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カテゴリー: 司法

離婚弁護士 松岡 紬

カテゴリー:司法

(霧山昴)

著者 新川 帆立 、 出版 新潮文庫

この著者の本はまだ2冊しか 読んでいないかもしれませんが 読ませます。たいしたものです。アメリカで生まれて宮崎で育って弁護士になりましたが、今は作家専業のようです。まだ35歳の若さですから、モノかき志向の身にはうらやましい限りです。

それなりに取材もしているのでしょうが、発想力と表現、描写力がすごくて感服させられます。

主人公の松岡 紬(つむぎ)弁護士は鎌倉の縁切寺と して有名な東慶寺(本作では東衛寺)の一人娘で、たいした鈍感力の持ち主。方向音痴だし、美人なのに男を寄せつけ ず、今もって独身。こんなキャラクター設定も読みに親近感を持たせますよね。あまりに切れ者の弁護士だと近寄り難いですからね…。

大企業を顧客とする大手法律事務所の男性弁護士もちらっとだけ登場します。「ビラブル300時間をこえてるから、毎日超しんどい…」 ビラブルというのは、クライアントに報酬請求する実労働時間のこと、タイムチャージ制の料金なので、私には、ほとんど無縁です。 300時間というと、月30日、毎日10時間も働いているということになりますね。信じられません。

弁護士生活も50年以上となり、離婚事件は常時担当してきましたし、今も担当しています。そして、相談だけだと、月に何件も受けています。

家事事件って、ドロドロしているから、やりたくないです。司法修習生がこんなことを言ったことがあり、驚きました。企業法務にしても、ドロドロしたものがないとは思えません。紛争はどんなものでも、ドロドロとした部分があると思います。そこに関わって、少しずつ解決の道を探していく。そこに弁護士としての知恵と工夫を発揮し、また苦しみと喜びがあります。

弁護士50年してもタワーマンションを買えるようなお金はできませんでしたが、ローンも終わって、無借金というのはすっきりしていいものです。そして、妻に逃げられなかったのが何よりです。離婚をめぐる弁護士が何をするのか、知ってもらえる本にもなっています。夫が病気で倒れるのを予知して、さっさと離婚をしたい、介護させられるのはマッピラゴメンという話も出てきて、身につまされました。

(2026年1月刊。781円)

刑務所で当事者研究をやってみた

カテゴリー:司法

(霧山昴)

著者 向谷地 生良・掛井 靖彦 、 出版 医学書院

つながりを喪失した「避難者」を受け入れてきた刑務所や精神科病院が、さらなるつながりの喪失と孤立を生み出す社会的循環の歯車となっている。なるほど、言われてみたら、そうなんだよね、とも思いました。

この本は「もっとも関わりが難しい」と言われていた受刑者Aさんを対象とする当事者研究を記録している。Aさんは、6歳で万引きを覚え、16歳で少年院、20歳以降は断続的に刑務所で暮らし、現在40代半ば。当事者研究にAさんが協力することは、Aさんにとって、自分が何かしら社会に貢献できるかもしれないと思えることだった。

累犯をしてきた人たちは、犯罪行為をなすことによって、罰せられたり、注意されたり、批判されることを通じて「つながりらしき」を味わってきた。

「出所してみたけれど、あまり刑務所と変わらない。シャバのほうは食いぱぐれがあるぶん、不自由だけど、刑務所のほうがいい」

「死刑になりたい」人が、なぜ他人を巻き込む人かというと、自分だけがこっそり死ぬことに無念さがあるから。死ぬなら、社会的に何らかの影響を与えてから、という発想になる。なので、死刑は犯罪を抑止せず、むしろ犯罪を助長している。

刑務所の中は、「自分がこうしたい」という思いが封じ込められた世界。

当事者研究の基本中の基本は、その人が主体的に試行錯誤を始める第一歩、その踏み出しを徹底して大事にすること。教育をさせるのではなく、その人から学ぶ。

再犯率は、近年では50%前後。つまり、受刑者の2人に1人は、ふたたび犯罪を犯してしまう。

Aさんは旅へのこだわりが強い。旅行はAさんにとって、無になれる機会。旅に出ることは、現実のモヤモヤからの逃避であり、かつ、「これからどうします」という不安からの逃避でもある。旅先で観光するという目的はない。あくまで一人で社会から離れることが快楽。

私も、たまに一人旅をすることがあります。たとえば、福島の「大内宿」には、レンタカーを借りて一人で行って江戸の宿場町の雰囲気に浸り、大きな一本のネギが載っているネギそばをもちろん一人で食べました。それは、でも、一人で社会から離れるというより、旅先の風景に目的を浸らせることに意味がありますので、Aさんとは違います。

