法律相談センター検索 弁護士検索

戦場へ征く、戦場から還る

カテゴリー:日本史

著者  神子島 健 、 出版  新曜社
日中戦争、15年戦争に駆り出された兵士たちを描いた火野葦平、石川達三などの小説を手がかりとして、兵隊になることの意味を考えた本です。500頁という若手学者の意欲あふれる大部な研究書です。
 多くの日本人にとっての戦争とは、あくまで故国から遠く離れた場所で起こる事件と認識されていた。これは、アメリカにとってのイラクやアフガニスタンでの戦争と同じですよね。
兵隊作家と呼ばれた火野葦平は軍部による言論統制の最前線にいた。自らの作品が直属の上官から検閲を受けたばかりか、報道班員として新聞記者たちの記事を検閲する側にも立った。軍の報道部の制限は、
① 日本軍が負けているところを書いてはならない。
② 戦争の暗黒面を書いてはならない。
③ 戦っている敵は憎々しく、いやらしく書かねばならない。敵国の民衆も同じ。
④ 作戦の全貌を書いてはならない。
⑤ 部隊の編成と部隊名を書いてはならない。
⑥ 軍人を人間として書いてはならない。小隊長以上の軍人は沈着冷静な人格として描かなければならない。
⑦ 女のことを書いてはならない。
というものであった。
ストレスによって兵の志気が下がったり訓練に支障があっては軍も困る。そのため、兵営でも戦地でも、兵士たちの士気を再生産する必要がある。日本軍においては、それは基本的に酒と「女」の二つだった。日本軍は、兵士たちへの慰安として政敵搾取の対象としての「女」しか与えなかった。だからこそ、「慰安所」という言葉が、一般的な娯楽ではなく、性奴隷のいる場所に対して使われた。命令に服従し続ける兵士にとって、女性を「抱く」という行為は、主体性を回復するという幻想を味わうことのできる行為であった。
虐殺体験のある日本兵は帰国してから、その体験を語ろうとしない。それは、語れば、必ず平和な日常から異常な過去の戦場に連れ戻されるから。
 家には、血の感覚からあまりに遠い家族がいる。その記憶によって、自分が支配されてしまう。そうした事態を避けるためには、事実をたんたんと語る方法をとらざるをえない。罪悪感を感じていないというより、罪悪感を必至に麻酔されていると考えた方がよい。
兵士の一挙手一投足まで厳しい軍紀で管理しようというのは、基本的に日本軍が外征軍であったことに起因する。
 あれだけの力を持った旧帝国陸海軍が敗戦によってごくあっさり解体されたのは、ほとんどの兵が主体的に武器をとっていたのではないことを意味する。なーるほど、そういうことでしょうね。
内部では降伏文書に軍が調印する前に、少なからぬ兵士たちが故郷へ帰り始めた。これは、本当は脱走罪に該る行為である。軍内部から崩壊が始まったのである。
 日本が降伏したとき、日本の総兵力は720万人。陸軍が550万人(内地に240万人、外地に310万人)、海軍170万人(内地に130万人、各地に40万人)。
 1945年9月末に内地部隊の8割以上の復員が終了し、10月末までに完了した。
 ちなみに終戦時に朝鮮出身の軍人・軍属は24万2千人,
台湾出身は20万7千人だった。敗戦時に海外にいた日本軍人は350万人(中国大陸に200万人)、彼らが日本に再統合されていったのが、戦後の日本社会である。
 火野葦平は若松の沖仲士(ごんぞう)の新分の息子である。早くから文学に興味をもち早稲田大学英文科に入学した。そして、徴兵されて福岡歩兵24連隊に入った。そこで、マルクス・エンゲルスなどの著者をこっそり読みはじめた。それが発覚したものの中隊長の好意で憲兵隊送りにはならなかった。兵隊に入っているうちに、父親が勝手に大学に退学届けを出していたため、早稲田大学は中退となった。
 1930年ころまでは、火野がその一人であったように、軍隊内でもマルクス主義が根強い支持を得ていた。
 戦前の日本では、戦争に批判的な人々のあいだでは、特定の人への信頼が崩れるだけでばく、他者への信頼そのものが危惧にさらされた。危ないと見なされるかつての友人とのつきあいを避けつつ、世間的には危険とは見られない人々と、内心はどうであれ、戦時社会のタテマエのなかで当たり障りのない会話をするようなつきあいばかりになっていった。それは常に自分自身の内面をさらけ出さないような意識を保つ必要があることを意味する。
 再び日本がこんな社会にならないように頑張らなくてはいけませんよね。大変な労作だと思いました。
(2012年8月刊。5200円+税)

