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2004年11月 の投稿

裁判員制度と国民の司法参加

カテゴリー:未分類

著者:鯰越溢弘、出版社:現代人文社
 裁判員制度は既に法律が制定され、5年後に施行されることになっているのに、弁護士のなかには、まだ非難するばかりの人が少なくない。被疑者・被告人の人権保障の充実こそが裁判員制度の目標であるべきだという人も多い。
 しかし、私は、裁判員制度は国民の司法参加の一形態であって、陪審員制度の実現にまでは今回いたらなかったが、必ず陪審員制度を実現するためにも、裁判員制度を成功させて制度としての定着を図る必要があると考えている。そして、その不十分な点を改善するなかで、陪審員制度へ一歩一歩近づけていかなければならない。
 ところで、裁判員制度については、裁判官による裁判を受けられなくなるので憲法違反という声があった。この本を読んでその疑問が解消した。
 日本国憲法32条や37条の「裁判所」の英原文はcourtではなく、tribunelである。courtは、裁判官で構成された通常の裁判所を意味し、tribunelは司法ないし準司法的な機能を果たす機関を意味し、広い意味では通常の裁判所も含む。tribunelの普遍的な特徴は、主催者は法曹資格を有していても、その大半または全員が素人によって構成されていることである。したがって、憲法32、37条の裁判所は、裁判官のみで構成される通常裁判所ではなく、素人を構成員として含む陪審員裁判所を意味している。そもそも歴史的に言うと、陪審員制度は市民の自由を守るための裁判制度として創出されたわけではなく、むしろイギリス国王が行政執行のために必要とする情報を収集するための便宜として使われていたものである。しかし、その後、絶対王政に抵抗した政治犯を無罪とする評決を通じて、陪審裁判が自由の砦として認識されるに至ったものである。うーん、そうだったのか・・・。
 陪審制度は、普通選挙と並んで、司法制度における国民主権の象徴的表現である。民主主義的な憲法体制においては、市民が直接に裁判に関与する陪審制度が望ましい。陪審制は、何よりも政治制度なのである。私も、著者と同じく、裁判員制度が陪審制実現への一里塚になることを心から願っている。

封印される不平等

カテゴリー:未分類

著者:橘木俊詔、出版社:東洋経済新報社
 日本の平等神話が崩壊していることを指摘した本です。
 数億円もする高級マンションがすぐ完成になる一方、駅や公園にはホームレスがあふれています。ところが、もっと競争原理を導入して、なんでも自由に競争させればいいという主張が政府や財界から声高にとなえられています。
 しかし、競争はせいぜい社会全体の2割ほどの人にしか開かれておらず、残る8割は、はじめから競争にアクセスするチャンスが奪われている。8割の人の意欲を無視してしまうということの非効率を忘れてはいけない。
 自由競争を主張している人々は、実は自分が恵まれた環境のなかで上にのしあがってきたのに、それを認めたがらない。それを認めるだけの強さをもっていない。その辛さに耐える強さを失っている。
 政府は、最高税率を70%から37%へと劇的に下げた。再分配政策を通じて課税後の不平等に貢献している。
 アメリカは自由競争社会だというのは真実に反する思いこみだ。本当はコネ社会であり、学歴社会だ。どの大学を出たかで、ビジネス・チャンスがまったく違う。
 かつての日本は努力すればナントカなる社会だった。しかし、最近では努力しても仕方のない社会になりつつある。子どもに勉強しようという意欲をもたせないような世代間の連鎖が冷酷に社会に存在している。
 親は教育・職業ともに上層階級にあり、所得も高かったことを忘れ、あたかも自分の成功は努力で競争にうち勝ったことによってもたらされたと思いこんでいる。親子間で不平等が連鎖していることに気がつかないか、見たくない、あるいはさわりたくないという気持ちがある。本人の成功は実は家庭環境が優れていたからこそ、達成された側面があるのに、あえてそのことに目をつぶり、世の中には機会の不平等は存在しないと考えているひとがけっこう多い。
 私にも心あたりのある指摘です。本当に恵まれた環境にあったと思います。だから、私は、環境の平等をもっと大切にすべきだと思うのです。不平等は不公正につながり、犯罪多発につながっていきます。アメリカのように怖い社会になったらおしまいです。決してアメリカをモデルにしてはいけません。