刑務所で長く生活を管理されていることに慣れると、実社会で独り立ちして生きていくのが難しい。

Aさんは、自分や俺といった一人称をほとんど使わず、自分、しかも、自分は、自分と主体として使うことはさらに少ない。そして、人と人とのつきあい方がAさんにとって社会に出てからの生活の難しさ。「自分が誰に何を、どうしていいか、分からなくなってしまう」

劣等感のなかで、「自分」で主体的に人生をつくり出していくチャンスが閉ざされる。就労や金銭管理も含めて、生活をどのように組み立てたらいいのかが分からないので、そして困難を誰にも相談できないので、犯罪に走ってしまう。犯罪は、生きのびるための自助的な方法となっている。

彼らは、決して本音を語らないことで自分を保ち、生き抜いてきた。彼らは、どのようなトラブルがどのような量刑につながるのか、計算しながら犯行を重ねている。

弁護士として50年以上やってきましたし、今も2件、国選弁護人として刑事事件を担当しています。刑務所を出たり入ったりする人に何人も出会いました。この本によって彼らの心情をさらに理解することができました。

(2024年3月刊。2200円)

日本の司法

カテゴリー:司法

(霧山昴)

著者 竹田昌弘 、 出版 インパクト出版会

戦後の司法を振り返った本です。著者は共同通信社の記者で、月に1回配信されていた32回の連載記事を30回にまとめています。

まずは砂川事件の最高裁です。その前に伊達判決が出ています。駐留米軍は憲法9条2項で禁止された「戦力の保持」にあたるので、その存在は憲法上によって許されない。違憲の米軍を保護する刑事特別法も憲法違反なので無効。よって被告人は全員無罪としました。今読んでも胸のすく判決です。ところが、日本政府だけでなくアメリカ政府も大変驚き、裁判官に直接圧力をかけました。最高裁の田中耕太郎長官は、駐日アメリカ大使と何回も会い、裁判の進行状況と審議内容を教え、アメリカの意向に沿う判決にもっていったのです。これは、2008年以降、日本のジャーナリストがアメリカ公文書を調べて明らかにしました。田中耕太郎は罷免されるべき明らかな非行を犯しています。ところが、現代日本の裁判官たちは問題としないのです。結局のところ、同じ穴のムジナということなのです。それは、辺野古をめぐる沖縄県と国との裁判について、東京(最高裁)本庁の裁判官たちが常に国家寮りの判断をし続けたこと、それからも今に続いていることが分かります。

田中耕太郎は、日本の司法制度の歴史において、最低最悪の人間、まさに「売国奴」そのものです。

続いて、長沼事件と平賀書簡問題です。福島重雄裁判官は、自衛隊は憲法違反の存在だと認定したのでした。勇気ある判決をだした福島判事に対して、判決前に札幌地裁の平賀健太所長がわざわざ書簡を届け、国の判断を尊重すべきだと説得しようとしたのです。明らかな裁判干渉です。これをきっかけとして、「青法協退治」が始まりました。私もよく知り、敬愛する宮本康昭裁判官の再任が拒絶されたのです。今は、最高裁による露骨な裁判官差別はありません。統制する必要がないほど、自粛が行き届いています。むしろ、最高裁長官が、「近ごろの裁判官は、上ばかり見ている。こういう判事ばかりで困る」と言うほどの状況です。

私にとって忘れられないのは、三菱樹脂・高野事件でした。東北大学生理事として活動していた高野達男さん(1940年生まれ)の本採用拒否事件です。信じられないことでした。私も学生セツルメント活動等に没頭していましたので、他人事(ひとごと)ではありませんでした。夏合宿のとき、みんなで集合写真に入った写真を撮ろうとすると、顔をうつむきにした先輩がいたのに驚きました。就職などに支障があったら困るというのです。ふえーっ、学生セツルメント活動をしていたというだけでもダメなのか…、本当に実社会とは恐ろしいところなんだと背筋が寒くなりました。私が司法試験、そして弁護士を目指し、必死に勉強したのは、いわば高野さん事件があったからです。

高野さんの話を聞いたこもがありますが、とても誠実そのものの人柄でした。最高裁まで、裁判闘争をたたかい、差し戻し審の東京高裁で和解が成立し、なんと、高野さんは復職したのです。その後、子会社の社長もつとめています。能力、識見ともにすぐれた人だったことの証明です。65歳の若さで亡くなられたのは、長年の心労からだったのでしょうか…。

選択的夫婦別姓訴訟も紹介されています。経団連も公式に選択的夫婦別姓の実現を望んでいるというのに、高市首相をはじめ自民党の超右翼グループは統一協会の後押しを受けたまま、強硬に反対し続けて変わっていません。女性裁判官は3人全員が選択的夫婦別姓を認め、民法750条は違憲としました。このとき、マチ弁出身記載の山浦善樹裁判官も違憲としました。