狼の群れと暮らした男

カテゴリー:生物

著者  ショーン・エリス 、 出版  築地書館
アメリカのロッキー山脈に入って2年間、狼と一緒に暮らした男性の手記です。信じられない話です。いったい、2年間、どうやって森の中で生活していたのでしょうか。
 狼がとってきた獲物の生肉を分けてもらっていただなんて、信じられませんよね。そんな過酷な体験をもとにオオカミの生態が詳細に紹介されています。
オオカミは臆病で、とても高度な社会組織をもった知能の高い動物である。血に飢えた動物という印象は正しくない。その昔、オオカミと人間は共生しており、互いに尊敬し、互いの生き方を学びあっていた。
野生のオオカミが雪の中を走るときには、先頭のオオカミはしばらくすると隊列の後尾につく。これは狩猟のとき、すべてのオオカミが十分なエネルギーを残して、すばやく先頭につけるようにするためだ。軍隊の雪中行軍も同じようにする。
オオカミは新入りが来たとき、信頼できるかどうかを見きわめる。どうやるのか・・・。咬まれたことに新入りがどう反応するかを見る。群れに加わろうとする新入りのオオカミは、自分の一番攻撃されやすい喉をすぐに差し出し、ケンカに来たのではないことを示す。受け入れ側のオオカミは本当に脅威がないと納得するまで、新入りの圧力を加える。それに抵抗したり、悲鳴を上げたりしたら、受け入れられることはない。
 著者も新入りテストを受けたとき、喉をオオカミに差し出し、歯がたをつけられていたといいます。ガブリとやられたら、そこで、一巻の終わりです。うひゃあ、す、すごーい・・・。
オオカミの世界では、いくつかの咬みあいがコミュニケーションの大切な要素である。
群れの下位のオオカミたちは、上位のオオカミの決定に疑問をさしはさまない。彼らは歩兵であり、考えることは彼らの仕事ではない。
オオカミのコミュニケーションでもっとも頻繁につかう体の部位はクビと喉だが、そこはまた一番手厚く守られた場所でもある。
 アルファ・オオカミは意思決定者であり、彼らはいないと群れにはリーダーがいなくなるから、彼らが一番重要なメンバーである。だから、彼らが生き残ることが何より優先される。食べ物が少ないときは、彼らがまず食べ彼らしか食べないこともある。ほかのメンバーは、子オオカミさえも、空腹になり必要なら餓死する。だから、群れの他のメンバーは、ベータ・オオカミの匂いのついたものに手をつける馬鹿なまねはしない。
 オオカミは殺戮の力をもっており、いつでもそれを使えることを示すが、どうしようもないときにしかそれを行使しない。彼らは、家族を守るためと、家族が冬を越せるだけの食糧を確保するためには徹底的に戦う。
オオカミにライバルの群れがいないと、生きることが楽すぎて、群れの中で互いに歯向かいはじめる。
前向きに考え続けることが命をつなぐのだ。どんな状況にいようと、どんなに絶望的に見えても、急いで選択肢を探さなければいけない。気持ちを強くもたねば、死あるのみ。オオカミも同じで、決してあきらめない。決して自分をみじめだとは思わない。彼らは致命傷を負っても走り続ける。
 オオカミが再会を喜ぶ儀式は、顔や口のまわりを強烈に舐めまくる。
 オオカミの妊娠期間は63日。求愛期になると、オスたちのエネルギーは、とんでもなく高まる。
 アルファ(首領)のメスが狩猟係のオオカミに対し、ちょうどそのときの彼らの生活に必要な食糧となる餌を狙ってこいと命令するのであり、それが彼らの群れにおける社会的序列を維持するうえでも、大切な役割を果たしている。
 オオカミの位は食べ物で示される。捕まえた獲物のもっとも栄養分の多いところと内臓は常にアルファ・ペアのものである。それゆえ、アルファの匂いとその結果の権威は、それ以外のうま味の少ないものしか食べない、位の下位のオオカミとはまったく違う。
オオカミの必要としている栄養を提供できる健康な動物だと目をつけたら、一週間半かけても追いかける。
 アルファのペアが首領になり、子を産む。彼らは、群れという家族全体の福利のための意思決定をする。ほかにベータつまりエンフォーサー(用心棒)と、テスター(品質管理担当)がいる。
 オス・オオカミの役割は、ケンカを仲裁し、群れのなかの緊張を緩和すること。
 アルファは意思決定のオオカミ。アルファは頭脳であり、群れでもっとも知能の高いオオカミ。だから、一番価値の高い存在である。ベータは用心棒、ボディーガードであり、しつけ係であり、純粋な攻撃タイプである。考えることは役目でないので、考える必要はない。
 ハンターは、多くの場合、メスがなる。メスのほうが軽く、オスより足が速いから。
 ハンターは追跡と殺しはするが、何を殺すかを決めるのはアルファのメスの仕事である。オオカミの食べる食物は3種類に分けられる。基礎体力と健康維持のための食物、極寒の気象条件の中でも体を温めるような脂肪分の多い動物などの生命維持食物、群れの構造を維持するための社交的食物である。
 アルファのペアは、地位を守るために食事の大部分を内臓で賄わねばならない。
オオカミと一緒に暮らしていたとき、著者はオオカミの飼ってきた獲物の肉をナマで食べていたといいます。とても信じられませんが、テレビで放映したそうですので、ぜひみてみたいと思いました。BBC放送の「ウルフマンと暮らす」「オオカミの中の男」です。ユーチューブでもみられるのでしょうか・・・。
(2012年10月刊。2400円+税)

