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カテゴリー: 司法

「憲法の良識」

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 長谷部 恭男 、 出版  朝日新書
安保法制がまだ法案の段階で、国会に与党推薦の憲法学者として登場した著者が、安倍首相の改憲案を平易なコトバでトコトン批判し尽くした新書です。
議論の精緻さ、厳密さよりも、ごくごくシンプルな説明をこころがけたというだけあって、なるほど、とても分かりやすいものになっています。
憲法は、国としてのあり方、基本原理という「国のかたち」を定めているもの。
安倍「改憲」は、祖父(岸信介)から受け継いだという自分の思いを実現するためのものであって、国の利益のためではない。公私混同もはなはだしい。
安倍政権は、集団的自衛権の行使は許されないとしてきた従来の政府解釈を変更したが、その根拠はないし、政府自体が根拠のないことを自白している。
明治憲法に兵役の義務と納税の義務が定められていたが、美濃部達吉は、これに法的な意味はまったくないとした。義務かどうかは法律で定めれば義務になる。ただそれだけで、憲法に書くようなものではない。
憲法に「これは義務です」と書き込むことに意味はない。
明治憲法は、君主が人民に押しつけた典型的な「押しつけ憲法」であり、ドイツからの直輸入品である。
憲法9条は非常識だという人は、9条を非常識なものとして理解するから非常識なのであって、良識にそって解釈すれば、非常識なものではない。それは解釈する側の考え方の問題である。
明治憲法こそ「押しつけ憲法」だという指摘には、はっと心を打たれました。
(2018年5月刊。720円+税)

世界を切り拓くビジネス・ローヤ―

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 中村 宏之 、 出版  中央公論新社
西村あさひ法律事務所に所属する弁護士たちを紹介した本です。
私はビジネス・ローヤーになろうと思ったことは一度もありませんでしたし、今もありません。
私が弁護士になったのは、ふつうに生きる市井(しせい)の人々のなかで、何か自分なりに役立つことが出来たらいいな、そしてそれが社会進歩の方向で一歩でも前に進むことにつながったらいいなと思ったからでした。
だいいち、ビジネス・ローヤーの「24時間、たたかえますか」式のモーレツ弁護士活動は、ご免こうむりたいです。いま、我が家から歩いて5分のところにホタルが飛び舞っています。少し前は、庭で新ジャガを掘り上げ、美味しいポテトサラダをいただきました。四季折々を実感させてくれる田舎での生活は心が癒されます。
それでも、ビジネス・ローヤーと田舎の人権派弁護士は、もちろん全然別世界で活動しているわけですが、共通するところも少なくないことを、この本を読んでしっかり認識しました。
西村あさひ法律事務所に所属する弁護士は500人をこえる。これは日本最大の法律事務所だ。片田舎にある私の事務所でも、西村あさひと対決することがあります。それほど日本全国にアンテナを張りめぐらしているわけです。
事務所の基本理念は明文化されている。その第1条は、「法の支配を礎とする、豊かで公正な社会の実現」。
西村あさひは、企業の事業再生、倒産関連で圧倒的な存在となっている。
パートナーシップの配分は収支共同(ロックステップ)。これは、いわば財布を一つにしているということ。パートナー(100人)会議があり、パートナー30人から成る経営会議があり、5人のパートナーからなる執行委員会がある。そして、毎年30~40人の新人弁護士を採用している。海外拠点も、9ケ所にあり、大阪・名古屋・福岡に地方事務所を置いている。
ビジネス・ローヤーは英語ができないと、どうしようもない。
ああ、これで私には入所資格がありません・・・。
弁護士業のすばらしいところは、プロフェッショナルとして、お金に左右されることなく、言うべきことが言える点である。
この点は、私も、まったく同感です。
常識の意味を考えることが大切。合理的でない常識でも、何かしら合理的な理由が存在しているはず。その常識を超えるサービスをクライエントに提供する。
交渉の場に出る前、どう出るのかをよく考える。相手や舞台を変えることも検証するし、ときには一対一(サシ)で議論することにもチャレンジする。
弁護士が天職だと感じる人は、やっていて飽きない。やっていて楽しく、面白い。いろんな人と話ができる・・・。
私も弁護士を天職、天の配剤と考えています。
弁護士の仕事に必要なものは、思いやりだ。これは、真に相手の立場にたてるかどうかも検討しなければいけない。いろんな関係者のことを考慮して、最善の選択肢を考えないといけない。
必ずしも人は理屈だけでは動かない。人間力、人としての物の見方や考え方の総合力が問われる。総合力を発揮して、より良い解決なり、よりよい同意を依頼者のためにするのが弁護士の仕事だ。
基本的に弁護士は一つのインフラなので、日本企業が海外で仕事をするときの用心棒、ビジネスパートナーであり、サポーターでもある。弁護士の「個の力」も大切だが、法律事務所の全体の組織力を上げないと、欧米の事務所には対抗できない。
事業再生を専門とする弁護士の特徴は、ほかの分野に比べて、判断することが求められる局面が多いことにある。想定外の問題が次々に噴き出していく。それを前提として解決をどうやって勝ち取るか・・・。
①若いうちは、まず正論を考えろ、②細かいところまでいちいち相談するな、③債権者は敵ではない。こんな文句(フレーズ)が受け継がれています。
弁護士の仕事は、とても面白く、まったく飽きない。やり甲斐があり、交渉や戦略を立ててのぞむのは当然のこと・・・。なるほど、まったくそのとおりです。
(2016年4月刊。1400円+税)

