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経済大国インドネシア

カテゴリー:アジア

著者  佐 藤  百 合 、 出版  中公新書
 インドネシアという国には、あまりいい印象がありませんでした。長く軍部独裁が続いてきた国で、9.30事件では共産党をはじめ民主的人士を大量虐殺し、近くはチモール独立運動も圧殺した国というイメージです。
 ところが、この本によれば、そんなインドネシアが最近ぐんと変化したといいます。
 インドネシアの人口は2億4000万人。日本の2倍。ロシアの1.7倍。日本とメキシコの2倍。経済成長率の高さでは、中国・インドが突出していて、それに続くのがインドネシアである。
2004年、インドネシアは建国史上初めての直接大統領選挙を成功させ、ユドヨノ大統領が誕生した。これをもってインドネシアに民主主義体制が確立したといってよい。
 インドネシアでは、毎年200~250万人の新規参入労働力が発生する。
インドネシアは多民族国家である。1128の民族集団と745の言語がある。インドネシアは、6000あまりの無人島を含む、1万7504の島々から成る最大の群島国家である。インドネシアの国語は、最大民族集団のジャワ人のジャワ語ではない。文法がシンプルで表記が簡便なムラマ語(マレー語)を国語としている。
 インドネシアは総人口の88%、2億1000万人がイスラム教徒、世界最大である。しかし、インドネシアはイスラム教を国教とはしていない。ヒンドゥー教のヴィシェヌ神を背に乗せて飛ぶ神の島、ガルーダを国章にしている。インドネシアという国は、各地の多種多様な民族がオランダを共通の敵として共にたたかったという歴史的事実を唯一の根拠として誕生した国である。
 インドネシアでの現地生産の長い日系企業のなかではインドネシアの作業員の質の評価は高い。手先の器用さ、眼のよさ、作業効率の高さ、忍耐強さなどである。
 インドネシアの輸出相手国として、日本は原油・天然ガスの最大の仕向け先として一貫して第一位を占めている。
 うむむ、日本って、インドネシアとそんなに深い関係だったのですね。
 日本から見て、インドネシアは最大の援助対象国である。ODAについて、日本政府からの債務が270億ドルで44%を占める。
 しかし、同時に日本はインドネシアを南進策の下で占領した歴史がある。インドネシア人の日本観も、日本による軍事占領の歴史を起点としている。
 そうなんですね。日本人の私たちの忘れがちなところです。加害者は忘れても、被害者は忘れることができないものです。
 インドネシアの今日を、ハンディに知ることのできる貴重な本でした。
(2011年12月刊。840円+税)

