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カテゴリー: 社会

彼は早稲田で死んだ

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 樋田 毅 、 出版 文芸春秋
早稲田大学文学部といえば、昔も今もワセダのなかでも一目置かれる存在なのではないでしょうか。吉永小百合も女優活動の合い間に通学していましたよね。ところが、私の大学生のころは、革マル派が暴力支配しているという悪名高いところでした。暴力「的」支配という生やさしいものではなく、むき出しの暴力でもって文学部を支配していたのです。革マル派にクラスの中で批判的なことを言おうものなら、暴力的糾弾の対象となり、やがて授業を受けられなくなるのでした。
そんな状況のなかで起きたのが川口大三郎君のリンチ殺人事件です。1972年11月8日のことです。早稲田大学構内で学友と一緒に談笑していたところを拉致され、革マル派の支配する文学部自治会室でメッタ打ちされ、ついに虐殺されてしまいました。
革マル派は、川口君が中核派のメンバーで、スパイ行為をしたので原則的な自己批判を求めていたときに突然ショック死したと弁明しました。こんな弁明はあとの刑事裁判では事実として認められず、虐殺行為に及んだ学生たちは有罪になっています。その場にいた人間が「裏切」って自白したことから、虐殺行為の全容が判明したのです。
革マル派に対して、早稲田大学当局は批判するどころか、完全な癒着状態にあり、一般学生から徴収した自治会費(授業料と同時に1人1400円を徴収していた)900万円を革マル派に渡していた。革マル派の貴重な活動資金となっていたので、革マル派は当然、死守しようとする。
当時の村井資長総長は、革マル派による川口君殺害事件について、自らの責任はまったく問うことなく、まるで他人事(ひとごと)のような口ぶりでしかなかった。事件の原因について、「派閥抗争」とまで言った。
学生たちの怒りは大きく、革マル派を徹夜状態で学内の教室において缶づめにして追及していると、午前8時ころ、50人ほどの警察機動隊がやってきて、追及されていた革マル派6人を救出した。これは早稲田大学当局が警察に救出要請したのに警察がこたえての行動だった。
いやはや、一般学生に取り囲まれた革マル派が警察機動隊に救出されただなんて、ひどい話です。内ゲバがそこであっていたのでもなんでもありません。ただひたすら革マル派の虐殺行為についての追及・糾弾の集会があっていただけなのです…。
直木賞作家として有名な松井今朝子さんも、このとき早稲田一文の1年生であり、ノンポリ学生として革マル派による虐殺糾弾の学内デモに参加したとのことです。それほど盛り上がっていました。
そして、学生たちの怒りは革マル派自治会をリコールして臨時執行部を選出し、著者は委員長になるのです。ところが、大学当局は、なかなかそれを認めません。そして、革マル派はお得意のマヌーバーを駆使し、学生を個別撃破して、反転攻勢に出てきます。
そこで、革マル派の暴力に対して暴力で立ち向かうのか、という問題をめぐって著者たちの側で大激論となるのです。そのとき、著者は、あくまで非暴力を貫くべきだと主張しました。ここは本当に難しいところです。
東大闘争の最終盤で、東大駒場では全共闘の暴力に対して、クラス討論の結果として少なくない学生がヘルメットをかぶりました。身を守るものとしてのヘルメットです。神田で買ってきたと言う学生もいました。そして、そのヘルメットはセクトの色とは違うものにし、しかも、ヘルメットには「ノンポリ」とか「非暴力」といった自分の主張をマジックインキで書いて、セクトメンバーでないことをそれぞれ明らかにしていました。
私は、闘争の中盤生のころ、銀杏並木での押しあい(もみあい)をしているとき(まだ全共闘のほうもヘルメットをかぶっているのは少なかったころです)、全共闘の学生がうしろの方から投げた小石が頭にあたって出血し、学内の診療所で頭を包帯でグルグル巻きにされて、いかにも「暴力学生」からのような格好で電車に乗ったり、とても恥ずかしい思いをさせられましたので、ヘルメットをかぶるのは当然でした。
そして、最終盤のときには仲間と一緒に私も角材を手にしました。本郷の図書館前広場の衝突時が初めてで、そのあと明寮攻防戦のときには、私が手にしていた角材を全共闘の学生に奪いとられて、うしろに下がりました。このように、革マル派のすさまじい暴力を前にして非武装で立ち向かうというのは、理屈ではありえても、実際にはとてもとても勇気のいることだと私の体験からも思います。
なにしろ、革マル派はいかにも場慣れした鉄パイプ部隊が襲ってくるのです。著者も、革マル派につかまり、この鉄パイプで打ちのめされました。
致命的なダメージを一瞬にして与える刃物や銃などの武器とは違い、鉄パイプは殺傷効果では劣るが、それだけに何度も振り下ろされることで、激痛とともにその恐怖で心身が冒されていく。まさに、あらゆる意欲が削(そ)がれていくのだ。これって、すごく分かる気がします。
著者は、早稲田大学を卒業して朝日新聞の記者になった。そして、当時の革マル派の自治会幹部(副委員長)だった「辻信一」にインタビューした。「辻信一」は革マル派から逃げてアメリカに渡り、今は学者になっている。当時の川口君虐殺について、心から反省しているとはとても思えない自己弁護を延々と述べてたてた(と私は受けとめました)。
早稲田大学当局が革マル派と縁を切ったのは1994年に奥島孝康総長となってから。それまで商学部自治会費として年に1200万円を革マル派に渡していたのをやめ、早稲田祭もやめた。いやはや、長い年月がかかったものです。
早稲田大学を正常化するために苦労し、今回改めて活字にして世に問うた著者の努力と心意気に心から拍手を送ります。全共闘をもてはやす人が今でも少なくありませんが、そのすさまじい暴力、「敵は殺せ」というスローガンとともに暴力を振るっていた全共闘の行為は根本から否定されるべきだと本書を読みながら改めて思ったことでした。
(2021年11月刊。税込1980円)

