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七三一部隊と大学

カテゴリー:日本史(戦前・戦中)

(霧山昴)
著者 吉中 丈志 、 出版 京都大学学術出版会
 七三一部隊を支えていたのは京大そして東大医学部の教授たち。彼らのほとんどは戦争犯罪人となることもなく、アウシュヴィッツの医師メンゲレのように身を隠すこともなく、それどころか戦後日本の医学界や製薬会社のトップを占めています。そして、彼らは、「戦争だったから仕方がないこと」だとウソぶいて反省することもなく、真実を明らかにしようともしなかったのです。それは医学界の大きなタブーとなっていました。それを打破したのは『悪魔の飽食』(森村誠一)でした。
この本は、中国・ハルビン市にある「七三一罪障陳列館」の副館長(楊彦君)の著書の翻訳を前編とし、後編は日本の研究者の論文集から成っている、550頁もの大著。お盆休みに早朝から読みはじめ、午後になんとか読了しました。
 七三一部隊とはどういう組織だったのか、総合的にとらえることができます。
 それにしても3000人もの犠牲者を生体実験して、堂々と医学文献に発表するなんて、並みの神経ではありません。犠牲者たちが面前で死んでいき、その遺体が焼却されていくのを知っていたのですから…。
 犠牲者は15歳から74歳までで、女性もいます。中国人、朝鮮人そして白系ロシア人。なぜか病気になった七三一部隊員まで被験者になっています。
 白系ロシア人が看守をだまして反乱を起こしたものの、すぐに鎮圧されたこともありました。なにしろ七三一部隊の実験棟は、外に3メートルもの深い溝があるうえ、その内側に2、5メートルの高い塀があるから、脱出なんて不可能なのです。
 そして、「マルタ」と呼ばれた被験者は憲兵隊がどんどん連れてきます。それは抗日分子だったり、ソ連のスパイだったりします。日本軍に友抗的な人はいくらでもいたでしょう。そして、そんな「反日」の人間は匪賊として、即決射殺してよいという法律が満州国にはありました。面倒な裁判を経ることなく、憲兵隊は即決処刑できたのです。そして、殺すより「人体実験」で役に立たせようと考え、七三一部隊に送り込んだのでした。
 七三一部隊の悪業が世間に知られなかったのは、アメリカ軍が七三一部隊のトップに君臨していた石井四郎軍医中将たちから医学的データの提供を受けるのと交換に免責したからです。取引が成立したのです。石井四郎は、部下たちには墓場まで秘密を持って行けと命じておきながら、自らはアメリカ軍の尋問にペラペラとしゃべり、データを提供したのでした。
 本格的な学術研究書です。大変勉強になりました。
(2022年4月刊。税込3960円)

ブラックホール

カテゴリー:宇宙

(霧山昴)
著者 二間瀬 敏史 、 出版 中公新書
 ブラックホールの姿が見えた、だなんて、不思議ですよね。だって、光が吸い込まれていくんでしょ。その姿が見えるはずありません。なので、ブラックホールの周囲が見えたので、その真ん中の黒いものがブラックホールというわけです。なるほど、なーるほど・・・。でも本当なんんでしょうか。ブラックホールって、いったい何でしょうか・・・。
そこにある物質が詰まっているわけではない。物質のかたまりではなく、時間と空間のかたまり、のようなもの。ええっ、いったい何のことでしょう・・・。ともかく、わけが分からないまま、読みすすめました。この世の中、わけが分からないけれど存在するものというのは、いくつもいくつもあります。コロナ禍が爆発的に増えているのに、行動制限なし。旅行するのも自己責任で自由。ロシアのウクライナ侵略戦争が終わる目途が立たないなか、日本も核をもてという声が強まる不思議さ。日本が核をもったら攻められないなんてノーテンキな幻想でしょう。いったい日本に原発(原子力発電所)がいくつあるのか知っているのでしょうか。休眠を入れたら50ヶ所以上になります。その一つでも攻撃されたら、日本はおしまいなんですけど・・・。
 ブラックホールの中に物質はない。どこにも物質はない。重たい割にはすごく小さい天体。そして重力がとても強い天体、それがブラックホール。
 えぇ、物質がないのにすごく重く、重力がとても強いって、どういうことなんでしょうか・・・。
 ブラックホールの表面は、時間が凍りつくところ。時間の流れが止まるところ。
それではブラックホールをつくった物質、その後にブラックホールに落ち込んだ物質は、いったいどこに行く、行ったのか・・・。これは、今なお答えが見つかっていない現代物理学の宿題だ。
 ブラックホールの正反対のものとしてホワイトホールと呼ぶものがある。このことも知りませんでした。外向きに一方通行の面に囲まれた時空の領域です。
 この宇宙には、大小無数のブラックホールが存在している。これらのブラックホールは、太陽質量の10倍以上重い大質量星の重力崩壊で形成されたものと考えられている。
 かの有名なホーキング博士は、タイムマシンができないことを意味する「時間順序保護仮説」を主張した。ホーキングはいまだかつて未来からの旅行者がいないことがその証拠だとした。そうですよね。映画や小説だとタイムマシンで時空を行ったり来たりしますし、できますけど、いったい父親が母親と巡りあわずに私が存在できるものでしょうか・・・。どう考えてもおかしいです。
 光さえも逃げ出せない時空の領域、それがブラックホール。では、それは何なのか・・・。こんな日常生活とはまったく無縁な思考の遊びのような世界に、しばし浸っているのも心地良いものなんですよね・・・。
(2022年2月刊。税込946円)