レベル7

カテゴリー:社会

著者    東京新聞原発事故取材班 、 出版   幻冬舎
 すべての危機は警告され、握りつぶされていた。これはオビの文章です。
 まさしくそのとおりなのです。福島原発事故については、私たち国民に隠された真実があまりにも多すぎます。政府が偽りの「収束宣言」をしたことから、原発事故がなんとか「解決」に向かっているかのような幻想に浸っている日本人が多いのが残念でなりません。
 メルトダウンの事態は今でもよく解明されていませんし、放射能物質は空にも海にも、今もって大量に放出されているのが残念ながら現実だと思います。ところが、海の汚染にしても「風評被害」を拡大させないためという口実でほとんど明らかにされていません。とんでもないことです。福島第一原発による汚染程度を正確に知るには、日本のマスコミ報道よりも海外とくにヨーロッパの方が正確で速いとまで言われているのは悲しいことです。
 原発にとって水は、血液のようなものである。その水が地震によって止まってしまったのだから、事態は本当に深刻だった。原子炉に入れた水は、核燃料の熱でどんどん蒸発する。水を入れ続けなければ、やがて核燃料が水面から完全に露出し、空焚きの状態になる。核燃料を覆っているジルコニウム合金の被覆菅が熱で溶けると、水蒸気と反応して水素が発生する。それが原子炉から、さらに格納器の外に漏れ、酸素と反応すると爆発する。おお怖いです。
福島第一原発には6個の原子炉と10個の使用済み核燃料プールがある。20キロ圏内の第二原発までふくめると10個の原発と11個のプール。これを全部立ち入り禁止区域にして一般の人みたいに東電の社員が逃げ出したら、どんどんメルトダウンしていく。撤退なんかありえない。撤退していたら、東京には人っ子一人いなくなってしまう。これは菅首相(当時)の言葉です。
 このままでは、東日本全体がおかしくなる。決死隊をつくろう。日本の国が成り立たなくなる。命をかけてください。逃げても逃げ切れない。
これも菅首相の言葉です。首都圏から3千万人を脱出させる必要があるという想定が立てられたのです。3千万人の緊急脱出なんて不可能ですよね。いったい、どこへどうやって3千万人もの人々が移動できるというのでしょうか。
福島第一原発の吉田所長(当時)は、実は、東電本部にいて津波の影響を低く見積もることにしたつまり、インチキ見積した張本人の一人です。そして、現場で指揮せざるを得なくなったのでした。歴史の皮肉といえるかもしれません。でも、笑っている場合なんかではありません。やはり、東電という組織自体に大きな責任があると思います。原発が安全だなんて幻想をふりまき、現実には十分な安全対策を講じなかったわけですから。
 最後に、政府が昨年暮れに発表した廃炉に向けての工程表を改めて紹介します。
 2013年のうちに、4号機の使用ずみ核燃料プールから核燃料の取り出しを始める。10年以内に1~4号機すべてで使用ずみ核燃料の取り出しを終える。放射能に汚染されたたまり水の処理を終えたあと、溶融した核燃料の取り出しを始める。最終的に原子炉を解体するのは、順調に行っても30~40年後のこと。ええっ、そんなにかかるものなんですか・・・・。団塊世代の大半がそのころは消滅してしまっていますよね。
 事故から核燃料の取り出しまで6年半かかったスリーマイル島原発では処理費用が
750億円かかった。今回は、その比ではなく、廃炉に1兆1500億円は少なくともかかると見込まれる。さらに、そのさきには大量の放射性廃棄物の処分が待っている。現状は、地層処分の技術は確立しておらず、候補地は白紙のまま。
 本当に深刻です。こんなとてつもない危険な原発は、すぐにやめてしまわなければなりません。今すぐに廃炉にむかっても、何十年とかかるというのですからね・・・・。
(2012年3月刊。1600円+税)
 日曜日に福岡で映画「アーティスト」をみました。偶然にも、後ろの席に宮川弁護士がおられました。今どき珍しい白黒のサイレント映画です。ところが、実に表情豊かで、こまやかなので、字幕とあわせてスムースに感情移入できました。さすがはアカデミー賞をいくつもとった作品だけあります。サイレント映画から音の出るトーキー映画へ移行するときの悲哀がテーマとなっています。いつの世にも時代の変化についていけない人、ついてきたくない人はいるものです。もちろん、変化を追いかけるばかりでも困りましょうが・・・。
 最後のペアのタップダンスだけでも十分に見ごたえがあります。さすがは役者です。半年の練習でやりきったそうです。見事でした。

