(霧山昴)
著者 大久保 賢一 、 出版 日本評論社
日本反核法律家協会の会長を勤める著者の本です。憲法公布80年にあたっての提言というサブタイトルがついています。
表紙の上部にあるマンガカットがすばらしいです。赤ちゃんを抱いた女性が平和の鳩を背にして大きく手を広げていて、寄り添っている女の子も同じく右手をさしのべ、待ったのポーズです。そうなんです。希望を失ってはいけない。めげず、くじけず核兵器なくせの声を高らかにあげて突き進んでいくことを呼びかけています。
今、私も核戦争の危機をひしひしと感じています。核兵器を持っているのは9ヶ国。アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮。そしてNATOの5ヶ国が「核を共有」している。ドイツ、イタリア、ベルギー、オランダ、トルコ。そして、ロシアのプーチンも、イスラエルのネタニヤフも「核の脅し」を平気に口にしています。いえ、アメリカのトランプもそうです。
著者は、日本政府が一方で「北朝鮮の脅威」を煽り、他方で「原発の全面稼動」に突き進んでいるのは支離滅裂だと厳しく批判しています。北朝鮮が日本を「火の海」にしたいのであれば、なにも核ミサイルを撃ち込む必要はありません。通常兵器で原発を攻撃すればすむのです。原発の6割近くは日本海側に立地しています。北朝鮮による原発攻撃という「最悪のシナリオ」を想定しない議論は、まやかし以外の何者でもありません。
核兵器の威力をよく知っているアメリカの科学者たちは、2026年には終末まで残り85秒としました。本当に核の危機は間近に迫っているのです。
核戦争が起きたときの真実を恐ろしいほど写実的に描いた本を先日読み、このコーナーでも5月29日に紹介しました。『核戦争 世界滅亡までの72分間』(朝日新聞出版)です。
ワシントンにあるペンタゴンに1メガトンの核兵器が命中したら、たちまち周囲の空気は数百万度まで熱せられ、巨大な火球が形成される。火球は、はじめ時速数百キロの速度で膨張し、数秒後には直径1.7キロの大きさに達する。その光と熱の威力は、コンクリートの表面を砕き壊し、金属は溶解・蒸発し、石材は粉々に砕けて散り、人間は一瞬にして燃え尽き、炭となる。2万7000人の職員は全員が即死する。火球の内側には何も残らない。猛火は、250平方キロの範囲、600万人の住む地域を焼き尽くす。恐ろしすぎます。
では、希望はないのか…。著者は希望はあるといいます。1986年当時、世界には7万発をこえる核兵器があったのが、今では1万2千発台にまで減っています。まだ1万2千発もあるのかと心配にもなりますが、それでも6分の1にまで減っているのは貴重な成果です。そして、2021年1月に発効した核兵器禁止条約は、ついに署名・参加国が100か国となりました。日本が背を向けたままなのは許せません。
それどころか、今の高市政権は「非核三原則」を緩和しようと必死に画策しています。政権高官が「日本も核兵器を保有すべき」などと、とんでもないアドバルーンをあげたりしていますが、国民世論はまだ非核三原則の「緩和」を許してはいません。
核兵器が存在するかぎり、「壊滅的人道上の結末」という「みんな死んでしまう危険」から解放されることはありません。そんな危険から免れるためには、核兵器に依存するという戦略をみんなが放棄するしかありません。人間がつくったもので人間が滅びるというそんな馬鹿げた事態は避けなければなりません。著者の呼びかけにまったくもって同感です。
では、どうやってそれを実現するのか…。それには、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持する」、という日本国憲法の呼びかけに呼応して行動することです。これしかありません。著者は、この選択こそ歴史的必然性を帯びているとします。そのとおりです。この選択は必要というだけでなく、まったく可能な選択です。あとは、これに向かってみんなで声を上げるだけなのです。
ところで、話は変わってAIです。私自身はAIを利用したことがありませんが、AIはとても便利なようです。著者について、AIは「人間の理性への過度な信頼……などの弱点」があると指摘したとのこと。とんでもないAIの評価です。文章を要約するときにAIを活用できると思いますが、未来を切り拓いていこうとするときAIの利用はまだまだだということなのでしょうか……。私は、この原稿は手書きですが、AIを利用して活字化してもらって、清書の省力化につとめてもいます。
著者より今回も贈呈いただきました。ありがとうございます。数えてみると、本棚に著者の本がなんと11冊も並んでいます。
(2026年7月刊。1980円)