最高裁の裁判官の一人である三浦守裁判官は検察官出身ですが、独自の意見をたびたび表明して注目されていますが、この問題でも、違憲論をとりました。学生時代にセツルメント活動をしたのがその背景にあるというコメントがあって、わが意を得たりと思いました。

30の事件を通して読むと、日本の司法がかかえている問題状況と到達点がよく分かります。

(2025年11月刊。2750円)

塀のむこうには誰がいるのか

カテゴリー:司法

(霧山昴)

著者 山岡あゆち 、 出版 旬報社

東京大学での学生向けの講義が再現されている本です。

日本の治安について、多くの日本人が、もちろん学生も、悪化していると考えている。しかし、統計を見ると、明らかに現在の日本は国際的に見て犯罪が少ない国。刑法犯の認知件数は、25年も前の2002年の285万件をピークとして減少している。2021年に底をうち(その後少しだけ上昇)、2024年に73万件となった。人口10万人あたりの殺人発生件数は、アメリカ6.8件、ドイツ0.8件に対して、日本は0.2件でしかない。たしかに、私の住む地方都市では、かつて暴力団同士の抗争事件のときは殺人事件が頻発していましたが、このところ滅多にありません。私が被害者国選事件を担当するのも、年に1件か2件です。被疑者段階の国選事件はそれなりにありますが、スーパーやコンビニでの万引事件(被害額はせいぜい数千円)とか、飲酒運転とかが大半です。

犯罪をおかして刑務所に入るのは、検察が受けつけた事件の2%にも達しない。少年の場合、保護処分を受けるのが全国で年間15万人ほどで、少年院に入るのはこれも、以前に比べて5千人超。激減した。かつてのような大型の集団暴走族事件というのか今は見かけません。

非行に走った少年の心を理解するのは専門職でも困難なこと。なので、話を丁寧に聞いて、できるかぎり想像しようとする姿勢が大切。

少年院の在院期間は1年程度が多い。小さい時の逆境体験を(心理的な虐待とか)もつ少年が多い。また、2割以上は発達障害と診断されている。さらに6割が能力指数「70~89」で、境界知能(70~84)が多く含まれている。IQ69以下(知的)障害をもつ少年も13%いる。

面接する側にとって大切な姿勢は、犯罪・非行という「行動」は許容しないという、法を守る社会の一員としての姿勢をもちつつ、犯罪・非行「行動」の裏にある思いや気持ちに関心を向け続けること。すると、彼は「この目の前の大人は、自分のことを一生懸命に考えようとしている。自分の気持ちを理解しようと努力している。この人の言うことには、自分にとって意味があるかもしれない」という信頼感をかすかに持つようになる。これを治療的信頼と呼ぶ。

少年たちが投げかける問いは、内的不適応に陥るなかで積み重なった悩みや葛藤の地層からにじみ出てきたもの。問いを投げられた人は、すぐに答えの出ないことの、もどかしさや苦しみに耐えながら、考え続け、悩み続ける。この姿勢を示すことが、少年にとってひとつのモデルとなり、自分が即答できない問題に直面したとき、犯罪行動ではない、別のやり方を学ぶことにつながる。なるほど、これって。よく分かります。

少年は「分かった」と言う人は、嫌いだと言うことがある。分かったつもりになっているだけで、少年の思いのすべてを想像することは出来ない。

検察庁が終局処理した79万人のうち、刑務所に服役したのは1万4千人、1.8%でしかない。刑法犯全体の検挙率は38.3%(2024年度)。検挙率は殺人は96%、強盗91%、放火86%、不同意性交等77%。

5年以内の再犯率は仮釈放で28%、満期出所だと45%。入所する受刑者の過半数は、再入所者。その半数は2年以内に戻ってくる。だから最初の2年間をどう切り抜けるかが再犯防止の成否を分ける。

犯罪被害者に対して、「強くなりなさい」とか「早く忘れて」などと安易に励ましの言葉をかけると、傷つけることになるかもしれない。

被害者支援の相談員にとって大切なのは、受容、共感、傾聴。

刑務所の入所者の高齢化が進んでいる。65歳以上が男性で15%、女性は27%。刑務所に複数回出入りしている人は男性で55%、女性でも48%と、半数ほどいる。

刑務所で何も考えずに規則正しい生活を送っては、刑務所には適応するだけで、実社会に適応するのを難にする面がある。

厳罰化では問題は解決しない。実社会に出てきて、隣に住むかもしれない人たちなのです。社会全体がもっと寛容になることが、本当に必要なことではないかと私は考えています。