飼い喰い

カテゴリー:生物

著者  内澤 旬子  、 出版  岩波書店 
 壮絶としか言いようのない3匹の豚の飼育体験記です。しかも、うら若き(?)女性一人で1年間にわたって仔豚3匹を育て、立派な肉豚として屠蓄場に送り、飼っていた豚をみんなで食べたのです。
 すごいです。とても、私には真似できません。そして、なにより、3匹の豚に名前をつけ、その個性を描き分けているのです。いやはや、彼らの、なんと人間的な、いえ人間そっくりの性格でしょうか・・・・。
 3匹の豚のうち、もっとも図体が大きい豚は最下位にランクされ、エサに十分ありつけずに肥育レベルが遅れてしまったほどです。要領よくひたすら食べ続けていた豚は、もちろん肥え太ります。そして、他人(他豚)を押しのけてまで食べまくる豚は意地きたなく生きのびます。そして、ついに3頭の豚を一挙に死に至らしめて人間様が食べようというのです。それも、フランス料理、韓国料理そしてタイ料理でいただくのでした。すごいですよ。
 雑誌『世界』に連載されていたそうですが、私はこの本を読むまで知りませんでした。勇気ある女性のおかげで、日頃食べている豚について、いろいろ知ることができました。
 豚は生後半年ほど、肉牛は生後2年半ほどで屠蓄場に出荷され、屠られ、肉となる。
 日本で現在もっとも一般的なかけあわせパターンは、仔豚を安定してたくさん生む、つまり繁殖性の優れたランドレース種(L)と繁殖性に加えて産肉性、つまり手早くふくふくと肉をつけて太ってくれる大ヨークシャー種(w)をかけあわせた雑種第一世代豚(LW)を子取り母豚(ぼとん)とし、さらに止雄豚としてサシが入るなど、肉質の優れたデュロック種(D)をかけあわせたLWDである。
 母豚は、少なくて8頭、多いと13頭の子豚を生む。生まれてすぐに、上下4本の犬歯の先をニッパーで切る。大きくなったとき、ケンカしたり作業員を噛んだりして危ないからだ。豚はよくかむ。豚は土も食べる。
豚は3キロ食べて、1キロ太る。70キロの枝肉をつくるのに115キロの生体重にするとして、345キロのエサを食べて、980キロの糞尿を出す。人間の14倍もの糞尿を出す。豚を110キロまで育てるのに、その3倍の330キロの餌を食べさせている。そして、消費者に肉として売れるのは、だったの23キロだけ。1年かけて育てた豚が、わずか2万円でしか売れないなんて・・・・。
一つの囲いの中に、何頭か豚を入れると、必ずケンカして序列を決める。
それにしても豚たちはよく寝る。一日のリズムのようなものも特になく、気がつくと起きてごつごつと餌箱に鼻をぶつけるようにして餌を食べ、水を飲み、また、ごろりと横になる。まさに、喰っちゃ寝なのだ。豚の道具は、鼻と口がすべて。
豚はきれい好きで、糞尿する場所を決めている。水浴びのときを選ぶように放尿する。ところが、身体を分まみれにするのも大好きなのだ。
夢は自分の名前まで認識していた。3頭の豚は、著者の声と他人の声と完全に聞き分けていた。しかし、自分の名前まで把握していたのは夢だけだった。3頭の豚の名前は、伸、秀、そして夢でした。
豚をかわいいって思ったらダメなんだよ。ペットじゃないんだから、割り切らないと・・・・。
 これは著者が豚を飼いたいと言ったときの養豚家の人に言われたセリフです。そうですよね。
 そして、3頭の豚を著者が口にしたときの描写がすごいです。
 噛みしめた瞬間、肉汁と脂が口腔に広がる。驚くほど軽くて甘い脂の味が口から身体全体に伝わったその時、私の中に、胸に鼻をすりつけて甘えてきた3頭が現れた。
 彼らと戯れたときの、甘やかな気持ちがそのまま身体の中に沁み広がる。帰って来てくれた。夢も秀も伸も、殺して肉にして、それでこの世からいなくなったのではない。私のところに戻って来てくれた。今、3頭は私の中にちゃんといる。これからもずーっと一緒だ。たとえ肉が消化されて排便しようが、私が死ぬまで私の中にずっと一緒にいてくれる。
 うむむ、なんとなく分かりますよね、この気持ちって・・・・。
 生き物とは何かを考えさせてくれる、とてもいい本でした。
 著者は乳がんで何回も手術したそうですが、これからも元気で今回のようないい本を書いて紹介してくださいね。
(2012年2月刊。1900円+税)