過労死・ハラスメントのない社会を

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 川人 博 ・ 高橋 幸美 、 出版 日本評論社
カローシというコトバがカラオケと同じように日本を象徴するコトバとして国際的に通用するなんて悲しいですよね。
地方の高校から学年で一人だけ東大に入り、夢多くして天下に名高い電通に入ったのに、そこは高給取りではあっても鬼の支配するあまりにも苛酷で厳しい企業社会だったのです。1日の睡眠時間が2時間、1週間でも10時間しか眠れなかったなんて、想像を絶します。これで病気にならないほうが不思議です。
上司はこう言って責め立てました。
「きみの残業時間の20時間は会社にとってムダ」
「今の業務量で辛いのは、キャパ(能力)がなさすぎる」
「髪ボサボサ、目が充血したまま出勤するな」
「会議中に眠そうな顔をするのは管理ができていない」
いやあ、これってひどすぎます。この上司は部下の女子社員をいじめて自分のたまっているうっぷんばらしをしていたのかもしれません。東大卒で、若くて美人の女性社員にねたみもあったのでしょう。こんなパワハラ上司の下で働いていたら、もう病気になる前に辞めるしかありませんね。でも、その前に病気になって、自死に至ったのです。本当に残念です。
髙橋まつりさんは生きていれば今、30歳です。友人たちとたくさん楽しいことができたでしょうし、母親にもたくさん親孝行できたことでしょう。そのすべての可能性が奪われてしまったのです。
今では削除されたそうですが、電通の有名な「鬼十則」には、5番目に、取組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは…とありました。たかが仕事で「殺されても」なんて、電通って異常な会社というほかありません。
それでも、まつりさんの母親が川人弁護士と一緒に電通とたたかったおかげで「不夜城」といわれていた電通本社ビルの灯りは夜10時になると消灯されているそうです。当然です。
亡くなったまつりさんが超多忙だったのは、インターネット広告を扱っていたから。ネット広告は、反応が具体的ですぐ得られるので、それに即応して広告内容を変更しなくてはいけないので、エンドレスの作業を余儀なくされるから。なるほど、ここにもネット社会の恐ろしさがひそんでいるのですね。
次は、電通ではない証券会社の話です。
「数字が人権」。ええっ、何のこと…。数字(業績)が取れないと、自分たちの人権が保障されない。休暇がとれない。残業をしなければいけない。さらには、殴る、蹴るの暴力を受けることすらある。うひゃあ、現代の証券会社って、昔のタコ部屋と同じなんですか…、ひどいものです。
ある高校生は、「鬼十則」の最後を次のように言い換えたとのこと。
辞職を怖れるな、辞職は進歩、積極の肥料だ。転職はキミの人生を豊かにする。
まったくそのとおりです。「鬼」のすむ世界からは、スタコラサッサと逃げ出しましょう。そんな会社にしがみついていてもいいことなんて、ひとつもありませんよ。人生は短いし、世の中は広いんですから…。
著者から贈呈していただきました。いつもありがとうございます。
(2022年2月刊。税込1760円)

