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カテゴリー: アフリカ

海と路地のリズム、女たち

カテゴリー:アフリカ

(霧山昴)
著者 松井 梓 、 出版 春風社
 アフリカの小さなモザンビーク島に住み込んで、人々の日常生活を細やかに調べあげ、分析している、面白い本です。
 モザンビーク島は、かつてはポルトガル領東アフリカの中心拠点として栄えた、せわしい島だった。今では、時間も現金も、漁業を中心にゆっくりとまわっている。
 居住地区は一見スラムのように過密なのに、どこよりも治安がいい。夜中に女性一人で歩いても少しも不安を感じない。小さな島の居住地区に人々は稠密(ちゅうみつ)に住まい、女性たちは友人や隣人どうし親密につきあう。身体を近づけあって相手に触れて親しさを確認し、秘密を打ち明けることで心を近づけあう。近隣の家を頻繁に行き来し、半開きの勝手口から声をかけて入っていっては、その家の女性とおしゃべりやゴシップに興じつつ隣人たちの台所事情ものぞいていく。そこで相手に食べるものがないとみれば、自分がつくった料理を皿に盛って相手の家に届けたりもする。
 まあ、ここまでは、なんとなく理解できます。驚くのは、この親密な関係が実は永続性がないことがしばしばだということです。その大きな原因の一つがゴシップです。あけすけなゴシップが行きかい、当の本人の耳にも入ります。そして疎遠な関係になります。ただ、徒党を組んで、誰かが孤立させられるというのはなさそうです。すると、どうなるのか…、また、女性たちはどうするのか、気になります。
 彼女たちは、目の前を濃密に飛びかうゴシップの渦中で、関係を悪化させすぎずに、しかし緊密に共在するのです。
 モザンビーク島で繰り広げられるゴシップは、その真偽を問わないままに他者の評判を流布する極めていい加減な社交であり、他者への応答をあるべき態度とする共生の倫理からすると、限りなく非倫理的な行為だろう。著者は、このように評しています。日本では考えられないと思います。
 著者が居住し、分析の対象とした人々の地区は島の南側の中流・下流層の人々が住む「バイロ」と呼ばれる地域。北側は、「シダーテ」という富裕層が多く住む地域。バイロの住民の大半はムスリム。バイロの女性は、夫の稼ぎをあてにせず、みずからも稼ぐ、堂々と振るまう「強い」女性たちが住んでいる。
 バイロの人たちは、必ずしも安いとはいえない鮮魚を毎日食べて暮らしている。それは島外から流入する現金があるため。
バイロでは、日々、隣人とのあいだで、皿に盛った調理ずみの料理を交換するやり取りが見られる。バイロでは、頼母子講(シティキ)が盛んにおこなわれている。
 島の離婚率の高さ、一夫多妻制のため、女性は夫と離別したあと、みずからの親族のもとに出戻ることが多い。
相手の家族が生活に困っているとみると、子どもの食事の分は助けるが、それは決して一家全員の分まではない。一定の距離を保つように線が引かれている。
 二つの家族のあいだで、相手の家族がひもじそうだとみてとると、孫の分のみ料理を分け与えるが、家族全員の分までは与えない。それは、お返しがあることを前提として、相手の生計の過度な負担とならないようにする配慮になっている。両者の関係性が負担になりすぎない距離感で保たせられている。これは、日本の昔の長屋であった共生、扶助関係とも違うのでしょうね。
 バイロの近所づきあいは、2~3日のうちに料理のお返しが求められている。共在を可能にする委ねすぎない身構え。そして、ゴシップの渦中で共在する。当初から、相手に過度に期待し、依頼でいばることをしないからこそ、深刻な裏切りも不信も生まれない。
 女性たちには、隣人たちと日々密に接し、相手とつながろうとしてしまう一方で、最後のところで相互に心理的な結びつきや連帯を求めすぎたり、みずからを相手に委ねすぎたりしてしまわない身構えがある。うむむ、そうなんですか…。大変興味深い社会生活の実情と分析でした。
 指導教官として小川さやか教授(「チョンキンマンションのボスは知っている」という面白い本の著者)の名前があげられているのを知って、同じような手法の調査だと納得しました。それにしても、男性、そして子どもたちが全然登場してこないのには、いささか欲求不満が残りました。
(2024年3月刊。5500円)