幕が上がる

カテゴリー:社会

著者  平田 オリザ 、 出版  講談社
爽快な気分にさせてくれる青春小説でした。
 高校生がマラソンでも合唱コンクールでもなくて、演劇コンクールに出場する話です。
 立派な大人が高校生の演劇部を描いても、この本のように現代高校生の気分を見事に反映できるものなんだと改めて驚嘆したことでした。
 もちろん、高校生たちにも綿密な取材をしたのでしょうね。結論は見えているようなものなのですが、そこに至る経過が若者の心理と置かれている社会環境(入試など)を反映した会話とともに、生き生きと描かれているので、作中人物になりきってしまえるのです。ここらは作家の腕前ですね。
東京近郊の海のない県にある高校という設定です。山梨県のつもりで私は読みすすめました。演劇に関心があり、大学でも演劇部に入りたいという高校生が主人公です。ここらあたりは私には無縁の世界です。私にとって、音楽も劇も自分の人生にはまるで向かない分野でしかありません。映画をみるのは大好きなのですが、コンサートも劇も久しく縁がありません。
部員の少ない弱小演劇部に福顧問として若い女性美術教師が就任したことから、話は急転回をとげます。なんと、その女性教師は大学時代に演劇の女王だったというのです。
 高校演劇はクラブ全体の力が集まらないと勝てない。俳優はそんなにうまくならない。だから、本当にうまい顧問の創作劇は、下手だけどがんばっている子には、短いセリフで確実に受けがとれたり泣かせるような役をつくる。
 静か系というのは、静かな演劇といって、大体、日常生活を描いている。
 口語系というのは、セリフはリアルで、話がちょっとファンタジーとか、ファンタジーでなくてもリアルでないとか・・・。
 宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を題材にした演劇を主人公につくりあげていく過程がまた読ませます。これは、ベースに宮沢賢治のイメージがあるのでぴんと来るのでしょうね。
 久しぶりに心の洗われる思いのする本でした。
(2012年11月刊。1300円+税)