どん底に落ちた養分たち

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 鈴木 傾城 、 出版 集広舎
パチンコ依存症の人がなぜ生まれるのか、この本を読むと、よく分かります。
パチンコ産業はひところの勢いはなくなり、もはや斜陽産業になっていると思っていました。ところが、あにはからんや、今でも相変わらず、ボロもうけしているというのです。そして、メジャーなパチンコ店は栄え、中小零細のパチンコ店は次々に倒産・廃業して消えているという、日本中でよくある光景がここでもあるのでした。
1000台未満のパチンコ店は減り、1000台以上の店は増えている。つまり、パチンコ店は大型店舗だけが生き残り、零細店はつぶれている。そのトップはマルハン。そしてダイナム、ガイア…と続いている。
日本最大のパチンコ店はさいたま市の大宮にある「楽園大宮店」。3030台もある。ここは地下1階から地上3階まであって、4フロアが機種ごとに区分されている。
パチンコ店「アイランド秋葉原店」には、2400人、4200人そして6074人という行列ができた。それも若者たちが並んだ。
映画「鬼滅の刃」は1日あたり2億円の売上収入だが、パチンコのほうは1日567億円。
凋落(ちょうらく)しているはずのパチンコ業界は歴代興行収一位の映画のなんと283倍もの売上をあげている。
世界でもっともギャンブル用電子ゲーム機が多い国は、日本。世界に788万台のギャンブル機のうち468万台が日本にあり、そのほとんどがパチンコ店。
世界でもっともギャンブル依存症の多い国は日本。日本には、280万人、いや536万人が依存症だと厚労省は推定している。少なくとも、日本には300万人近いギャンブル依存症の人がいる。この8割がパチンコ、パチスロによる。つまり、1店舗あたり58人のギャンブル依存症をかかえていることになる。
日本全国のパチンコ店は1万店を下まわっている。
ホームレスの人の92%はギャンブルの経験があり、そのうちパチンコは9割に近い。
パチンコ店内で、パチンコで負けた客が火をつける事件が、全国各地で、ときどき起きている。
パチンコは、最終的にはもうからない。もうかっているのは、店の経営者だけ。
新幹線のなかでガソリンをかぶって自殺した男性も、パチンコ依存だった。
パチンコを1日5時間以上もするという人は、明らかに依存症。パチンコで借金までかかえてしまったら、夜逃げ・蒸発するしかなくなる。
パチンコ業界を取り締まる側にいる警察は、パチンコ業界と癒着している。警察OBは、パチンコ店に天下りして、情報を古巣の官庁に売り込んでいる。警察OBにとって、パチンコ業界は本当にありがたい天下り先になっている。
政党への政治献金も共産党を除いて、自民党、維新の会と続いている。
ギャンブル依存から脱却するには、仲間が絶対に必要だから…。そして、ギャンブル依存からの脱却は、まずもって自分がギャンブル依存者であることを自覚すること。
パチンコ依存は、本人の意思だけで克服することは、ほぼ不可能。パチンコ依存を克服するには、家族や友人の協力が必要不可欠。家族も友人もいなければGA等の自助クループで仲間をつくることが有効。
今、福岡でもっとも稼いでいる企業は「品川・青物横町」に本社のあるタイラ・ベストビートという企業。これは「ワンダーランド」の経営主体。売上高は2742億円。九州最大の企業が、ギャンブル依存症の患者を大量に生み出している。トホホ、ですね…。本当にこんなことでいいのでしょうか。
(2021年10月刊。税込1540円)