バッタを倒すぜアフリカで

カテゴリー:アフリカ

(霧山昴)
著者 前野ウルド浩太郎 、 出版 光文社新書
 前の本(「バッタを倒しにアフリカへ」)は、なんと25万部も売れたそうです。モノカキ志向の私には、なんとも妬(ねた)ましい部数です。その印税で、助手の男性にプレゼントをする話も登場して、泣かせます。
 この本は、前の本の続編ですが、新書版なのに、なんと600頁を超えていて、読みこなすのに一苦労しました。いえ、読みにくいというのではありません。著者の身近雑記が延々と語られていて、それはそれで面白いので、つい読みふけってしまうのです。
ともかく、バッタの婚活の研究をしている著者は、ネットその他を通じて本気で婚活しているのに、なぜかゴールインしないというのです。ええっ、いったいどういうことなんでしょうか…。ひょっとして選り好みが意外に激しかったりして…。
 それにしても好きでバッタ博士になったはずの著者が、バッタアレルギーにかかっているとは、悲劇ですよね…。
著者がアフリカでバッタ研究を始めて、もう13年になるそうです。アフリカの西岸にあるモーリタニアの砂漠にすむ、サバクトビバッタの繁殖行動をずっと研究しています。
バッタは移動能力が高い。バッタは暑さに強い。
 バッタは、フェロモンを利用した独特の交尾システムを有している。
 バッタは多同交尾し、最後に交尾したオスの精子が受精に使われる。
バッタの産卵期間は脆弱(ぜいじゃく)である。
 サバクトビバッタのメスは、オスと交尾しなくても単為生殖でも産卵し、子孫を残せる。ただし、うまれてくる幼虫はすべてメスであり、ふ化率は低い。
 著者は、長く長く粘り続けたおかげで、その論文がなんとか、ようやく高級な雑誌に掲載され、ついに学者の仲間入りができたのでした。
 それを著者は、がんばり、運が良ければ、どんな良いことが待ち受けているのか…と、表現しています。それまでの長く、苦しい研究がついに結実したのでした。2021年10月のことです。
 著者は、今やFBに60万人ものフォロワーがいるとのこと。たいしたものです。「ありえないほどの超有名人」になったのです。
 この本には、ロシアの女性(農民)が27回の出産で69人を出産したという、嘘のような本当の話が紹介されています。双子を16回も産み、また三つ子まで7回、さらに四つ子も4回産んだというのです。とても信じられない話です。
 ちょっとボリュームがあり過ぎて、読みくたびれてしまいましたが、語り口の面白さにぐいぐいと最後まで読み通してしまいました。さすが、5万部も売れている新書です。
(2024年6月刊。1500円+税)