「ネコひねり問題」を超一流の科学者たちが全力で考えてみた

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 グレゴリー・J・グバー 、 出版 ダイヤモンド社
 猫は高いところから落ちると、最初にどんな姿勢であっても、必ず、足から着地するという驚きの能力をもっている。
 この本は、超一流の物理学者たちが、この「ネコひねり問題」を理論的に解明し、説明しようとした苦闘の歴史を解説しています。
 なので、その理論のところは、とても難しくて、正直言って私にはよく分かりませんでした。
 それでも、長い尾がなくても、目隠しされていても、そして宇宙(無重力)空間でも無事に着地できるという猫の能力には、改めて驚くばかりです。
 しかも、猫は高層ビルから落下したときにも、意外や意外、ほとんどケガせずに着地するというのです。それも9階より高いほうが猫はケガしないという、私たちの常識に反する事実があるのです。
 信じられません。その理由の一つは、猫の体重が人間よりはるかに軽いからです。
 猫は高いところから落下するとき、完全に無重量状態にある。なので、「加速」を感じることはない。しかし、終端速度に達すると、通常の重さを感じて、衝突に備える。
 32階の高さからコンクリートの地面に落ちた猫は、軽度の気胸と歯が1本欠けただけですんだ。いやあ、まったく信じられません…。
 イスラムの世界では、猫が西洋よりも、はるかに敬意をもって扱われている。それは預言者モハメッド(ムハンマド)が猫を愛したことにもとづく。
 いずれにせよ、猫の身体が想像以上に柔軟であることに関連していることは確実です。
 世の中には、本当に不思議なことが山ほど、次から次に出てくるものなんですね…。だからこそ、この世は果てしなく面白いのですが…。
(2022年5月刊。税込1980円)

進化の謎をとく発生学

カテゴリー:生物

(霧山昴)
著者 田村 宏冶 、  出版 岩波ジュニア新書
 エンハンサーという聞いたことのないコトバが登場してきます。
 進化しているのは形づくりの仕組みだ。
 動物の特徴は、エサをとること。それは、細胞がエサを必要としているから。
 タンパク質は、ヒト(人間)の体の組成成分としては、水(17%)に次いで多く、全体重の16%を占めている。ヒトの体はタンパク質でできているどころか、タンパク質によって作られる。
 エンハンサーは、ある遺伝子が脳で発現したり、心臓で発現したり、あるいは筋肉で発現するのに使われる配列。
 ゲノムは数万個以上になるだろうエンハンサー配列がちりばめられていて、その組み合わせで2万5千種類の遺伝子がどの細胞で、いつ、どれくらい機能するかが決められている。
 ヒトでは、200種類に分化した細胞が、さまざまな機能をもつことによって、ひとつの生命体として統合された運動をしている。遺伝子は2万5千種類しかないので、200種類、37兆個から成るヒト1個体分をつくり出すためには、遺伝子をあちこちで使いまわす必要がある。遺伝子の時空間特異的な発現を可能にするのがエンハンサーだ。
 エンハンサーの働きによって、遺伝子は、いつ、どこで発現して、どれくらいタンパク質をつくのか、制御される。 すなわち、受精卵からゲノム情報をもとに発生する。
 鳥の先祖は恐竜。そして、現生の動物で恐竜に一番近いのは、ワニ。恐竜のゲノムは不明。 化石のなかにDNAや塩基はほとんど残っていない。「ほとんど」というのは、少しは残っているということなのでしょうか…。
 魚のカレイはヒラメに近い仲間。ヒラメは成魚になる過程で右眼が左に移動し、左半身にだけ色がついて、左を上に向けて泳ぐ。カレイは逆に、すべて右に動き、右を上にして生活する。 例外もあるが、ひだりヒラメにみぎカレイと覚える。
 世の中、ホント、知らないことだらけですね…。この本は、とてもジュニア向けだとは思えません。
(2022年3月刊。税込902円)

