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湖上の命

カテゴリー:アジア

著者  高橋 智史 、 出版  窓社
カンボジア・トンレサップの人々。こんなサブ・タイトルのついた写真集です。私はベトナムには一度だけ行ったことがありますが、カンボジアには行ったことがありません。アンコール・ワットとかアンコール・トムにはぜひ行ってみたいと思っているのですが・・・。
 カンボジアというと、私にとっては平和な国というより、キリング・フィールド。つまり、ポル・ポト政権(クメール・ルージュ)による大虐殺の国というイメージです。
 そして、カンボジアは、ベトナムと昔からあまり仲が良くないと聞いています。
 そんなカンボジアの中央部にある広大なトンレサップ湖に、そこでの水上生活者としてベトナム人がたくさん住んでいるというのです。驚きました。
 日本人の若きフォト・ジャーナリストが、そんな水上部落に住み込んでとった迫真の写真集です。水上生活者の小船で朝食を売ってまわるおばさん。そして、散髪屋もあります。
 仏教徒だけでなく、キリスト教信者もいます。
 水上生活者に赤ん坊が生まれ、また、年寄りが亡くなっていきます。
子ども、そして若者たちは、ここでも元気一杯です。
 生活の糧は湖の魚たち。
くっきり鮮明な写真で、ベトナム人水上生活の日常生活を知ることができます。貴重な写真記録だと思いました。
(2013年4月刊。2200円+税)

真珠湾収容所の捕虜たち

カテゴリー:日本史

著者  オーテス・ケーリ 、 出版  ちくま学芸文庫
北海道生まれのアメリカ人です。父親は教会の仕事をしていました。20年も日本で生活していたため、もちろん日本語はぺらぺらです。
 戦争が始まると、日本語のできるアメリカ兵として活躍することになりました。捕虜収容所の担当です。
日本人は抑えられることには慣れている。だから、抑えられながら、表面的に抑えられたと見せて逃げまわる術を心得ている。抑えないで人間扱いすると、勝手が違うので、ある意味では陸に上がった河童のように抵抗力を失う。
 殴られた方が精神的には楽だったかもしれない。捕虜を不名誉と卑下していた者が、虐待を受けたことによって、自分を合理化する理由を見つけるだろう。
 日本兵の捕虜は、情報官の合理的な質問に対してはまったく歯が立たない。一つの事実を総合的に積み重ねていくと、一致点と穴が現れる。その穴を指摘すると、相手はカブトを脱いでしまう。隠しても、「敵」は何もかも知っていると観念する。
捕まった当初は、どんな捕らわれ方をしようとも、誰でも一様に生の歓喜を素っ裸で感じる。傷の手当てをしてくれ、食料もくれる。ところが、体力が回復し、気持ちが落ち着いてくると、一つしかない「日本人」が頭をもたげ、いろんな衣をまとい始める。
外観だけみると、アメリカの軍隊のほうが反将校意識は格段に強い。しかし、内情をみると、日本の軍隊のほうが、もっともっと熾烈だった。
 日本人同士だと将校をこきおろし、憤まんをぶちまけあう。しかし、そこに外部の人間がいると、そのふりさえ見せない。
日本兵捕虜の実態をつまびらかに明らかにしてくれる貴重な本だと思いました。
(2013年7月刊。1400円+税)

はじめての憲法教室

カテゴリー:司法

著者  水島 朝穂 、 出版  集英社新書
有名な憲法学の水島教授は、自分は「護憲論者」ではないときっぱり断言します。
 ええーっ、そ、そうなの・・・、と驚いていると、「護憲論者」という定義が問題なのです。つまり、「護憲論者」というと、憲法の条文にこだわりすぎて、現実を見ない理想主義者だというイメージをマスメディアがつくっているから。むしろ、改憲論者のほうが現実をよく見ているかのように思わされている。
 でも、これって、あべこべですよね。改憲論者こそ、実は、足が地に着いていない、勇ましいだけの空想論者なのです。
 憲法とは、第一義的には、国家権力を制限する規範であり、国民が国家権力に対して突きつけた命令なのである。人々の「疑いのまなざし」が権力をしばる鎖である。その鎖を文章化したのが、まさしく憲法である。
 中学・高校で教えられているのは、「憲法は国民が守るもの」というもの。これは立憲主義ではない。
 選挙権を有する「成年」というのは、世界的には「18歳以上」がほとんど。世界189カ国のうち、170カ国で18歳選挙権となっている。
 ええーっ、そうなんですか・・・。
 よく「押しつけ憲法」というけれど、自衛隊だって、アメリカに押しつけられて出来たもの。では、解消するか、というとそんな声はまったく聞かれない。
 「国防軍」というのは、世界的に言われなくなっている。グローバル化のなかで、軍隊の仕事・役割は変わってきている。
 近代立憲主義は、民主制においても権力の暴走はありうるという考えにもとづいている。
 ところが、安倍首相は、憲法が権力を縛るものだというのは、王権の時代、専制主義的な政府に対する憲法という考え方であって、今は民主主義の国家であると述べている。まったく間違った考え方だ。本当にそうですよね。
 国民主権という民主政治なされているから憲法の役割まで変わったなんて、とんでもない間違いです。
 この本は、早稲田大学の水島ゼミ生との対話をもとにしていますので、とても分かりやすい内容になっています。水島教授と直接に対話できた学生は幸せです。
(2013年10月刊。700円+税)

