引が未発達な社会で、取引遂行をもって初めて現金の授受がなされるという独自の決済システム(アリペイ)を提供し、信用取引の困難性というハードルを乗り越えた点にある。
矛盾にみちみちた国でありながら、その矛盾をダイナミックな発展につなげているという分析・評価は私にとって新鮮で、とても面白い本でした。
(2018年9月刊。880円+税)

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