エチオピアの季節

カテゴリー:アフリカ

(霧山昴)
著者 ヴァンサン・ドゥフェ 、 カリム・ルブール 、 出版 花伝社
 マンガ(レオ・トリニダード絵)によってエチオピアの現実、その光と影がよく分かります。
 国境なき記者団による報道の自由度において、エチオピアは180ヶ国のうち最下位の143位。日本もNHKの現状など、ひどいものだと思いますが…。
 中国はアフリカに大変な勢いで進出していて、エチオピアも例外ではない。中国はアフリカから原材料を運び出し、逆に中国製品を大量にアフリカに運び込んでいる。中国人はエチオピアの首都アジスアベバの街中に高速道路をつくった。
エチオピアは、ものすごいスピードで変わっている。
 エチオピアのメリットは、トラブルの多い地域のなかで、唯一安定していること。隣国のエリトリアはエチオピアと潜在的戦争状態にあり、アフリカ版「北朝鮮」とされている。
 エチオピア政権は、批判の封じ込めを経済発展にかけている。
 エチオピアの出稼ぎ労働者の大半は、中東かアフリカの他の国へ行く。そして若者はヨーロッパを目ざす。エチオピアのたくさんの人々が出国したがっているが、他方、アフリカの角から多くの難民を受け入れている。
 エチオピアは海に面していないので、たいていの輸入品は、ジブチから800キロ、トラックで運ばれてくる。
 2019年のノーベル平和賞はエチオピアのアビィ・アハメドが受賞した。エリトリアとの和平を実現したことによる。ところが、まもなくアビィ・アハメドは変身し、強硬策に転じた。2020年11月のこと。
 中国はエチオピアの借金の半分を握っている。中国はエチオピアを「伝存関係」に引きずり込んだとみられている。 「債務のわな」だ。それでも、中国経済の低迷もあって、中国のアフリカ全体への融資額は2016年にピークの285億ドルで、2022年には3割ほどの9億9千万ドルに激減した。
 2016年にエチオピアには13万人の中国人がいた。日本人はわずか200人。
 2000年から2010年までの10年間で100万人の中国人がアフリカに移住した。
 エチオピアの様子を初めて少し詳しく知りました。
(2024年3月刊。1800円+税)
 今年、わが家の庭はブルーベリーが大豊作です。梅の実はさっぱり採れませんでしたが、ブルーベリーは次から次に実が黒く色づきます。かの岩泉ヨーグルトにたっぷり入れて、美味しく味わっています。
 人間ドッグに入ったら、医師から「やせなさい」と3回も言われてしまいました。糖質制限しろというのです。野菜中心の食生活をしているつもりなのですが、もっと野菜を食べなくてはいけないようです。

運び屋として生きる

カテゴリー:アフリカ

(霧山昴)
著者 石灘 早紀 、 出版 白水社
 モロッコの北部にスペイン領の町がある。いわゆる飛び地。
 この国境地帯は、アフリカからヨーロッパを目ざす移民や難民の経由地。なので、国境には高さが6メートルもあるフェンスが3重に張りめぐらされていて、監視カメラやセンサーで警備されている。そして、この国境を毎日往来する「ラバ女」とも呼ばれる「密輸」の運び屋がいた。ジュラバ(モロッコの伝統的な民族衣装)の下に洋服を隠した女性たち。運ぶのは衣料品と食料品。
 モロッコには、運び屋が4万5千人、間接的に関わっている人は40万人いた。
 当局から暴行(性的なものも)されたり、商品を没収されたりもするが、法的な検挙はなかった。
 この本は、日本人女性が現地で体当たり取材して判明したことを紹介しています。勇気ありますね。
 モロッコは移民の送出国。モロッコ国外に住むモロッコ人は540万人(2020年)。海外に住むモロッコ人から本国への送金額は90億ドルをこえ、モロッコのGDPの7%超を占めた。
 フランスには、100万人のモロッコ人が住んでいる。
 私が30年前に南フランスのエクサン・プロヴァンス大学の外国人向け夏期集中講座を受けたときの講師も若い元気なモロッコ人女性でした。
 2015年11月と2017年8月にパリとバルセロナで起きた同時多発テロの容疑者の多くはモロッコ系だった。しかし、生まれはモロッコだとしても、育ったのはフランスであり、スペインだったのですから、モロッコにだけテロの原因を求めると、間違います。
 モロッコにいるサブサハラ移民の存在は、モロッコにとっての切り札となっている。
 運び屋のほとんどは、50~100キロにもなる商品を背中にかついで運んでいて、「密輸」であることを隠しもしていなかった。彼女らは、「自分用のお土産」を持ち帰るという建物なので、本来なら科せられるはずの関税20%を支払わず、商業輸入していた。
 この20%というのは、実に大きいですよね。ここに「密輸」ビジネスの合法的根拠があるわけです。
運び屋になるには、言語能力も特別なスキルも何も必要なく、ネットワークも不要。ただ、ビザ(責証)免除の対象となることだけが求められる。なので、現地の女性がなるわけです。
運び屋は35~60歳の貧困層の女性が中心。
モロッコの非識字率(文盲の割合)は、男性22%、女性42%(2014年)。女性だけをみると、都市部の非識字率は31%なのに対して農村部では60%超。
モロッコ社会では、運び屋は売春婦と同等の社会的地位にあるとみられている。
ところがモロッコは、2019年10月、重大な方向転換をした。長いあいだ容認してきた「密輸」を根絶すると宣言した。これはモロッコの国産品の競争力向上を目ざしたもの。すっかりなくなってしまったのでしょうか…。
モロッコにおける密輸の状況を現場に行って聞き取り調査もして、まとめた論文が分かりやすい本になっています。問題状況をかなり認識することができました。
(2024年4月刊。2800円+税)