世界を唸らせる切削、研削

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 浅井 要一 、 出版 幻冬舎
滋賀県長浜市にある精密加工の会社(トップ精工)の社長による本です。
タングステンやモリブデン、セラミックス、ガラスなどの難削材の精密機械加工の分野に特化し、特殊素材の加工技術を磨き上げている。2001年の設立当時は売上数千万円を突破した。リーマンショックで落ち込んだが、一般的な素材の加工から撤退し、特殊な素材の精密加工の分野だけに焦点をしぼり、2018年の売上高は20億円をこえた。また、特定の顧客に依存するのは危険なので、1社は20%までと、販路の分散を図った。
コールドスプレー装置とは、コーティング材料を固体状態のまま気体に乗せ、超音速で基材に衝突させて被膜をつくる装置。これは、熱による材料の特性変化を抑え、被膜中の酸化を最小限にとどめる効果がある。
トップ精工の強みに、タングステンやモリブデン、セラミックスやガラスといった硬脆(こうぜい)材料(硬くて、もろい素材)の精密加工に特化している点にある。
日本の部品産業が世界的にみて強いのは、加工技術が優れているから。とくに高精度が求められる精密加工の分野において日本は世界一。
特殊な技術を必要としない仕事は標準化され、経済合理性の観点から、生産コストの低い国にシフトしていく。
電子部品には、受動部品と納同部品の二つがある。受動部品とは、エネルギーを蓄積・消費・放出する機能がある部品のこと。抵抗やコンデンサ・コイルなど。
能動部品とは、エネルギーを出力する特徴がある部品のことで、トランジスタやIC、ダイオート、そして半導体など。わずか4年で受動部品のサイズが半分になってしまうといったように、電子部品産業では数年単位で小型化が進んでいる。すると、極小部品を正確につくるための製造装置が不可欠となる。次に、電子の部品を量産するための製造装置や検査装置が求められる。
日本のメーカーは、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を開発した。アルミよりも軽く、鉄よりも強い画期的な新素材。航空機関構造材の世界シェアの7割を日本の炭素繊維メーカーが占めている。
タングステンは融点が金属のなかでもっとも高い(3400度)素材。
日本が世界に誇る精密加工は、ミクロン単位の誤差が命とりになる。
過去の経験則や標準化された方法のみに固執するだけでは、解決策は見つけられない。機械加工の常識を取り払い、柔らかい頭で発想することで、解決に至るアイデアを想いつく。なーるほど、そうなんですよね…。
機械で指令できる最小単位の0.1ミクロンとした。0.1ミクロンの切り込みは、10往復してようやく1ミクロンになる。1ミクロンは1000分の1ミリなので、1センチだけ進むのに1万回も往復しなければいけないだろう…。
大丈夫、必ずできる。自信をもって取り組みをすすめる。途中で、「この方法ではダメだと分かると、そのやり方に執着することなく、さっと切り替えて、別の可能性を探る。柔軟な発想で臨機応変に対応できるかも、精密機械加工の成否を左右する。
わずか80人ほどの中小企業がこんなにも考えながら、精密加工の技術を特化させているのですね。驚きました。日本のモノづくり分野はコロナ禍でどこも大変な苦境にあると聞いています。そのなかでこれほどがんばっている会社があり、そこで多くの若者たちががんばっていることを知り、うれしくなりました。
(2019年11月刊。税込1540円)

機械式時計大全

カテゴリー:社会

(霧山昴)
著者 山田 五郎 、 出版 講談社選書メチエ
私は高級時計には関心がまったくありません。たかが腕時計に何百万円もかけるなんて、正気の沙汰ではありません。途中で停まったら困りますので、私は2万円ほどのクオーツ式の時計を2つもっています。3年くらいしたら新しく買い換えます。
連続窃盗事件を3年ほど前に担当したとき、ウブロという高級時計があるのを初めて知りました。被害者はIT関連の小さな会社の社長で、そこそこの高級マンションに住んでいて、高級時計をいくつも所持していて、それが盗まれたのです。そのまま質屋に持っていって自分の名前で質入れしたのですから、犯人が捕まったのも当然の事件でした。
腕時計に限っては、一度は絶滅しかけた機械式が高級品の代名詞となって、クオーツ式から売り場を取り戻し、何百万円もする機械式の時刻を数万円のクオーツ式であわせて喜ぶ時計好きが少なくない。90年代に入って、機械式時計の人気が復活した。
クオーツ式とは、水晶発振子の振動で調速する。電気で動く時計のこと。また、標準時電波やGPS信号を自動受信する正確無比な電波時計やGPSウォッチが数万円で売られている。
すべての機械式時計は、歯車の回転の停止と解放を一定周期で繰り返す「脱進機」と呼ばれる機構で、機械式はチクタク音のする時計とも言える。
機械式時計が、夏は遅れがちで、冬は進みがちになる理由の一つは、気温が上がるとヒゲゼンマイが伸びて柔らかくなる(弾性が下がる)ので、大輪の回転速度が落ち、気温が下がると逆の現象が起きるから。
21世紀に入って、ヒゲゼンマイが金属ではなく、シリコン製も登場した。シリコン製は、温度差だけでなく、磁気の影響も受けにくく、摩擦が少なく、しかも軽くて変形しにくい。
腕時計のほぼすべてが板バネを渦巻き状に巻いたゼンマイを動力としている。ゼンマイのトルク(駆動力)は長さに反比例し、厚さの3乗と幅に比例する。
表示時刻が夜20時から早朝4時までの間は、日送りしない方が無難。時刻や日付の逆回しは原則として禁止。機械式時計はムダに面倒くさいからこそ楽しい。
最後に、著者は投資目的で高級な機械式腕時計を定価以上で買わないようにと注意しています。下手にもうけ心で買うとケガをするというのです。きっとそうだろうと私も思います。腕時計は腕にはめて使うものなのです。大変勉強になる本でした。
(2021年9月刊。税込2805円)

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