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受けてみたフィンランドの教育

カテゴリー:ヨーロッパ

著者:実川真由、出版社:文藝春秋
 はじめから私事ですが、私の娘と同じ名前なので、とても親近感を抱きながら読みました。高校生の娘を遠くフィンランドへ一人送り出すというのは親も本人も、とても不安だったと思います。でも、結果オーライでした。大変な自信がついたようです。よかったですね、まゆさん。ぜひ日本でも大いにがんばってください。
フィンランドの教育レベルは世界一です。といっても、先日、フィンランドでも、アメリカと同じように高校生が校内で銃を乱射して人を殺し、自分も自殺したという事件が起きてしまいました。どこの国でも、まったく問題がないというわけではないのですね。それでも、この本を読むと、日本の高校と違って生徒がとてものびのび自由に毎日を過ごしているのがよく伝わってきます。うらやましい限りです。
 フィンランドの学力は、読解、科学で世界1位、数学、問題解決能力で世界2位。日本は、読解力は14位、数学は6位。
 フィンランド経済は年5%のペースで成長している。
 フィンランドには塾も偏差値もまったくない。
 フィンランドの高校は、どのクラスも25人から30人。中高一貫の高校は珍しくない。
 フィンランドの学校は基本的にすべてタダ。学費はタダだし、学校での昼食と軽食もタダ。ただし、おいしくない。大学はすべて国立。学生は毎月、国から奨学金を受ける。寮に入れば、寮費もタダ。塾はないし、高校は単位制。
 フィンランドでは、高校を卒業してすぐに大学に進学する人は少数派である。何年か働いたり、外国を放浪したり、ボランティアをしたり、兵役にいったりして、20歳を過ぎたころに、大学に行くことを考える。これって、いいですよね。自分の生き方、そして人生についてゆっくりじっくり考えることができます。私の娘も何回となく外国に出かけましたが、まだまだ考える時間が必要のようです。やはり、人生にはゆとりが欠かせません。
 フィンランドのテストは、ほとんど作文(エッセイ)。英語・国語はもちろん、化学、生物、音楽までもエッセイ。つまり、自分の考えを文章にして書かせるのが一般的なテスト。フィンランドでは穴埋め問題などなくて、すべて記述式。テストには時間制限がない。テストの前、生徒たちはやたら分厚い本をかかえていて、それを読んで、知識を詰め込む。
 フィンランドの教育の質の高いのは、教師の質が高いことと、義務教育を9年一貫制にしたことによるという。フィンランドでは、教師は絶対に尊敬される職業である。
 教師は、授業中にふざけたり、しゃべったりする生徒がいると、何もいわずにドアを開けて「どうぞ」と言って外に出す。あとで、その生徒を呼び出して怒ることもない。
 うむむ、これはすごいですね。日本でも、もっと教師は大切にされるべきです。
 フィンランド人は暗算をしようとしない。フィンランド人は520万人。日本よりやや狭い面積。医療と教育に手厚いサービスがある。そして、地域コミュニティが機能している。地域のみんなが顔見知りで、挨拶しあう。友だちづきあいは一生続く。
 フィンランドの不動産は日本並みに高い。外食やショッピングをせず、家でごはんをつくって家族で食べて、庭いじりやインテリアを手作りで楽しめば、お金はそれほどかからない。スラムもない。
 フィンランド語は、書き言葉と話し言葉がかなり違う。メールは話し言葉で書く。フィンランド語は、ウラル語族に属していて、ハンガリー語と並んでヨーロッパでは特殊な言語である。フィンランドには、ぜひ一度行ってみたいと思っています。
(2007年9月刊。1524円+税)

