(霧山昴)
著者 中島 定彦 、 出版 岩波科学ライブラリー
回し車に乗っているネズミが必死に足を動かし回っている様子は、私ももちろん見たことがあります。これって、苦役なのか、楽しいから走っているのか、私もふと疑問を感じたことはあります。しかし、私は、そこで終わりです。それ以上、どっちなのか追究しようとも思いませんでした。そこが学者は違います。
問題は、それをどうやって究明するか…、です。もちろん、ネズミにインタビューするわけにはいきません。2つのアプローチがあります。回し車で走っているネズミの生体の変化を調べるのです。エンドルフィンが出ていたら、楽しいから走っていることが判明するでしょう。もう一つは、選択回路をつくって、どちらを選ぶのか、様子を見るというやり方です。その肢択肢をつくるのには工夫がいります。なにしろ科学的証明というのは、実験に再現性がなければいけません。
学者の観察によると、回し車で1日43キロも走る、つまり一晩にフルマラソンをしているとのこと。ただし、走っては休み、休んでは走っている。ずっと走っているのではない。そして、個体差がある。性別、週齢によっても違う。
野生のラットは薄明薄暮型の生活様式なので、実験室でも同じように、夜間の初めと終わりに、たくさん走る個体が多い。
回し車に入ってまわすのは、ネズミばかりではない。カエルもカタツムリも回す。なんと、ナメクジまで回し車に入って回す。
ラットは50キロヘルツの呼び声を上げている。これは喜びの声だ。ただし、超音波なので、人間の耳には聞こえない。
回し車に入ったのに回せないと、ラットは不機嫌になり、攻撃的になる。
回し車で回すネズミは、ランナーズハイの状態を味わっている。実は、回し車で走るのはネズミにとって苦しいこと。それは、人間がマラソンに出場して走って苦しくなるのと同じ。ところが、人間は苦しさを忘れたかのように、再び走る。なぜ、なのか…。ゴールしたあとに味わう達成感が味わえるから…。
私も、たまに山登り(388メートルしかない、近くの小山に登ります)をするとき、行きは苦しいのです。でも、山の頂で、梅干しの入ったおにぎりをほおばるときの爽快感はなんともいえません。それがあるので、途中の辛さも我慢できます。
ネズミも初めて回し車を見たときは、これは何だろう、面白そう、探ってみよう、そんな好奇心や探求心から回し車に入って走り始めるのではないか…。そして、走り始めは楽しく、走っている途中で苦しくなってくる。そして、回し車に快感を求めて再び走り出すのではないか…。なーるほど、ですね。
科学的な証明をどうやったら可能にするのか、と問いかけ、それに対する一つの解を示している本でもあります。勉強になりました。
(2025年12月刊。1540円)


