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「おたふく」

カテゴリー:日本史(江戸)

 著者 山本 一力 、日本経済新聞 出版 
すごいですね、うまいですね、ほとほと感嘆しながら、江戸時代の気分を満喫して読みすすめました。著者は同じ団塊世代ですが、この描写、ストーリー(筋立て)、なんとも言えない巧みさに、いつもいつも降参しまくりです。
ときは江戸時代、真面目で倹約家の定信が登場してくる寛政の世。そうです。寛政の改革というのを日本史で習いましたよね。
幕府はぜいたくは敵とばかり、徹底した倹約を大名から庶民に至るまで求めます。借金まみれの旗本、御家人の窮状を救うため、借金棒引きを命令します(棄損令)。
ところが、これまでの借金がなくなったのはいいとしても、次の借金がなくなってしまうと、生活が出来ない仕組みです。さあ、大変。世の中は大変な不況に見舞われてしまいます。
そのときに、地道な商売を見つけて、工夫しながら生き抜いていく商売人がいました。いつもながら無理のないストーリーです。読んでいるとホンワカ心があったかくなります。得がたい作家ですね。日経新聞の夕刊に連載されていました。でも、そのとき、私は読んでいませんでした。
(2010年4月刊。1800円+税)

検察との闘い

カテゴリー:司法

 著者 三井 環 、創出版 
  
  元大阪高検公安部長が飲食代などの32万円の贈賄等の容疑で逮捕され、裁判にかけられて有罪(実刑判決)となり、1年あまり刑務所に入ってから自分の検察官人生を振り返った本です。
著者は、福岡高検の検事長にもなった加納駿亮氏を一生許せないと厳しく糾弾しています。現在は弁護士になっている加納氏を検察庁の諸悪の根源の一つだと言いたいようです。加納氏は福岡にもなじみのある人ですから、一度、加納氏の反論も聞いてみたいと思いました。
 著者は、自分が刑事事件となったのは、検察庁の裏金問題をマスコミに内部告発しようとしたからだと主張します。
 1999年に7億円あった検察庁の裏金(調査活動費)が、内部告発があって問題とされた翌2000年に5億円となり、今では7000万円台になっている。ところが、法務省全体の調査活動費は減っていない。つまり、検察庁のほうが減った分を公安調査庁など法務省の組織内で消化されているというわけです。
著者は懲戒免職処分され、もらえたはずの退職金7000円も受けとれず、弁護士資格もなく被選挙権さえ5年間ありません。
 たしかに、裏金問題を告発しようとしていたテレビ出演の3時間前に逮捕されたというのは、告発者の口封じのためとしか考えられませんよね。警察の裏金問題も、かなりあいまいな決着でしたが、検察庁の裏金については大問題になる前に幕引きとなった感があります。
 検事として、著者はかなりアクの強い、スゴ腕だったようです。こんな豪腕検事と法廷でぶつかりあわなくて良かったなと正直いって思いました。それはともかくとして、検察庁や警察の裏金問題の解明のために、引き続きがんばってほしいと思います。
(2010年5月刊。1400円+税)

北朝鮮を見る、聞く、歩く

カテゴリー:朝鮮・韓国

著者:吉田康彦、出版社:平凡社新書
 人口2400万人の北朝鮮に10回訪問した日本人の体験記です。上すべりの見聞記ではないかと思いつつも、うへーっと、驚くことがありました。
 北朝鮮では牛肉は高価なぜいたく品で、庶民に人気があるのは安価で栄養価の高いアヒルとガチョウを食べる。生育が早く、容易に入手できるからだ。そして、犬料理も大人気だ。
 北のキムチは赤くない。北朝鮮では、コーヒーはぜいたく品。
 北朝鮮の食糧危機は深刻で、穀物生産量が需要に追いつかない。
 北朝鮮は、本来、映画王国である。年間40本前後をつくる。映画が全国民にもっとも人気のある大衆娯楽である。北朝鮮はアニメ映画づくりも盛んで、輸出産業の花形になっている。ただし、日本から北朝鮮に直接発注はできないので、韓国経由となっている。うへーっ、そ、そうなんですか・・・。
 北朝鮮では、皆すぐに歌をうたい踊り出す。歌も踊りも指導者に対する忠誠心の表現に化ける。
 平壌はサーカス劇場が二つあり、いつもにぎわっている。サーカス団員の地位は高く、平壌サーカス学院という専門学校まである。平壌には、サーカス団が4つあり、団員の総勢は300人。朝鮮人民軍の中にもサーカス部隊があり、専用の人民軍サーカス劇場がある。サーカス団員は人民軍兵士を除いて、文化省所属の公務員であり、文化芸術家として尊敬を集めている。
 北朝鮮のマスゲームは外貨獲得の有力な手段として観光名物ともなっているので、金正日自らますます力を入れている。動員規模も5万人になる。
 切手も北朝鮮自慢の文化である。北朝鮮では、ごく限られたエリートを除いて、インターネットにも外国の放送にもアクセスできない。
 ケータイは、一度禁止されたが、2009年から平壌市内で再開して急速に普及している。国際通話は原則としてできない。
 北朝鮮はレアメタルの宝庫であり、ほとんどが未開発状態にある。この北朝鮮のレアメタル開発で先んじているのは中国企業である。
 一般人民が外国放送を聴くことはきびしく禁じられており、国内で販売される受信機には、外国の放送は一切入らない。国外から持ち込むラジオは、周波数を国内放送の位置に固定したものだけが販売を許可される。
 自動車は少ないので、いつも道路はガラガラ、交通信号はない。人口2400万人の全土に3万台の車しかなく、そのほとんどは党・政府の幹部と軍・企業用で、個人用はない。しかも、ガソリン代がバカ高く、日本と同じ。一人あたりの国民所得は日本の100分の1だから、ガソリンの高さが分かる。
 地下鉄の駅は、緊急避難用のシェルターとして設計されているので、地中深く掘られ、頑丈な大理石と花崗岩で造営されている。
 こんな国には住みたくありませんね。まさしく前近代的な超独裁国家です。
 私も若いころは少々の憧れを抱いていたのですが・・・。現実を知るにつけ、おぞましさばかりを感じます。
(2009年12月刊。800円+税)