カーイ・フェチ(来て踊ろう)

カテゴリー:アフリカ

(霧山昴)
著者 菅野 淑 、 出版 春風社
 セネガルの路上やナイトクラブで開かれるパーティで踊られるダースである、サバールを徹底的に解き明かす本です。
サバールダンスはなかなか難しいようです。一見するとやさしく真似できそうなのですが、ドラマーと息を合わせるのは至難の技(わざ)なのです。
 一度、ユーチューブで見てみたら、もう少し理解できるのかもしれません。文字だけでいうと、次のとおりです。軽い飛躍をともないながら、右足を高く振り上げ降ろす一つ目の動きに続き、左右交互に足を踏みつつ、大きく左右の腕を扇風機かのごとく振るステップ。踊り手の身体と、ドラマーとが「会話」する。この「会話」こそが、サバールダンスを踊る上で重要な要素である。ここまで書いたあと、ユーチューブで見てみました。たしかに日本にはない、激しく全身を動かします。
 セネガルはアフリカ大陸の西にあり、その広さは日本の半分ほど。人口は1773万人。21の民族がいて、公用語はフランス語。イスラム教徒が95%で、キリスト教徒は5%。
 首都ダカールの人口は340万人。かつてカースト制度があり、現在でも公式には廃止されていても、根強く残っている。踊るのは身分の低い人(ケヴェル)がするものという見方が厳然として存在している。サバールの太鼓を演奏するのは、男性のケヴェルだけ。
 ダンサーの足はペンであり、ドラマーが演奏する音符を描く。良いドラマーは、音符の読み方を知る必要がある。こうして、即興的な「会話」が成立する。
 サバールが踊られる場は、娯楽であり、人生儀礼を祝う場であり、若い女性の社交の場でもある。
日本人女性がセネガルに行って、このサバールダンスを身につけ、なかには一生の伴侶を得て、日本にカップルで戻ってくるケースも少なくないとのこと。そして、サバールダンスを日本で教えるのです。すごいですね。
 日本に在住するセネガル人のダンサーやドラマーは全員が男性で、女性はいない。
 日本人にとって、サバールダンスを学ぶ難しさは、手と足をバラバラに動かさなければならないうえ、跳躍をともない、かつ一定のテンポで踏むステップではないから。
 しかし、このサバールステップを踏めずして、サバールダンスを体得したとは言い難い。
 サバールダンスの魅力は、日本の踊りとの共通点がなく、独特で唯一無二のダンス、そして複雑なリズムにある。
 いやあ、すごいですね。アフリカのセネガルに定住してまで、その独特のダンスを身につけようという日本人女性が少なからずいるというのに、驚きました。
(2024年2月刊。3500円+税)

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