(2026年3月刊。2200円)

地域とともに、スタッフ弁護士たちの軌跡

カテゴリー:司法

(霧山昴)

著者 ひめしゃら法律事務所 、 出版 前同

 立川市にある法律事務所です。ここは2009年に開設してから、これまでスタッフ弁護士を8人も養成し、全国各地に送り出しています。そして、その実績を踏まえて、法律事務所の開設15周年を記念して開催された座談会が再現されています。

 いま、弁護士を目ざす若い人たちの多くが、東京そして企業法務を目ざしています。残念です。全国あまねく法の支配を行き届かせ、人権の擁護を地方で担ってほしいのですが…。高齢者、DVに悩む女性、生活保護を受けても生活が大変な人たち、たくさんの人々が然るべき法の保護を受けられずに困っています。若い人たちにもそんな現場にぜひ飛び込んでほしいです。

 ひめしゃら事務所を設立した杉井静子弁護士のパートナーの故杉井厳一弁護士は、私が弁護士になったとき、入った事務所(川崎合同)の5年先輩でした。学生気分の抜けない私は厳一弁護士からよく𠮟られました。たとえば、労働事件の書面を分担したとき、適当にちょこちょこっと書いて提出して、大目玉を喰らいました。こんなんじゃダメと言って厳一弁護士は私の原稿をさっさと没にして、自分で長文の書面を書き上げました。そうか、そうなのか、闘う書面というのはこういうものなのか……、やっとそのとき少し分かりました。50年もたつと、少しは先が見えてきましたが……。

 青森県むつ市にある法テラスの事務所に赴任した大谷直弁護士(62期)は、青森本庁は100キロも離れているので、車だと2時間半、電車でも2時間強かかる。むつ支部には青森本庁から月1回来るので、2日間だけ開廷する。いやはや、大変ですね…。

 高知県須崎市にある法テラスの事務所に赴任した中江詩織弁護士(64期)は、少年鑑別所のある高知市内まで車で片道1時間かかる。これも大変なことです。

 新潟県佐渡市にある法テラス事務所にいる伊東憲二弁護士(71期)は、就任している成年後見人と相続財産清算人をあわせると、手持ち案件の約半分になるという。

 鳥取県倉吉市の法テラス事務所にいる志賀貴光弁護士(73期)は、なんと、かの福島県浪江町出身とのこと。浪江町で弁護士をしたいと思っていたそうです。3.11の大災害がその夢の実現を邪魔していますよね。

 法テラスとそのスタッフ弁護士に対する風当たりが強い地域があります。九州では大分がそうでした(今は知りませんが……)。埼玉もそのようです。

 しかし、法テラスのスタッフ弁護士は地元の弁護士が対応しない(できない)ような案件を主として取り組んでいますので、ほとんどは大いなる誤解だと思います。

 法テラスのスタッフ弁護士の養成期間は1年間です。この1年間のうちに、どんな初見の事件でも自分で調べて事件として進めていくことの出来る力を身につける必要があります。1年間というのはあっという間に過ぎてしまいますので、短いと言えばとても短いです。いろんな弁護士のやり方を見て、いろんな種類の事件を経験することが大切です。

 私は故杉井厳一弁護士の下で3年ほど過ごしましたので、まあなんとかやれるかなと思って故郷にUターンして独立開業しましたが、当初は本当に不安でした。

 法テラスのスタッフ弁護士になると、ずっとその地域にいるということはなく、2年か3年で移動します。転勤を好まない人もいますが、好む人には絶好の仕事です。伊東弁護士は旅行気分で楽しみながら移動するのもいいことだと言います。きっと、そうなんでしょう。

 裁判官も3年で勤務できるところが魅力だ、そう言う人を私も知っています。

30分の制限時間内の法律相談。最初の10分間は、いやでも相談者の話をちゃんと聞く。次の10分間は、こっちからどんどん質問して、事実関係を確認する。最後の10分間で法的解決に向かうといい。これが故杉井厳一弁護士のアドバイスだったそうです。現実には、そんなにうまくいくわけではありませんが、この方式を念頭においておくといいとは私も思います。

 弁護士の少ない司法過疎地で弁護士として活動していると、地域の人に求められている存在だと実感できる幸せがあります。これって、ものすごくうれしいことなんです。大ローファーム、そして企業法務ではきっと無理なんだろうと私は思うのですが…。

 スタッフ弁護士の養成に力を入れている事務所として、大阪にも私の敬愛する岩田研二郎弁護士のいる法律事務所(きづがわ共同)があります。つい思い出しました。

 杉井静子弁護士が本書32頁(ブックレット)を紹介していましたので、早速注文して読んでみました。引き続きのご活躍を期待します。

(2025年6月刊。700円)

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