刑務所しか居場所がない人たち

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 山本 譲司 、 出版  大月書店
この本を読むと、現代日本社会が、いかに弱者に冷たいものになっているか、つくづく実感させられます。
「ネトウヨ」の皆さんなど少なくない人が、自己責任を声高に言いつのりますが、病気やケガは本人の心がけだけでどうにかなるものではありません。
社会とのコミュニケーションがうまく取れない人は、孤立してしまい、絶望のあまり自死するか犯罪に走りがちです。そして、犯罪に走った人たちの吹きだまりになっているのが刑務所です。いったんここに入ると、簡単には抜け出すことができません。
刑務所を、悪いやつらを閉じこめて、罪を償わせる場だと考えている人は多い。しかし、その現実を誤解している。いまや、まるで福祉施設みたいな世界になっている。本来は助けが必要なのに、冷たい社会のなかで生きづらさをかかえた人、そんな人たちを受け入れて、守ってやっている場になっている。
いま、日本では、犯罪は激減している。たとえば、殺人事件(未遂をふくむ)は920件(2017年)。10年前と比べて270件も少ない。しかも、その半分は家族内の介護殺人によるもの。殺人犯は受刑者2万5千人のうち218人。少年事件も激減している。2016年に3万1千人の検挙者は、10年前の4分の1でしかない。いまや全国の少年鑑別所はガラガラ状態になっている。犯罪全体でも285万件(2002年)が、91万件(2017年)へと、15年間で3分の1以下に減った。
知的障害のある受刑者は再犯率が高く、平均で3.8回も服役している。しかも、65歳以上では、5回以上が7%である。この人たちにとって、帰るところは刑務所だけ、刑務所がおうち(ホームタウン)になっている。
刑務所が1年につかう医療費は、2006年当時、受刑者が7万人をこえていて、32億円。ところが、10年たって受刑者は5万人を切ってしまったが、なぜか医療費は60億円と2倍近くになってしまった。
著者自身が国会議員のときには考えもしなかった現実にしっかり目を向けあっています。自分が服役した経験もふまえていますので、とても説得力があります。
素直にさっと問題点がつかめます。日本社会の現実を知りたい人には、おすすめの本です。
(2018年5月刊。1500円+税)

