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日本は過去とどう向き合ってきたか

カテゴリー:日本史

著者  山田 朗 、 出版  高文研
歴史から学ぶということは、私たち人間にとってきわめて大切なこと。なぜなら、人間は、自分自身以外の体験以外から学ぶことのできる唯一の動物だから。
 なるほど、そのとおりですね。でも、学びたくない人、過去に目をそむけたい人が残念なことに少なくありません。
一時的に「日本人の誇りを傷つける」ような事象であっても、それを直視し、そうした事象の後始末や、今後の歴史に生かす試みを主体的にできることこそ、真の人間の「誇り」ではないか。人間の「誇り」とは、いたずらに過去の歴史の「栄光」を自画自賛することで得られるものではなく、歴史を直視することを土台にして過去の負の遺産を克服しようとすることから生まれてくるもの。
 1993年8月の河野談話は慰安婦が強制連行されたことは述べていない。ところが、安倍首相は、あたかも強制連行があったことを認定したように描き、それは事実確認だと高言する。ひどい話ですね。安倍首相の認識の軽さは厳しく批判されるべきです。
 1995年8月の村山談話についても、安倍首相は気にくわないもののようです。
 「侵略という定義については、これは、学会的にも国際的にも定まっていないと言ってもいい」
 しかし、これは事実として誤っています。侵略の定義は国連でなされて定着しているのです。
 靖国神社は、現在は東京都知事が認証した単独の宗教法人である。戦前は、陸軍省と海軍省が協同で所管する、きわめて特殊な、国家の戦争政策と切り離せない神社だった。神社の運営費は陸軍省の予算から出され、社域の警備には憲兵があたっていた。
 靖国神社は、天皇の軍隊としての一体性を構築するための日本軍にとって不可欠な機関であり、次の「英霊」をつくるための国民に対する精神教育の場でもあった。
 日本側にアジアの植民地を解放しようなどという考えがなかったことは、台湾や朝鮮などの古くからの植民地を「解放」しよう(独立させよう)と考えたことがなかったことからも明らかである。
死亡した人の死の意味を「犬死に」(意味のない死)のままにするのか、それを意味ある死にするのかは、生き残った人や後世の人の行動にかかっている。
 もし私たちが再び多くの戦死者を出すような事態を招いてしまえば、私たちは戦死者の死を意味のないものにしてしまうことになる。
 わずか190頁ほどの薄い本ですが、とっても内容の濃い本でした。
(2013年9月刊。1700円+税)

寄生蟲図鑑

カテゴリー:生物

著者  目黒寄生虫館 、 出版  飛鳥新社
自然豊かな丘陵地の古ぼけた「新興団地」に住んでいるせいでしょう、先日、ダニに手首をかまれてしまいました。
 歩いて5分ほどの小川には初夏にホタルが明滅し、庭の水たまりに土ガエルがいて、モグラが地中に住みついていますので、庭のどこかにヘビも暮らしています。そんな自然環境にいればダニもいるのは必然でしょう。
 それにしても、ダニにかまれた手首の痛み・痒みが1ヶ月ほども続いたのには驚きました。皮膚科でもらった軟こうを塗っても、なかなか根治しないのです。
 ダニから咬着されても無症状なので、ダニが大きくなって初めて咬まれていることに気がつくことが多い。吸血によってウイルスや細菌が媒介されるので厄介だ。
 わが家の愛犬・マックスが亡くなってもう10年以上になります。フィラリアにやられたのです。この本によると、それは買い主の責任だということです。誠に申し訳ありません。フィラリアは予防によって、ほぼ100%阻止できる寄生虫なのです。
 フィラリアの媒介者は蚊。イヌ系状虫という寄生虫がフィラリア症をひきおこす。イヌ系状虫は、成虫が犬の心臓や肺動脈に寄生し、20~30センチにもなる、細長いそうめん状の線虫である。
 この寄生虫図鑑をよんでいて、ゴキブリにも天敵がいるというのを初めて知りました。
 エメラルドゴキブリバチです。このハチのメスはゴキブリを2度刺す。まずは面積の広い胸部神経節を刺して、ゴキブリの動きを止める。動きが止まったら、頭部にある脳に対して2度目の精密な刺激をする。これで、ゴキブリは大人しくなる。そのあとは、ハチの巣穴までひきずりこまれ、そこにハチの卵を生みつけ、幼虫が大きくなるまでの食料と化す。
 筑後川には、かつて恐ろしい日本住血吸虫がいましたが、2000年に絶滅宣言が出ています。中間宿主のミヤイリガイの撲滅に成功したことによるものです。
 それにしても、このような寄生虫を研究している学者がいるのですね。本当にありがたいことです。
(2013年8月刊。2200円+税)