貧者を喰らう国

カテゴリー:中国

著者:阿古智子、出版社:新潮社
 中国の現実の一断面を鋭くえぐり取った本だと思いました。アメリカ社会の格差もすさまじいいと思いますが、お隣の中国大陸も貧富の格差は相当深刻だと改めて思いました。
 なにしろ人口13億人もの巨大国家です。日本の10倍の人口をかかえて、国民がひとしく豊かになるというのは並大抵のことでは実現できないのでしょうね。それにしても、30代の日本人女性が中国の農村部に入って長く生活していた体験に裏づけられていますので、実感がよく伝わってきます。
 中国にエイズ村がある。人口700人のうち、170人は売血で、20人は輸血でHIVに感染し、既に40人が亡くなった。河南省は売血によるHIV感染者の多いことで知られている。これは、省や市・県の当局が売血による地域振興を呼びかけ、血液銀行をつくってすすめていったからである。
 採血は不衛生な環境で行われていた。同じ針をつかって採血していたため、ねずみ算式に感染が広がった。うへーっ、これって怖いですね。
 河南省のHIV感染者は30万人と推定されている。そして、被害者が加害者の責任を追及しようとすると、大きな困難が立ちはだかる。なぜなら、当局がすすめていた事業だから・・・。いやはや、なんということでしょう。
 都市と農村の格差が縮小しない背景には中国特有の戸籍制度がある。農業(農村)戸籍と非農業(都市)戸籍に分ける制度である。
 郷鎮企業は、半官半民で経営される。その所有母体は、郷鎮政府内の資産管理委員会であることがほとんど。1990年代半ばから官民癒着の弊害が指摘され、今では郷鎮企業は、ほとんど消失してしまった。
 中国政府のすすめている社会主義市場経済がうまく機能しないのは、市場原理が健全に働くための前提となる「公平なルール」を政府が保証せず、コミュニティーの中に「信頼」が存在しないため。現在の中国農村には、「信頼」も「公平」も欠けている。不公平・不明瞭なルールの下で、役人たちは農民から富を巻き上げようと腐心し、農民たちは隙あらば隣人を出し抜こうと考え、また隣人が自分を出し抜こうとしているのではと疑心暗鬼になり、あるいは希望を失い自暴自棄になっている。
 中国は表に社会主義の理想を掲げておきながら実際は、資本主義以上に苛酷な競争を大多数の国民、とりわけ農民に強いている。そのため、農民は国を信じず、隣人を信じず、未来を信じなくなっている。もはや、農民が信じられるのは目先の金銭だけ、という荒涼とした拝金主義がはびこっている。
 一時は名望を失っていた毛沢東が死後30年以上も経過した今になって人気を取り戻しつつあるのは、格差拡大を容認する現在の共産党指導部に対する農民の不満が、毛沢東時代の方が希望があったという、よじれた感情にもとづくもの。
 中国の青少年の自殺は多い。15~34歳の青少年の死因の第一位は自殺であり、19%を占める。中国の年間平均自殺者数は10万人に対して23人。これは、国際的な平均水準の2.3倍。もっとも、日本も同じ水準である。
 中国のすさまじい現実の一端を垣間見ることができる本でした。
(2009年12月刊。1400円+税)

在郷軍人会

カテゴリー:日本史(戦後)

