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闘えない軍隊

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著者:半田 滋、出版社:講談社α新書
 イラクのサマワに派遣されている自衛隊について、その実情が紹介されています。
 はじめ政府が考えていた場所は別の場所だったし、派遣する時期も二転三転した。陸上自衛隊はイラク南部のサマワかナシリアを希望していた。それが、バグダッドに変わった。ところがアメリカが不満をみせて、北部のバラドを示した。慌てた日本政府が危険を理由に拒否し、振り出しのイラク南部に戻った。
 そもそも、自衛隊員が生命をかけるのは日本の平和と独立を守るため。それが、なぜイラク派遣になるのか。国連平和維持活動(PKO)ならともかく、イラクは死者が増え続けている戦地でもある。だから、派遣の大義が必要だった。サマワが選ばれたのポイントは、イラクへの効果的な復興支援ではなく、いかに自衛隊の安全が確保できるかだった。それには、アメリカ軍から離れている地域であることが、きわめて重要だった。
 実は日本政府も、はじめ自衛隊を守ってくれるのはアメリカ軍しかいないと考えていた。しかし、そのアメリカ軍がイラク人や武装勢力の反発を買って次々に襲撃されている。サマワなら、アメリカ軍のいるバグダッドから300キロも離れていて遠く、アメリカ軍を狙った攻撃に巻きこまれることはない。そこで、サマワが選ばれた。
 サマワの自衛隊宿営地に入る道路には何の標識もない。訪れる人を歓迎するより、安全のために存在を隠すことに重点が置かれている。
 よその国の軍隊は国旗を小さくしているが、自衛隊だけは日の丸を大きく目立つようにつけている。この「目立とう作戦」はイラクで日本の人気が高いことを利用したもの。それは、日本が1970年代から80年代にかけて、ODA(政府開発援助)で惜しみなく注いだことによる。なるほど、そういうことなんですね・・・。
 イラクにいる自衛隊員がもし死亡したときには、3億円近いお金が遺族に支払われることになっています。大変な特別待遇です。
 イラクは今なお戦地である。創設以来、一度も実践を経験したことのない自衛隊は、「最初の一発」を海外で放つかもしれない状況下での活動が続いている。自衛隊のイラク派遣の意義は、復興支援を行うことではなく、あくまでイラクに居続けることなのだ。イラク(サマワ)に自衛隊が安全で居続けられるように、日本政府は、サマワに本格的な火力発電所を建設する資金として127億円を無償援助することにした。途上国支援が目的のODAが、自衛隊を守る武器になっているのです・・・。
 自衛隊のなかには、憲法改正するより、今の規定で活動可能な分野で国際貢献すればよいという現実主義的な声は強い。イラクの復興を日本政府が真剣に考えているのではない。ひたすらアメリカの要請の応じ、自衛隊を派遣すること自体が日米同盟維持の手段であり、目的である。それ以上ではない。復興のために文民を派遣することはまったく眼中にない。
 著者は最後に次のように言っています。
 日本が海外で武力行使をしない特殊な国として戦後60年間過ごした実績を捨て去るのは愚かしいことだと思う。
 私もまったく同感です。アメリカの言いなりになって、そのうしろについていったら、いつのまにか、殺し殺される世界が日本国内でも生まれてしまいます。平和な社会がたちまちのうちにこわされてしまうのです。その点を私たちは自覚すべきだと思うのです。

「最後の一葉」は、こうして生まれた

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著者:斉藤 昇、出版社:角川学芸ブックス
 O・ヘンリーは私の好きなアメリカの作家です。9.11の前から久しくアメリカには行っていませんが、アメリカに行く前には、いつもO・ヘンリーの短編小説のカセットブックで英語に耳を慣らして出かけるようにしていました(私はフランス語は少々話せますが、英語はまるでダメなのです。でも、せめて、聞けるようにはなりたいと思って・・・)。その見事なドンデン返しには何度聞いても聞きあかせないものがあります。どこか、ほのぼのとした人間性を感じさせてくれるからでしょう。どれも、深い味わいのある、また切れ味のいい名文だと思います。
 この本を読んで、O・ヘンリーの一生について詳しく知ることができました。O・ヘンリーが銀行員をしていたこと、横領事件で刑務所に入っていたことは知っていましたが、その詳細を知ることができたということです。詳しいことを知ってガッカリしたということは全然ありません。それどころか、ますますO・ヘンリーの書いた小説をもっともっと読みたくなりました。
 O・ヘンリーの書いた本は、その死後10年間だけで500万部売れたそうです。ところが、1950年代には低い評価が与えられたというのです。
 O・ヘンリーの世界は、知的に不毛なサハラ砂漠である。
 よくぞケチをつけたものだと思います。とてもO・ヘンリー をまともに読んだ人の評とは思えません。
  O・ヘンリーの母は、彼が3歳のとき肺結核のために早死にしていますが、文才も画才もあり、ユーモアを解していたそうですから、その才能は母親ゆずりのようです。
 O・ヘンリーは学校には行かず、叔母のもとでヨーロッパ文学書を読破していきました。そして、小さいころから画もうまかったのです。ところが、お金がないため、15歳から薬剤師として働かざるをえませんでした。そして、その経験が刑務所に入ったときに役立ったのです。
 その後、銀行出納係として働くようになったのですが、当時の銀行は、かなりいい加減だったようです。従業員がちょっと借りて後で返してもとがめられなかったのです。でも、O・ヘンリーは横領罪に問われてしまいます。そして、裁判中に保釈で出ていたときに南米のホンジュラスに逃亡するのです。しかし、妻の重い病気を知って帰国し、裁判を受けて懲役5年の実刑判決を受けました。5654ドルを着服したという罪です。法廷では一言も弁解しなかったのですが、控訴はしたようです。でも、ダメでした。
 模範囚としてつとめましたから3年3ヶ月で出所していますが、このことを生涯にわたって娘には隠し通したそうです。死後6年たってはじめて娘は父の前半生を知りました。最初の妻が病死し、作家として売り出してから再婚しましたが、実は、その相手は幼なじみの女性でした。O・ヘンリーの本を読んで、自分が子どものころ一緒に遊んでいた男の子ではないかと手紙を送ったのがきっかけでした。それほど、O・ヘンリーの本は細部にわたって情景描写が行き届いていたというわけです。
 O・ヘンリーは、娘とは違って、再婚相手には自分の過去をすべて明らかにしたといいます。並々ならぬ誠意のあらわれだと著者は評していますが、同感です。
 ところが、O・ヘンリーは過度の飲酒による重篤な肝障害そして糖尿病と心臓病とを併発してしまいました。ついに48歳のとき、ひとり淋しく亡くなったのです。1910年6月5日のことですから。今から100年近く前のことです。
 O・ヘンリー・サプライズという言葉が紹介されています。O・ヘンリーの作品のほとんどは2000語内外の短編です。意外性のある結末に読み手は心がぐいぐい魅せられ、強いインパクトを与えられます。
 社会の弱者に対する優しさ、人間の根底にある慈愛にみちたヒューマニズムの視点がどの作品にも認められるとしていますが、まったく同感です。3年3ヶ月の刑務所生活のとき、薬剤師の仕事を医師の下でしながら、受刑者たちの話を親身になって聞いていたことが、このように昇華していったわけです。
 もし、あなたがO・ヘンリーの短編をひとつも読んでいなかったとしたら、それは人生の大きな損失です。すぐさま本屋か図書館に走っていかれることを強くおすすめします。