どっこい大田の工匠たち

カテゴリー:社会

著者  小関 智弘 、 出版  現代書館
日本のモノづくりも、まだまだ捨てたものではない。そう実感させてくれる心温まる本です。
 著者自身が大田の町工場で永く旋盤工として働いてきましたので、匠(たくみ)たちを見る目にはとても温かいものがあります。著者の本はかなり読みましたが、最新作のこれもおすすめです。
 大田区には自転車でひとまわりすれば、たいていの仕事ができるほど多様な技術をもった町工場がある。そこで、自転車ネットワークとか、路地裏ネットワークと呼ばれるネットワークが可能な町である。
たとえば、安久工機は従業員6人の町工場。ここで、視覚障がい者が指先でさわって「見る」ことができる絵を描ける触図筆ペンをつくって売り出している。
 全盲の子どもたちに、絵を描かせたり、絵のタッチを理解させることのできるペンだ。当初20万円したが、今では10万円で市販されている。すごいですね。かなり苦労したようですが、不可能を可能にする人間の知恵がうまく生きています。
 大田区の町工場がつくった「下町ボブスレー」は無償でつくりあげたものだが、全日本選手権試合(女子二人乗り)で、優勝した。
 大田区の町工場には、「菓子折りつきの仕事」というものがある。なんとか頼みますよと、菓子折りをつけて頼み込む。だから、技術的には難しいが、工賃は高い。そして、町工場は、時のたつのも忘れて仕事にのめり込んでしまう。
町工場の工場主(おやじ)さんたちのあいだには、「息子が後を継いでくれて良かった」派と、「息子に後を継がせなくて良かった」派の二つがある。そうなんでしょうね。みんながみんな生き残れるほど、きっと世の中は甘くないでしょうから・・・。
 町工場の技術は、ちょっと見学したりビデオで見たからといって、すぐに真似られるものではない。だから見学も、ビデオ撮影もOKという町工場があるそうです。驚きました。
町工場を生きるということは、理不尽を生きるということでもある。
いいですよね・・・。ここに登場する職人さんたちの話を聞いていると、なるほど努力と工夫で人間(ひと)は生き延びていけるものだと痛感します。
(2013年10月刊。2000円+税)

秀吉の出自と出世伝説

カテゴリー:日本史(戦国)

