法律相談センター検索 弁護士検索
カテゴリー: 社会

アフリカから来たランナーたち

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 泉 秀一 、 出版 文春新書

正月の箱根駅伝はテレビの視聴率は30%とのこと。まさに国民的なイベントですね。 もっとも私は全然関心がありませんので、観たことはありませんし、 観ようとも思いません。私は、観るスポーツ全般に関心がなく、 オリンピック競技も観ません。今度の総選挙で高市首相は オリンピック競技の最中にぶつけたという解説を知り、なるほどそういうことだったのか…と思ったことでした。

それはともかく、マラソンで ケニア選手が活躍していることくらいは私も知っています。新聞は丹念に読んでいますし、スポーツ記事も大見出しだけは見逃がさないのです。

大学駅伝だけではなく、高校駅伝でもケニア人が活躍中。そこで、著者はケニアの現地に取材に出かけました。

標高2300メートルにあるイテンは、「ランナーの聖地」。人口4万人のうちの1割の 4千人がランナー。そこにはトレーニング設備つきのホテルが林立している。1泊5千円 から1万円と、ケニアの田舎町としては高額。

完全無料どころか、月2万円 の手当を受けとれるキャンプもある。ケニアが中長距離大国として活躍しはじめたのは1980年ころからで、決して古くはない。キャンプはスポンサーがついていて、 商業化がすすんでいる。

ところが、ケニア人ランナーのドーピング摘発数は世界1位(126人)。ランナービジネスが過熱しているのはドーピングを助長する要因となっている。成績が振るわなければ、容赦なく切り捨てられる。一時的にでも記録が向上したら、お金を稼げるからだ。

キャンプに附属するランナーの背後には、無所属のランナーたちが無数に控えている。

ランナーとして成功したら、1年でケニアの平均所得の5〜10倍もの稼ぎがある。宝くじを買うような、一攫千金を狙う賭けのようなもの。たとえば、400万円即金でケニアの故郷に成功したランナーが建てた家の写真が紹介されています。屋根にはソーラーパネルが設置されている、しゃれた建物です。

現在、日本で走るケニア人ランナーは150人をこえるそうです。 この新書では、ケニア人ランナーを日本に紹介した日本人2人が紹介されています。その一人が小林俊一(故人)。選手1人につき 年150万円の顧問料を設定して、ビジネスとして定着させた。もう一人が丸川正人。紅茶ビジネスの利益をランナー育成にまわした。

ところが、いま外国人排斥の声が高まるなかで、留学生を制限する方向に動いている。これまで、ケニア人留学生は日本人学生にも大きな刺激を与えていたのに、偏狭な排外主義がスポーツの分野にまで拡がっているなんて、とんでもないことだと思います。「日本人ファースト」なんて、狭い考えを捨てて、「人類、みな兄弟」という精神で、共存共学でいきたいものです。

(2026年2月刊。1210円)

南緯69度チーム、南極地域観測隊

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 原田 尚美 、 出版 WAVE出版

 南極に観測隊はずっと行ってるわけでしょうが、初めての女性隊長だというのに、いささか驚きました。これまで、南極での調理スタッフ(女性)の苦労話も読んで、このコーナーでも紹介したことがありますが、女性隊長はずっといなかったというわけなんですね……。

 近年は女性隊員が増えていて、著者が隊長だった第66次隊では114人のうち25人が女性でした。著者は女性初の隊長として、アンコンシャスバイアス、無意識の偏見の克服が重要だと考えました。これは、実のところ、私にも多分にあると思います。

 ある学者によると、人間の脳は、一瞬のうちに1100万ビットもの情報を受信しているが、意識としてはそのうちの40ビットしか処理できていない。残る99.9996%は意識的には処理できず、無意識のうちに処理しているというのです。この数字の真偽のほどは分かりませんが、なんとなく私の実感にもあいます。

 私が大勢の人の前で話すとき、もちろんあらかじめおよその構想は頭の中であらかじめ組み立てておきますが、現場に立って、聴衆の顔ぶれをみているうちに、頭の中のどこからか指令が飛んできて、それに従って話しているのに気がつくというのはよく体験することです。

 同じことが、リーダーは男性がするものという偏見が私のなかにもあるのだと思います。

高市首相が初の女性首相だというのが高い人気の一つだというのには、私はものすごく違和感があります。彼女は夫婦別姓にずっと反対してきましたし、アメリカべったりの大軍拡主義者そのものです。女性である前に、彼女がこれまで政治家として何をしてきたのか、何を言ってきたのか、きちんとみて判断すべきだと私は思います。

 NHKの日曜日朝の討論会をドタキャンしたのも、手指をケガしたんだから仕方のないこと、責めたら可哀想という評価があったとのこと。信じられません。政治家、とりわけ首相として適格なのかどうかの判断をするとき、そんなことを可哀想と思うなんて、ぜひやめてほしいです。彼女は、その足で、地方遊説に出かけているのですから…。

 著者は、この本で、体制づくりの苦労と工夫をかなり具体的に紹介していて、参考になります。観測隊も100人以上となると多様性が高まる。すると、組織には、しなやかさと強靭さ、そして多様性が求められる。