国家救援医

カテゴリー:アフリカ

著者   國井 修 、 出版   角川書店
 世界中の無医地区に出向いた日本人医師のすさまじい体験記です。こうしてみると、日本人の男子も、なかなか捨てたものではありません。これまで日本人女性の海外での活躍ばかり目立っていましたが(なでしこジャパンも)、日本人男性もやりますね。著者の大活躍に、心から拍手と声援を送ります。
 1962年生まれということですから、ちょうど50歳。まさに働き盛りの医師です。
 ユニセフ(国連児童基金)の医師として世界中を駆けめぐり、これまで110ヶ国で医療活動に従事してきたそうです。いやはや、超人的な経歴です。
私がこの本を読んでもっとも驚いたことの一つは、人道援助のつもりで送られた粉ミルクが現地の子どもたちの生命を奪っているということです。
飢餓で栄養不足の子どもがいることを知って、粉ミルクを送りたいと思うのは人々の善意からです。ところが、粉ミルクを溶かす水に問題があります。殺菌のために水を湧かせばいいのですが、災害現場には煮沸する手段・道具がありません。乾燥した粉ミルクでさえ細菌は繁殖できるのです。まして、汚染された水を粉ミルクに混ぜたらどうなるか。汚い水に混ぜて作ったミルクを子どもたちに与え、そこで残ったミルクを暑い環境に放置して、数時間後、また翌日飲ませたらどうなるか。さらに哺乳瓶や乳首を消毒もせずに使い続けると、どうなるか。うひょう、こ、こわいです・・・。
 その結果として、粉ミルクを使用した子どもは母乳保育児に比べて、死亡率がとても高い。そこで、ユニセフは、援助物資として粉ミルクを供与しないようにした。うへーっ、そうなんですか、ちっとも知りませんでした。善意が仇(あだ)になるという典型ですよね、これって・・・。
 著者は若い人たちについてきて欲しいと訴えています。日本の若者たちに、福島そして世界各地の病める人々のいるところに次々に飛び込んでいってほしいなと私も思いました。
(2012年1月刊。1400円+税)

見えない雲

カテゴリー:ヨーロッパ

著者   グードルン・パウゼヴァーグ 、 出版   小学館
 1987年(昭和62年)に発刊された本を初めて読んだのです。
 ロシアのチェルノブイリで原発事故が起きたのは、その前年の1986年4月のことです。同じような原発事故がドイツで発生したときにドイツ国民にどんな影響をもたらすのかが、実によく分かります。先に、この本のマンガ版を紹介しましたが、その元になった本があると教えられて読みました。すでに黄ばんでいましたが、内容は古くなっていないどころか、まさにフクシマのあと日本が直面している事態が描かれていると感じました。
 そして、何より大切なことは、役人を信じないということだ。
そうですよね。政府も東電も信じられませんよね。「今すぐには健康に影響はない」なんてことしか言わなかったのですからね。そして、日本国民には知らせなかったデータを、いち早くアメリカには通報していたわけです。日本って、アメリカの属国でしかないというのは、悲しい現実です。
主人公の女の子は放射能のせいで頭の髪の毛が抜けてしまいます。夏の真っ盛りなのに、帽子やスカーフをかぶっている。そんな被爆者が周囲から差別され、誰も近寄らない。離れたところから好奇の視線を投げる。軽蔑したり、意地悪したり、心を傷つけることは誰もしない。隣に座ろうとする人もいない。こうやって被爆者は罪もないのに社会的に孤立させられるのですね。
 目には見えない放射能の恐ろしさですから、立ち入り禁止の生まれ故郷に戻る人々がいます。日本の福島でも同じことが起きています。この本では、故郷に戻った祖父が次のように孫に話す場合があります。
 「知らせなくてもいいことまでマスコミに知らせたのが、そもそもの間違いだった。連中は、なんでも大げさに書きたてる。そんなことさえしなければ、こんなヒステリーが生じることもないし、誇張やプロパガンダにまどわされることもなかった」
 今の日本の政治家の多くが同じ考えなのでしょうね。本当に嫌になります。民は由らしむべく、知らしむべからず、というわけです。でも、病気になる確率は若い人ほど大きいのが現実です。そして、年寄りだから、もう病気にならないということでは決してありません。
 脱原発の運動がもうひとつ盛り上がりに欠けるのが残念です。原発を推進してきた政治家が「身を削る」と称して、比例定数削減を狙うなんて、火事場泥棒のようなものですよね。まずは政党助成金を廃止して、国民(個人)の浄財(カンパ)以外に政党はお金を受けとれないようにすべきではないでしょうか。私たち日本人は、もっと怒るべきだと思います。
 この本がベストセラーになったおかげで、ドイツは脱原発へ大きく舵を切りました。それほどのインパクトのある本です。
(1987年12月刊。780円+税)

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