「小倉寛太郎さんに聞く」

カテゴリー:人間

(霧山昴)
著者 小倉 寛太郎 、 出版 全日本民医連共済組合
 『沈まぬ太陽』(山崎豊子。新潮社)の主人公である恩地元(はじめ)のモデルである小倉(おぐら)寛太郎(ひろたろう)氏が今から20年以上も前、2000年ころに話したものをテープ起こしした、40頁ほどの小冊子です。
書庫を断捨離しつつ整理していたら、ひょっこり出てきました。『沈まぬ太陽』は本当に傑作です。いかなる苦難・困難にも耐えて、不屈にがんばり続ける主人公の恩地元には、大いに励まされます。まだ読んでいない人は、ぜひぜひ、私から騙されたと思って、明日からでも読んでみてください。決して後悔することはないと断言します。
 私は第1巻を1999年8月28日に読了し、完結編の第5巻を9月15日に読み終えました。速読をモットーとする私が5冊を読むのに珍しく2週間以上もかけたのは、あまりに素晴らしく、泣けてきて、読みすすめるほどに胸が熱くなるので、読み飛ばすなんて、もったいなくて出来なかったからです。それは今でもよく覚えています(少し前に読んだ、アメリカの本『ザリガニの鳴くところ』もそうでした・・・)。
 小倉さんとは、私も一度だけ会って挨拶させていただきました。大阪の石川元也弁護士の同級生だというので、日弁連会館2階「クレオ」でのパーティーのときでした。いかにも古武士然とした風格を感じました。
 「私も辞めたくなるときがあった。でも、私が辞めると喜ぶ奴がいるし、反対に悲しむ者がいる。そして、私が喜ばしたくない奴が喜び、悲しませたくない者が悲しむのだったら、やはり辞めないほうがいい」
 「子どもに知られて困るようなこと、子どもに見られて困るようなことはしたくないと思った」
 「何も特別のことはしていない。ただ、愚痴ってもしょうがない。こそこそ陰で恨んでもしょうがない。そして、どんな所へ行っても、胸はって、そこの土地のもとを糧(かて)にしていけばいい」
 「次の世代のためにも、自分があとで考えて後ろめたく思うような心の傷をもってはいけない」
 「余裕とユーモアと、ふてぶてしさとで生きていかなければいけない。とくに働く者は、ふてぶてしくなければいけない。転んでもただでは起きない。何か拾って、立ち上がったという生き方、そんな生き方を伸び伸びとしたい。いつも悲壮な顔をしていたら、ほかの人はついていきようがない」
 「人間に必要なのは冷静(クール)な頭脳と温かい心(ハート)だ」
 「JALに来るような東大卒はクズかキズものだ。頭がよくて人柄もいい。そんな人間はJALには来ない。JALには頭は良いけれど、人柄が良くないのが来ることが多い。一番困るのは、頭の悪さを人柄の悪さで補うという者。こんな人間が、けっこう世の中にいる」
 いやあ、さすが苦労した人のコトバは重みがありますよね。
 小倉さんはナイロビ支店長に飛ばされたあと、1976年に、戸川幸夫、田中光常、羽仁進、渥美清、小原英雄、増井光子、岩合光昭の諸氏らと「サバンナクラブ」を結成しています。また、8年間のナイロビ勤務を通じて、アフリカのケニアやウガンダ、タンザニアなどの国の首脳陣とも親密な交流をしたのでした。まことに偉大な民間交流です。
 20年以上も前の、わずか40冊ほどの小冊子ですが、ひととき私の心を温めてくれました。
 (2022年3月刊。非売品)

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