老いぼれ記者魂

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 早瀬 圭一 、 出版  幻戯書房
昭和48年(1973年)3月、青山学院大学の春木教授は教え子の女子大生に対する強姦罪で逮捕された。私は、このとき司法修習生として、横浜にいました。かなりインパクトのある事件として覚えています。「被害者」の女子大生は、この本によると私と同学年のようです。
 女子大生はアメリカ留学を夢見て春木教授に近づいています。二人の間に性行為があったことは争いがなく、強姦があったのか、合意による性行為なのかが争点の事件です。ところが、不思議なことに3回あった事件のうち、最後の3回目だけは無罪とされたのでした。もちろん、それもありえないわけではないでしょうが、では1回目も2回目も、本当に合意ない性交渉だったのか・・・。この点について、この本は執拗に当時の関係者に迫って真相を明らかにしようとするのです。
これは実刑となって出獄してきた春木教授の執念でもありました。当然のことながら元「被害者」は取材を拒否します。でも、そこに、何か不自然さがある・・・。著者はあくまで真相を求めて、歩きまわります。さすがは元新聞記者(ブンヤ)です。
この事件は当時の青山学院大学内の権力闘争を反映しているようです。春木教授を引きずりおろそうというグループがあったのでした。
被害者の女子大生は、法廷で春木教授から直接質問されたとき、こう応えました。「ケダモノの声なんて聞きたくもないです」。
この裁判で異例なのは、一審で論告も求刑も終わったあとに、なんと裁判所が被害女性を尋問しているということです。
そして、春木教授のせいで人生を破滅させられたはずの被害女性は、中尾栄一代議士(自民党)の私設秘書として活動していたのでした。この本を読むかぎり、たしかに被害者とされる女子大生の言動には、あまりにも不可解なものが多いように思いました。
それでも、春木元教授は今から24年も前に亡くなっています。にもかかわらず、事件の真相に迫ろうという記者魂の迫力に圧倒されました。
(2018年4月刊。2400円+税)

刑務所の風景

カテゴリー:司法

(霧山昴)
著者 浜井 浩一 、 出版  日本評論社
大学教授の著者が、その前に刑務所の矯正職員としての3年間の勤務によって認識した状況をまとめた興味深い本です。著者が刑務所で勤務したのは2000年4月からの3年間ですので、現在とは少し状況が異なります。
たとえば、当時は過剰収容が大きな問題となっていました。要するに、どこの刑務所も定員オーバーに悩まされていました。この点は、今では解消されています。
ところが、収容者の高齢化にともなう介護問題は当時に比べてはるかに深刻になっています。刑務所は、受刑者を選べず、受刑者が何か問題を起こしても、外に追い出すことはできない。
刑務所には、「経理夫」なる存在が刑務所を支えている。元教員や元公務員は、有能であっても刑務所内の経理夫には向かないことが大きい。
刑務所内で、「経理要員」として働くためには、特別な資質は必要としない。その要件はごく単純。健康であり、60歳未満、普通レベルの知的能力を有すること。暴力団に所属していないこと。ところが受刑者のほとんどが、作業をするうえで支障となるハンディキャップをもっている。
増加する受刑者の多くは、労働力として一般社会で需要がなくなった者でもある。刑務所の収容者の高齢化は、一般社会をはるかに上回るスピードで進行し、それにともない刑務所で死亡する受刑者も急増している。刑務所は、社会をうつし出す鏡である。
アメリカには、福祉予算の比率が低く、弱者を切り捨てる不寛容な社会(州)ほど、刑務所人口比が高いという研究がある。
収容者は、毎日、同じ時間に、同じ場所で、同じことを繰り返すのみ。彼らにとって、一日一日は長くても、ふり返ると、そこには何の変化もないから、時間が止まったかのように感じる。
刑務所生活に適応した人々のなかには、家畜同様に扱われ、外ではいきていけない。
刑務所では、食事は、収容者の最大の関心事である。私も弁護士会による刑務所視察に加わり、食事を試食したことが何回かありますが、なかなか美味しいと実感しました。
収容者の妄想も、その内容は多様である。刑務所の独居にいる限り、夢を見続けるのかもしれない。
刑務所と少年院とには本質的な違いがある。少年院では、少年を信頼し、信用することが共感の基本的な心構えでもある。これに対して、刑務所では受刑者を信用しないことが刑務官の基本的な心構えである。
刑務所とは、どのような世界なのか、よく分かる本です。
(2010年4月刊。1900円+税)

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