君命を受けざる所あり

カテゴリー:社会

著者:渡辺恒雄、出版社:日本経済新聞出版社
 あのナベツネの自伝です。自民党と民主党の大連立を画策した張本人です。いったい日本をどうしようっていうんでしょうか。自分たちの思うように、いま以上に金権政治がまかりとおる日本にしようというのでしょうね。とんでもない権謀術数を駆使する野謀にたけた政治屋であることが、この本にはしなくもあらわれています。
 私がこの本を読んで一番いやな話だと思ったことは、いま読売新聞社の社屋の建っている土地を取得するまでの経緯です。もとは国有地だったのです。そして読売新聞社は通常ならその取得する可能性はとても低かったのです。むしろサンケイ新聞の方が先順位にありました。それを政治力で見事に逆転していったのです。国有地を政治家と有力マスコミで私物化しているのですね、許せません。
 政界トップとマスコミ・トップの密着ぶりは読めば読むほど、嫌な気分にさせます。ええーっ、マスコミって、権力の行き過ぎを少しは牽制する機能を果たすべき役割があるのじゃないのかしらん・・・。そんな疑問を何回となく感じました。
 政治部記者として、ナベツネ記者はさすがに有能だったようです。日米の政界の重要人物と肝胆相照らす仲となって、機密事項の相談にまで乗っていたというのです。ただ単に記事の書ける記者というのではなく、政治家と一緒に政治を動かす記者だったのです。
 同じことは、読売新聞社内部の記者同士の派閥抗争についても言えます。著者は、まさに、その激しい派閥抗争の最終的勝者なのです。著者に負けて脱落していった人には、救いようのないレッテルが何回となく貼られていき、事情を知らない第三者である私などは可哀相に思えるほどです。だから、ひとしお真実を知りたいという気分になります。本当にそうなんでしょうか・・・?。
 自民党政治とマスコミ界の権謀術数の実際の一端を知ることのできる貴重な本だと思いました。
(2007年11月刊。1600円+税)

キムラ弁護士、ミステリーにケンカを売る

カテゴリー:司法

著者:木村晋介、出版社:筑摩書房
 『マークスの山』(高村薫)を1週間かけて精読し、公判調書を読みくだく要領で 70枚ものフセンを貼りつけ、登場人物の相関図を作成しながら読破したというのです。すごーい。それだけで感嘆しました。『マークスの山』は、私は旧版と新版と2度よみましたが、そのたびに感銘を深めるだけで、そこに矛盾があるなどと感じたこともありませんでした。ただ、実は、気がついたことが一つだけありました。登場人物が、なんと私と同世代だったということです。それを考えると、たとえ権力の上層部にいたとしても、そう簡単に事件をもみ消したり、シロをクロと言いくるめるような「権力」の行使なんて無理だよな、ということです。
 横山秀夫の『半落ち』にも挑戦しています。なぜ、被疑者は空白の2日間について真相を語らなかったのか。それを話しても誰も不利益を受けないのに・・・、という指摘は、私も漠然とした疑問を抱いていたところでした。そして、弁護士が被疑者と会うには弁護人選任届が提出されていることが要件ではない。それを著者は知らなかったのではないか、という指摘には、なるほど、そうですね、とうなずいてしまいました。
 そして、夏樹静子の『量刑』にも果敢に挑戦するのです。これには驚きました。『量刑』は、私がとても感心したミステリー小説だったからです。ところが、さすがはキムラ弁護士です。『量刑』のアラをたちまち見破ってしまいました。業務上過失致死傷罪を構成するのを落としているというのです。これは、すごいことです。
 ほかにも、いろんな本が取りあげられ、キムラ弁護士の教養の深さに感じいりながら読みすすめていきました。こんなミステリー小説の読み方もあるのですね。すごいですよね、すごいです。キムラ弁護士の眼力に比べると、私って、まだまだ弁護士力がかなり不足しているようです。でも、これで弁護士35年目に入っているのですけど・・・。少しばかり自信をなくしてしまいました。シュン・・・。
 お正月休みに庭の手入れをして、今はかなりすっきりしています。黄色い小さな花をたくさんつけたロウバイが盛りです。ほんとうにロウのような色をしています。匂いロウバイと言いますが、実は、あまり匂いは感じません。私の鼻が悪いのかもしれません。
(2007年11月刊。1400円+税)

侍の翼

カテゴリー:日本史(江戸)