著者:藤井忠俊、出版社:岩波書店
 戦前の日本の実情を深く知った気になりました。在郷軍人会というのも決して一枚岩ではなく、矛盾にみちみちた存在であったようです。
 1910年(明治43年)に発足した在郷軍人会は最盛時には300万人に及ぶ会員がいた。しかし、会員に軍服の着用をすすめても、軍服を着た会員はほとんどいなかった。軍服を着た市民があふれたのは戦後日本の平和な社会であった。個々の在郷軍人は軍服を着たがらなかったのである。ただし、米騒動で騒動の先頭に立った者が軍服姿となり、また、神戸の造船所での大ストライキのとき、労働者側の在郷軍人が軍服を着て市中をデモンストレーションして人々を驚かせた。デモクラシーの波が、この皮肉な反抗を演出した。
 日露戦争のとき、日露両軍が全兵力を投入した大会戦の戦い方を通して、将来の戦争と在郷軍人の関係に気づいた軍人の一人に田中義一がいる。
 その実戦の中で、常備師団に比べて後備師団は弱い。しかし、今後の戦争は在郷軍人が主体になる。なぜなら、来るべき戦争は総力戦であり、現役兵だけでは絶対に兵力が足りない。数倍の在郷軍人が召集されなければならない。それは補充のレベルではなく、従来の後備師団が逆に主体にならなければならないというものだ。そのためには訓練と戦意が大切であり、国民の支持が絶対要件である。田中義一は、在郷軍人会の組織と経営に熱意をもった。
 在郷軍人会は会費収入を期待できなかった。軍隊生活を除隊した経歴の在郷軍人には、心底から貧乏くじを引いた思いがある。表面上、いかに光栄ある国家の干城と言われても、入営中、出陣中の家計・生活上のマイナスはたしかなこと。したがって在郷軍人会が成立しても、事業にみあうような会費を出してまで会員になる在郷軍人は、まずいない。当初から、町村の有志の援助をあてにした集団だった。
 日露戦争後、帰郷した在郷軍人のモラルにはよい評価を与えられなかった。兵隊あがりという蔑称さえつけられた。そして、在郷軍人の半数以上が一種の詐欺的行為にあり、委任状を渡して年金を他人にとられていた。
 米騒動(1918年、大正7年夏)に参加した在郷軍人は多く、刑事処分を受けた人の
12.1%を占めた。このことに在郷軍人会は驚愕した。工場でのストライキ、そして農村で起こった小作争議でも指導層にも在郷軍人が多かったからだ。騒動や争議は社会不安につながったが、下層民の社会的力量を押し上げもした。在郷軍人は、広く考えると、この下層民の押し上げにも乗っていた。
 在郷軍人という基盤の上に立った在郷軍人会は、当時の組織された民衆としては最大のものであり、普通選挙が実施されたら最大の選挙民になる可能性があった。この大正デモクラシーに対しては、軍全体で、その風潮に対抗する措置がとられた。それほど大正デモクラシーは、在郷軍人にも大きな影響を及ぼした。在郷軍人会自体も民主化に対応しなければならなかった。
 在郷軍人会本部が大正末期につくった悪思想退治のレコードを紹介します。野口雨情の作詞、中山晋平の作曲です。
 狭い心で世の中渡りゃ、マルキシズムにだまされる。マルキシズムにだまされりゃ、可哀想だが心が腐る。
 なんと恐ろしい偏向した歌でしょう・・・。怖いですね。
 日中戦争の大動員が始まると、質的にも量的にも、国防婦人会の役割が急上昇した。出征兵士の見送り行事には決定的な役割を果たし、不可欠の要素となった。
 作戦本位の軍部も、国民の支持に頼らなければならなかった。国防婦人会の見せるパフォーマンスの威力は、日本全国をゆるがせた。これは軍部の予想しなかったことであり、慌てた。
 逆に、在郷軍人は、もはや銃後の構成員とは言えなくなった。大動員によって、在郷軍人会の社会的活動は大幅に後退せざるをえなくなった。
 1937年中に動員された兵士は93万人に達した。現役兵は33万6千人に対して、開戦後の召集兵は59万4千人。これらの召集兵は、充員召集であれ赤紙召集であれ、在郷軍人である。
 日中戦争では、たしかに在郷軍人の大量動員で数量的には在郷軍人が主体となった。しかし、出来上がった形に軍は動揺した。在郷軍人の質が問題だ。特設師団は戦闘主力として使えるのか。未入営補充兵をどのように訓練して戦闘にまにあわせるのか。当惑が渦巻いた。
 特設師団は編成・素質不良にて、訓練の時間なく、幹部の死傷者が多いのは、近接戦闘において自ら先頭に立たないと兵が従わないため。
 日中戦争途中の帰還兵を待っていたのは、きわめて冷たい出迎えだった。派手な出迎えはしない。歓迎会は禁止、楽隊は絶対禁止。軍紀を基準にした言動調査で、盛り上がりつつある銃後の戦意昂揚に水をさすような実践談をされては困るのだった・・・。
 戦場の実態について、美談や大和魂でしか伝わっていない国民のなかに、戦場の実態が赤裸々に語られるマイナスが当局の心配事になった。戦場における兵たちの軍紀の乱れを国民に知られないようにする必要があった。
 1941年(昭和16年)の関特演(関東軍特殊演習)による秘密動員については、暗い秘密動員として記憶された。つまり、夜中に誰にも気づかれないように普段着を着て、召集場所に集まるようにとのことだった。この秘密大動員は、軍に士気の衰えを感じさせた。高揚するかと思われた国民の気持ちを萎えさせるように働いたのだった。
 在郷軍人会は、徴兵制を維持し、国民の支持を得るための最大の地域組織だった。
 十分に本書を理解できたという自信はありませんが、読んでいて、とても納得感のある本でした。
(2009年11月刊。2800円+税)

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