うそつき病がはびこるアメリカ

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著者:デービッド・カラハン、出版社:NHK出版
 ニューヨーク信用組合は創立80年、組合員の多くは消防士や警察官。9.11のあと、ATMが監視されず、いくらでも現金が出せる期間が1ヶ月ほども続いた。4000人もの組合員が自分の預金以上のものを引き出した。組合が手紙を出して返還を求めたが応じない組合員は多く、結局、1500万ドルが戻らなかった。そこで、ついに警察が捜査して大量の逮捕者が出た。
 一流の法律事務所に入るには、大学時代の成績が優秀で、LSATで高得点を得て、膨大な学生ローン(平均8万ドル)をかかえこむ覚悟が必要だ。新人弁護士の給与は年俸12万5千ドル。契約金は4万ドル。しかし、大変な特権と同時に過酷な体験をさせられ、信じられないほどのストレスにさらされる。週80時間は働かされる。そして、いつの日かパートナーになれる可能性は今やゼロに等しい。
 90年代、アメリカの弁護士の辞典に「スカッデノミクス」という新語が登場した。ファッスク代や長距離電話代などの基本的な事務費を、五つ星ホテル並みの法外なレートでクライアントに請求する慣行のこと。
 年間2200時間とか2400時間労働があたりまえというノルマを達成できる弁護士はほとんどいない。せいぜい1700時間から1800時間だ。しかし、それでは上司に叱られる。そこで、弁護士の仕事で今もっともはやっている分野のひとつが、他の弁護士の請求書を調べて水増し請求をくいとめようというもの。
 アメリカでは、大学を出ていない人の初任給は14%も減少した。労働者全体の4分の1にあたる3000万人の労働者が年収1万9000ドル以下。
 アメリカは、いまゲーテッド・コミュニティが5万をこえ、700世帯が住む。70年代初めには全米に2000しかなかった。そこは、周囲を門とフェンスで囲って住民と訪問者以外は入れないようにしたところ。カリフォルニア州では、新築住宅の40%がゲーテッド・コミュニティ内に建てられている。
 IRS(内国歳入庁)が脱税に甘くなって高額納税者は間違いなく得をした。1988年以来、低額納税者に対する調査率は3割も増えているのに、高額納税者に対しては90%も減少した。彼らは税金専門の弁護士や会計士を雇って抵抗するので、低額納税者の方が扱いやすいからだ。
 現代アメリカの真実の姿を知ることができる本だと思いました。

全員反対!だから売れる

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著者:吉村克己、出版社:新潮社
 世の中の発明というのは、どうせ、そんなことできっこないよ、できるはずがないという固定観念を打破してはじめてうまれるものだ。
 なるほどと私も思います。この本は、そのことをいくつかのヒット商品を通じて明らかにしています。私の知らない発明がいくつも紹介されていますが、なかでも自動包あん機は、ヘー、なるほどと唸ってしまいました。大福や饅頭そしてクロワッサンなどを自動的につくる機械を日本人が発明し、全世界で利用されているのです。ストレスフリー・システムというそうです。世界に競合する企業はないというのですから、たいしたものです。これも流動学(レオロジー)で、食材の状態を数値化していった成果だといいます。本当になんでも数字であらわすことができるんですね。びっくりします。
 トヨタ・カローラもとりあげられています。初め、えっ、なんでカローラが、と思いました。しかし、カローラは1969年からなんと33年連続で国内乗用車登録第1位。生産台数2700万台。世界140ヶ国で年間100万台がつくられている。まさに、お化けのような車です。どうして、こんな車が可能になり、また、その可能性が続いているのか。やはり、コンセプトの違いだと思いました。
 大逆転って、あるんだなあと、つくづく思いました。

悩める自衛官

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著者:三宅勝久、出版社:花伝社
 自衛官の自殺が年々増えているそうです。1995年度、44人。98年度、75人。99年度、62人。00年度、59人。02年度78人。03年度は90人(予想)。
 ただし、日本全国の自殺者が3万人をこえていて、人口10万人あたりの自殺率30人ほどというのに対比させると、25万8000人の自衛隊のうち自殺者が80人ほどというのは、全国平均程度かやや上まわるくらいです。
 自殺の原因は、うつ病など精神疾患を原因とするものが8割で、最近は借金によるものが急増しています。防衛庁は『借財隊員への接し方』というマニュアルをつくって内部に配布しています。自殺するのはヒラの隊員よりも、むしろ幹部や中堅クラスの隊員に多いという話も出てきます。
 佐世保の海上自衛隊に所属する護衛艦「さわぎり」内での上司によるいじめが原因で息子は自殺させられたということで国を訴えている裁判が目下、進行中です(佐世保支部)。
 自衛隊内部ではいじめがかなり横行している気配です。いくら上司の命令に絶対服従の兵士を養成するためといっても、上官による勝手ないじめが許されていいはずはありません。

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