自衛隊にオンブズマンを

カテゴリー:社会

著者  三浦 耕喜 、 出版  作品社
現代の日本社会で自殺率の高い組織の一つが自衛隊だ。その数は年100人近くに達する。
 自衛隊は、その発足以来、戦場で誰も殺さなかった。また、隊員から誰ひとり戦死者を出さなかった。そのことは、世界の誇りをすべきことだ。ところが、その陰では、いく人もの自衛官がいじめやストレスの中で自死に追い込まれている。
 日本の防衛省は、省内に自殺対策の組織(防衛省「自殺事故防止対策本部」)を設けている。
 自衛隊の自殺率は33.3で、一般国家公務員の21.7より10ポイント以上も高い。これに対して、ドイツの連邦軍兵士の自殺率は7.5で、一般国民の11.5よりも低い。ちなみに、アメリカの兵士の自殺率は20.2。
 インド洋やイラクなどへの海外任務に就いた、のべ2万人近い自衛隊のうち、16人が在職中に自殺していた。
 このような自衛官の不幸を少しでも減らし、自衛官としての務めを憂いなく果たすことを促すため、「軍事オンブズマン」制度を日本に導入すべきである。これが著者の主張です。
 著者は前に『ヒトラーの特攻隊』(作品社)を書いています。この欄でも紹介しました。
ドイツでは軍事オンブズマンが兵士の悩みに寄り添っている。兵士自身も団結し、自分たちの思いを声にしている。さらに、軍の幹部自らが兵士に対し、自信の良心にもとづき、自分で考えることのできる人間であれと指導している。
 ドイツの軍事オンブズマンは、ドイツ連邦議会が任命する。
 ドイツ連邦軍の全施設に事前通告なしで立ち入ることができる。50人の専属スタッフが働いている。ドイツでは、兵士は、「制服を着た市民」と考えられている。
 軍事オンブズマンのもとへ、年間6000件もの苦情が兵士から寄せられる。
 軍隊は議会がコントロールするもの。議会による軍のコントロールこそ、軍事オンブズマンの要となっている。ドイツは国民男子に兵役義務を課している。
 ドイツには、兵士による団体「連邦軍協会」がある。会員は21万人。ストライキこそしないが、デモはやっている。
 日本の自衛隊とドイツの連邦軍は、どちらも25万人。ドイツ軍は、現在、世界11の地域に合計7000人の兵士を出している。アフガニスタンでは、これまで30人以上の犠牲者を出している。
 そう言えば、ドイツではありませんが、デンマークだったかと思いますが、アフガニスタンに兵士を派遣している状況が映画になっていました。『アルマジロ』というタイトルで、戦場の悲惨さが国内に伝わり、反戦気運が一挙に盛りあがったということでした。
 25万人の隊員をかかえる自衛隊について、もっとドイツのように民主化し、風通しの良い組織に変えていく必要があること、そして、それは必要だし、可能なことを教えてくれる貴重な本です。
(2010年7月刊。1800円+税)

内心、「日本は戦争をしたらいい」と思っているあなたへ

カテゴリー:社会

著者  保阪 正康・東郷 和彦ほか 、 出版  角川ワンテーマ21新書
とても共感できる、大切な指摘がたくさん書かれている本です。とりわけ若い人に読んでほしいと思いました。
 国民が戦争を待望する心理を持つ状態になると、戦争好きな、そして自らの政策の失敗を隠そうとする政治指導者は、これ幸いに国民のそんな感情を厚かましく利用する。
 政治指導者が「戦争」という手段を選択したとき、それは、政治家として、国民の生命と安全を守るという基本原則を踏み外したわけで、失敗したということである。
 戦争は、ある日突然に起こるのではなく、社会的空気や雰囲気が次第に「平時」の持つバランスを欠く事態になり、軍事指導者は、それらを巧みに利用しながら、戦争へ導いていく。
 戦争とは、要は「敵国将兵」や「敵国民」の大量殺害を目的とする。しかし、敵国の人々を殺傷するということは、「敵国」から私たちも殺傷されるということ。お互いに殺傷をくり返し、その被害が大きい側、あるいは被害を通り越して壊滅状態に追い込まれた側が「敗戦」したことになる。
 戦争に進む道を歩んでいるときは、威勢のいい意見や声高に愛国心を説く者が、あたかもヒーローであるかのように見える。
 軍事的衝突を前提としない国づくり進めてきた国には、それに伴う国際社会での信頼と安心を与えてきたという事実がある。
 中国が気にくわないからといって、いたずらに互いの国民感情を挑発しあう言動をくり返すのは、戦争への意見の皮膚感覚を失った「右からの平和ボケ」以外のなにものでもない。
 いま、「愛国心」を叫ぶ人には愛はない。他人を非難し、攻撃するためだけに「愛国心」が使われている。
 日の丸・君が代を学校現場で強制するのでは、日の丸・君が代が汚れてしまう。
日本のマス・メディアは権力の愛玩犬(プードル)になりさがっている。本来の機能である監視犬の割合を果たしていない。
 前にも紹介しましたが、デンマークの映画『アルマジロ』がとりあげられています。アフガニスタンに派遣されたデンマーク軍の実情を従軍して取材した映画です。この映画をみたデンマーク国民の多くが、たちまちアフガニスタンへの軍の派遣に反対するようになったのでした。何しろ、「文明国デンマーク」の若者が、粗暴で残虐で野蛮な兵士になってアフガニスタンで人を殺している現実があるのです。そして、市民生活を悪い方向に追いやっているのです。これでは、反戦になるのも当然です。
 とても時宜にかなった本です。200頁たらずの本ですので、ぜひご一読ください。
(2013年6月刊。781円+税)

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