著者  渡辺 大門 、 出版  洋泉社歴史新書
秀吉の出自は今なお不明。
 『懲毖録』(ちょうひろく。李朝の宰相、柳成竜の著)には、秀吉はもともと中国人で、倭国に流れこんで薪を売って生計を立てていた、とある。秀吉が中国人というのは認められないが、薪売りをしていたという史料は他にもある。
 秀吉の出自が判然としないというのは、同時代に日本に来ていたポルトガル人宣教師にも広く認識されていた。
 秀吉が関白に就任したあと、秀吉の弟と称する若者が登場した。秀吉51歳のときのこと。秀吉は、その若者を捕まえると、直ちに面前で斬首刑に処した。その前、母の大政所に、この若者は知らないと言わせていた。別に、もう一人、妹と称する若い女性がいたが、こちらも斬首された。
 3回以上の結婚歴のある秀吉の母には、別に子どもがいた可能性は高いが、秀吉には兄弟は三人で十分だった。ですから、彼や彼女らは切り捨てられたというわけです。
 秀吉の出自を被差別民だとする有力説もある。秀吉には卓抜した能力と粘り強く辛抱強い、そして上昇志向があった。
 秀吉の指は6本あった。だから、信長から「六ツめ」とあだ名されていた。フロイスの『日本史』にも、秀吉の片手には6本の指があったとされている。
 秀吉は身長が低く、醜悪な容貌の持ち主だった。眼が飛び出しており、ヒゲは少なかった。秀吉は、「猿」にたとえられ、また、はげネズミとも言われた。
 秀吉は、フロイスに対して、自信の容姿が良くないことを自覚して述べた。
秀吉は、自分の趣味を諸大名に押しつける性癖があった。それも、抑圧された厳しい幼年時代の経験が大きく影響している。
 秀吉は非常に出世欲が高く、ゆえに仕官するための行動を欠かさなかった。実に抜け目のない性格だった。そして、そのための努力を惜しまなかった。
 秀吉の合戦では残酷な仕打ちも珍しくなかった。秀次とその家族の抹殺もかなり異常だった。
 秀吉の実像をつかむことのできるコンパクトにまとまった本です。
(2013年5月刊。900円+税)

保守論壇亡国論

カテゴリー:社会

著者  山崎 行太郎 、 出版  K&Kプレス
私と同じく団塊の世代の著者は自称するところ強固な保守派です。その保守派からして、今の保守論壇の「思想的劣化」と「思想的退廃」は許せないと、厳しく弾劾しています。
 いまや多数派を形成しているのは「保守」であり、「右翼」である。かつては多数派は「左翼」であり、「革新」勢力だったが、今や変わった。
 昨今の保守思想家たちには、「作品」と呼べるような仕事、つまり業績がない。
 安倍晋三の政治家としての限界と悲劇は明らかである。あまりにも政治的言動が軽すぎる。その根本原因は、安倍晋三が妄信し、影響を受けている保守論壇や保守思想家たちにある。
 保守のイデオロギー化、理論化をすすめたのは、左翼から保守への転向組である。つまり、「遅れてやってきた保守」である。西部邁、小林よしのり、藤岡信勝など。彼らは左翼仕込みの手法をつかって、保守論壇の「左翼化」を推進した。その結果、保守の定義を題目のように唱和するだけで、保守として振る舞えるようになった。
 左翼論壇の思想的劣化と知的退廃という現実があったからこそ、保守論壇の思想的劣化と知的退廃は始まった。小林よしのりというギャグ漫画家が保守論壇をリードしてきたという事実が、まさしく、保守論壇の思想的な貧しさを象徴している。
 桜井よし子には、オリジナルな議論・主張は見られない。桜井は、保守論壇の多数意見、「偏狭なナショナリズム」を代弁しているだけにすぎない。桜井は福島みずほとの架空対談まで捏造した。これはジャーナリストとしての品格の問題である。流行の話題があるとすぐに飛びつき、専門家気どりの発言を繰り返すところに桜井の特徴がある。
 桜井には、はじめから現実や真実を見ようとする姿勢が欠けている。
 小林よしのりを、一時的にせよ、保守論壇のスターにしたのは西部邁だ。転向保守ほど、過激な保守思想に走る。西部にも、これが認められる。そして、西部邁には、代表作と呼べる作品がない。
 渡部昇一の書くものは、学問や学問的能力とは無縁のものだ。渡部昇一の昭和史は、受動史観である。受動史観とは、悪いことは、すべて他人の責任とするもの。中国が悪い。ロシアが悪い。アメリカが悪い。このように言いつつ、日本は悪くない。自分は悪くないと言いはる。
思考力の劣化とは、深く考えること、粘り強く考えることを嫌い、わかりやすさと単純明快な答えを求める。そこから、存在の喪失が始まる。
 抜粋して紹介しましたが、なるほどと思うところがたくさんありました。それにしても保守派論退の退廃はひどいものだと私も思います。
(2013年9月刊。1400円+税)

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