 南極は雪と氷に囲まれていて、水は豊富だというイメージですが、現実には水不足になりかねない環境。なので、風呂が選択もままならないことがある。いやあ、それは大変ですね。私は毎晩、湯舟にゆったり使い、頭髪をせっけんでごしごし洗わないと、一日の疲れがとれません。

 南極大陸を環状に取り巻く南太洋は荒れる海。低気圧の通り道になっている。暴風圏だ。吠える40度、狂う50度、叫ぶ60度と呼ばれるほど、世界でもっとも荒れる海域。いやあ、そうだったんですか、知りませんでした。

隊員の小さい不満が大きなものになる危険がある。それを小さいときに摘み取って、深刻なレベルにまで発展させないことが不可欠。

そして、相手を思いやる気づかいを常にもち続けるためには、疲れをためず、気力を保ち続ける必要がある。ストレスを解消し、リフレッシュする。そのため、汗をかく運動を毎日続けた。

 不満の芽が育ちはじめたら、まずじっくり話を聞く。共感だけにとどめて、気持ちを落ち着けてもらう。

さすが隊長として、まとめ役の苦労を踏まえていて、一般論としても、大いに参考になります。ぜひ、若い人に、男性も女性も読んでほしい本です。

(2025年11月刊。1760円)

ルポ特殊詐欺無法地帯

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 藤川 大樹 、 出版 文春新書

 特殊詐欺は相変わらず猛威をふるっています。何千億円もの大金が暴力団に流れ込んでいるのです。日本の警察は、本気になって捕まえようとしているとはとても思えません。

電話をかける「かけ子」の集団は、今やミャンマーに置かれているようです。そこに体当たり取材を敢行した状況が紹介されています。ミャンマーのほか、先日はインドネシアにもあるという報道がされていましたし、カンボジアにもあるようです。詐欺集団は摘発を免れるため、カンボジア警察に1ヶ月3万ドルを支払っているとのこと。

2025年5月、カンボジアで特殊詐欺に関わっていた日本人29人が拘束されたことは耳新しい出来事でした。カンボジアで、特殊詐欺拠点が広がっているのは、政府・与党の「腐敗」が背景にある。カンボジアでは、15万人以上が特殊詐欺に従事しているとみられている。まさしく、一大産業と化しているのです。

同じく、ミャンマーにも40もの特殊詐欺拠点があり、10万人が従事している。そこでは中国系犯罪組織が取り仕切っていて、軍隊と結びついている。日本人をリクルートするときの甘いコトバは…。

「月給30万円(2千ドル)。寮完備でまかないあり」

「仕事をしながら、英語とタイ語が学べる」

これに惹かれて、のこのこ入っていくと、厳しく管理された閉鎖社会に閉じ込められる。1日14時間半も働かされ、ノルマを達成できないと、殴られ、電気ショックを受けさせられる。まさしく現代の奴隷ですよね。そして、奴隷状態から脱出できるためには、親族が大金を積む必要があります。そこにも、またビジネスが成立しているのです。なんという底知れぬ恐ろしさでしょうか。

 日本で仕事がないので、海外でおいしい仕事があると騙されて出かけると、パスポートを取り上げられ、オリの中に閉じこめられ、詐欺の電話かけをやらされるのです。

 それにしても、詐欺電話でひっかけても、そのお金を受け取る人間が必要です。しかも、瞬時にしなければいけません。このマッチングをするのは日本でしないと無理ですよね。すると、日本にも相応の組織がフル稼働しているはずです。警察は、そこを摘発すべきだと私は思うのですが…。

(2026年1月刊。1210円)

映画が娯楽の王様だった

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 戸田 学 、 出版 青土社

 淀川長治の神戸、山田洋次の東京、というサブタイトルがついています。かつて東芝日曜洋画劇場というのがあり、淀川長治が番組の冒頭に今日の映画のみどころを簡潔に紹介し、終わったあと、次回を予告し「サイナラ、サイナラ」と言うのが定番になっていて、それが有名でした。

 私の父は映画が大好きで、父と一緒に私も何回も映画を観に行っていました。最後に観たのはドイツの戦車との戦闘場面のあるアメリカの戦争映画だったと思います。なので、昭和2年に父が福岡から上京して東京で苦学生として生活していたときに浅草の映画街にも行ったことがあるはずだと思い、『まだ見たきものあり』(花伝社)には浅草の映画街の様子を調べて紹介しました。

 浅草の映画街は両側にズラリと映画館が立ち並び、よく満員御礼になる状況だったのです。もちろん、当初はサイレント(無声)映画で、有名な徳川夢声のような活動弁士(活弁。カツベン)が活躍していました。チャップリンの映画も多くはサイレントで字幕付きです。

 淀川長治の映画評は、難しい文章は使わない。身体で感じた感覚をあくまで大切にし、こだわった美意識に満ちている。淀川長治は、チャップリンが1936年3月に来日したとき単独会見した。チャップリンが「2.26事件」に巻き込まれそうになったエピソードは有名(知る人ぞ知る)です。