著者:好村兼一、出版社:文藝春秋
 いやあ、たいしたものです。まいりました。フランスのパリに長く住む剣道の達人である日本人が、江戸時代の侍の生きざまを見事に描き出したのです。剣道8段の腕前です。なんと私と同世代。大学生のときに剣道の指導員としてフランスに渡り、それ以来、フランスで剣道の指導をしているというのです。これまで、『日本刀と日本人』などの本があるようですが、この小説によって作家としてデビューしたというわけです。その勇気と努力に対して心から拍手を送ります。私も遅ればせながら作家を目ざしていますが、道はるかなり、というところです。まあ、それでもあきらめずにがんばります。ぜひ応援してやってください。
 大阪城の陣に参戦し、やがて天草の乱に出動します。そこで、我が子が戦死してしまいます。そのうえ、藩主が自害して、武士を失業。行くあてもなく、江戸に出て、侍の誇りを失わないようにしながらも人夫として働きに出ます。
 妻は労咳、今の結核にかかって、病の床にふせっています。死に至る病いです。夫に心配をかけないように表面をとりつくろった無理がたたったのか、早々と亡くなり、主人公は自暴自棄の心境となります。そこへ由比正雪と知りあい、その謀反の手伝いをさせられようとします。一夜、悶々とした主人公はある決断をします。
 子を失い、妻を亡くした主人公は天涯孤独の身となり、生きる意義を見失ってしまいました。あとは、いかに死ぬるかだけを考えて過ごします。
 天雷无妄(てんらいむぼう)という言葉を私は初めて知りました。无妄とは、妄(みだ)り无(な)し、つまり偽りも迷いもない、ありのままの状態をいう。天の運行は晴曇風雨と、さまざまな象となって現れ、そこになんら天の作為はないのに、地上の我々はえてして慌てふためき、作為をもってそれに反応してしまう。ありのままの天に対して作為はいらない。ありのままに応ずるだけだろう。
 自然の摂理に従う限りは、天に背くことはない。その先に待っているのは、きっと平安であろう。著者の言葉です。味わい深いものがあります。
 この本は12月31日に読み終わったものです。私の読書ノートによると、昨年1年間で読んだ単行本は556冊でした。これからも、いい本にめぐりあうために私はせっせと乱読を続けます。速読の秘訣を尋ねられました。私の答えは、ともかく本を読むことです。好奇心をもって本を読めば、どんどん速く読めるようになるものです。
(2007年11月刊。1667円+税)

平成の自治体再編と住民自治

カテゴリー:社会

著者:宮下和裕、出版社:自治体研究社
 私と同世代(正確には1学年だけ年長)で、長く自治体問題を専門にしてきた著者による本です。地方自治はもっと大切にする必要があると思うのですが、年頭から日本経団連の御手洗会長は道州制を九州から始めようと提唱しています。とんでもない男です。財界の思うままに地方の生活をこれ以上、荒らしてほしくはありません。
 07年7月の参院選の分析について共感するところが大でしたので、思わず著者にエールを送ったことでした。というのも、日頃は、民主党なんて所詮は自民党と同根、同じ穴のムジナの類じゃないか、アメリカの共和党と民主党と同じで、名前が違うだけの保守政党内の政権バランスの変動に過ぎない。そんなさめた意見があります。それは共産党や社民党など、根っからの護憲政党が引き続き惨敗したことから来る敗北感にも支えられています。でも、本当にそうなのか。もっと、大局的に政局を眺めてほしい。著者は、そのように訴えています。
 民主党が大きく議席を伸ばすことによって実現した与野党逆転によって、憲法「改正」のための憲法審査会の設置は大きく遅れ、いつ発足するのか、今では見通しもありません。憲法「改正」を目ざす政府広報予算も10分の1以下にバッサリ削減されてしまいました。私は、大いなる拍手を送ります。パチパチパチ。
 8月6日の広島での被爆62年式典で、広島の秋葉忠利市長は、「世界に誇るべき平和憲法をあるがままに遵守し、アメリカの時代遅れで誤った政策には、はっきり『ノー』と言うべきです」と、明確な平和宣言をしています。すごいですね。よくぞ言ってくれました。
 小泉元首相が成功したようなマスコミによる世論操作は、なるほど、それなりに成功している。しかし、安倍前首相は、それに失敗して、その意に反して早々に退陣を余儀なくされました。福田首相は前者の失敗を繰り返さないように心がけていますが、それでもC型肝炎被害者に対する当初のお粗末な対応にみられるように、マスコミ操作をうまくこなしているとは決して言えません。
 著者は次のように強調しています。どうせ、たいしたことはできない。お手並みを拝見しよう。そんな傍観者的な立場に立つことなく、いま国民によって有利な条件をいかに活用するのか、そのようにぜひ考えたいものだ。
 私も、まったく同感です。自民党も公明党も世論操作能力に自信をなくしつつあるのです。今こそ、世の中を良い方向へ変えていく絶好のチャンスなのです。そのように考えたいと、私は痛切に思います。
 自治体再編がすすみ、小さな市町村の合併がすすんでいます。おかげで、聞いたこともないような市がたくさん誕生しました。果たして、大きいことはいいことなのでしょうか。私は決してそうだとは思いません。やはり、地方自治体は住民に身近な存在であってほしいと思います。
 地方自治のあり方に少しでも関心のある方には、ぜひ読んでほしい本です。
(2007年12月刊。2000円+税)

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