無罪

カテゴリー:アメリカ / 司法

著者  スコット・トゥロー 、 出版  文芸春秋
うまいですね、読ませますね。こんな小説を私も一度は書いてみたいものです。
 『推定無罪』の続編の名に恥じないとオビ裏に書かれていますが、まさしく、そのとおりです。そのストーリー展開に圧倒され、無言のまますばやく頁をめくっていきます。次の展開がどうなるのか知りたくてたまりませんから・・・・。
 推理小説ですし、ネタバレしてしまうのは、これからの読み手の楽しみを奪いますので、内容(ストーリー)は書きません。
 一般的に言うと、被告人は証言するほうがいい。無罪判決の70%は被告人が証言席に着いて自分を弁護したときに出ている。
 アメリカの刑事裁判では、被告人の本人尋問の機会がとても少ないような印象を受けます。日本では、被告人本人の尋問をしないなんて、まず考えられないところです。
 この本では、アメリカの裁判官が国会議員と同じように選挙で選ばれること、そして、選挙民の評判を落とさないため、自分が離婚したことが知られないようにすることが前提になっています。
 主人公は、妻と離婚したどころか、「妻殺し」として起訴されてしまうのですが、時間的にズレがあって、州の最高裁判事には当選するのです。
 しかし、かねてから主人公を面白く思っていない検察官たちは、「妻殺し」を立証できる証拠集め、ついに起訴に持ち込むのでした。つまり、検察官が裁判官を殺人罪で起訴するのです。
 しかも、この裁判官は20年前にも殺人罪で起訴され、無罪となったのです(『推定無罪』)。ですから、検察官の汚名を挽回すべくなされたのが今回の起訴だったのです。
 話は裁判官の情況証拠がきわめて疑わしいところで推移していきます。
 この裁判官は、実は不倫していた。その相手は部下だった。そして。そのことを「殺された妻」も知っていたのでは・・・。とてもよく出来た推理小説でした。
(2012年9月刊。2200円+税)

デンマーク流「幸せの国」のつくりかた

カテゴリー:ヨーロッパ

著者  浅本 隆行 、 出版  明石書店
国民の幸福度が世界一位のデンマークの実情を探った本です。日本はなんと90位でしかありません。たしかに、日本ではデタラメな政治家たちと自分のことしか考えない財界のせいで、多くの国民は泣かされていますよね。
デンマークには国王(今は女王)がいる。王は国の象徴にすぎない。王女は町に買い物に出かける。同じ象徴でも、日本の天皇は、決してそんなことはしませんね。
選挙権も被選挙権も18歳から。現に高校生(19歳)の市会議員がいる。投票日は平日。それでも投票率は常に85%前後。日本が輸入している豚肉は、アメリカ、カナダの次はデンマーク。日本のインスリン(糖尿病の治療薬)の8割はデンマークの製薬会社「ノボノルディスク」製。原子力発電所はなく、風力発電に重点を置いている。デンマークは自給率300%の農業大国である。
 デンマークの公務員は87万人。公務人が働く者の3分の1を占めている。介護サービスの従事者は、ほとんど公務員。税金として吸い上げられたお金は、公務員の給料として大部分が使われ、かなりの割合で内部で循環している。
 デンマークの幸福度一位は、医療費が無料、高い教育水準、国民一人あたりのGDPも世界高水準による。高校そして大学まで教育費は無料。それどころか、大学生には返還無用の奨学金が月8万5千円もらえる。しかも6年間。そのうえ、月4万円余りの学生ローンも借りられる。
 労働組合への加入率は80%をこえる。組合に入っていないような「ややこしい者」は経営者も好まない。
仕事を終わったあとの長い余暇時間の使い方に悩むという答えが多い。
 なんということでしょう。日本では考えられもしない答えですよね・・・。
失業手当は、3年間のうち2年間はもらえる。
子どもにとって、学校は楽しいものというのは当たり前のこと。通信簿はない。高校受験もない。だから学習塾もない。デンマークは物的資源に恵まれない国として、人的資源の開発に力を入れている。
もちろん、デンマークもいろんな問題をかかえています。たとえば、デンマークの離婚率は日本の倍以上。ところが、離婚しても、慰謝料や子どもの養育費を父親が支払うことはまずない。子ども手当をもらい、所得が少なければ、その分だけ控除も受けられる。離婚が金銭的な支障を伴わないため、離婚歴2、3回はザラということになる。
 大いに学ぶべき国だと思いました。
 今日は私の誕生日です。赤穂浪士の討ち入りの日と同じです。いつまでも気は若いのですが、頭のほうはすっかり白くなってきました。それにしても、国防軍にするとか、日本も核武装せよとか、キナ臭い話が次々に出て、それをマスコミが無批判にたれ流す現実に寒気を覚えるこのころです。軍隊で平和を守れるというのは、イラクやアフガニスタンを見たら幻想だというのは明らかだと思うのですが・・・。
(2012年10月刊。1600円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.