(霧山昴)
著者 竹田昌弘 、 出版 インパクト出版会
戦後の司法を振り返った本です。著者は共同通信社の記者で、月に1回配信されていた32回の連載記事を30回にまとめています。
まずは砂川事件の最高裁です。その前に伊達判決が出ています。駐留米軍は憲法9条2項で禁止された「戦力の保持」にあたるので、その存在は憲法上によって許されない。違憲の米軍を保護する刑事特別法も憲法違反なので無効。よって被告人は全員無罪としました。今読んでも胸のすく判決です。ところが、日本政府だけでなくアメリカ政府も大変驚き、裁判官に直接圧力をかけました。最高裁の田中耕太郎長官は、駐日アメリカ大使と何回も会い、裁判の進行状況と審議内容を教え、アメリカの意向に沿う判決にもっていったのです。これは、2008年以降、日本のジャーナリストがアメリカ公文書を調べて明らかにしました。田中耕太郎は罷免されるべき明らかな非行を犯しています。ところが、現代日本の裁判官たちは問題としないのです。結局のところ、同じ穴のムジナということなのです。それは、辺野古をめぐる沖縄県と国との裁判について、東京(最高裁)本庁の裁判官たちが常に国家寮りの判断をし続けたこと、それからも今に続いていることが分かります。
田中耕太郎は、日本の司法制度の歴史において、最低最悪の人間、まさに「売国奴」そのものです。
続いて、長沼事件と平賀書簡問題です。福島重雄裁判官は、自衛隊は憲法違反の存在だと認定したのでした。勇気ある判決をだした福島判事に対して、判決前に札幌地裁の平賀健太所長がわざわざ書簡を届け、国の判断を尊重すべきだと説得しようとしたのです。明らかな裁判干渉です。これをきっかけとして、「青法協退治」が始まりました。私もよく知り、敬愛する宮本康昭裁判官の再任が拒絶されたのです。今は、最高裁による露骨な裁判官差別はありません。統制する必要がないほど、自粛が行き届いています。むしろ、最高裁長官が、「近ごろの裁判官は、上ばかり見ている。こういう判事ばかりで困る」と言うほどの状況です。
私にとって忘れられないのは、三菱樹脂・高野事件でした。東北大学生理事として活動していた高野達男さん(1940年生まれ)の本採用拒否事件です。信じられないことでした。私も学生セツルメント活動等に没頭していましたので、他人事(ひとごと)ではありませんでした。夏合宿のとき、みんなで集合写真に入った写真を撮ろうとすると、顔をうつむきにした先輩がいたのに驚きました。就職などに支障があったら困るというのです。ふえーっ、学生セツルメント活動をしていたというだけでもダメなのか…、本当に実社会とは恐ろしいところなんだと背筋が寒くなりました。私が司法試験、そして弁護士を目指し、必死に勉強したのは、いわば高野さん事件があったからです。
高野さんの話を聞いたこもがありますが、とても誠実そのものの人柄でした。最高裁まで、裁判闘争をたたかい、差し戻し審の東京高裁で和解が成立し、なんと、高野さんは復職したのです。その後、子会社の社長もつとめています。能力、識見ともにすぐれた人だったことの証明です。65歳の若さで亡くなられたのは、長年の心労からだったのでしょうか…。
選択的夫婦別姓訴訟も紹介されています。経団連も公式に選択的夫婦別姓の実現を望んでいるというのに、高市首相をはじめ自民党の超右翼グループは統一協会の後押しを受けたまま、強硬に反対し続けて変わっていません。女性裁判官は3人全員が選択的夫婦別姓を認め、民法750条は違憲としました。このとき、マチ弁出身記載の山浦善樹裁判官も違憲としました。
最高裁の裁判官の一人である三浦守裁判官は検察官出身ですが、独自の意見をたびたび表明して注目されていますが、この問題でも、違憲論をとりました。学生時代にセツルメント活動をしたのがその背景にあるというコメントがあって、わが意を得たりと思いました。
30の事件を通して読むと、日本の司法がかかえている問題状況と到達点がよく分かります。
(2025年11月刊。2750円)