 マリリン・モンローはセックスシンボルの象徴としてあまりにも有名ですが、実は演技派の名優だった。そうなんですよね。演技の勉強のため夜の講座も受講しているのです。

 黒沢明監督の映画「七人の侍」は日本映画屈指の傑作だと思うのですが、昭和29(1954)年のキネマ旬報ベストテンでは、なんと第3位でした。では、第1位は何かというと……、木下恵介監督の映画「二十四の瞳」でした。たしかに、この「二十四の瞳」もいい映画です。「七人の侍」と比べるほうが無茶というものです(どちらも1位であって当然だと私は思います)。

山田洋次監督の映画にクレイジーキャッツのメンバーが何回となく出場しているのを改めて認識しました。

そして、映画「男はつらいよ」です。48本ある物語は、どれもワンパターンのマンネリズム。でも観客は楽しむことができるし、次回の新しいストーリーがだいたい分かっていても、新作を楽しみにする。また、同じ作品を何度みても毎回ゲラゲラと笑ってしまう。これは落語のエッセンスの情的な部分が根底にあるから。

とらや一家の人々に対し、あたかも自分の親戚や家族であるかのように錯覚し、また会いたいと映画館に足を運んでしまう。まことにそのとおりなのです。

私は正月になると、子どもたちを連れて一家そろって観て楽しんでました。さすがに年2回あったときには夏(お盆)のほうは見逃すことがあり、全部は観ていませんが、ほとんど観ています。葛飾柴又にも何回か行っていますし、矢切の渡しも見ています。

 お互い、愛するが故に喧嘩するというシーンをどう作るか山田洋次監督は苦労したとのこと。私は、今も月に1本は映画を観たいと思っているのですが、ままなりません。見逃して残念に思っている映画が最近いくつもあります。映画は映画館で観るに限るのです。

(2025年12月刊。3520円)

いい経営者は「いい経営」ができるのか

カテゴリー:社会

(霧山昴)

著者 高家 正行 、 出版 海士の風

 私は学生からすぐ弁護士になりましたし、企業を経営したことなんかもちろんありませんし、会社員になったこともありません。ところが、依頼者には中小零細といえども企業の経営者が少なくありませんし、また労務管理を含めて倒産・閉鎖について相談に乗ったりすることも多いのです。なので、いわゆるビジネス書もたまに読むようにしています。

 著者はホームセンター大手のカインズの社長です。カインズはワークマンを傘下に置き、ハンズもその一つです。慶応大学を卒業して三井銀行に入り、「プロ経営者」を目ざして40歳になって脱銀行でミスミに入社。45歳でミスミグループの社長になって、プロ経営者の仲間入りを果たした。

 経営者とは、多くの社員がまだ危機を実感していない平時に、社員にコンフォートゾーンから抜け出てもらい、変革を成し遂げていくもの。変化は持続させなければならない。変革とは、一時的な「変化」ではなく、それが持続すること。変化を持続させる理想の経営を実現するには、最終的には、経営者の存在感が小さくなっていくことこそ望ましい。

 経営者の意思決定は、ときに合理性を超えた道理性にもとづく。

変革においては、何でもやるのではなく、やるべきことに絞る、着眼大局・着手小局でブレずに続ける。リスクをとって勝負する。最後の、リスクをとって勝負する、というのは勇気と決断がいりますよね……。

 経営者は人間観察業。これは弁護士にも共通します。依頼者・相談者の人間性を見抜き、それに適合する解決法を一緒に探っていくのです。と、一口で言うのは簡単ですが、実際はいつも至難の技(わざ)です。

 工場閉鎖は社員の責任ではなく、経営者の責任。これをやると、会長と経営者に対する不信感は拭(ぬぐ)えない。

 カインズのメンバー(従業員)は、パート・アルバイトを含めて2万人を超える。いやあ、大変な大企業なんですね…..。

「いい経営者」に必要な3つの素養。

 その一つは、論理的・戦略的にものごとを分析し、課題を整理し、意思決定に導く力。

 その二は、自らの意思と覚悟をもって決断し、組織を引っぱり結果を出すまでやり続けるリーダーシップを備えた企業家精神。

 その三は、合理性を超える道理性を備え、信頼と共感によって人を動かし、組織や社会を変えていくことの出来る力。

 「いい経営」をするには、人が育つ環境を整えること。そのためには、人が育つ時間的猶予のある状況をつくる必要がある。必要なのは「自律的」なリーダー。人は育てるものではなく、育つものだから、著者は、衆議独裁を体現するようにしていると言います。

衆議が成立するためには、組織の多様性が不可欠。会議ごとに議長を決め、発言しない人は会議に参加しない、会議に参加する以上は発言してほしい。発言するのには勇気がいる。しかし、発言しないかぎり、賛同も反論も得られない。

 私は、あらゆる出席した会議で1回は発言するよう心がけています。少なくとも質問はします。そして、司会・議長になったら、参加者を指名してまで「全員発言」を求めます。発言していくことで、その組織との関わりが深まりますし、他の人の反応からみて、賛同・反動が足りないように思ったら、考え直すのです。

 大変勉強になるビジネス書でした。

(2025年12月刊。2420円)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.