闇先案内人

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著者:大沢在昌、出版社:文春文庫
 こうも簡単に人が殺されていくと、手に汗を握るというより、背中に氷のかけらを投げこまれた気分になって、身も心も冷えびえとしてきます。
 私の担当した刑事事件の被告人から、日本でも簡単にピストルが手に入るというのを聞いて恐ろしくなりました。ピストルの売買がチンピラ・ヤクザのレベルでも、こずかい銭稼ぎになっているというのです。現実の話ですから、怖いものです。
 話は、北朝鮮の支配者の子と思われる要人が日本に潜入してきたことから始まります。総連内部には警察トップと密接なつながりをもつ人間がいて、また反対勢力もいて、お互いにしのぎを削ります。ありそうな話と、とてもありえない話とが混然一体となり、バイオレンスたっぷりに展開していきます。
 逃がし屋だとか、変装するための顔師だとか、平凡な日常生活ではとても考えられない職業(プロ)の人々が登場してきます。うーむ、世の中にはそういう人もいるのかー・・・と思いました。
 なんとなく救われない気になってしまう、暗いヤクザなお話です。

個体発生は進化をくりかえすのか

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著者:倉谷 滋、出版社:岩波科学ライブラリー
 人間は母体のなかでヒトとなっていくとき、祖先の動物の進化の歴史を忠実にたどっていくというのが反復説です。私は、ずい分前からこの説を信じてきました。
 この本は、それは本当なのかと疑問を投げかけています。考えてみれば、動物の進化の歴史といっても、そんなに単純ではありませんので、いったい反復する進化とは何をさすのか、という疑問もわいてくるわけです。たとえば、カメは原始的な存在ではなく、むしろワニやトリに近いというのが、最近の分子進化的な解析によって判明したことです。つまり、生物が進化するといっても一本道ではありません。そこには例外だらけなのです。
 下等動物とか高等動物という表現がなされることがあるが、それはとても一義的に定義できる用語ではない。実際の発生は一直線には進まない。なーるほど・・・。
 よくよくかみしめて読めば分かるかもしれませんが、わずか100頁たらずの本書には難しすぎて理解できないところが多々ありますので、簡単には要約できません。
 でもでも、単純に進化の過程を個体の発生過程でくり返す、そんなことは言えないということだけは、私にもなんとなく分かりました。

鉄剣銘115文字の謎に迫る

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著者:高橋一夫、出版社:新泉社
 埼玉(さきたま)古墳群のひとつ稲荷山(いなりやま)古墳より出土した鉄剣から115文字の金錯銘(きんさくめい)が発見されたのは1987年のこと。もう30年近くも前のことになります。えっ、もうあれから30年もたったのか・・・。当時の驚きを思い出してしまいました。
 西暦471年の雄略天皇のときの豪族がもっていた鉄剣です。でも、その豪族が、畿内の豪族で東国に派遣されてきたのか、在地の豪族だったのかについては説が分かれ、今も確定していません。私は、そもそも邪馬台国九州説の熱烈な信奉者ですから、地方豪族説に当然のことながら左担します。
 同じ雄略天皇の銘のある直刀は熊本の江田船山古墳からも出土しています。この江田船山古墳には私も何度か行ったことがありますが、よく整備されていて、なるほど相当の力を持った豪族がかつて君臨していたことをしのばせるに十分な雰囲気です。
 90頁ほどの薄い冊子のような本ですが、カラーの写真と図版もあって、世紀の大発見がどこまで解明されたのか、素人にもよく分かるように解説されています。
 1500年以上たった今も金色に光り輝く鉄剣銘をじっくし眺めて、過去の日本を想像してみるのも心楽しいひとときです。

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